仮面ライダー銀姫 レジデュー・オブ・メモリー   作:春風れっさー

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後日談-9 新たなる疾風

「お、おか、おかかか……」

 

 雪希は口をパクパクとさせながらクムとユアを交互に指差した。目の前のことが信じられないのだ。

 方や十歳になっているか怪しい幼女。方や十代中頃の少女。

 だというのに、少女は幼女のことを母と呼んだ。

 普通逆。いや、逆でもありえない。

 

「お母さま、お母さま、お母さま~!」

「やめ、苦し……」

 

 雪希がおったまげている一方で、ユアは感極まったようにグリグリと手の中の幼女へと頭を擦り付けていた。

 ぎゅーっと抱きしめられたクムはぺしぺしとユアの腕をタップして藻掻いている。心なしか顔色も青く、酸素が足りていない。しかし抱擁に夢中になっているユアは気付かない。

 このままだと絞め殺されてしまう。ハッと我に返った雪希は慌てて少女の肩を叩いた。

 

「す、ストップ、ユア……ちゃん? そのままだと死んじゃうから」

「え、あ、ご、ごめんお母さま!」

「ぷへぁ……」

 

 自分の力加減に気付いたユアは、パッとクムを手放した。解放されて、クムはへなへなと崩れ落ちる。

 その姿を見て、ユアは首を傾げた。

 

「……あれ? お母さま、なんか小っちゃくなっちゃった?」

「今気付いたの……」

「……やっぱり、小さくなってたんだ……」

 

 キョトンとクムの姿を見るユアは、何か違和感を覚えているようだった。そのことに雪希は安堵する。やはり感じていたとおり、クムは何らかの要因で小さくなってしまっていた大人らしい。何故かは分からないが、クムが見た目通りの幼女であると言われるより余程信憑性が増す。特にお母さま発言には。

 

「それでえーと、クム、この子は?」

「……この子はユアアンサー。まぁ……わたちの血縁」

「ユアアンサーでーす! ユアって呼んでね!」

 

 ユアはポーズを取ってキャピキャピと名乗る。その溌剌さは何というか、どこかアンニュイなクムとは大違いだ。

 クムはユアへと向き直る。

 

「それで、なんでここに?」

「え、それはお母さまの反応を確認したからだよ! 通りがかったらビビビ~って来て、あ、お母さまだ! ってなったの。すぐどこかに行っちゃうお母さまに会えるチャンスを逃すワケにはいかないのは、あたしたち子どもの共通認識だもん」

「どうやって。ここに入るの、わたちはすっごい苦労したのに」

「それは、アレで……」

 

 ユアはスッと上を指差した。そこには変わらず謎の宇宙戦艦が滞空している。

 

「異世界間航行クルーザー、ユアアンサー。アレの処理能力があれば、あたしと後一人を送り込むくらいはハッキングでできるんだよ! すごいでしょ!」

「アレ、クルーザーなのか……」

 

 雪希は頬をヒクつかせた。明らかにそんな大きさではない。いや海を行く物と異世界を渡る物を比べてはいけないということなのだろうが。

 しかしクムは、そことは別のところに引っかかったようだ。

 

「ユアアンサー? あなた、自分の名前を船に付けたの?」

「あ、それは、えーっと……」

「……まさか」

 

 クムは小さな手でぺちっとユアの両頬を挟み込んだ。

 

「へぷっ」

「……やったの(・・・・)?」

「いや、それはぁ……不可抗力っていうかぁ……」

「旅させたのはわたちだけど、危険に首を突っこまないようにってあんなに言ったのに!?」

 

 鋭い眼差しでクムは睨み付け、ユアはシュンとする。

 

「だ、だってぇ」

「だっても何もない! あなたは昔っから軽率に首を突っこんじゃうんだから、十分注意するようにちゃんと言ったよね!? わたちとレムが口を酸っぱくして何度も何度も!」

「うぅ……ごめんなさぁい……」

「すごい……クムがちゃんと母親してる……」

 

 何を叱っているのか分からないが、繰り広げられているのは間違いなく母と娘のやり取りだ。

 幼女に叱られる十代の少女という、事情を朧気ながら理解していても脳が混乱する光景を見て雪希は呟く。一緒に旅をしてクムという少女をそれなりに知っていたつもりであったが、ここに来てまったく新しい一面が出てきたことにそんな感想を抱く。

 だがいずれにせよ、どの反応も場違いであった。

 少なくとも一人置いてけぼりにされたアサルトダムドにとっては。

 

