やがて英雄へと導く魔法使い   作:NJR

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第二章   師匠になっちまった!(1)

 アルスがエクスと出会って数日後。

 その日は快晴で気温も心地いい、晴れやかな日だった。

 そんな気持ち良い陽気の中、アルスがある依頼の準備のために川原へ出かけようと村を歩いていた時のこと。

「あ、アルスさん!」

「なんだセンパイか」

 横から声をかけられたと思ったら、数日前に色々たかられた青年が駆け寄ってきた。

「今日は何してるんですか?」

「ん、ちょっと採集しに川原に。センパイは何してるの?」

「散歩してました!」

 爽やかに言うが、要はプラプラしてたということだろう。

 そんな自由人はふむ、と僅かばかり考えるのは素振りをし、

「川原で採集ですか……よし!手伝ってあげましょう!」

「なんで上から目線なんだよ」

 何故か尊大な態度のエクスに呆れ半分のジト目を向けるアルス。その目には、またたかる気なんじゃないかという疑念が多分に含まれる。まあ妥当な評価だろう。

「別にさぁ、ボク一人で大丈夫なんだけど」

「まあまあ。この間のお詫びも兼ねてです」

「お詫びって……別にいいよお詫びなんて」

「いや、まあ。まあまあ」

 そのままついてくるエクスを見て、アルスはなんだか犬に懐かれたような気分になる。

 なんというか、餌をあげたら会うたびに尻尾を振って駆け寄ってくるようになった感じだ。ガタイや髪の色からゴールデンレトリーバーをイメージしてしまう。

「可愛さは欠片も無いけどね」

「?……何か言いました?」

「いや別になんにも」

 ボソッと呟いた独り言に反応され、慌てて誤魔化す。なかなかに地獄耳だ。

 そんなわけで川原に向かって駄弁りながら二人で歩く。

「それにしてもお詫びかあ。なんか先輩のイメージと合わないよね」

「は?いやいや、僕だってお詫びくらいしますって。どんなイメージ持ってんすか」

 アルスの言葉に心外だと言いたげな顔をするエクス。数日前の自分の行動を振り返ってみれば納得な気もするのだが。

「なんかさあ、ヘンな物渡してきそうだよね。『○○の土です!』とか言って」

「いやなんですかそれ。完全に間違ってますよそのイメージ」

「えー、そお?」

 アルスの疑わしげな視線に、エクスは再度心外そうな顔をする。相変わらず表情豊かである。

 道を歩く二人の間にはのんびりとした空気が流れる。

 そのまま川原へ歩いている途中、道端の桑の木の実をおやつにいただく。

 こういったものが豊富に手に入るのは田舎の数少ないいい所だ。

「あれ、アルスさんのほうがなんか多くないですか?」

「多くないよ、ちゃんと半分じゃん!」

 きちんと公平に分けたはずなのに疑いの目を向けてくるエクス。隣の芝生はなんとやらというやつだろう。

「僕のほうが体が大きいんだから、僕のほうが多めに食べるべきだと思いませんか?」

「思わないけど」

「……まあしょうがないか、我慢してあげよう。やっぱ俺のほうが年上なんだし」

「ムカつくなぁおい!」

 こんなことで年上ぶるなとアルスは憤る。そもそも公平に分けたのにワガママを言っているように扱われるのはそれこそ心外だ。

 そこでアルスはちょっとした意趣返しを思いつく。

「はあ……ちょびっとならボクの分もあげようかと思ったんだけどなぁ」

「すいませんでしたアルスさん!」

 割とちょろい。

「じゃあほら、はい」

「やった!ありがとうございます!」

 アルスが自分の持っている分から少し分けてやると、子供のような喜びようを見せる。黛が見ていれば『餌付けしてるの?』とでも聞いてきそうな様子だ。

 とりあえずおやつタイム。

 二人で桑の実をモグモグと頬張る。

「んー……美味いけどやっぱ物足りないですね」

「まあそれはしょうがないよ。桑の木が何本も生えてるわけじゃないんだし」

「魔法で増やしたりとか出来ないんですか?」

 あっという間に食べ終わったエクスが純粋な瞳を向けてくる。

「だから魔法は万能じゃないんだって。出来ることと出来ないことがあるんだよ」

「へー……魔法使いってなんか思ってたイメージと違うんですね」

 一瞬アルスは勝手な期待を裏切られたという意味かと思ったが、エクスの方を見てみると特にガッカリした様子はない。今まではこういう時『魔法使いのくせに』といった視線を向けられてきたが、エクスにはそれがない。

「……えびセンパイはさ、その、怖い……とか思わないの?」

「え?何が怖いんですか?」

 他の人と違う様子にアルスは不安をぶつけてみるが、当のエクスはきょとんとした顔だ。

「えっと、だからさ、魔法なんて得体のしれないモンつかったりしてさ」

「いやいや。んなワケないじゃないですか。魔法が得体の知れないって、それって俺が魔法について何も知らないからじゃないですか。自分の無知を棚に上げて勝手に怖がったりしないですって」

 実にあっけらかんとアルスの不安を吹き飛ばすエクス。そんなことでガッカリする方がおかしい。そんな雰囲気だ。

「そもそも僕は魔法なんて使えませんしね。僕に出来ないことが出来るんだから、アルスさんは充分すごいじゃないですか」

「え、いや、魔法使いなんて世の中に何人もいるんだし、ってかそんなにホメるなよ……」

 エクスのストレートな褒めパンチに、褒められ慣れていないアルスはゴニョゴニョと答えながらフードを目深に被り直す。

 が、

「そんなわけで偉大なアルスさん、もうちょっと桑の実くれませんか?」

「おい」

 

 

 

