真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -ロストキリギリス- 作:名無しの骸骨
オベロン=ティターニアがフェイ達の戦いに介入したのは2回程。
一つ目はマザー=アバドンとの決戦時における
この二つの介入は的確にフェイや由奈の命を救っている。その介入がなければヨコハマでの騒動はとんでもない事態を引き起こし、ラーヴァナはさらにその力を増してフェイや由奈の命がなかった事は疑いようもない。
そして、その二つの介入がオベロンの善意による物だという事もフェイには分かっていた。
天魔衆殲滅時に垣間見た自身とは違うフェイの記憶にそれに映るオベロンとティターニアの姿。自身とよく似た別人だと断定するにはあまりに似通い過ぎて、何よりその時の感情の全てが実感と共にフェイの心に残留している。故にフェイにオベロンを疑う余地は存在していなかった。
そんなオベロンの目的と助けた意図を知りたいフェイと何らかの理由でフェイの過去を追い、その存在が何者であるか判断しようとするオベロンで話したいという思いは共通している。
阿修羅会との戦いが収束して数日も経っていない現状ではあったがアンナ達との戦いを先延ばしには出来なかった。故に今しか話せるタイミングはないと判断したフェイがオベロンに妖精文字による連絡*1を取り、両者の会合は決定された。
場所に関してはオベロン個人がどれだけ信用出来たとしてもテオゴニアの幹部と話をする以上、他者の店を利用しての会合は論外。よってフェイが所有している物件の一つを今回の使用で放棄するという制限を設けてフェイは由奈・真澄・エリヤと共に其処でオベロンを待っていた。
其処から時間5分前に何事もなくやってきたオベロンはその身に纏う変装を解いて、フェイを見た。
「ふふっ、やはり私の知るフェイそのままだ。本当はもっと早くこの距離で君を見たかった」
「まず座りなって。お互いに話があってきたんだし」
「ああ、すまなかっ……おいおい、そう前に立ち塞がるのは止したまえ。俺は二度君達を助けてやったろ? 少しは信用してほしいな」
懐かしむように、確かめるようにフェイに近づくオベロンに対してエリヤと真澄はフェイを庇う様に前に出る。
「フェイと由奈から話は聞いてる。だけど私自身はまだ貴方を信用していない。少なくとも目的を明かすまではね。これでも最大限譲歩はしているわ」
「お前個人がどのような立場でフェイに執着してるにせよ、今のお前は
「……それに関しちゃ君達の言ってる事の方が正しいな。オーケー、私が悪かった」
両者の警告を前に両手をひらひらと振りながら用意されていた座椅子にオベロンは腰掛けた。
「他の三人にとっては初めましてとなる。テオゴニアに所属するオベロン=ティターニアだ。まぁ呼び方はオベロンなり呼びやすい方法で呼ぶといい」
足を組んで、膝上に手を置きながら何処か胡散臭い笑みを浮かべながらオベロンは軽々しくテオゴニアの名を口にした。それはある意味この世界を害する者ですと自称するのと一緒であり、そう名乗った時点で戦いが始まってもおかしくはない。
それでも曲がりなりに対話が成立しているのはオベロン側にもフェイ側にも戦意が全くないからで、それ以上に優先しなければならない話があるからに過ぎない。詰まる所、その話次第で状況が一変する可能性もあった。
「俺がこの会合を以て話したい事は幾つかある。一つ目は俺が何者なのか、そして何故フェイに執着しているかの情報開示。二つ目はフェイの過去に関する事を其方から聞きたい。三つ目は私の目的の開示。四つ目はそれに対する返答を聞きたいって所かな。誤解を解く為に言うがテオゴニアに与しろだとかそういう事ではない。それらの事であれば君達が頷く事はないと理解しているからね」
順に、慎重にオベロンは疑念を抱かせないような口振りで言葉を紡ぐ。其処にテオゴニアの神々が持つような傲慢さはなく、一介の只人のような振る舞いである意味それがフェイ達には不気味に感じられた。