『……何をイチャイチャとしているのかしら?』

『ボクを無視しているのかな?』

「「あ」」

 

 ワナワナと黒鉄の巨体が肩を震わせているのを見て、雪希とクムは思い出す。

 そういえば、今はわりと絶望的な状況だった。

 

『良い度胸ね。私をコケにして楽しむ暇があるとは』

『身内と再会できたようなら、冥土の土産としては十分だよね?』

『ついでに』

『道連れにしてあげるよ』

 

 腰に提がった機関銃の銃口を向け、三人に狙いを定める。

 それから逃れる術を、今の雪希は持たない。

 

「っ、二人とも!」

 

 せめて二人を庇う盾に。

 雪希はそう決断して咄嗟に二人を抱いて背を向けた。

 

 その瞬間に銃声が鳴り響く。

 自らを貫く痛みと衝撃を覚悟し、ギュッと目を瞑る雪希。

 

 しかし――それは数瞬待ってもまったく訪れなかった。

 

「……え?」

 

 顔を上げ、振り向く。

 そこにいたのは怯んだように身を崩すアサルトダムドの姿。

 

『な、何!?』

『何者!?』

 

 鳴り響いた銃声はアサルトダムドの機関銃のものではなかった。

 機械的な面立ちでも分かる程狼狽した、その視線の先を雪希は辿る。

 そこにいたのは銃口から煙を上げる特徴的な拳銃を握った、一人の男だった。

 

 フライトジャケットを着た、長身の男。

 顔立ちは少し歳を経ていて、三十代だろうか。髪型は額を空けるように撫で付けた黒のオールバック。どこか眠たげな眼差しをして、顎には無精髭を生やしている。

 首元にゴーグルを賭けた男の身長は雪希よりも僅かに高い180㎝ほど。筋骨隆々というワケではないが、運動を欠かしていない引き締まった体つきをしていた。

 

 男は拳銃を――殴るためのスパイクがついた、雪希の見たことがない形状――をアサルトダムドに向けたまま、呆れた表情で口を開いた。

 

「やれやれ。置いてくんじゃねぇよ、じゃじゃ馬娘」

「――碇輔(ていすけ)!」

 

 パッと顔を明るくするユア。一方で碇輔と呼ばれた男は溜息を吐く。

 

「船から飛び出していったと思ったら、これだ。護衛を置いてってどうするってんだ」

「うっ……だってお母さまに会いたくて我慢できなかったんだもん」

「へぇ、無事に会えたのかよ……って」

 

 碇輔はユアの隣にいるクムを見て、そして二度見した。

 

「おか……おか、お母さま?」

「うん! お母さま!」

「えぇ……いや、えぇ……?」

「あ、やっぱりそうなるよね」

 

 動転する碇輔を見て、雪希はホッと胸を撫で下ろす。それが常識的な反応だ。

 碇輔は天を仰いで額を抑えた。

 

「なんてこった、子どもじゃねぇかよ。ユアの母親だっていうからてっきり妙齢の美人かと期待してたのに、ショックだぜ……」

「え」

 

 クムがポッと顔を赤らめる。一方で、ユアの視線は絶対零度まで下がる。

 

「……ねぇ、それってあたしのお母さまを狙ってたってこと? 相棒の母親を?」

「おおっと……」

「ふーん……サイテー」

 

 ジト目で見つめてくるユアから、碇輔はバツが悪そうに目を逸らす。どうやら碇輔の軟派な態度はいつものことらしい。

 そのやり取りを見ていた雪希は首を傾げる。

 

(……それってユアの方も美人だって言ってることにならない?)

 

 しかし二人は気付いていない様子だった。碇輔はひたすらユアの冷たい目線から目を背け続ける。

 

「大体、来るのが遅いんだよ! 何してたのさ、もしかしてまたお酒飲んでたの!?」

「いや流石にそれはしねぇよ。お前は俺をなんだと思ってるんだよ」

「酒飲み操舵士ロクデナシ」

「韻を踏んで罵倒すんじゃねぇ」

 

 また弛緩したやり取りに、アサルトダムドは怒りに唸る。

 

『何なんなのよ、お前たち……!』

『よくも、よくも邪魔をしてくれたな……!』

「……はぁ。邪魔? それはどっちのセリフだ」

 

 カチャリと銃口を持ち上げ、碇輔は吐き捨てるように言う。

 