 おやつを食べ終わり、それから一時間ほど歩いて目的地の川原に到着した。ちなみに桑の実はあげなかった(当然である)。

 川はとても澄んでいて底まで見通せるほど綺麗だ。流れもそこまで早くない、小さな川である。

「とぉーちゃーく」

「おお、やっぱ水場は空気が爽やかですね」

 エクスの言うとおり、川原にはひんやりとした爽やかな空気が満ちている。夏の暑い日などはとても過ごしやすそうな場所だ。

 さて目的の採集をしよう、とアルスが採集を始めようとしていると、エクスが物珍しそうにふんふんと川原をちょろちょろし始めた。

「うわっ!きしょっ!?なんだこの虫!?」

「それ?ただの川虫じゃん」

「あ、あれ!アルスさん見て!何あれ!?髭生えてるんだけどあの魚!」

「ん?あー……ナマズだねあれ。普通はもうちょい濁ったとこにいる魚だからここらへんにいるのは珍しいね」

「あ、あれがナマズかぁ」

 とにかく目に映るもの全てが新鮮、とばかりに色んなものに興味を示してははしゃいでいる。今度はなんかよく分からない貝を拾ってはしげしげと眺め始めた。

「センパイ、川に来たことないの?」

 子供のような反応をするエクスにやれやれ、と声をかける。すると、

「いや、だって川には魔物が出るから近づくなって散々言われてたし」

 流石に我に帰って少し恥ずかしくなったのか、若干そっぽを向いて答えてきた。

「へー、センパイってそういうの気にしないっぽいのにね」

 出会って数日だが、なんとなくイメージと合わない。法律ならともかく、村の決まり事なんかはあって無いような性格な気がするが。

「何言ってるんですか。僕ほど品行方正な人間はいませんよ」

 一点の曇りもない目で言い放ちやがった。

「品行方正な人間は勘違いで差し出された馬鈴薯をパクったりしないと思うけど」

「アルスさん、人は前を向いて生きるものです。過去のことは忘れましょう」

「川に突き落としてやろうか」

 どうやら彼に品行方正という概念は早すぎたようだ。

 自称品行方正な人間は眺めていた貝をポイッと川に投げると、足元の石まで投げ始めた。パシャンパシャンという音をさせながら話しかけてくる。

「子供の頃にさ、水死体が見つかったって話があったんですよ」

「あー……あったらしいねえ、そんなこと」

 その話はアルスも聞いた事がある。なんでも何年か前にどこぞの旅人が溺れ死んでいるのが発見されたと言うのだ。当時はそこそこの話題になったらしい。

「あれってなんか、ケルピーとかいう水辺の魔物に襲われたって話じゃないですか。まあ、ケルピーってどんな魔物か知らないですけどね。でも、そんなことがあったら川とか来ようと思いますか?僕は思いませんけど」

 石を投げるのを止め、静かに川の流れを見つめる。その目には僅かな警戒心が見え隠れする気がした。魔物が出たという話など、馬鹿な子供ならかえって面白がって見に行きそうなものだが。脳天気に見えるが、考えなしではないようだ。

「うーん……でもそれ本当に魔物の仕業なのかなあ」

 そんなエクスにアルスは疑わしげな声をあげる。

「え?どういうことですか?」

 アルスの疑問を聞いたエクスはキョトンとした顔をする。

 不思議そうな顔を向けてくるエクスに、アルスは『魔物の仕業』について少し詳しく説明することにする。

「えっとねぇ、人を溺れさせる魔物って言えば有名なのはさっきセンパイが言ってたケルピーとか、あとはローレライとかが有名なんだけどさ。例えば『ケルピーに襲われた』とされる事件の中で実際にケルピーに襲われた人は全員じゃないんだよ」

「えぇ……なんで?え、つまりどういうこと?」

「ケルピーってのは水辺に現れる馬の魔物なんだよ。で、逸話ではケルピーは旅人の前に現れることが多い。あ、それ以外のパターンももちろんあるけど。それで疲れた旅人が『あ、馬だラッキー』って背に乗った途端、近くの川とか水の中に向かって猛ダッシュするの。そのまま乗ってれば当然溺れ死ぬし、無理矢理降りようとすれば、馬が全力疾走してるわけだから地面に激突して死んじゃうんだよ」

「ええ怖っ!?滅茶苦茶ヤバイじゃんそれ!」

「でもさぁ、おかしいと思わない?」

「え、おかしいって何がですか?」

 アルスの質問に腕を組んで思案顔になるエクス。ふぅむ、とおかしな所を探すが、思いつかないようだ。

 答えを思いつかないエクスにアルスは答え合わせをする。

「普通さぁ、旅で疲れているからってたまたま見つけた馬に乗ろうと思う?鞍を付けていない、というか野生の馬なんかろくに乗れるわけないし、野生じゃなかったらただの馬泥棒じゃんそれ」

「あ」

 言われてみれば、といった感じで納得した表情になる。だがすぐに難しい顔になって、

「じゃあそれって結局、ケルピーってただの伝説とか噂とかそんな感じなんですか?」

「んー、実際にケルピーはいて、襲われた人もいるんだと思う。けどそれは『ケルピーに襲われた事件』のほんの一部なんじゃないかなあ、ってボクは思う。ケルピー自体もあっちこっちに出るようなヤツじゃなくて、ごく一部の地域の魔物かなあって」

 なんだか教師になった気分でエクスに説明するアルス。ちゃんと話を聞くし、表情豊かだからなんとなく楽しい。

 一方エクスはうーん、と考え込みながら、

「じゃあその『実際に襲われた』以外はどういうやつなんですか?」

「ああ。ま、こっからは推測なんだけど……あくまで推測だからね、いい?」

「いや、分かりましたけど、なんでそんなに念を押してくるんですか」

 アルスの念押しに若干釈然としないものの頷くエクス。それを見てコホン、と咳払いを一つすると、

「旅人ってさぁ、旅のために結構お金持ってるじゃん。路銀ってやつ」

「ああ、まあそうですね。でもそれがどうかしたんですか?」

 キョトンとした様子で話が上手く飲み込めていない。やはり根は善良なのだろう。

「で、田舎は余所者に厳しかったり、衛兵なんて一人もいなかったりする。そもそも閉鎖的な田舎ではよその村や町と人や情報の行き来も少ないから、『余所者なんて来ていない』ことにするのも容易い。さらに田舎の農村なんてあまり豊かでないことが多い」

「え……まさか、と思いますけど……」

 ようやくアルスの言わんとすることが見えてきたようで、表情が一瞬引きつる。

「まあ、色々都合がいいんだろうね……『色々』と」

 似たような話だとレッドキャップも近いだろうか。

 レッドキャップは塔などに潜み、旅人を襲ってはその血で帽子を紅く染めるという怪物だ。さらには金品を奪って溜め込んでいる、という話もある。だが、レッドキャップに殺された人たちが『本当にレッドキャップに殺された』かどうかは分からない場合がほとんどだろう。死人に口なしというやつだ。

 アルスの話を聞いたエクスは嫌な事を聞いた、とばかりに顔をしかめる。だがあまり信じたくないようで、

「いやでも、なんつーか考えすぎじゃない?推測でしょそれ」

「推測だよ、あくまで」

 エクスの否定するような言葉にあっさり頷くアルス。しかし、

「でもねぇ……えっと、魔法使いの間で『便利なトロール』っていうのがあるんだけどさぁ」

「便利なトロール?なんですかそれ」

「トロールは知ってるよね?その怪力で人を叩き殺したり、連れ去って食い殺したりするやつ」

「もちろん。有名じゃん、トロールって」

 アルスの問いかけに当然、と頷くエクス。それを見てアルスは話を続ける。

「まぁ簡単に言えば、人間関係のいざこざや怨恨の解決法として『トロールが便利』って話なんだよ」

「……それは、実際にトロールに襲われたとかじゃなくて」

「そう。ある日何故か人がいなくなりました。そしたら『きっとトロールに連れ去られたんだ』って言い出す人が出て、本当にそういうことにされてしまう」

 アルスの話に、魔物よりもおぞましい、といった表情をしたエクスはブルリと体を震わせて、

「でも……通るんですかそんなの」

「ケースバイケースだね。真実が暴かれることもあれば、そのままいもしないトロールが『いる』ことになることもある」

 ちなみに、とアルスは一息ついて、

「ボク達魔法使いにとってこれが厄介でさ。魔法使いの仕事の一つに魔物が村に入ってこないように結界を張ったり、魔物避けの護符を作ったりってのがあるんだけど。当然存在しないトロールなんかどうしようもないんだよ」