「一つ目。私はその名の通り、オベロンとティターニアが合一したことで生まれた存在だ。色々イレギュラーな状態で現状に至っている故に細かい説明は省こう。其処からは……少し長い昔話になるが聞いてほしい」
過去を懐旧する老人のように微かの間、沈黙が続いてオベロンは口を開いた
「私はかつての世界で代々木公園に妖精郷を構築していた。この世界でも今代のティターニアが居るあの場所だ」
オベロンが居たかつての世界はこの世界と同様の発展を誇っていた世界だった。
その日本の代々木公園にて集った妖精達の長として君臨していたオベロンは巡り合ったティターニアの転生者と共に守護者として妖精とそれに関わる人々の安寧を守っていた。
「だが、そんな日々は長くは続かなかった。この世界においても起こった東京封鎖とベルの悪魔達の戦いが全てを変えてしまった」
東京に溢れ出した悪魔に呼応して敷かれた封鎖。その内部で起こったベルの名を冠する悪魔達の殺し合い。そのいざこざに妖精郷も巻き込まれ、急激に世界は壊れて朽ちていく。
「最終的に万魔の王となったア・ベルと大天使とその神が相討ち、その過程で起きた様々な災厄によって世界は終わった。妖精郷は箱庭異界の一つとして何とか保つことは出来たが其処を羅刹共に突かれた」
「……其処で僕とは違うフェイがラーヴァナに殺されて、貴方はオベロン=ティターニアとなった訳か」
「そうか、思い出しているのか。なら話は早いな」
その後に起こったハコニワ戦争。異界の中では維持や平和に属性が傾いていた妖精郷は暫くの間、生き残る事が出来たが突如として異界に出現した羅刹と呼ばれる化物達によってそれも終わった。妖精達は喰われ殺され、オベロンの同盟者であったスカサハも羅刹の王であるラーヴァナによって葬られた。
かつてフェイが見た夢*2と同じ推移を辿り、妖精郷もまたそのまま無惨に消えていく。
「ラーヴァナは何とか撃退させたが結局の所それだけでは妖精郷は維持できずに終わった。其処から他の箱庭を彷徨う中でテオゴニアに勧誘されてね。元から合一神だった故にテオゴニアも比較的穏当だったのと、私も行き場がなかった故にそれに乗った。仮に断ったらどうなるかは……君達もよく分かってるだろ?」
テオゴニアに与した事はオベロン自身の本意ではない。ただ、どんな世界でも
「テオゴニアの従属神として勢力を広げて世界を巡り、この世界の果てで私は君を見つけた訳だ」
「此処に行きつくそれまでの世界でも僕の同位体は居たんじゃないの? それなのに貴方は僕を特別視しているように聞こえる」
「俺も単純な同位体を求めていた訳じゃないんだ。君の持つ妖精とウィッカの力と記憶は確かに私の娘であるフェイの物だ。理屈は知らんが、だからこそ君は私の知るフェイだと確信している。それにその力を持っていない君の同位体は
蜂蜜色の髪が揺れ、蛇のように妖しく黄金に輝くオベロンの瞳がフェイの青い瞳を見つめている。
オベロンはかつての世界で最愛の子を失い、死人のように彷徨う中でテオゴニアに跪いた。神世界を広げていく為に生き残った妖精と共に終わりのない戦いへと身を投じて、世界を開拓し、その全てを主であるダヌーの女神と妖精郷再建の為に捧げた。
それらの行いはオベロンにとってフェイを救う為の物であり、だからこそオベロンはテオゴニアの直接的な支援を受けずに自らと妖精達の力で此処まで暗躍している。自らの計画はテオゴニアの目的を阻害するものではないが、その道を逸れるものだと分かっているが故に。
今まで塵のように死んでいった同位体とフェイを救うにはこれしかないとオベロンは計画を立て、そして今この瞬間踏み込もうとしていた。
「一つ目の私が何者であるか、それについては理解してくれてたと思う。その上で君について私は知りたい」
この世界に行きついてからオベロンは徹底的にフェイの過去を調べ尽くした。
表の記録として出てきたフェイの過去は約数年前。デビルバスターとしての久遠 フェイが悪魔業界にてその姿を見せた頃の話である。旧ファントムソサリティのヒットマンであり、人喰いの羅刹でもあった久遠 由奈がフリーのDBとして活動を始めると共にその傍らに出自不明の少女の様な少年であるフェイが居たとされる。
