真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -ロストキリギリス-   作:名無しの骸骨

36 / 65
混沌の奇禍:三大化骸 終戦

 ヤクザを国軍にするという常軌を逸した発表から始まり、国会議事堂における暴動や其処から広がった全国規模の一斉蜂起暴動、通称<混沌の奇禍>は一日半という短い抗争を繰り広げた後に最悪の傷跡を残していった。

 

 戦後最悪の内戦とも言われるこの抗争では全国に数万の死傷者を出し、行方不明者は十数万に。軽傷・重傷者はその数十、数百倍にまで昇っており、区域によってはその被害内容もより酷い物になっている。

 

 丸の内においては行方不明者並びに死亡者が特に多い。民間人を狙って攻撃したというのも大きく、何より避難できなかった民間人が多数其処に居てしまった為である。場合に寄っては本社ごと潰れてしまった所もあるが故に産業の発展ならびに維持に大幅なストップがかかってしまったのは日の目を見るより明らかだった。

 

 北の丸公園では高濃度のスピリアならびに呪詛による汚染が深刻だった。何重にも敷かれた結界よって被害は最小限に食い止められているものの龍脈そのものを穢されてしまっている以上、暫くの間は定期的な浄化活動が必須となった。公園に祓いの為の慰霊碑が設置されるまでそれは続くだろう。

 

 霞ヶ関駅前の千代田では特にインフラの破壊が甚大である。物理的な破壊力で言うのであれば他の悪魔を抜きんで出ている羅刹が全てを通り抜けられないようにその場にあった建物の多くを破壊し尽くして、瓦礫で埋め尽くした為だ。戦いや捕食による人的被害も少なからず出ており、復興にはかなりの時間を要する事となる。

 

 そんな現状でも戦いは確かに終わった。外道と悪魔、秘神達は天下を取ることはなく撃滅されて、今ある秩序は崩れかけながらも守られた。

 

「はぁ、それで終わってくれないのが困るよね本当に。霞ヶ関駅、その地下でもとんでもない事起こってたって言うし、学園の方じゃ魔人が来てほぼ崩壊状態って言うしさ」

 

 丸の内ビル街、その跡地とも呼べる場所を屋上より眺めながらフェイが言葉を零した。

 抗争から数日後の現在でも当然のように自衛隊による救助活動は続いている。今回の事件はヤクザ共が起こした人災と言えど、此処まで規模が膨らめば未曾有の大災害に至ってしまう。

 

 東京中のDB達もまた復興と救助に手を貸しはいるもののこの乱痴気騒ぎで残された傷跡はあまりに大きく、フェイもまた丸の内から離れられない現状にあった。

 

「魔界の門はもう大丈夫だろうけど、GPも安定化させなきゃならない。もう1日でヤタガラスの人達も来るだろうし、頑張るしかないか」

 

 ダイテングのカルトマジックにて開かれた魔界の門は事件発生から二日後には閉じられたものの、魔界と接近した事と徳川曼荼羅がまだ安定化していない事によるGPの不安定化と悪魔の発生。規模としては大した事はないものの見過ごせる物ではない故にフェイは今に至るまで結界を張り続けていた。

 

「……フェイ、本当に大丈夫か?数日間、一睡も出来てないだろ」

「MPは自動回復有るし(妖精の祝福)、問題ないよ。眠気はあるけど、まぁ徹夜なんて必要ならよくやるし」

 

 そんなフェイをエリヤは心配そうに見つめていた。

 真澄はフェイと同様に北の丸公園にてヤタガラスと共に浄化作業中で手が離せない。故に霞ヶ関駅での戦いが終わって、手が空いたエリヤと由奈の二人は丸の内にてフェイと合流。その護衛を交代で行っていた。

 

「それにこの場所はあまりに傷つき過ぎた。悪魔の姿を見ただけで発狂してしまう人達だって避難所にはいる。龍脈や曼荼羅の安定化やこの傷を長引かせない為にも今ここで踏ん張る必要があるのさ」

 

 裏の世界にしか本来現れてはいけない邪悪なる悪魔達によってこの街は破壊され尽くした。東京駅の赤レンガは人々の血によって紅く塗りつぶされ、緑溢れる街路樹は根元から千切られては打ち捨てられている。ビルは壊され幾つか倒壊し、それらの被害は唯の災害というには酷く恐怖に彩られている。