 色々と学んだ面倒な『便利なトロール』の事例を思い出し、ハア、と溜息を吐く。

「ひどい場合だと『魔女がトロールを手引きしたに違いない!』ってなる場合もあるらしくて。そういう話が魔法使いの間だとさ、気をつけなきゃいけない事例として有名なんだよ。っていうか『こういう事例が実際にあったから気をつけましょう』って、魔法使いの勉強で学ぶし。だからケルビーもそうかもしれないって思ったんだよね」

「へー、魔法使いも結構大変なんですね」

 意外そうな声を出す。話を聞くに魔法使いは何でも出来るようなイメージを抱いていたようだし、そういった苦労は思いつかなかったのだろう。

「でもなあ…あんま思いたくないなぁ。あの旅人の話、犯人がうちの村のヤツってことですよね」

 とんでもないことを知ってしまった、というよりは、普段関わりのある村人の中に人殺しがいるかもしれないということを考えたくない感じだ。

「話はまだ終わってないよ?」

「え?」

 アルスの一言に、俯いていたエクスは意表を突かれたように顔を上げた。

「今言ったのはいわゆる最悪のパターンってやつ。つまりさ、他にも可能性はあるんだよ」

「他の可能性って……どんなのですか?」

「うん。トロールの話に戻るけど、さっきと違って故意じゃないけど居もしないトロールが『居る』ことになることがあるんだよ」

「んん?故意じゃないっつってもなぁ……いや、意味分かんないんですけど」

 エクスは腕を組み考えこむが、結局どういうことか分からないようだ。

 なのでアルスはなるべく分かりやすいように、

「例えば『便利なトロール』のせいで噂が広がって、隣村とかのよそで『うちの村にもトロールが出るんじゃないか』ってじんわりと恐怖が蔓延したりしてたとするじゃん」

「ああ、真実が暴かれなかったりするとそうなるかもしれませんね」

「そう。で、そんなビクビクしてる時にさ、旅人が獣にやられたり、事故で亡くなっちゃったりしたらどうなると思う?まあ普通に冷静な判断を下せる人もいるけど『うちにもトロールが出た!』ってなる人もいるんだよ。トロールに食い殺されたのと獣に食い殺されたの、普通は見分けなんかつかないし」

「あー……もう半ばパニクっちゃって冷静になれないやつか」

「そう。そしてパニックは広がる。恐怖や混乱は伝染するからね」

 なるほど、とエクスは納得したように大きく頷く。

 ちなみに魔法使いに何とかしてくれと話が来た場合、言うまでもないが非常に厄介な仕事となる。パニックでトロールはいると思い込んでいる人達を相手に誤解や思い込みを解くのはかなり難しい。ここで失敗すると怪しまれ、先程アルスも言ったように『魔女がトロールを手引きしたんだ!』となってしまう。

 とりあえずの理解はしたからか、んん、と伸びをしたエクスは、

「要するにケルピーも同じような被害妄想の類かもしれない、と」

「うん。ケルピーも同じように、ケルピーの話が有名になったせいでただの水難事故もケルピーの仕業ってことになってるのかもしれない」

「てことは結局ただの事故ですか。よかった、いや人死に出てるからよくはないけど」

 エクスは安心したようにふう、と一つ息を吐く。自分の村に旅人を襲うような人間はいないと分かってホッとしたようだ。

「確定じゃないけど多分ね。あとちなみにだけど、ケルピーの話自体には警告的な意味合いがあるんだと思う」

「警告的な意味合い?」

 キョトンとしたオウム返し。学び舎の子供のようなエクスに、アルスは少しだけ苦笑する。

「さっき野生の馬じゃなかったらただの馬泥棒じゃんって言ったけど、中には本当に盗んじゃう悪人もいないわけじゃないよね」

「まあ旅人が必ずしも善人とも限りませんからね」

「うん。だからそういう不届き者に対する脅しっていうかさ。『オマエが盗もうとしている馬はケルピーかもしれないぞ』っていう」

「あー、なるほど。『夜更かししてるとトロールに攫われるぞ』って子供に言い聞かせるみたいな」

 ひどく得心した様子で頷く。

 実際に皆が皆信じるわけでもないだろうがないよりはマシといったところだろう。もしかしたら水難事故のいくつかがケルピーの仕業とされるのは、噂に信憑性を持たせるためにわざと『冷静な判断』をしない場合があるのかもしれない。

「……何だよ、人の顔じっと見て」

 ふと気がつくとエクスがアルスの顔をじっと眺めていた。

「いや、なんかすごいなって思って」

「すごいって何が?」

 これまでとは違うエクスの視線にアルスは不思議そうな顔をする。

「なんつーかアルスさんって本当に魔法使いだったんだなって」

「どういう意味だこら」

 どうやら偽物の魔法使いと疑っていたらしいエクスはまあまあ、とアルスの講義を適当に聞き流す。

「まあそれはそれとして」

 ふう、とエクスは頭のモヤが晴れたような顔で、

「じゃ、結局この川には魔物はいないってことですね。そう考えると損したなあ。もっと早く来れば良かったわ。もったいないことしたなあ」

 悔しそうに川を眺めるエクス。その様子を見たアルスはあっけらかんと、

「そうだね、ボクも一回しか見たことないし」

「……へ?」

 かくん、とエクスの顔がアルスへ向けられる。

「いや、魔物は出ないんじゃ……」

「さっきのは昔の事件に対する考察だよ?」

 アルスは考え込むように腕を組み、

「んー、何ヶ月か前にそれっぽいの一回見ただけだしなぁ。ま、ボクの見間違えかもしれないし安心していいよ」

「安心出来ねえよ!?」

 

 

 

 それからおよそ三十分後。

「お、これ蟹かな?本で読んだやつだ」

 アルスの話を聞き最初のうちは警戒していたエクスだったが、何も起きないためだんだん警戒心が解けたらしく、今は川遊びを普通に楽しんでいる。

 今度は川の水をバシャバシャとやり始めたエクスは放っとくことにして、アルスは今度こそ採集を始めることにする。今日の目的は水場で採れる、水の魔力を含んだ魔石だ。石そのものから水がにじみ出ているのが特徴である。

「んー……なかなか見つからないなぁ」

 しゃがみこみながら川原の石を調べては、ポイッと投げ捨てるというのを繰り返す。なかなかに根気が要る作業だが慣れてしまえばどうってことはない。というより、こういった素材の採集から魔法式の構築まで、魔法使いは何かと集中力や根気が要求されるのだ。

「お、あったあった」 

 何度も繰り返してやっと見つけた魔石をポーチにしまう。三十個以上調べてようやく一つ目。十個は欲しいため、まだまだ先は長い。

 とりあえず一息つくか、と立ち上がって大きく伸びをする。ずっとしゃがみっぱなしだと腰にクる。ずっと同じ姿勢でいるのも体に悪いし、適当なタイミングで体をほぐさなければならない。この歳で腰に爆弾抱えたくないし。