活動内容は通常のDBと変わらない物であったが、両者共に使い手が限られるカルトマジックを用いるという事で徐々にその存在が広まり、由奈が抱えていた過去によってヤタガラスの一部メンバー並びにフリーのDBとの間でトラブルが発生する事もあったがフェイが両者の間に入る事によってそれも沈静化。
この激動の1年に入るまでにはレベル相応の一流フリーDBとして名が知られるようになっていた。
そして、激動の1年間に突入時においては一度はアリとなり異界に籠る事を考えるも最終的に戦う事を選択。<キリギリス>のメンバーとして緑化会、京都ヤタガラス、セプテントリオン等の戦いにも参戦。それらの激戦を経験し、他キリギリスメンバーと共に天魔衆や横浜マフィアを壊滅させて今に至っている。
「君がこの世界において相応に活躍したのは疑いようもない。しかし俺が知りたい事は其処ではない。輝かしい今日までの道のりではなく、秘匿されるべき暗い過去を私は求めている。それが俺の答えを提示するのに必要だ」
其処までが情報屋等を駆使して調べる事の出来たフェイの過去であったが、其処にオベロンの求める物はなかった。生きていてくれたという事実は喜ばしかったものの其処にフェイがどういう存在なのかという情報は存在していない。
「君が鴻上博士の作り出した実験体である事。君の母が其方に居る神城 真澄の友人であり、魔女である事。生み出す過程でティターニアをその魔女に憑依させている事は知っている。其処から推察される君の出自も検討はついている」
だからこそ、オベロンはあらゆる手段を以てフェイの痕跡を追い続けた。
多くの痕跡は影も形もなく消されていたが、どの世界でも同じようにフェイの跡を追ってきたオベロンは得られた微かな情報からフェイの正体を看破してしまっていた。その正体はオベロンにとってイレギュラーではあったが、今まで死んでいったフェイと凡そ似たような物だった。
故にその瞳は淀んでいる。フェイが受けた苦しみを既に想起してしまっているから
「なら、もう答え合わせになりそうだね……いいよ、教えてあげる」
にへらと力なくフェイが微笑む。
いつものような快活さはなく、その声はぎこちなく震えていた。その差異にエリヤは動揺し、声を掛けようとした所で由奈と真澄に止められる。
それらの動きをフェイはもう捉えていない。
「君の想像通り、僕はデビルドーターだよ。ドッキング・ドーターソフト、それを完成に近づける為に試作品だけどね」
カジュアルサマナーが用いるDDソフト。母胎の死や破滅を以て生み出される
「
まだまだDDソフトの開発が手探りだった頃にある検証が行われた。ガイア教が捕らえたという魔女を買収し、それと相性の良い
母胎となった魔女は蘇生が不可能な程に精神・人体共に破壊され死亡したが、生まれ落ちた子供は男だった。見た目は完全なる少女で性器以外でその区別が付く事はないが有り得ない事であるのに変わりはない。
「なんでそうなったのかは結局分からなかった。母さんの性自認が男だったとか、実は昔は男だったとか入手した情報から推測は行われていたみたいだけど……でもそれはどうでもいい事か」
「……フェイ」
くつくつと笑顔を浮かべるフェイを呼び止めるようにオベロンが声を発した。それでもフェイの言葉は止まらない。自分でももう制御できないまま吐き捨てるように言葉が続く。
「その後は父さんの実験に色々付き合わされたかな。色々と期待されてたみたいで悪い気はしなかったよ。何せ、僕はデビルドーターだったから」
デビルドーターとして生まれ落ちたソレには他にも特異的な面がみられた。デビルドーターでは本来ある筈のない人間的な自我の発露と母胎が保持していたウィッカと妖精の力の継承。特に前者に酷く注目した鴻上によってソレを用いた実験は幾度となく繰り返された。
「ま、それでも父さんの望んだ物ではなかったらしくて捨てられちゃったんだけどね。ファントムに奴隷としてポイって感じでさ」
それらの実験の果てにあまりに呆気なくソレは捨てられ、ガイアの代わりに逃げ込んだファントムに研究費代わりに売り飛ばされた。特異的な面を有していようとソレは結局の所、優秀な素養を持つデビルドーターに過ぎないと判断された為である。
