真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -ロストキリギリス-   作:名無しの骸骨

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第三次喇叭:太平洋防衛戦 その8

 紆余曲折を経て、世界に静寂が訪れた。

 

 あれだけ無数に溢れていたセプテントリオンは姿を消し、この終末に乱入してきた別勢力もまた鎮圧が完了している。

 

 とはいえ犠牲も多い。元より得のない無尽蔵に湧く怪物達との防衛戦。戦後に残ったのは壊れ掛けた大地と傷つき疲労し尽くした戦士達。

 

 最大の修羅場は越え、人々の顔には喜びが浮かんでいるものの心には憂いと不安が残っていた。

 

 

「お、終わった? 本当に終わったのか?」

 

「エネミーソナー、見ろよ。ったく、もう化物共が消えてから数時間は経つんだぜ? 現実認識しろよな」

 

「いやでも俺も気持ちは分かるぜ。ほんとアホみたいに戦ったし、倒しても倒してもあいつら増えてくし、まだ戦闘時の感覚から抜けきらねぇよ。下は気づいたら海水で満たされてるしな」

 

「おーい、こっちの瓦礫どかすの手伝ってくれ。数分後に自衛隊の車両くるみたいだから」

 

「まだ動ける奴が居たら隣の地区行ってくれ! 建物ぶっ壊れすぎて、瓦礫が多すぎる!」

 

 

 ともあれ、戦後は訪れた。張り巡らされた防衛線は機能したが被害は甚大。

 戦士達の大半は休みたいという本音を堪えながら各々が復興の為に動いていた。

 

 

「何とか海も収まってきたか? つっても津波そのものは止め切れなかったが」

 

「抑制できただけ避難区域の被害はまだマシやな。とはいえ、俺らの仕事は此処からが本番やで」

 

「長く苦しい戦後処理が始まるか。公僕のツラい所だな」

 

「ま、お仕事なら仕方あらへん。そっちも宜しく頼むで、お巡りさん」

 

 

 警察、自衛隊を中心に行政組織が各地の状況を確認。

 被害が深刻な地域から順に部隊を派遣し、物資の提供から瓦礫の撤去、人命救助へ

 

 

「まさかニンゲンも湧いてたとはな……恐化結晶まで投下されてやがったし」

 

「我々に呼応して、現地の方々が動いてくれて助かりましたね」

 

「近くにシェルターあったから、避難民が危うくバケモンになる手前だった。リシュアン、後遺症は残りそうか?」

 

「マインドの沈静化には成功しました。心の傷として、フラッシュバックの可能性はありますが……」

 

「ま、お前が沈静させて残るってんなら後は時間で解決するしかないだろ。此処からは手筈通り、WIL社の連中の所に戻ろうぜ」

 

「ええ」

 

 

 DB達はそれを補佐するように、撤去活動中心に活動。

 一人一人が組織に属していない個人であるが故に幅広い能力を持つ彼らは各々の方法で復興を進めている。

 

 

「ラスキン老、マージで身体凍てつきそうな位に寒い。これで瓦礫どかすの参加しろって鬼畜だよ」

 

「静止したにも拘らず、対策なしにあの氷のデカブツに殴り込む貴様が悪い」

 

「だってさぁ! ビックダディとさぁ! 堂島の龍がさぁ! 二人で殴り込みに行くからさぁ! 普通便乗するじゃん!? 僕も行ったからこそ、あれがメラクぶっ倒す決め手になったんだし!」

 

「貴様が感じてる寒さも一時的な後遺症に過ぎん。暫くすれば消失する。それまで我慢するのだな」

 

「そんなー!」

 

 

 徐々にではあるが、穏やかな平穏な時が戻りつつあった。

 大半の諸外国は壊滅に近い、酷い状況になっているのだとしても。

 この平穏から次の戦いまで、そう時間はないのだとしても。

 

 世界の窮地を乗り越えた安堵と達成感は何物にも代えがたい物だった。

 

 

「よし、取り敢えず空での活動はこれ位で良さそうかな」

 

「やっと地上に戻れますか」

 

「仲魔込みで空動けるってのは便利だけど、やっぱり出来る事が多いと仕事も多くなっちゃうねぇ」

 

 

 フェイ達もまた太平洋より無事に帰還を果たしていた。

 突如として現れたラハブ、アンジャリカストラ、そして両者が合体を果たしたマツヤを援軍と共に殲滅し、津波・セプテントリオンの迎撃を再開。

 

 しかし、メグレスが打倒されてもマリアナ海溝に蓄積されたミザールによって津波は最早制御すら不可能な海面上昇へと到達。それでも諦めず、海を殴り続けて、それ功を奏したのか今いるフェイ達が居る避難所に海水は到達していない。

 

 太平洋における海面の上昇が止まったのを確認し、本土へと帰還。

 フレスベルグの索敵を用いて空より各地の状況を確認し、他DBと連携を取りながら救助活動。

 それが一段落ついて、援軍組はそれぞれの行き先へ。真澄・エリヤはヤタガラス・各組織への報告の為に一時的に行動を別にしている。

 

 

「あ゛ぁ゛~~……流石に、疲れた」

 

「お疲れ様です。本当に」

 

「由奈もミザールの迎撃ありがとう~津波殴るので手一杯だった。全然止まらなかったけど」

 

「あれは津波ですらない膨れ上がる様な海面上昇でしたから、無理もない。私達で対処しなければさらに被害は酷かったのは確かでしょうし」

 