 ぅあー、とよく分からないうめき声を上げながら固まった体をググッと伸ばしていると、ザッザッ、と足音が近づいてきた。確認するまでもなく足音の主は一人しかいない。

「エビセンパイ?川遊びはもういいの?」

 振り返った先にいたエクスに声をかける。エクスはビショビショというほどでもないが、結構あちこちが濡れている。どんな遊び方をしていたのであろうか。

 エクスは犬のようにブルブルッと頭を振って水気を飛ばしてから、

「別に僕は川遊びをしに来たわけじゃないんですよ。僕はアルスさんの手伝いに来たんですから。だってのになんか石とか拾って。採集はいつやるんですか?」

 なんだか勉強をやらない子供に注意するかのように、やれやれといった感じで苦言を呈してきた。さっきまで採集そっちのけで遊んでいたのは誰だろうか。

 そんな子供扱いするかのような態度にアルスは若干イラッとする。が、エクスは何やら勘違いしているようだし、ここは自分が大人の対応をしようと我慢する。

「採集ならもうやってるよ。手伝ってくれるってんなら特徴教えるからさ、センパイもちゃっちゃっとやってよ」

 特に難しいことを言ったつもりもないのだが、言われたエクスは顔に『?』マークを浮かべる。

「は?もうやってるって石拾って遊んでるだけじゃん。まあ綺麗な石とか変な形の石拾うのって子供は割とよくやりますけど」

「はあぁ?いやボクのこと何歳だと思ってるんだよ!?じゃなくて魔石!今日はこれ集めに来たんだよ!」

 明確な子供扱いに憤慨しながら、先程ようやく見つけた一個目をポーチから取り出しエクスの鼻先にずずいと押し付ける。というか彼にはアルスが何歳に見えているのだろうか。

 一方水の魔石を鼻先に押し付けられたせいで鼻水を垂らしたみたいになったエクスは、右手で鼻をゴシゴシとやると、

「いや、なんですか魔石って!聞いてませんよ!?魚を捕りに来たんじゃなかったんですか!?」

「一言も言ってないよそんなこと!」

 話から察するに、どうやらエクスは『採集』を勘違いしていたらしい。おそらく川と聞いて、川なら魚だろうといった感じで早合点したのだろう。つーか結局食いもんか。

 エクスの勘違いを理解したアルスは思いっきりジト目を向けながら、

「なんでわざわざこんなとこまで付いて来たのかと思ったら、食料目当てかよ。まったく、センパイらしいっちゃセンパイらしいけどさぁ……」

「いやいや誤解ですって!俺はホントにアルスさんの手伝いに来たんですよ。そりゃ確かにおこぼれに与ろうとは思いましたけど、メインは手伝いです!」

 呆れた様子のアルスにエクスは右手をブンブン振って全力否定。怪しい。

 そんな信用のない(出来ない)エクスを見たアルスは、

「じゃあ魔石集めでも問題ないよね。お詫びも兼ねてとか言ってたし、報酬も無しで」

「すいません、急用思い出したので帰っていいですか?」

「待てやコラ」

 報酬は無し、という言葉を聞いた途端に回れ右をするエクス。お詫びとは何なのか。

 そのまますたこらと逃げ帰ろうとするエクスの左手をガシッ!と掴むアルス。

 初めての川なのだから、少しくらい遊ばせてから手伝ってもらおうと考えたのが失敗だったか。

 絶対に逃がすものかとエクスの手を掴んだままムギィー!と全力で踏ん張る。面倒な魔石集めには一人よりも二人の方がいい。

 そんなわけで逃すまいとするアルスは、裏切り者(裏切りの理由。自分の勘違い)に抗議する。

「ボクの手伝いに来たんじゃないのかよ!?」

「ぶっちゃけ焼き魚のために来ました!」

 魔物の出る川より焼き魚か。

「食べ物から離れろよ!」

「食べること生きることって言うじゃないですか」

「やかましいわ!」

 その後十分くらいぎゃあぎゃあとやった結果、魔石一つと馬鈴薯一つを交換ということで話はついた。

 

 

 

「アルスさーん。全然見つからないんですけどー」

 エクスも加えて二人で探し始めてから五分後。早くも飽きてきたのか、離れた場所からエクスが不満の声を投げてくる。

「だからそう簡単に見つからないんだってばぁー」

 アルスも先程説明したことをエクスに向かって大きな声で投げ返す、

 さっきと同じようにしゃがんだままそれっぽい石を見つけては拾って、結果違うので投げ捨てるというのを繰り返す。途中、適当なタイミングで体をほぐす。慣れていないエクスには少々大変かもしれないが、まあセンパイだし、とアルスは雑に扱うことにする。

 そうやって二人でしばらく探してある程度時間が経つと、ようやく目標の半分ほどが集まった。

「やっと五個かぁ」

 んん〜、と伸びをしながらアルスは一息つく。ちなみにアルスが四個でエクスが一個だ。

 エクスは自分の成果がアルスの四分の一だったことが気に食わないのか、不満げな顔で魔石を眺めている。

「これってもしかして、川の中の方が見つかるんじゃないですか?」

 不意にエクスが魔石を見つめながらそんなことを聞いてきた。

「あー、うん。多分ねぇ、川の中の方があるんだろうけど、普通の石と見分けがつきにくいんだよねえ」

 水の魔石は、石自体から水がにじみ出ているという特徴がある。そのため、川底のただ濡れているだけの石と区別しにくいのだ。

「じゃあ、なんかこう、魔力で感知とかそういうのは無理なんですか?」

「んー、出来ないこともないんだけど、滅茶苦茶集中力いるからかなり疲れるんだよね。ぶっちゃけ川原で石一個ずつ拾ってやるのと大差ないよ」

 どうせかかる労力が大して違わないのなら濡れない方がいいだろうとアルスは思う。

 しかし散々探して一個しか見つけられなかったエクスは、どうにも諦めきれないようで、

「うーん……試しにちょっとだけ川底探してみたいんだけどなあ」

「別にダメじゃないけど、面倒くささは変わらないよ?」

「いやまあちょっとだけ、お試し感覚で」

 ズボンの裾をまくり上げ、ジャブジャブと川に入っていく。そこまでするのは馬鈴薯のこともあるのだろうが、単純に負けず嫌いなのだろう。

「流れに足取られないように気をつけろよー」

 それほど流れの速い川ではないが、アルスは念の為に注意しておく。

「さて、ボクももうひと頑張りするか」

 エクスよりも見つけた数が多ければ多いほど、エクスに渡す馬鈴薯の数が少なくて済むと考え、なるべく多く見つけようと意気込む。手伝いの意味が無いような気もするが、アルスもどうやら負けず嫌いを発揮しているようだ。まあ半ば競い合うような形になったおかげでモチベーションが維持できているところを見れば意味はあるか。

 再びしゃがみこみ、足元の石たちを調べ始める。

 すると、

「え、なにあれデッカ!え?デカすぎるでしょマジで!」

 後ろの方から何やらエクスが騒ぐ声が聞こえてきた。また何か、大きな魚でも見つけたのだろうか。

「アルスさんアルスさん!なんかやたらデッカイ蛙いるんだけど!なにあれ!?なんか髭まで生えてる!え、キモッ!」

 騒がしいエクスの台詞の中にアルスは何か引っかかるものを感じた。

(髭の生えたデカイ蛙……?)

 どこかで聞いたような特徴だ。たしか何かの本で読んだ気がする。その本によればその特徴は確か……

(ってそれってまさか!?)