 

 それはその場に居る人々にとって今ある常識が全て壊されたに等しかった。同僚が悪魔に嬲られ、家族が喰われ、第二の家とも言える自身の勤め先が音を立てて崩れていく。刻まれた傷はあまりに深く、一度壊されてしまった日常は決して元には戻らない。

 

 被害にあった人々の心を癒す暇や余裕も果たしてどれ程あるのかと考えなければならない程に今回の戦いは丸の内以外のあらゆる場所においても痛みを残していた。

 

 それが例え既に世界中で起こっていた事で日本で起きている事はまだマシだったとしても。五体不満足でも苦しみの中で死ななかっただけ恵まれていたとしても、其処だけは変わらなかった。

 

「僕達は後数日間、此処で引き続き待機と救助を続ける。でもその後も休んでは居られない。色々と嫌な予感もするからその準備もしないといけないだろうし、何よりウリックとアンナの件もある」

 

 フェイとウリックの間で結ばれた殺し合いの約束。口約束で何ら縛りや強制力がある訳でもないそれは自分達の運命をエリヤ達の選択に委ねるのと同義であり、アンナのリミット(寿命)を考えるのであればその答えは今直ぐにでも出さなければならない。

 

「由奈は意見を僕達に委ねた。真澄は反対していたけど、最終的にはエリヤと僕に任せると言ってくれた。僕は賛成寄りだけど、最終判断はやっぱり君がするべきだ。どんな答えでも僕達は受け入れる」

 

 フェイの蒼く宝石のような瞳がその答えを求めるようにエリヤに向いた。彼女の抱くごちゃ混ぜになった心を労わりながらも、しっかりとした何かを提示できるように。焦らず淡々と言葉を紡いで、エリヤもまた剥き出しの心情を吐き出すようにして口を開いた。

 

「……戦えばどっちかが全滅する。俺だけの命じゃもう贖えないんだよな」

「だからってヨコハマで自分が死んでいればこんな事にならなかった、なんて言わないでよね。あの場の全員が最善を目指して戦ったんだ。事実として君が居なければヨコハマの一件は解決できなかった可能性も高くて何より僕達全員、君を犠牲に捧げる気は毛頭なかった。ウリック達も全力で戦ってその結果が今に続いている。もう過去には戻れないんだ、皆」

 

 誰しも悪意があった訳ではない。フェイも由奈もエリヤに生きてほしかったからこそ彼女を見捨てなかったし、ウリックもアンナも命を欲したからこそ戦った。本来愛し合っていた家族が殺し合ったのも元を辿ればメシアとガイア再生機構に原因があり、彼らには互いに殺し合わなければならない程の罪がある訳でもなかった。

 

「アンナもウリックも、俺も、嫌で嫌で仕方ないのに……生きたいから戦わなければならないのか」

 

 この世界では生きるという行為そのものに罪はなく、それを成す過程で発生した業だけが当事者達の背に積み上げられていく。それが永ければ永い程に、取り返しのつかない物を失って生きたい理由が掠れていく。

 

「生きたいと願うのは僕達が大なり小なり未来に希望を抱いているからさ。昨日や今日より、明日はきっといい日になるだろうという願望が其処には込められてて、それとおんなじ位死にたいだとか消えたいだとか思う時もある」

 

 死の苦痛を逃れる為に生を欲するのか、生の苦痛を逃れる為に死を欲するのか。生存欲求と破滅欲求は矛盾しながら両立して、それは全ての人々の魂に刻まれている。良い日であればこんな日が続けばいいなと生を望み、悪い日であれば全ての終わりを望んで死を望む。その過程を繰り返して、人々は生きて死んでいく。

 

「ウリックは生も死、どっちも望んでいた。俺も同じかもしれない。アンナを生かす為に、生きる苦しみを終わらせる為に死を望んでいる。それと同じ位にこの世界でお前達と共に生きて、明日が欲しいと思っている」