自我は持つが赤子のように希薄で、依存先を求めて鴻上に縋る傾向にあった点。それ以外の能力面は他のデビルドーターと比較しても特別高いという訳ではなかった点。
実験データを収集していくうちに鴻上はソレから興味を急速に無くして、それでも成長を見込んで一つの名をソレに与えた。
己の造り出そうとしていた
自らの手を離れて一つの
「それで、僕はフェイになって。それ、でね」
フェイはその先を想起する。
父の特別から堕ちて、ファントムの中でも悪辣で趣味の悪い者達の玩具として飼われていた頃の話。苦しくて痛い、恐怖に満ち溢れた日々を口に出そうとして
「っ……それ、で……!」
「……ここまでです、フェイ。私が変わりますから、少し休んでいてください」
それを由奈に遮られる形で止められた。
フェイのただでさえ白い肌が死人のように蒼褪めて、過呼吸になる程に息は荒い。目は見開いて、身体は脱力して由奈に抱き抱えられている。
「真澄、今回は左程酷くはないですがフェイの状態確認を頼みます。エリヤは此処に残ってください。どうせこの子と今後付き合うには知っておかなければならない事ですから」
「……わかった。どういう目にあっていたかは何となく想像はつく。聞かなければいけない事なら、聞くさ」
浅く呼吸を繰り返すフェイを真澄に委ねて、オベロンと向かい合う様に由奈はその席に座る。今もフェイの過去を受け止めきれていないエリヤもまた話を聞くべく此処に残る。
「先に言っておきますが、私もその頃のフェイとはまだ会ってすらいません。それでも客観的にあの子の受けていた事を述べるのであれば私の方が適任です。あの子の痕跡や記録を消していたのは私自身ですから」
「俺がそれらの情報に辿り着けなかったのはそれのせい……いや、お陰というべきか」
フェイがデビルドーターであること自体はかなり早期にオベロンは辿り着いていた。フェイがデビルドーターであると明記された情報は消されていたものの鴻上博士の過去を追う事で自然と答えに行きついたからだ。しかし、鴻上博士の手が離れてからのフェイの情報は不自然なまでに消失していたのである。
「色々と訳はあります。私にとってそれが必要であり、何よりその情報が露見すること自体が危険でしたから」
「その情報というのは?」
「旧ファントムを中心に他犯罪組織と共に行われた暗部の実験。悪魔すらも依存させる麻薬の開発と製造計画です」
まだ旧ファントムソサリティが残っていた頃、その派閥は資金源の生成を目的として動いていた。多種多様な犯罪組織と共同でそれらの活動を行い、その一つが麻薬の製造・流通だった。
「薬物にも色々ありますが、一般社会において広まってる多くの薬物は覚醒者に効きづらい傾向にあります。麻薬依存にまで覚醒者を堕とすには
それは悪鬼外道たちの歪なビジネスの話だった。旧ファントムソサリティのヒットマンをしていた由奈にとっては対岸の火事にも等しい事ではあったがそれでも嫌でも記憶に残る程にその計画は大きかった。
麻薬の製造の為にカルトマジックを含んだ多くの精神作用魔法を解析し、裏社会のどん底に落ちた多くの人間を消費し続けてより良い物を作ろうとした。
果てにスピリア開発の主任であった鴻上が当時はまだ流通すらしていないDDソフト、その落とし子であるデビルドーターを用いる事を進言し、倫理観や理性を投げ捨てた行いは続いたのである。
「デビルドーターは母胎の死という制限はあるものの忠誠心を持ち、逆らわない悪魔人間を生成するという点で優れていました。何より悪魔人間であるが故に悪魔に効く麻薬の生成という意味合いでも彼女達を用いるのは有効性が高かった」
「苦痛を与え、犯して、解剖する。それを繰り返して脳から抽出した記憶情報を物質化。デビルドーター達は脳からそれを抜き出されたり、逆に記憶情報を押し込んでそれらのデータを取っていたようです」