「センパイ!今すぐ逃げて!」

「え?」

 瞬間、その『怪物』は凄まじい勢いでエクスに襲いかかった。

「ぅわっ!?アブなっ!?」

 何らかの予感がしたのか、エクスは間一髪で飛びかかってきた怪物を避ける。

 バッシャーン!!と、派手な水音を立てて怪物は川の中へ着水する。そのままくるりと反転し、体半分を水面から出したまま感情の読めない目でエクスを睨みつける。

 その『大きな蛙』とやらは大きさが人の背丈程もあった。エクスの言っていた通りヒゲも生えている。どう見ても魔物だ。

「グルゥゥェエエエブゥッ」

 薄気味の悪い声を上げる怪物を見据え、エクスはまた飛びかかってこられても身をかわせるように混乱しながらも油断なく身構える。

 川原までの距離は四メートルから五メートルほど。ただし間には不気味な怪物が陣取っている。反対側は六メートルから七メートルといったところか。明らかに危険な状況である。

「センパイ!早く川から上がって!」

 思わぬ事態にアルスは焦って大声で呼ぶが、

「無理です!川から上がるには距離がありすぎるし、隙を見せたらすぐにやられる!」

 この川は浅い川ではあるが、怪物を避けたあと反射的に少し距離をとってしまったせいで、水深は腰より少し下ぐらいの深さの場所まで移動してしまっている。怪物は蛙のような見た目をしているし、川に現れたことからも移動に支障はないのだろう。だが、ここまでの深さがあれば人間はそうはいかない。ましてや流れのある川ではなおさらだ。

「とりあえず隙を見せないようにしながら少しずつ動かないと!」

 パニックになってもおかしくない状況ではあるが、エクスは比較的冷静に状況を把握している。だがやはり顔には緊張が浮かんでいるのが見てとれる。

「っつーかコイツいったいなんなんですか!?」

 突然襲いかかってきた怪物に対する疑問をアルスに投げかける。

「多分だけどそいつはヴォジャノーイって魔物だと思う!川や湖に潜んで人間を溺れさせて自分の奴隷にしたり、水門とかを壊したりする水の魔物だよ!」

 魔物に襲われている村人の質問に、魔法使いはかつて読んだ本に載っていた知識を必死に思い出しながら答える。

 頭をフル回転させながら、アルスは最初川原に来たときにはしゃいでいたエクスの言葉を思い出す。

 

『あ、あれ!アルスさん見て!何あれ!?髭生えてるんだけどあの魚!』

『ん?あー……ナマズだねあれ。普通はもうちょい濁ったとこにいる魚だからここらへんにいるのは珍しいね』

『あ、あれがナマズかぁ』

 

(よくよく考えてみればおかしいじゃん!ナマズは川底に潜む魚、水面の餌に食らいついてるわけでもないのにこの川で普通に目視できるなんて変だろ!そしてヴォジャノーイはナマズに乗って移動する!)

 本で得た知識と少し前の記憶と照らし合わせ、アルスは自らの失敗に歯噛みする。

 だが過去を嘆いている暇はない。危機は現在進行形で目の前にあるのだ。どうにかしてエクスをヴォジャノーイから助けなければならない。

(考えろ!今ボクに出来ることは何だ!?何が出来る!?)

 川の中でエクスと睨み合っている怪物を睨みつけながら、アルスは思考を高速で巡らせていく。まず自分の使える魔法の中で使えそうなものは雷の魔法。自分が最も得意とするものだが川の中という状況では使えない。エクスまで感電してしまう。ならば魔物避けの護符はどうか。ダメだ。投げつければ怯ませるくらいはできるかもしれないがエクスが川から上がるまでの時間は稼げないだろう。自分が囮になる?二人まとめて溺れさせられるのがオチだ。

 頭の中で思いついた案を自分で否定してゆく。打開策が見つからない。焦りで頭が沸騰しそうになる。早くなんとかしなければという思いが、かえって思考を鈍らせていく。

(クソッ!そもそもなんでこんなのがいるんだよ、今までヴォジャノーイなんて見たことなかったのに!)

 心の中で毒づくが今はそんな場合ではないとかぶりを振る。

(とにかく魔法使いのボクがなんとかしないと!)

 ただでさえ焦っているのに、魔法使いとしての矜持が焦りを加速させる。

 だが気持ちとは裏腹に具体的な考えは浮かんでこない。

 とりあえずエクスから注意を逸らすだけでも、とアルスがヴォジャノーイに石を投げつけようとした時、エクスが動いた。

 それまでいつ襲いかかられても身をかわせるようにと注視していたヴォジャノーイから目を逸らし、ヴォジャノーイの後ろに注目している。

「ちょ、センパイ!?目を離しちゃ危ないって!」

 慌てて大声で呼びかけるが、それでもエクスはヴォジャノーイの後ろに目を向けたままだ。むしろかえって先程よりも何かを凝視している。

「あ……ぁ……え、なに……あれ?」

 何か信じられないものを見たかのように大きく目を見開き、震える手でヴォジャノーイの後ろを指差している。まるでヴォジャノーイなどどうでもいいと思わせる程の何かがあるかのように。

 その様子に何かあったのかとアルスはヴォジャノーイの後ろに目を向けるが、特に何か変わったところは見つけられない。エクスがあれほどになるのだからすぐに何かが目につきそうなものだが、何がエクスをあそこまで呆然とさせているのかまったく分からない。

(いったい何が……?)

 よく分からないままエクスの方に視線を戻す。ちょうどその時ヴォジャノーイもエクスの様子を訝しんだのか、

「……?」

 蛙の首の可動範囲が狭いからか体ごとぐるりと後ろを向き、何かあるのかと確認しようとした。

 その瞬間。

「かかったなアホがあー!」

「ゲルルウウウゥゥゥ!?」

 ほんの一瞬前まで目前の怪物に目もくれず、呆然とした様子で何かを凝視していたエクスがいきなりヴォジャノーイに殴りかかった。

「逃げられないなら!倒すまで!このまま!ぶっ潰して!やる!」

「ゲルォ!?グルゥォ!ゲッ!?ゴルォ!ゲルゥゥ!?」

 ドガッ!ゴシャッ!と、叫びながら何度も蛙の怪物を殴りつける。なんだか執拗に目を狙ってるし、いつの間に拾ったのか、拳じゃなくて石で殴っている。おまけに逃げられないように後ろから左手で蛙の首をロックまでしている。

「……えぇ……」

 あまりに突然の展開にアルスはそれこそ呆然とした。こんなの予測できるわけない。というかさっきのは子供がよくやる注意を逸らすやつか。魔物相手にやるなんて正気か。

「おらっ!このっ!捕まえて見世物小屋に売り飛ばしてやる!」

 目的変わってんじゃねーか。

 アルスはしばしそれを呆然と眺めていたが、すぐにハッとし、

「センパイ!この隙に川から上がって!いくらなんでもこのまま倒すのは無理だから!」

「っ!分かりました!」

 僅かに躊躇する素振りを見せたが、すぐに蛙の怪物を突き飛ばしそのままジャバジャバと急いで陸地に向かってくる。

「ゲルゥゥォォォォ……」

 さんざん殴られ突き飛ばされたヴォジャノーイは少しの間フラフラしていたが、十秒程すると回復したのか怒りの声を上げながらエクスを睨みつける。だがその時にはエクスはもう陸地まで一メートルを切っていた。水深も脛ぐらいの高さだ。襲いかかられたとしても逃げ切る方が早いだろう。