「なら僕はやっぱり君との明日を望むよ。やっぱり居なくなるのは寂しいし、弱っちい僕じゃ君が居ない明日に耐え切れそうもない」

「由奈に真澄もそう言って侍らせてる癖に、よく言うな」

「皆、大切な人だからね。その中には当然、君も入っている」

「それは…ぅ…ッ!?」

 

 不意にエリヤの口を塞ぐようにしてフェイの顔が近づいて、触れあった。

 首に手を回して身体が浮き上がりながらフェイはエリヤの身体に抱き着いて、エリヤはそれを強制的に支えられている。

 

「お前……判断委ねたって言ったのに結局誘導というか誘惑してきてるじゃないか」

「その辺りは可愛げとして受け取ってほしいな。それに僕の行動で君が生きたいと思えるのなら、何だってするよ?」

「はぁーっ……ほんと、もう仕方ない」

 

 眠気のせいか瞳がとろんとして、無防備になっていたフェイの姿に別の意味で心をむしゃくしゃにさせられながらもエリヤはフェイを横抱きにしてベンチ椅子に座った。

 

「俺は戦うよ。それが例えアンナだったとしても……だから、一緒に戦ってくれフェイ」

「僕で良ければ喜んで」

 

 はにかんで微笑むフェイの髪を梳きながら、エリヤも力なく笑った。覚悟がある、と言えば嘘になる。フェイと何度も話して慰めて貰って、戦う決意を決めようとしてもアンナの顔を一度浮かべてしまえばその決意は余りに容易く溶けてしまう。

 

 この世で一番守りたかった存在を今は殺さなければならない。出来なければ殺されるのは自分で、愛した存在は殺し合いの果てにそのどちらかに至るのを望んでいる。この世界に来るべきではなかった過去の残骸は死ぬべき時に死ねなかったが故に亡者のように生と死を求めて彷徨い、その両方の意義を求めている。

 

 エリヤもまた二人とまた出会った事で二人がそうである事と自らもそうである事を認識した。その亡者同士の果し合いはこの世界に対して何か影響を齎す事もないし、どちらかが死ぬだけの虚しい戦いとなる。

 

 それでも戦わなければならない。過去と決別する為に、新たな未来を往く為に。アンナにもウリックにもエリヤにも必要で無価値な戦いだった。

 

「そういえばさっき連絡があった。ヤタガラスに他のDB達が増援として来ている。結界術に精通してる奴やエストマ使える仲魔持ちも結構居るから一旦お前は休んで問題ないとの事だ」

「……もしかしなくても君が呼んだよね」

「実際に呼んだのは真澄と由奈だがな。MPは問題ないとしても地域一帯を覆える大結界を独力で維持してるんだ。お前に掛かっている疲労は尋常な物ではないのは分かっている」

「あはは、やっぱり分かっちゃう?」

 

 表情には見せてないがフェイは結界を維持する為に気を張り続けていた。常に一定で淀みなく、復旧した徳川曼荼羅を阻害しないように閉じられた門から染み出る悪魔達を弾き、接近した魔界の影響を遠ざけるように調整し続けた負担はこの数日でずっしりとフェイに圧し掛かっていた。

 

「今は頼むから休んでくれ。疲労限界で倒れられても困るだろう」

「え、このまま?」

「態勢が気になるなら、これで良いだろ」

「ちょ、ちょっ、ぅわ……!」

 

 また抱き上げられて、フェイはベンチに寝っ転がりエリヤに膝枕される態勢へと移った。

 少しだけ力を入れて手足を動かそうとしても疲労か或いはエリヤの行動に戸惑ってか、フェイはなすがままに困惑しながらエリヤを見上げた。

 

「そ、その目が覚めちゃったから一度降ろさない? ほら、やっぱり世間体とかあるし僕も君も恥ずかしいだろうしさ。というか寝るなら避難所にでも移動して簡易ベットとかの方が良い気も……」

「……やだ。此処で寝ろ。俺だって恥ずかしいし、今は他の誰にも見られたくもないんだ」

「んふふっ、そういう事ならしょうがないかぁ」

「ニヨニヨするな。早く寝ろ」

「分かったよ、おやすみなさい。エリヤ」

「おやすみ、フェイ」

 