実験体の脳を快楽で浸し、壊しながらもヘッドギア装置や直接脳より記憶を電子化・圧縮して溶液に転写した上でこれを固定化する。そうして出来た記憶が詰め込まれた溶剤とも呼べるそれは物質化した記憶そのものであり、後に“スピリア”とも呼ばれる代物だった。
それは記憶そのものであるが故に情報生命体の悪魔にすら影響を及ぼす物であり、恐怖を与えられた子供から抽出した高純度のスピリアは悪魔すら狂わせる事が可能であった。それが発覚して以降は計画のメインプランとして以後もスピリアの製造・実験・検証は繰り返される事となる。
デビルドーターはあまりに自我が薄く、無垢である。それは高純度のスピリアに生成に必要な子供の定義を満たしており、製造・実験・検証においてデビルドーターは皮肉にもあらゆる面で優れていた。
「前口上が長くなりましたね。お察ししているとは思いますが、フェイもそれらの実験に使われていました。他のデビルドーターと同様に快楽と苦痛を押し込まれて、幾度もスピリアを流し込まれてね」
由奈が俯き、項垂れるようにして言葉を吐き出す。
「それらの実験記録はもうこの世に存在してはいません。ただ、フェイは特殊な
「それは恐らく過去の……私達の子であるフェイが持っていたスキルと同一の物だな。そのせいであの子は生き残る事が出来てしまった」
それはオベロンとティターニアによって与えられた娘に対する祝福だった。何物にも苛まれないように呪われないようにとフェイを慕う妖精達の力も借りて、注ぎ込んだ祈りだった。
祝福を受け継ぎ、目覚めさせた同位体であるフェイはその祈りがあったからこそ実験を生き延びる事が出来た。それは良い事ではあったが、死という救済を与えられなかったという点でフェイを苦しめる要因にもなっている。
「計画もまた完遂され、スピリアの量産体制は整いました。記録に関してもスピリアの生成に必要な物以外は可能な限り削除され、デビルドーター達の役目も終わった筈でした」
「まだ、何かあるのか?」
「最後にデモンストレーションに彼女達は利用されました。スピリアに侵された悪魔、デビルドーター、覚醒者の有様を映したデータ。スピリアを求める好事家や権力者、裏組織にそれを奴らは拡散したのです」
それが本当に悪魔に効くのか?
それに本当に使える物なのか?
スピリアの研究データを確かであると示す為に悪魔と人間、デビルドーターを蟲毒の様に集めての長時間の検証は行われた。狂い切ったソレラが密集してしまえば果たしてどうなるかは言うまでもなく、その映像を見た者達はスピリアの有用性を認めてしまった。
そうなれば最早デビルドーター達に価値はなく、肉体を壊された者達は悪魔の餌に。精神を壊された者達はその肉体を“工場”へと運ばれていく。
「……フェイは」
「私が会った頃は表面上は取り繕っていましたが、ほぼ精神は崩壊していました。此処まで回復しているのは私が彼の依存先になっているのが大きい。それでも今に至るまで下手に考える時間を設ければ、あの状態に陥ってしまうのが現状です」
その全てを乗り越えてフェイは生存した。それはその身に宿した加護の力もあるし、魔女や妖精の力があったから。或いは何度も潰され死に続けて、その果てに目覚めた電気信号の操作による
同時に生き残ったフェイに残った物は何もなかった。自分の生きる理由も、縋るべき物も存在せずに逆に死にたくなる理由だけは山のように積み上げられていた。
それは自分だけが生き残ってしまった事による罪悪感。受けた苦痛・嘲笑を想起してしまう事による激しい恐怖。何よりこれからの生きる未来への絶望が其処にはあった。
「それでも、僕はこうして今も生きている。依存してるんだとしても、どんな理由であれね」
蒼褪めた顔色は変わらず、しかし目には確かな生気を宿してフェイが言葉を発する。真澄に身体を支えられながらも震える両足と箒で何とか立位を維持しながら口を動かす。
「それにそれはもう終わった事だ。映像を拡散した奴らはスプーキーズやキョウジさん、鉄仮面さんに何とか協力して貰って潰したし、スピリアを広めていた阿修羅会が潰れた以上はもう広まる事はないよ」
「だが、それで君の痛みが和らいだ訳ではないだろう」