 そうこうしている間にバシャン!と音を立ててエクスが川から完全に上がった。だがヴォジャノーイは諦めていないようでゆっくりとだが陸地に向かってくる。妙にゆっくりなのは散々殴られたせいで警戒しているのだろうか。

 流石に陸地では脅威は半減するだろうが油断はできない。仮にも相手は魔物だ。だがアルスはすでに勝ちを確信していた。

「それでどうするんですかアルスさん。このまま逃げるんですか?」

 今度こそびしょ濡れになったエクスが尋ねてくる。確かに相手は魔物とはいえ蛙だ。こちらが全力で走って逃げれば追いつかれないだろう。だがアルスの返答はエクスの予想だにしないものだった。

「あとはボクが何とかするからセンパイは先に逃げてて!」

 アルスの言葉にエクスはギョッとした顔をする。エクスは慌てて、

「いや何言ってんですかアルスさん!アルスさんも逃げましょうよ!」

「そうは言っても、さすがに村の近くに出た魔物を放っとくわけにはいかないって!大丈夫、何とかするから!」

 そう言い放ったアルスはヴォジャノーイに鋭い視線を向けたまま頑なに動こうとしない。エクスは一瞬無理矢理にでもアルスを担いで逃げるべきかと考えたが、アルスも抵抗するだろうし、そもそも人を担いで走ったことなどないため上手く逃げれるか分からない。

 エクスは少しの間逡巡した様子を見せたが、結局覚悟を決めたような顔で、

「じゃあ俺も残ります!」

 今度はアルスがエクスの言葉にギョッとした顔をする。

「はあ!?何馬鹿なこと言ってるんだよ!いいから今すぐ逃げろよ!」

「さすがにアルスさん一人残して逃げるのは無理だって!何か策があるんだったら俺も手伝いますから!」

 アルスが引かなかったようにエクスも引く気配がない。何やら見捨てられないみたいなことを言っている。それ自体は立派だが今のアルスにとってはありがた迷惑だ。

(ああもう!センパイが居なくなれば魔法でぶちのめせるっいうのに!)

 やはり逃げる気配のないエクスにアルスは歯噛みする。

 別に人がいれば魔法が使えなくなるわけじゃない。ただ人前で魔法を使いたくないのだ。特にエクスはなんだかんだ言って好意的に接してくれた。そんな人の前ではなおさらだ。

 アルスはよく知っている、魔除けの結界や占いとは違う、危険な魔法を人前で使うとどうなるか。これまで散々経験してきたことだ。

(どうせ……)

 どうせ怖がられて、不気味だと、あいつは魔女だって扱いになる。そうに決まっている。だってこれまでがそうだったんだから。そうでないのは黛などの極一部だけだ。

 エクスはまだ動こうとしない。ドロドロとした臆病さによって焦りと苛立ちがガリガリとアルスの精神を削る。

「……くそ!いいからとっとと逃げろ!!」

 噛み付くようにエクスに怒鳴るが、彼は不安そうな顔をしながらもやはりその場から離れない。そこには何らかの決意が伝わってくる。

「アルスさん!アイツもう上がってきますよ!」

「っ!」

 エクスが言うようにヴォジャノーイはもう岸まで三メートルを切るかといったところだ。

「センパ……」

 早く逃げろと言いかけて、さすがにもう間に合わないと気づく。ヴォジャノーイから逃げるだけなら可能性はまだあるだろうが、魔法を見られたくないから逃げろと言っているのだ。今からエクスが全力でこの場を離れたところで、エクスが魔法が見えないところまで行くよりヴォジャノーイとぶつかる方が早いだろう。

「グェエルルルルルルルゥ……」

 不気味な鳴き声を上げるヴォジャノーイは岸まで二メートルを切った。

 もはや迷っている暇はない。

「……センパイは下がってて。目を閉じて、耳も塞いでて」

 無駄だと分かっていても、それでも、せめてそのぐらいは。

 アルスはそのまま一歩前に出るといつも携えている本を左手に持ち、蛙の怪物を見据えたまま深く集中し始めた。

「我が手には数多の木々。それは草木の生い茂る豊かな森なり」

 その口から紡がれるのは神秘を描く筆の如き言葉。

「ここに鍛冶の男神の呟きを示す」

 そして眼前の敵を討ち滅ぼす矛となる言葉。

「それは森を焼き払うが再びの豊穣を約束するもの」

 

「その呟きは神々の怒りとなりて我が敵を討ち滅ぼせ!」

 

 その瞬間、ガッシャーン!!と魔法使いの右手から邪悪な魔物へと横向きに雷が落ちた。

「グルルウウゥゥゥゥォォ!?」

 雷に打たれ大きな悲鳴を上げ、倒れるヴォジャノーイ。表情の読めない蛙の顔ながらもその顔には、何が起きたか分からない、という気持ちがなんとなく感じられた。

「グ、ォ……」

 そしてそのまま怪物は沈黙し、ピクリとも動かなくなった。

「ふう……」

 一撃で絶命し川を漂うだけになった魔物の成れの果てを眺めながら、アルスはゆっくりと細い息を吐いた。得意の雷魔法、それを使えばおそらく一発で倒せるだろうと思っていたが、やはり実際に倒すまではかなり緊張した。予想通りの結末となって一安心といったところだ。

 だというのにアルスの顔は晴れない。

「……あぁ」

 せっかく仲良くなれたのに。

 アルスは口の中で小さく呟いた。

 黒い塊と化したヴォジャノーイをただ静かに見つめる。

 後ろで彼はどんな顔をしているのだろうか。決まっている、今まで何度も見てきたあの怯えた表情だろう。それが容易に想像できるアルスは振り向くことができないでいる。それで何が変わるわけでもないというのに。

 すると振り向けないでいるアルスの後ろから、

「すっ……げえええぇぇぇぇ!!」

 いきなりエクスの大声がアルスの耳を打った。

 びっくりしたアルスが思わず振り返ると、突然叫んだエクスは何やら興奮した面持ちでアルスに詰め寄り、

「え、嘘でしょ!?何今の!?あれがアルスさんの魔法!?凄すぎるんだけど!一撃じゃんアイツ!え、ヤバ!」

「へ?」

 なんだかやたら目を輝かせながらすごいすごいと連呼してくる。まるで初めて本物の騎士の剣や鎧を見せてもらった少年のようだ。

 そんなキラキラした瞳を向けられたアルスは虚を疲れたようにぽかんとした顔で

「は、いや……え……?」

「てゆーかマジで魔法使いだったんですねアルスさんって。スゲーもん見たわホント」

 どうやら今までインチキだと疑われていたらしい。だがそんなことよりも、

「え……怖くないの……?」

「怖いって何がですか?」

 きょとんとした顔で聞き返してくる。

「いや、だからさっきのボクの魔法……」

「さっきの魔法って……え?まさかと思うけど、俺が雷怖がると思われてた?」

 なにかズレた方向に勘違いしたエクスは心外そうな顔になる。

「まったく僕がいくつだと思ってるんですか?一応アルスさんよりも年上なんですけど」 

 やれやれとでも言いたげにエクスは呆れた顔を見せる。

「いやそうじゃなくて、その……」

「っていうかだから先に逃げろだの、目を閉じて耳も塞げだの言ってたんですか?あの緊急事態にそんな子供扱いしてる場合ですか」

「だから!そうじゃないって!」

 アルスの口から出たのは自分でも驚く程の大声だった。アルスは思わず片手で自分の口を塞ぐ。

「は?いや、そうじゃないって……じゃあいったいどういうことなんですか?」

 驚いたのは同じなのであろう、エクスはアルスの勢いに若干引き気味になりながら不思議そうな顔をする。

 アルスは自分が何故そこまで大きな声を出したのか分からないながらも、そのなにも分かっていないようなエクスの表情に何故か苛々とした気分になる。そして自分でもよく分からないままその苛立ちをぶつけてしまう。