 顔を真っ赤に独占欲と羞恥心を発露させるエリヤを見て頬を緩ませながら満足したフェイはその瞼を閉じた。後から来た由奈や真澄に色々と小言を言われるかもしれないが、またそれは別の話。

 

 とにもかくにも今回の戦いは終わり、そう遠くない未来にてまた戦いは起こる。それを超えていく為の微かで刹那のように過ぎ去る安息の闇にフェイは身を委ねた。

 


 

 暗い、機械の光も灯されていない一室にて大きな培養槽が幾つもの見られない機械と共に存在していた。

 

 槽の中は緑色の液体に満たされて、その中に女の頭部らしき物とその首から下に繋がれた幾つもの機械ケーブルとその先にあった芋虫のような物体が浮かんでいる。

 

「と、今回の顛末はそんなもんだアンナ」

 

 それに語り掛けように培養槽に手を置いて、声を発したのはデモニカスーツを脱ぎ捨てたウリック・ヤードだった。さらに言えば彼の言動からこの培養槽に浮かぶこれが何であるかもはっきりと分かってしまう。

 

 それはアンナと呼ばれる存在の外骨格を外した本来の姿だった。

 この世界に至るまでの度重なる実験と兵器としての運用により本来のアンナの肉体は削られ失われていき、それに伴い脆弱で柔らかな肉の体は強固な合金の外骨格へと変えられた。

 

 超能力の酷使によって消耗した脳や内臓もまた改造されて、挙句の果てには寿命を伸ばして出力を上げる為にPK能力者の脳を新たに接続して内臓も含めて全てを袋に詰められた。

 

 それらの行為に苦痛はなかった。アンナの全ての五感は当の昔に失われており、機械によって増幅された超能力でしかこの世の全てを認識する事は叶わない。下半身が潰されて子宮が無くなったとしても、顔を実験で切り刻まれて再形成されたとしても、例え愛した人にこんな姿しか見せられないのだとしても感覚は存在してないのだから苦痛はなかったとアンナは思い込む。そうでなければ狂ってしまいそうだったから。

 

『そう……兄さんが元気ならよかった』

 

 培養槽に繋がれた機械がウリックの声を拾い、それを受信したアンナの意識よりまた機械音声が発信される。機械であるが故に感情の平伏はないそれは何処となく安堵の意がウリックは感じられた。

 

「この世界であの人をくれたのがあの子で本当に良かったな。感謝してもし切れねぇよ」

『でも、殺しにいくのよね』

「ああ」

『つらい?』

「……かもな。でも殺さなきゃお前を生かせられない」

 

 脳と一部の臓器以外を捧げて、多くの世界を渡り戦い続けた機械の大天使は一種の限界点(Lv99)まで強くなった。だが、それでも或いはそこまでしたからこそその全てが破綻しかけていた。

 

 この場に居るアンナも凡そ半死半生と言えた。外骨格を装着し、生命維持装置を作動させたとしてもこの培養槽の中から出てしまえば残りの命は容易く溶けていく。

 

 急激に悪化したのはヨコハマでの戦い後になるがもう一度戦えば再起不能となり、その後の対処を仕損じればその時点でアンナは死んでしまう。

 

 周回により人材豊富なエデンでもアンナとウリック程のエターナルはそうざらに居る物ではない。組織の歪さを知っても従い戦う戦士という点でも廃棄するには勿体ない戦力でもあり、それらを生かす為に相応のリソースは今まで割かれていた。

 

 しかしもうアンナの命は純粋な技術力だけではどうにもならない域に達している。必要なのは彼女と同じ因子・血を宿した天使の力を持つ個体。それに該当するのはエリヤ以外おらず、その彼女の全てを捧げてアンナの()()()()()()()()

 

『兄さんの身体使って、私どれくらい生きられるのかしらね』

「数年は保つだろうと上は言っていた。それ以上の確約は出来ないとも言っていたがな」

『じゃあ、それがそのまま答えね。兄さんとその大切な人達の命を捧げても、私の数年にしかならない。ふふっ、たった数年の為にそれだけの犠牲を払わないと生きられないっておかしいわよね』

「それでも、俺達は生きたいと願った」

 