「せっかくの親子の再会だぞ。邪魔をするような無粋な輩なんざ、きょうび三流映画でだってお呼びじゃないぜ」

『何……!?』

「……失せろってことだよ。言わせんな、ドサンピン」

 

 心底から溜息を吐く碇輔。

 邪魔者――自分を心の底からそう見ているということが伝わり、アサルトダムドは湧き上がる憤怒に震えた。

 

『貴様……! タダでは死なせてあげないわよ!』

『グチャグチャにして、挽きつぶすまで痛めつけてやる!!』

 

 碇輔に向かって、吹き付けるような殺気をぶつけるアサルトダムド。しかしそれを何処吹く風と受け流しながら、飄々とした男は肩を竦める。

 

「ま、邪魔者は俺も同じか。……なら丁度良い。遊んでやるよ、ブリキの玩具さん」

 

 そう嘯いて碇輔は、銃――リベイクガンナーをしまってその代わりに何かを取り出す。

 銀色をしたそれは、X字状のラインが走った板状の機械だった。両端には筒状の機構が、その更に外側にはレバーのような物が取り付けられている。

 

《クロスロォドライバー!》

 

 機械は腹部に当てられた瞬間アナウンスを鳴り響かせ――両端から飛び出したベルトが腰に巻き付く。

 

「ベルト……? まさか!」

 

 それを見ていた雪希には、心当たりがあった。

 まさに、さっきまで自分がなっていた者。そして経った今、なれなくなった者。

 アサルトダムドも驚いたように身体を硬直させる。

 

『貴様、それは!』

「応。――世間の邪魔者さんを、邪魔するモンだ」

 

 ベルトの左腰についたホルダーから、碇輔は二つの物を取り出した。

 両に手にしたそれを例えるなら、まるで単三電池。

 それをバックルとなった機械の、両側の筒状の機構へと装填するように叩き込む。

 

《サイクロン号!》

《オートバジン!》

 

 装填された瞬間、筒状の機構の表面、クリアパーツが光る。どちらも赤い色。

 そしてバックルから投射されるように、碇輔の隣にバイクが出現する。そのバイクは別のモデルを組み合わせたかのように半ばで違うデザインをしていた。前身が白に赤いラインが走ったカウル。後半が銀色の赤いラインが走ったモデル。

 前衛的なデザインとなったバイクを隣に、碇輔は両側のレバーを一気に引く。

 そして叫ぶように口にした。

 

「変身!」

《クロスロォードッ!!》

 

 勢いよいアナウンスと共に、筒の光がバックル中央のXへと流れ込む。

 それと同時に、碇輔の身体が光に包まれる。

 

 光は瞬時に収まり、碇輔の姿は大きく変わっていた。

 黒いアンダースーツ。胸部には最低限の薄いアーマー。そして、仮面。

 両耳から生えるアンテナと目元を覆うバイザー、その奥に鋭く光る双眸というマスクを被った近未来的な姿へと変貌した。

 だが変化はそれだけに留まらない。

 

「バイクが!?」

 

 雪希の驚愕の通り、隣にあったバイクが分解される。そして変化した碇輔の身体へと装着されていく。

 四つのライトがついたフロントカウルは胸に。サイドは両肩。更にその上に二つの車輪が。

 銀色の後半部は二つに分かれて両脚に。ハンドルを始めとする機械の一部は両腕に合体し、手甲とマニピュレーターとなる。

 

 全てをパーツが合わさり、バイザーの奥から閃光が走る。

 

《疾風の鉄輪! サイクロンバジン!》

《ヒアウィーゴォーッ!》

 

 そこに立っていたのは、機械と融合した戦士だった。

 

『ば、バイクと合体した……!?』

 

 合体した分より長身となった戦士は、アサルトダムドへと変わらない目線で双眸を光らせた。

 

「ああ。これが――仮面ライダー、アサイドだ」

 

 変身を終えた碇輔――仮面ライダーアサイド・サイクロンバジンフォームはアサルトダムドと対峙する。

 バイクと融合した分高くなった身長は、アサルトダムドに負けていない。真正面から睨み合い、構える。

 

「来いよ、三流役者」

『……しゃらくさいわ!』

 

 先に仕掛けたのは今まで絶対強者としてこの世界に君臨してきたプライドか。腰の銃口を上げ、砲火を噴く。

 激しいマズルフラッシュと共に打ち出される弾丸。それをアサイドは、両腕をクロスさせてガードする。

 弾ける金属音。まるで楽器を滅茶苦茶に打ち鳴らしてるかのような音を響かせ、アサイドは嵐のような弾幕に襲われる。

 