「かもね。でも由奈に真澄、エリヤ……他にも色んな人達が今は居るからへっちゃらさ」
疵は癒えておらず、今の言葉もやせ我慢に過ぎない。由奈と会ってからはマシにはなっているものの自身の生きる意味や多くの感情を縋れる彼女達に委ねてしまっているという自覚はフェイにはあって、オベロンはそれを見透かしている。
生きる意味を他者に依存しながら、考え事を減らすようにしてDBとして活動を続ける道を選んで此処まで来た。今ある現実に残せた成果としてはそれこそ由奈のファントムでの活動を帳消しに出来る程の功績は上げているだろう。
それでも過去は消えない。現実逃避に心と体を強くし続けても、魂にまで刻まれた傷までは治せない。注ぎ込まれたスピリアに残留した多くの苦痛と快楽の記憶は今も尚脳裏に焼き付いている。
「こっちから話す事はこれで全部。だから、そっちの目的も明かしてほしいかな。その為に僕のこと、調べてたんだろうし」
「……まずは一旦座ってくれ。とてもじゃないが見てられん」
「うん」
その場に居る由奈の手を借りて、再びオベロンと向かい合う様にフェイは座った。頭を抑えてはいるもののしっかりとオベロンを見つめるフェイとは対照的にオベロンはその瞳を直視できずにいる。
「私の目的を端的に伝える。俺が再構築した妖精郷をこの世界に降ろした上で君達を其処に閉じ込め、永遠の夢を過ごして貰う」
「永遠の夢……時間を弄って妖精郷内の時間を極限まで加速させるつもり?」
「俺と私にはその権能が刻まれている。皮肉な話ではあるが
理屈は単純である。オベロンとティターニアが用いる
それはマレビト達が作り出したメビウスと性質的には同じであり、オベロンの目的も正しくそれに当たる。違う点を言うのであればその対象をフェイ達のみに限定している点になるだろう。
「外部は閉鎖するが妖精郷内部の制御権は君に渡す。永遠を数十年や数百年、はたまたそれ以上と定義して適用するかは好きにすればいい。君が招けば君の慕う彼女達も妖精郷へ入る事ができ、それらの終わりも君が決められる。終わりを迎えれば妖精郷も、その場に居る者達の魂も消失する。そうすればこの螺旋の世界に君や君の大切な人の魂が残る事はない」
「理解できない。なんでそんな事をするの?」
「君に安息の日々を過ごした上で真っ当な死を迎えてほしいだけだ、フェイ」
困惑するフェイにオベロンは淡々と返す。
オベロンの語る計画はオベロン自身に何かメリットがある訳ではない。自らの作り上げた世界であり自らその物とも言える妖精郷を明け渡した上で権能の加速による無限の時間をフェイに与える。妖精郷そのものにその細工をしてある事とフェイがオベロンの子供である事から其処まで行きつけば最早オベロンの存在は不要であり、妖精郷を守る為に門番になるつもりでさえ居た。
「この世界に生まれ落ちて、君はまだ十数年も生きてはいない。それなのに過去を紐解けばどうしようもない痛みばかりを与えられている。私はそれが嫌なんだ」
赤子同然の時から苦しんで、痛みを与えられて、それから目を逸らす様に戦い続ける。由奈達との出会いは救いではあったが彼女達との平和な日々を望めば望む程にこの世界では戦う必要性が生じてしまう。
どれだけ戦って戦って安息を求めても、世界を牛耳ろうとする者達は尽きない。それはオベロンの所属するテオゴニアも該当し、他の三大勢力も同様で先の戦いで滅びた阿修羅会やまだこの世界に存在してしまっている化物達もそうであった。
「今までもそうだった。君を助けたいと思い、俺は戦い続けた。それなのにどれだけ世界を巡っても君の同位体はどれも死んでいる。苦しみと共に死に、それだけの為に生まれ続けている!」
世界に住まう全ての人達は死に、その骸はこの螺旋の世界が進む程に積み上げられている。フェイもまたそれから逃れる事はできず生と死の因果に囚われていた。
一度定まった同じ運命が繰り返されるように。この世界が廻り続けて以降、フェイは何者かに利用されて死に続けている。
スピリアによる精神崩壊もあったし、悪魔の凌辱に耐え切れずに死んだ事も多かった。オベロンとティターニアの子供として生まれるというケースは一度切りで、その最期ですらラーヴァナによって無惨な物になっている。