 肉体は再生できても魂は摩耗している。此処まで辿った運命を考えればウリックもアンナも生きているのが不思議な程であり、ウリックの限界もまた残り数年程度。永遠の戦士(エターナル)など名ばかりの残り火のような命を二人は抱え、それでも生きる事を望んでいた。

 

「例え、永遠になれなくても猶予がないのだとしても俺は最後までお前と生きたい」

『馬鹿な人。私なんかとっくに見捨てれば、そんなに命を削る事もなかったし他のエターナルのようにもっと幸福に生きられたのに』

「今が一番幸福だよ。俺は」

『……馬鹿。ほんと馬鹿』

 

 この現状が幸福かと言えばそれは嘘になるかもしれない。元ある世界は滅んで、エデンに囚われてからは実験体として扱われる日々。アンナは身体を解体されて、機械の天使へと変貌してウリックもまた才なき身で死線を超え続けて命を削りながら機械の超人へと至った。

 

 その過程には多くのすれ違いと悲しみがあった。最早手遅れの身体となって互いに再開した時には傍に居られなかった、救えなかった罪悪に囚われた事も自分達が生きていく為に他の世界を滅ぼす行為に加担する苦痛に悶え苦しむ事も多かった。

 

 せめて他のエターナルのように束の間の永遠の夢に逃避する事が出来れば楽だった。滅びない選ばれた自分達と滅びゆく選ばれなかった世界の残骸を差別して、現地民を人擬き(モブ)として扱えれば心はこんなにも痛まなかったかもしれない。

 

 しかし残響のように過ぎ去る幼き日の記憶がそれを許さなかった。青空が見える教会の下でエリヤと共に読んだ聖書と本来のキリスト教の教え。世界の終わりを生きるにはあまりに真っ当すぎる倫理観は二人の脳裏に刻まれ、故に心を外道に落とす事は出来なかった。

 

 彼らのやってきた事に変わりはない。他のエターナル同様に旧世界が滅びるように殺して、工作して、人の道を外れた行為を多く熟してきた。ウリックとアンナがそれらを行う為にどれほど心を痛めようともそれは免罪符にはなり得ない。それも二人は分かっている。破滅が近い身であるが故にどうしようもない破滅が待ち受けているかもしれないという予感はある。

 

 心も身体も苦しくて、破滅は目に見えているのに何度も何度も話し合って二人はそれでも共に生きる事を望んだ。在りもしない幸福を今更追い求めている訳ではない。例え傷の舐め合いでも共依存だとしても自分が居なくなってしまえばまたこの人は独りになってしまう。そうなれば自分も相手も耐えられないし、生きられない。

 

 最早互いの存在だけが生きる理由で二人で居るこの穏やかな時だけ消え入りそうな生の歓びを感じ取れた。その余りにか細い有限の時を長くする為だけに二人は最期まで戦い抜く事を決めた。

 

「でもいざって時、あの人手に掛けられるのかー? お前、ヨコハマの時が一番チャンスだってのに仕損じただろ?」

『あ、あれはあの由奈って女剣士が手強かったからで。というか兄さんも強かったし、しょうがないじゃない。そっちもちっちゃなフェイって男の子にやられかけたんでしょ?』

「あいつも強かったんだって! それに戦い切り上げてお前を助けに行かなかったら不味かっただろ?」

『それはその、感謝してるわ。凄く嬉しかったし……』

「急にしおらしくなるなよ……でもまぁ仮にあの人を討てなかったとしても別に俺は恨まねぇよ。お前さんが強い言葉吐かなきゃ銃もまともに撃てない事だって知ってるし、そもそもこんな事させちまってる俺が……あいてっ!」

 

 テレキネシスの応用によってウリックの頭にぺちんと打撃が加わる。それはまるでアンナのある筈のない手がウリックの言葉を咎めるように叩いたようにみえた。

 

『罪悪感を口にするのもそれで謝るのも禁止。お互いそれ言いあったら無限に続いちゃってナイーヴになっちゃうの分かってるでしょ?』

「……悪い。いつもの癖だ」

『よろしい』

 

 ふふん、と無機質な機械音声が響いてそれが何処か可笑しかったのかウリックは笑った。

 