『アッハハハハハハハハ!!』

 

 嗤いながら銃弾を放ち続けるアサルトダムド。今までもこうやって幾人ものライダーを一方的に蹂躙してきたのだろうか。

 アサイドもまた、その一人……とは、ならなかった。

 

『ハハハ……ア?』

 

 銃火を浴びながらアサイドが動く。両肩の二輪が稼働し、その側面を、まるで盾を構えるように前に向けた。

 銃弾を防ぎながら、回り始めるタイヤ。

 そして側面に空いた穴より、ガトリング砲のように銃弾を吐き出し始めた。

 

「ダブルバスターホイール!」

『なぁッ!?』

 

 まさかの反撃に驚愕したアサルトダムドは、その連射を真正面から受けることになってしまう。重装甲の表面を小気味よいリズムが穿っていく。

 撃たれる者と撃つ者。一瞬にして両者は逆転した。

 

『グ、アァッ!』

『おのれぇ……!』

「自分が嫌なことは人にやっちゃいけないんだぜ? 勉強になったかよ」

 

 ホイールの回転を止めて元の位置に戻したアサイドは、今度は両手を天に掲げる。

 

「ユア!」

「うん!」

 

 掛け声に答えるようにユアが指を前に差す。タクトのように振るわれたそれに呼応して、一羽の鳥がどこからか飛んできた。

 その鳥は機械仕掛けであった。銀色のボディ。両翼は赤と青にそれぞれ塗られ、胴部には充電池の充電器めいたソケットが空いている。

 

「ユアタカ、転送!」

 

 ユアタカと呼ばれた鳥型機械は、アサイドの上に滞空する。そして向けた腹から、アサイドの手目掛けて光を投影した。

 

『リライジングブレード!』

 

 光によって転送されてアサイドの手に握られたのは、刃までも真紅に彩られた剣だった。柄の部分はエンジンのような意匠になっている。

 大剣と呼べるようなサイズのそれも、アサイドの大きなマニピュレーターは片手で握り込む。

 

「ぜぇやぁ!!」

 

 アサルトダムド目掛け脚部からジェットを噴き出したアサイドは、リライジングブレードを片手に一気に肉迫する。

 奔る紅刃が、アサルトダムドへと振り下ろされる。

 が、それは硬質な音を立てて弾かれた。

 

「おっと!」

『馬鹿が……私の装甲を甘く見すぎだ!』

『調子に乗るなよ、ガラクタがァ!』

 

 黒鉄の装甲は歪んで罅割れていても、並大抵の攻撃は弾く堅牢さを誇っていた。

 反撃に破損したドリルを振りかざし、回す。ねじ曲がっていても回転力は衰えを見せない。

 

「なるほど、易い相手ではないらしい。だが……」

 

 流石にあれを受ければアサイドの装甲でもタダでは済まないと見て、一歩後退る。

 アサルトダムドは、容赦無く突き込みに行く。

 

『死ねェ!』

「……我武者羅に走ってちゃ、事故の元だぜ?」

 

 その瞬間、アサルトダムドの視界が白く染まった。

 

『ギャ!?』

『目がァ!?』

 

 アサイドの胸部装甲。その四つのライトが一気に点灯したのだ。強烈な光に晒され、アサルトダムドはアサイドを見失う。

 

「アップライトはマナーが良くないか? なら悪びれも籠めて、別のライト(・・・)だ」

 

 目潰しを受けてアサルトダムドが混乱している隙に、アサイドはまたホルダーから一本の電池を取り出し、ベルトの前、X字のラインへと翳した。

 

《シーライト・アクネス!》

《クロスリィード!》

 

 ベルトのラインが神秘的な青緑色に輝き、光が形を形成する。現れたのは、

 

「……シャチ?」

 

 まるで模型のようなシャチだった。ただし大きさは実物に比べて小さい。

 シャチはアサイドの隣で踊るように跳ねると、その身を上下で真っ二つに割り、アサイドへと装着された。

 黒と白。二つの色を持つ手甲へと。

 

 元々装着されていたマニピュレーターを消し、その上へと黒白の手甲は合体した。

 

「力を借りるぜ、アクネス!」

 

 アサイドは手甲を構え、ライトに怯んでいるアサルトダムドへと踊りかかる。

 

潮流爪牙拳(ちょうりゅうそうがけん)──」

「……え!?」

「──虎咬(とらがみ)!!」

 