「どういうこともなにも、魔法自体が怖いだろって言ってんだよ!」

 

「え?別に怖くないけど?」

 

 一人気が昂ぶるアルスに返ってきたのは、いっそ驚く程あっけらかんとした答えだった。まるで何をバカなことを言っているんだと言わんばかりに。

「は……?」

 彼女にとって予想外すぎるその返答にアルスは思わず固まってしまう。そんなアルスの様子を見ても目の前の青年は不思議そうな顔をするばかりだ。

 アルスは止まった頭をどうにか動かし、何故か否定の言葉を言おうとする。

「いや、怖いだろ……あんな魔物を一撃で殺すようなものなんて……」

 やっと口にした声は、何故か少しだけ震えていた。

 だがエクスはのんきな様子で、

「えぇ……なんで怖がるんですか?すごいとは思うけど別に怖くはないですけど……」

 その何気ない言葉は、まさにアルスの脳天を打ち抜いたかのようだった。

「は?……え、なんで……」

「なんでも何もすごいじゃん、あれ。いや……それともまさか、あんなもんじゃないくらいの魔法も使えるとかですか?」

 なにか期待した目をエクスは向けてくるが、アルスは言われたことを理解するので精一杯だ。それほどまでにエクスの言葉はアルスにとって衝撃だった。

 そして地面に水が染み込むように、言われたことをゆっくりと理解し始めたアルスは驚きの表情でエクスを見つめた。すると、

「ん?どうしたんですかアルスさん?さっきの髭蛙みたいな顔して」

「誰がヴォジャノーイだ!」

 エクスの失礼な発言にアルスは思わず反射的に突っ込んでしまう。

「……はあ」

 なんだか一気にバカらしくなったアルスは、無理矢理飲み込もうとしていた息を吐き出した。なんというか、さっきまでの葛藤を返せと言いたい。

「なんかさっきから変だけど本当にどうしたんですか?」

 見れば、エクスから訝しげな目を向けられていた。

「……別にぃ。なんでもないよ」

 手をヒラヒラと振って居心地の悪い視線を振り払う。どうにも一人で空回ってしまった感が否めないが気にしないでおくことにしよう。

 肩の力が抜けたアルスは被っていたフードをなんとなく脱いでみる。すると当然のことではあるが視界が少し明るくなった。日差しはむしろちょっと眩しいくらいだが、その暖かさはなかなかどうして悪くない。

 その様子を黙って眺めていたエクスはふむ、と一つ考え、

「まあアルスさんが変なのはいつものことか」

「ンだとこら」

 アルスが怒ったふりをして軽くエクスの足を蹴ろうとすると、ひょいっとあっさりよけられてしまった。そしてアルスの顔を見てにやりと笑うと、エクスはお返しとばかりにびしょ濡れの体を活かして水を飛ばしてきた。

「わぷっ!?ちょ、何すんだコラ!」

 アルスが顔に飛んできた水を拭いて抗議するもエクスは楽しそうに笑うばかりだ。そして調子に乗ったのか、さらに水を飛ばしてきた。

「だから止めろって!ボクまで濡れ鼠になるだろうが!」

「いやあ、俺ばっかりこんなずぶ濡れなのもなんか不公平じゃん。人は皆平等であるべきなんですよ、アルスさん」

「平等の意味学び直して来い!」

 アルスの文句もどこ吹く風でエクスはケラケラと笑いながら水を飛ばしてくる。アルスも負けじと水面を蹴って水を飛ばすが、あっさりと躱されてしまう。

 そうしてしばしの間、水かけ合戦をしていると不意に、

「まあ、何を悩んでたのか知らないけどさ。さっきのアルスさんはかっこよかったよ」

「え?」

 思わぬ一言にアルスが動きを止めた途端、

「ぷぁっ!?」

 顔に水が飛んできて、アルスはモロに食らってしまう。

「……ンのぉ!」

 顔を拭ってエクスの方を見れば、悪戯が成功した子供のようにニマニマと笑っている。してやったりといった感じのエクスにアルスは再び水面を蹴り上げてやる。

「そんなこと分かってんだよ!ボクは魔法使いなんだからな!」

 だがエクスは気軽な様子で軽く避け続ける。

「えー?本当ですかぁ?そのわりにはなんかさっきのアルスさん、変に思いつめてたみたいな感じでしたけど」

「そ、れは……あー、もう!うっさいなぁ……食らえっ!」

 まともにやっても身体能力の差で当てられないと判断したアルスは、フェイントをかけて何かを誤魔化すように水面を蹴り上げる。

「うわっ、ちょっ!?卑怯ですよそれ!普通にズル、それは!」

 避けようとしたもののギリギリ避けきれず思いっきり頭から水を被ってしまったエクスは抗議するが、今度はアルスの方がどこ吹く風で笑っている。やっと当てられたからかどことなくドヤ顔だ。