悲惨な死の運命はこの世界ではそれこそ珍しい事ではなかったが、オベロンが直視し続けられる物ではなかった。先に進む度に最愛の存在がどのように苦しんで死んだのかを突き付けられながら、救い出す為には進み続けなければならない。
世界そのものを変えようとしてもそれだけの力はオベロンにはなく、それに求められる力が如何ほど必要かオベロンはテオゴニアも通して自覚してしまった。
だからこそ選択したのは安息の
「この世界で君を見つけ、私は狂喜した。その中に私達の子供であるフェイが居る事を知った時は運命だと悟ったさ。今ここに自分の全てを捧げるべきだとね」
「だからって今ある全てを投げ出して、僕に眠るように死ねって言うのか。貴方は」
「俺がこの世界を廻り続けて、出せた答えはそれっぽっちだ。理解してほしいとは言わない。だが君達はもう戦うべきではないと私は確信している」
オベロンが顔を上げる。その視線の先にはフェイだけではなく、由奈やエリヤ、真澄の姿もあった。
「エデンの二人組の話は知っている。しかし、それと本当に決着をつける必要があるのか? 戦わずに居れば双方痛みも何もなく終わる事が出来る。ラーヴァナや天魔衆に関しても三大勢力に比べれば取るに足らん存在で君達が必ず潰さなければいけない者達でもない。故にもう戦う事を止めにしたとて、誰が損する訳でもない」
「俺の妖精郷を受け入れれば、この世界より完全に遮断された状態で安息を得られる。この世界が滅ぶにせよ、続くにせよ……それに君達が付き合う必要はないんだ」
後ろ向きで悲観的で何もかもを諦めている。オベロンが語る言葉そういった物であり、今の世界を生きる者達にとって刺さる物ではない。既にメビウスを乗り越えて、それを虚実であると切り捨てる物が大半ではあるがフェイ達は反論を直ぐに返す事が出来ない。
それは偏にオベロンと自分達が同じだから。過去に傷ついて、それでも今を良くする為に戦い続けた。戦う理由は平穏を手にする事で誰にも迷惑が掛からないのであればそれを疎ましく思う事が出来なかった。
恋人を無惨に殺され、その子供も苦痛に塗れた生を送り、両親をその手で殺した真澄。
その肉体を弄られ壊され、その果てに妹との殺し合いを強いられたエリヤ。
人喰いとして生を受け、愛する人を喰らい続ける運命にある由奈。
呪われた子として心も体も凌辱されて、傷つきながら戦う選択をしたフェイ。
この世界では多くはなくとも存在する悲劇を受けて、安らかなる日々を望まぬ日はなかった。永く、平穏で大切な人が隣に居てくれる夢。根本的にメビウスの住民とそう変わらない者達は無意識にそれに惹かれてしまって
「それでも僕は貴方のそれを受諾できない」
それをフェイは跳ね除けて、否定した。
「理由は幾つか上げられる。まず僕の魂を消失させたとして、また僕と似た運命を辿る人が出てくるだろうし苦しむことは変わらない。そして君の言葉が嘘で、僕達を罠に嵌める可能性もある。例え傷つくとしてもウリックとの約束は裏切りたくないって気持ちもある」
「それは、本当に君の本心の言葉か?」
「どうだか。咄嗟に出てきたのがそれだった」
オベロンが提示した案に対する反論はそのどれもがフェイの本心とは言い難い。
魂を消失させる事で確かに一度自身という存在は途切れ、苦しむことはなくなる。類似存在が生まれたとしてもそれがどんな運命を辿るかはまだ確定しておらず、それを理由にする事は出来ない。
オベロンの言葉が嘘という事はフェイ自身がそれはないと確信している。オベロンの子の部分であるフェイの魂がオベロンの言動が全て真実であると判別し、それを疑う余地をフェイは持ち合わせていなかった。
最後の反論でさえエリヤの心情を考えれば受諾しても問題はなかった。エリヤ自身でさえ、そう悪くはないと思っているのだから
「なんで貴方の提案を蹴るかは、僕もよく分からない。さっき言った理由は嘘じゃないけど一番の理由は別にあると思う。今は上手く言語化できないけど」
「だが……!」