 右と左。両の腕で挟み込むように。

 それはさながら手甲のシャチが元の姿に戻ったかのようだった。

 牙で噛み付くようにアサルトダムドの片腕を挟み込む。喰らいついた瞬間、手甲には青緑色の光が走る。それが後押しとなったかのようにアサイドは──そのまま力任せに腕を捥ぎ取った。

 

『ギ……ギャアアアアァァァ!!』

「よぉし! まずは一本!」

 

 ドリルのついた腕を捥がれ、悲鳴を上げるアサルトダムド。だがそれよりも、雪希はアサイドの放った技の方が気になった。

 

「そ、それ、爪牙拳!?」

「あん? 知ってるのか? 知り合いの技をクロスリードを利用して真似しただけなんだが」

「私、分流爪牙拳……」

「へぇ、別世界なのにそんなことがあんのか。面白ぇな」

 

 ヒュウと口笛を吹き、アサイドは手甲を解除する。

 

「とにかく、一番被害がデカそうなドリルは破壊した。なら乗り換えだ」

 

 アサイドは更に二つの電池を取り出し、今度はスロットへ装填した。

 

《パワーダイザー!》

《リボルギャリー!》

 

 今度は両側の筒に黄色とオレンジの光が灯る。

 それと同時に、今度は工業機械めいた重厚な機体が隣へ投影される。

 

「ピットイン!」

《クロスロォードッ!!》

 

 レバーを引き、光がXの中に流れ込む。

 アサイドが今まで纏っていたサイクロンバジンの鎧は解体され、代わりに重機が合体していく。

 分厚い胸部装甲は胴から両腕をすっぽり覆い、脚部にはバギータイヤが四つ連なった。

 埋まった両腕を補うように、指がタイヤになっている巨大なアームが両側に装着される。そして背部に、リボルバーのような回転機構が取り付けられた。

 

 そこにいたのは上半身を黄色、下半身を黒に塗装された、先程よりも巨大な戦士。

 

《剛力の鉄腕! ダイザーギャリー!》

《ヒアウィーゴォーッ!》

 

 アサイド・ダイザーギャリーフォーム。

 先程よりも威圧的な巨躯となったアサイドは、その太く巨大な機械腕でアサルトダムドを抑え込む。

 

『グッ……!?』

『パワー負けする!? 私が!?』

 

 肩を掴まれたアサルトダムドは振り解こうとする。だがアサルトダムドの出力はダイザーギャリーの凄まじいパワーに押し込まれ、拮抗が精一杯だ。

 ギリギリと押し合いが始まり、両者の動きが停止する。

 

「よし、今のうちだ!」

「え?」

「行くんだろ、先に」

 

 抑え込みながらアサイドは雪希たちへ声をかけた。

 

「事情はよく知らんが、アンタらは上を目指したいんだろ」

「そう、だけど。でも!」

「なら行きな。そのくらいの時間はここで稼いでやる」

 

 雪希は何か言いたげに口を開き、しかし今の己が無力なことに気付いて口を噤む。

 隣でユアが肩を叩く。

 

「うん。ここはあたしたちに任せて」

「ユア……」

「平気だよ、お母さま。アイツ、結構強いんだから!」

 

 心配げなクムの目線に、力こぶを作りながら笑うユア。

 

「折角会えたのに、もうお別れなのはちょっと寂しいけど……でも大丈夫。あたしはあたしで、やってけるから!」

 

 そう言ってユアは心からの笑みとVサインを掲げる。

 その姿にクムも安心したように微笑み、頷く。

 

「うん。分かった。じゃあわたち、行くよ。……雪希」

「え、ああ……」

 

 先行きを促された雪希だが、踏み出しかけたふとその足は止まる。

 クムを行きたい場所へ連れて行く。それが今の自分の存在意義だ。恩を受けた彼女のために命を張ることに、躊躇いはない。

 しかし今の自分が共に行って、役立つのか?

 再びライダーに変身できなくなった自分に、何の意味がある?