「ま、何にせよやる事は決まった。もしエリヤさんが断っても俺達は戦わずに死ぬだけだ。死体に関してもきっちり処分するように上には言っておいた。そもそも魂も肉体も使い果てた俺達の残骸なんて利用価値なんもないし、それが通る程度の無償の奉仕はしてきた筈だからな」

『……そうなったら死ぬの私だけだから、貴方は自由よ?』

「お前、俺がそれ出来ないって分かってるのにそういう口振りするの良くないぞ」

『えへへ、ごめんなさい』

「可愛くいっても駄目だ」

 

 ウリックの機械化された義手が培養槽を撫でる。液体に浮かぶ頭部の表情に変化はない。虚ろで何も光を灯さない瞳が固定化されたまま壁を見つめて動かない。

 

「あっちが戦う事を選んでこっちが勝ったらさっきの通り。もし俺達が負けても精々死んで終わるだけだ。けどそうなった時に色々託さなきゃいけないもんがある」

『託さなきゃいけないもの?』

「あの連中に果てしなく迷惑かけて、エリヤさんには心労すげー押し付けてるだろ? 何か返せる物がなきゃ俺の心が持たねぇよ」

 

 大したものをウリックは用意する事は出来ない。エデンの目もあるし、何よりそんなリソースは自身には残っていない。残せるのは精々装備とシステムの一部だけ。それが助けになるかどうかも分からないし、全くの無駄になる可能性も高い。それでも自分達が負けた時のせめてもの手向けとして何かを残しておく必要があるとウリックは判断していた。

 

「それの準備もある程度完了している。どうあれ、後は待つだけだ。どんな結果になるにせよ俺達の未来は其処で決まる」

『……ねぇ、ウリック』

 

 動かせない筈のアンナの光のない眼がウリックを見下ろし、声が出せないままに口が歪む。サイコキネシスによる無理矢理の肉体動作は只でさえない寿命を縮める行為に当たる。アンナはその事を踏まえた上で愛する人に機械の声を届けた。

 

『どんな終わりを迎えるとしても、貴方の隣に私は居たいわ』

「そうだな。そう終われたら、いいな」

 

 喜びと悲しみをぐちゃまぜにした笑みを以てウリックは言葉を返した。

 手を伸ばしても繋がれる手はなく、欲した平穏な明日は過去にしか存在していない。太陽に近づかなくとも溶けていく白蝋の比翼の鳥はただ約束の刻を暗闇の中で待ち続けた。

 


 

<久遠 フェイ>

数日間、ずっと結界張ってた人。

動けないながらもCOMPなりから情報は仕入れて、掲示板で只管情報共有を行っている。

仮眠終わったらまた働く。

 

<久遠 エリヤ>

定期的にメンタルぐっちゃぐちゃになる人。

今回もぐっちゃぐちゃになったがフェイとの絆Lvも高まってきたので比較的安定はしている。フェイに依存しているともいう。TS女の癖に何故かヒロインズで一番弱々しい為かこういうシーンが描かれがち。

 

<久遠 由奈&神城 真澄>

エリヤってTS女、あざといし泥棒猫だしシーフなんじゃないか?と感付き始めた。どう考えても気付くのが遅い。

 

<ウリック&アンナ>

ブラック企業に実質人質取られて無限労働させられてた人達。

ウリックは肉体を完全サイボーグ化されて何度も死線を超えており、アンナはと言えば頭部と臓器以外ないほぼ芋虫状態(大体テクノライズのシェイプス)。エターナルとして年季も経験も積んで、傲慢な振る舞いもないがだからこそエターナルという存在に適合できずに実質的な爪弾きにされている。でもフィジカルもメンタルも死にかけてるので全然気にしてないというかそれどころではない。

 

<三大化骸>

ダイテングとビビサナは根の国にボッシュートとなり、ダイテングはオタクくんサマナー本編で描写された通りの結末を迎えている。ビビサナは嬲られ度はまだマシだと思われるが喰奴特有の<飢え>があるので精神的にはより辛そう。カッパとスイコに関しては結界張った上に魂が浄化されて、根の国には行ってないとの事だったので安らかな場所へ送られている。作者はこれを聞いて救われました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。