「ふふん。卑怯なんて言葉は敗者の戯言なんだよ」

「言ったな?じゃあこれも問題ないですよね……っと!」

 アルスの勝ち誇ったような言葉にエクスはびしょびしょの上着を脱いで勢いよく振り回し始める。

「なっ、ちょっ!?この野郎、いい加減にしろぉ!」

 慌ててアルスはエクスから離れようとするがエクスは逃がさんとばかりに追いかけてくる。足もエクスの方が早いためアルスは逃げ切れず、少しずつ濡れ鼠になっていく。

「おまっ、年下の女の子相手に恥ずかしくないのかコラァ!」

「何事にも常に全力で挑めって教わったんで」

「先人の教えを悪用すんな!」

 三分後。

「お前ぇ……この野郎……」

 結局エクスほどではないものの結構な濡れ鼠になってしまったアルスは、ハァハァと息を切らしながら恨みがましそうな目を向ける。

「いやー、濡れましたねえ」

 当のエクスは何がそんなに楽しいのか、ケラケラと笑うばかりだ。

「コイツ……はぁ、もういいや」

 なんだかとても疲れたアルスは諦めたように肩の力を抜いた。時には諦めも大事なのだ。

 とりあえず濡れた服をどうにかしようと裾を絞っていると、

「それにしてもアルスさんの魔法すごかったですね」

 同じように上着の裾を絞りながらエクスが話しかけてきた。

「そう?そこまででもないと思うけど」

 フードを脱いで絞りながら答える。思った程は水が染み込んでいないようだ。

「いや何言ってるんですか。マジでスゴいですよ、あれ」

 エクスは頭をブルブルと振って髪の毛から水気を飛ばしている。なんだか犬が水気を飛ばす姿にちょっとだけ似ている。

「それだったら魔法も使えないのに生身で魔物に立ち向かったエビセンパイの方がすごいと思うけど」

 絞り終えたフードを被り直しながらアルスが言うと、その言葉が意外だったのか、エクスは一瞬キョトンとした顔になる。

「いやいや、そんなことないですって。たしかに僕は偉大ですけど、さすがにアルスさんの魔法には微妙に負けますって」

 謙遜しながら威張るな。

 とはいえ、だ。正直なところこうやって褒められるのはアルスとしても悪い気はしない。

 なのでちょっとだけ調子に乗ってみることにする。

「ちなみにもっと魔力込めればもっと強いの撃てるよ」

「マジで!?あれよりすごいの!?え、すご!見せてくださいよそれ!」

 アルスの言葉にエクスは予想以上に食いついてきた。先程魔法を見た直後のようにワクワクしたような目を向けてくる。

 アルスはエクスの勢いにちょっと押されながら、

「いや、そんな敵もいないのに無闇矢鱈に使うもんでもないし」

 エクスの要望をあっさり却下する。それに自分から言っておいてなんだが、さっきよりも強力なものとなれば村の方にまでその音が聞こえる可能性がある。正直アルスとしてはあまり目立ちすぎるのは好ましくない。

「えー……まあしょうがないかあ」

 あっさりと引き下がるエクス。妙なところで素直である。

 エクスは残念そうな顔をしながらもなんだかキラキラした目を向けてくる。褒められるのは悪い気はしないが、さすがにむず痒いというか居心地が悪くなったアルスは半ば無意識に謙遜の言葉を口にする。

「そもそもさっきのもそんなにすごいかなあ」

「いやいや何言ってるんですか、充分すごいでしょ」

 何度目かになるやり取りを繰り返す。エクスとしては素直にすごいと思うのだが、当の本人としては何か納得がいかない部分があるのだろうかと首を傾げる。

 するとそこでエクスはアルスが妙に目を合わさないことに気がついた。心なしか耳が赤い気もする。

「……なるほど」

「なるほどって何が?」

 エクスの独り言に反応したアルスが微妙に目を逸らしたまま顔を向けてくる。

「ああ、いや。やっぱりアルスさんはかっこいいなあって」

「いや、だから別にそんなことないって」

「いやいや、ホントにすごいかっこよかったですよ。もう人生で一番感動したもん俺」

「か、感動って……」

 エクスの言葉にアルスは思わず視線を彷徨わせるが、結局何と答えるべきか見つからなかったらしく黙って顔を背けてしまった。さらに何かを隠すように被っていたフードをギューッと引っ張る。

 そんなアルスにエクスは追い打ちをかける。

「いやぁマジですごいなあ、雷をドガシャーンって撃つなんて!あんな魔法使えるなんて最強じゃん!そんなすごい魔法使いだったんなら言ってくださいよ、天才じゃんマジで!」

 なんか今度はサイキョーでテンサイな魔法使いが赤くなってプルプルし始めた。何か小さな声で「いや別に……」とか「そんなたいしたことない」などとモゴモゴ言うが、エクスには届かないようだ。

 エクスの感想を聞いているうちに耐えられなくなったのか、

「それよりも!とっとと帰るぞ!」

「え、でも魔石集め終わってなくないですか?」

 何故か若干ニヤついてたエクスがきょとんとした顔になり聞いてくる。

「あー……魔物は倒したとはいえ念の為っていうか、多分大丈夫だとは思うけど一応ね」

「え?またなんか出たらさっきのぶちかませばいいじゃん」

 なんとも能天気な事を言うエクス。普通は倒したとはいえ、魔物が出たなら少しは警戒するものだろうに。それともさっきの魔法のおかげで目の前の魔法使いが余程頼もしく見えているのだろうか。

 アルスは一応川の方を気にしながら、

「ボクの魔法だってさぁ、別に無限に使えるわけじゃないよ。せいぜい五発ぐらいが限界なんだからな」

「え、ショボッ。たったそれだけなんですか?」

 もう一回分消費してやろうか。

 さっきまでの興奮は何処へやらといった感じの失礼なエクスに、アルスはイラッとくる。

 しかしひと呼吸置くと少し冷静になった。

(でもまあ一般人から見たらそんなもんかもなぁ)

 なにせ魔法について何も知らないのだ。五回は少ないと感じても仕方ないかもしれない。

 とりあえずこの場から離れながら説明してやるか、とアルスが考えていると、

「いやでもまあ、あんだけヤバイの五発も撃てるんだったら十分すごいか」

 なんだか一人で納得していた。意外と思考が柔軟なようだ。

「分かってくれたならいいけどさぁ」

 毒気が抜かれた感じがして、アルスは軽く溜息を吐いた。そこでもう一つ言いたいことがあったのを思い出し、

「そういやセンパイ、よく魔物相手にあんな騙し討ちできたね」

「なかなかの演技力だったでしょう」

 フフン、とエクスは威張ってみせる。だがアルスは少し視線を厳しくする。

「じゃなくてさぁ、上手くいったからいいものの、イチかバチか過ぎるだろぉ。そもそもそういうのに引っかかるだけの知能があるかどうかすら分からないのに」

「いえ知能に関しては確信までいかないけど、ある程度の予想はつきましたよ」

「は?なんでだよ?」

「だってアルスさん、ヤツは人間を溺れさせて奴隷にするって言ったじゃないですか。殺すならともかく奴隷にするってことはある程度の知能がなきゃできないでしょ」

 なるほど、とアルスは思わずエクスの顔をまじまじと見た。あの僅かな時間でパニックにならず、そこまで冷静に頭を巡らせていたのか。こいつは思っていたよりずっと頭は切れるのかもしれない。

「どうしました?人の顔じっと見つめて。ようやく俺の偉大さが分かったんですか?」

 やっぱり気のせいかもしれない。

 せっかく見直したのに台無しにされたアルスは、

「ほら、もう帰るよ。魔石は足りなきゃ足りないでなんとかするし、気にしなくていいからさ」

 なんかもう慣れたと言わんばかりに話を元に戻す。しかしエクスは何やら川の方を気にしつつ、

「あ、ちょっとだけ待っててください」

 そのまま小走りで川に入っていこうとする。

「センパイ?だから魔石はもういいって……」

 さっきあんなことがあったばかりの川に入ろうとするエクスを止めようとしたアルスだったが、そこでエクスが目指しているものに気付く。

 アルスの雷魔法は意外に賢かった蛙以外にも、感電という形で川の生き物に被害を出していた。魔物を一撃で倒すほどの雷だったため大抵の生き物は黒焦げになってしまっているが、離れるにつれて魔力が減衰したのか、ざっと見た感じでは距離の離れた場所はその限りではなかった。

 エクスが目指しているものはそんな被害が比較的軽かった川の生き物。

 水面にプカプカ浮いている魚。

 つーか焼き魚。

「だから食べ物から離れろよ!」

 アルスのツッコミは食欲に支配された恐れ知らずには届かなかった。

 

 

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