「どれだけ考えても僕は貴方の世界に行くことはないと思う。僕は久遠 フェイで、貴方のフェイそのものではないし」
迷いはあったし、惹かれる気持ちがあったのは事実だった。安らぎを求めていたのは事実で、何よりも大切な彼女達をこれ以上傷つくのが嫌だった。地獄のような現実から自分達だけ逃避する弱さよりも彼女達の幸せの方がやはり大切で、それでも何故かオベロンの言葉を最後の最後で受け入れる事がフェイには出来なかった。
「選択を変える気はないという事か。そうか」
「……此処でやり合う気なら、場所を変えたいね」
「そのつもりはない。此方にも準備があるし、先約が居るのだろう」
オベロンが席を立つ。フェイを見下ろし、敵愾心を向けながらも戦闘態勢は取らずに仲魔を出す素振りも見せていない。
「だが、こうして私の提案を拒否したのならもう手段は選ばない。そう遠からず君達を妖精郷へと吸収し、取り込む」
「僕達がそれから逃げ回るとか考えないんだ」
「それをするなら君は俺の提案を受け入れてるだろう。先に進むのであれば私は必ずその眼前に立ち塞がる事になる。精々それまで生き延びる事だ」
オベロンの姿が徐々に朧げになっていく。否認された以上、語るべき言葉は何もないと告げるように
「オベロン……いや、ティターニアもかな?」
「なんだ」
「ありがとう。いっぱい助けてくれて」
「親が子を助けるのは当然の事だ」
「父さんは助けてくれなかったから、当たり前じゃないんだよ」
「……」
「だから、貴方ともちゃんと向き合うよ。今まで死んでしまった僕の同位体の分も含めて」
「……分かったよ。待ってる」
それでもフェイの言葉に無理矢理生み出した敵意すら搔き乱されて、何処か憑き物が落ちた表情でオベロンは消えていった。
<久遠 フェイ>
シリーズポジション:ヨアヒム(デスピリア)
ほびーさんから許可を頂いてポジションを得たデビルドーター(男)。出来損ないのデビルドーター。ほぼ全ての周回で肉体弄られて玩具扱いされて死んでる。色々異なるのがオベロンが居た周回と今の周回。ちなみに何故ヨアヒムかは鴻上博士と関係していて男で僕っ子だからという割とざっくりした理由。
<久遠 由奈/ラーヴァナ>
シリーズポジション:ムーダンのママ(デスピリア)・ラーヴァナ(200X)
此方も許可を頂いて確定した人。こっちは出来損ないの喰奴。
旧ファントムソサリティに居た頃はデビルドーターの人肉等も生きたまま提供されて喰らっていたので自分も結局フェイを弄ったカス共と大差ないなと淡々とオベロンに事実を告げていた(それはそれとしてファントム殺すマン達に色々協力してもらってそれらを皆殺しにしていた)
<久遠 エリヤ>
シリーズポジション:特になし
ウリックとアンナの事で悩んだり、決戦の為の準備をしていたらメンタルに大打撃を喰らった人。過去にそういう事があったと聞かされてはいたがデビルドーターである事やその詳細までは知らなかったのでメンタルが死んだが、元々死にかけだったのであんまり問題はなかった。
<神城 真澄>
シリーズポジション:特になし
フェイの介抱しながら曇ってた人。由奈やキョウジらと協力して旧ファントムの残党なり実験関係者を潰して回って、その際にその頃のフェイの映像も見てしまっている。ヤタガラスに勧誘していたのも必死に保護下に置いて何とか精神療養に努めさせる為だったが由奈と一緒に行く為に拒否され続けた。
<オベロン=ティターニア>
動機は風ディンちゃん。思想はホワイトメンな妖精王と妖精女王の合一神。
世界のあまりの詰み具合にテオゴニアの事も上手く信じきれず、何より自らの子供の死の記録だけを見続けて「もう自分で極小の世界作って其処にフェイを監禁して、其処で安らかに生きて死んでくれればそれでヨシ」という方針に至ってしまった。フェイの過去を聞いたのは答え合わせの面も大きかったが何よりフェイの受けた苦しみを聞いて、覚悟を決める為でもあった。
<鴻上博士>
カスの中のカス。キングオブカス。
ほびーさんに相談した結果、スピリアの開発にも関わってたので(原作通り)
また一つ罪が増えた。結構財源にもなってたらしいのでほんとカス。