 そんな疑問が、雪希の足を鈍らせた。

 

「お嬢ちゃん!」

「!!」

 

 その背中に、声がかかる。

 アサルトダムドを抑えこむ、アサイドからもたらされた声だった。

 

「悩むのもわかる。いや詳しくはしらねぇが、止まっちまうなんかがアンタにはあるんだろ。だけどな、時には悩んだって仕方ねぇこともあるぜ」

「でも……」

走れよ(・・・)真っ直ぐに(・・・・・)!」

 

 アサイドは大声で、背中を蹴飛ばすように言った。

 

「何も考えず、突っ走るのはそう悪いことじゃねぇぜ。そしてそのための道筋は……」

『ぬ、ううぅぅうぅぅ!?』

『グギギギギギギ……!!』

 

 拮抗していたハズのアサルトダムド。しかしその巨体は、アサイドのアームによって浮き上がる。

 そして鉄の身体を、アサイドは餅をつくように地面に叩きつけた。

 

「俺が切り拓く!!」

『『ぎゃアッ!!』』

 

 情けない悲鳴を上げて硬い床に身を沈ませるアサルトダムド。アサイドはグッと機械の指でサムズアップと作り、雪希へ手向けた。

 

「それが脇役冥利ってもんだ」

「碇輔さん……はいっ!!」

 

 迷いは晴れた。

 そうだ。何もできなくても、自分は彼女を送り届けるだけだ。

 雪希は覚悟を決め、クムと共に階段を駆け上がる。

 

 その背中を見送り、呟くようにユアは口にする。

 

「……頑張って、お母さま」

「俺に任せてお前は一緒に行ってよかったんだぜ?」

「バカ言わないで。これでも相棒なんだよ? 置いてくワケないじゃん!」

 

 アサイドの言葉に抗議するようにユアはバシバシと装甲を叩く。

 

「あうっ! ……痛い」

「当たり前だろ」

「うぅ……痛いのなんて久しぶりだから、忘れてた」

「……そうか、お前……」

『ぬぅぅぅぅあああぁぁぁぁ!!』

 

 アサイドが何か言おうとした瞬間、地に伏せていたアサルトダムドが復活した。

 海老反りながら立ち上がった片腕の機械怪物は、アサイド目掛けて吹き付けるような憤怒を向ける。

 

『許さない、許さない、もう許さないぃぃ!!』

「……やれやれ、元気なことだ」

 

 そのタフさに呆れ返りながら、アサイドは油断なく両アームを構える。

 

「ま、付き合ってやるよ。俺の相棒にとっても、なかなか得難い瞬間らしいからな」

 

 再びアサイドとアサルトダムドの押し合いが始まる。

 アサイドは戦いながら、山頂へと思いを馳せた。

 

「お嬢ちゃんたち、最後まで走りきれよ。……何が待ち受けていても」

 

 それは未来を暗示し、それでも応援する言葉だった。

 

 

 

 

 

 階段を登り切った果てにあったのは、殺風景な景色だった。

 山頂には崩れかけた神殿のようなものがあり、空には無重力空間のように瓦礫が浮かんでいる。生き物の気配は欠片もなく、吹き荒ぶ風の音だけがただただ虚しく鳴り響いていた。

 

 その中央に、やはり崩れかけた台座に座って、彼女(・・)はいた。

 

「「……ああ、やっぱりそうだったんだ」」

 

 声が重なった。

 そのうちの一つはクムの発したもの。そしてもう一つは、彼女の発したもの。

 どちらもお互いの姿を認めたからの言葉。

 

 赤い髪。スレンダーな身体。パンキッシュな服装。

 そして氷のように冷たく、されど奥には煌々と秘めたる炎が燃える瞳。

 

 懐かしげに、クムは言った。

 

「変わってないね」

「そっちは随分変わった。最初は分からなかったよ。でも侵入者の報告を聞いた時、もしかしたら……って期待したけれど」

「わたちは……当たってるって、思いたくなかったけど」

 

 クムは一歩一歩、中心に向かって進んでいく。確信的な歩みを、雪希は止められない。

 

「外れてて欲しいって何度思ったことか。復活したノーアンサーが企んでいる可能性はまだあった。あるいはわたちがまったく知らない敵の可能性だって。でも執行者たちを見るたびに、貴女の顔が強く過った」

 

 まだ随分と離れた、しかし顔のよく見える位置にクムは立つ。それはそのまま、今の二人の心の距離のようだった。

 

「でも、信じたくなかった。こんな世界を作るのが、貴女なんて」

 

 赤髪の少女は、クムの目を見て、応える。

 

「アタシは、会いたかったよ。──“朔月(はじめ)”」

「わたちは、会いたくなかったよ。──“(そう)”」

 

 二人の少女。朔月と爽は見つめ合う。

 その再会は、両者が願っていた以上に冷たい響きを纏っていた。

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