「そうだね。少しでも被害抑制に貢献できたんなら、それでいいかな」

 

 

 臨時に設置された避難場所のブルーシートの片隅。ぐったりとフェイが横になり、それを由奈が膝枕で受け止める。

 

 長時間にも渡る戦闘、何よりフェイは合体魔法であるウンディーネを太平洋に居る殆どの時間、撃ち続けていた。MPに関しては自前でパーティの分は回復できるが(<妖精の祝福>)、精霊召喚による合体魔法の起点として、バランスを取り続けながら放ち続けた疲労はどっと身体に押し寄せてきている。

 

 加えて、ドラゴン達とは全力を超えた死闘を強いられ、それ以前には自身の同位体と思念戦闘(マインドバトル)を行っていた。もはや覚醒者として最高域に達したと断言してもいい心体であっても、限界に近い。

 

 

「しかし、地上も被害は甚大ですが無事で良かった。最悪、帰る場所が無くなっているかもと考えていましたから」

 

「まさか、メグレズの本体が打倒されても津波が終わらないとはね。ミザールが海溝で詰め詰めになってるなんて、どうすればいいのかと思ってたけど……誰かがミザールの本体を倒してくれたのか」

 

 

 太平洋にて活動していたフェイ達には他の区域における情報を手に入れる手段がなかった。

 

 メグレズの本体が打倒された事、それでも尚津波が止まらずにその原因が海溝に埋まったミザールであるのにも気づけなかった。ただただ終わず、指数関数的に膨れ上がっていく海面とミザールを叩き続けていた。

 

 

「ま、取り敢えずこれで今回は終わりだと思いたいんだけど……今後の事を考えると頭痛いや」

 

「<黄金の花園>ですか?」

 

「そっ、ヨヨギ公園で例の狂乱が発生中。先んじてメアリさん達が対処してるけど、どうもまだ一波乱ありそうなんだよね」

 

 

 <黄金の花園>が管理しているヨヨギ公園、厳密にいえば其処に存在する妖精郷では異変が発生していた。

 

 フェイが彼らから依頼を受領*1した際に第二次セプテン直後にあったという妖精達の狂乱。

 

 異界内部にて高濃度のマガツヒが発生及び拡散、妖精達が影響を受けて狂ったというのは経緯であり、それと同様の事が今のヨヨギ公園で起きていた。

 

 幸い、これを予期していた彼らは事前に対応できるように準備を重ねて、即座にこれを鎮静化。騒動そのものはこれにて収まったが、フェイが彼らから聞いた話には続きがあった。

 

 

「妖精達が暴走は止められた。だけどマガツヒの流出が完全には収まってない。そして、その発生源も特定できちゃいない。白魔女(ウィッチ)の協力も得てるらしいけど、こんな状況だから解析に回せる人員も少ない。暫くは時間が掛かるだろう、とね」

 

「要は何処から毒ガスが漏れ出してて、しかも場所が掴めてない訳ですか。人手不足で調査も儘ならないと」

 

「短期間で鎮静化できてるだけ上等ではある。ただ、根源が何とかなってない以上は再び異変が発生……場合によっては僕達に出番が回ってくるかもしれない」

 

「……ガイア再生機構が目を付けているのが確かな以上、他勢力からの介入も十二分に有り得る」

 

「辛い戦いがやっと終わった所なのに、また次の火種に気を配んなきゃいけないのがなぁ~」

 

「いったい何時まで続くのでしょうね」

 

 

 フェイの頭を撫でる手が止まり、ぽつりと由奈の口から声が零れ落ちた。

 

 

「いつまで、か。誰も彼もがそれを知りたいだろうけど」

 

「ただ、穏やかな日常を望んでいる筈なのに世界では絶え間なく戦いが巻き起こっている。戦いに対処しなければ、人類の滅亡かどうしようもない終末が訪れるのは理解しています。だけれど!」

 

「……嫌になっちゃった?」

 

「私が心配しているのは貴方です、フェイ。最近あれやこれやと抱え込み過ぎです」

 

「ん゛~……まぁ今が正念場なのが大きいよ。だって、戦いはもっと過酷になる。打てる手は全て打っときたいじゃない?」

 

 

 先の妖精郷以外にも火種は多く燻ぶっている。

 

 まず、事後処理も含めて今回の戦いを無事に乗り越えられたのは日本、アメリカ、辛うじてイギリスといった所。幾つかの国は踏ん張ってはいるものの、受けた被害は壊滅的で覚醒者が少ない小国は国そのものが消滅していても可笑しくはない。

 

 国は滅べば、残るは生き残ってしまった人々だけ。

 安住の地を目指し、亡命の日々が始まる。逃避行の最中に生き残れるか、受け入れて貰えるかは別として。

 

 次にセプテントリオンは終わっても、未だに敵対的な漂流者勢力が健在である点。俗にいう三大勢力はこの戦いの後に世界への介入を強めていくのは想像に難くない。

 

 セプテン戦の最中に戦略兵器を投下し、世界を滅ぼすという手法を取ったデヴァローガの企みも失敗した。再び戦略兵器を投下し続けるか、或いは手法を変えてくるか……どちらにせよ楽観視は出来ない。

 

 そして、多くの者は知り得もしないがこの段階になっても潜む勢力が存在している。活動の規模を縮小し、不気味に沈黙するメシア勢力。未だ地上に在らず、魔界にて浮上を待つガイアなる者達。

 

 ここ数カ月の戦いでその他勢力の数は減ったものの、まだ残存している者達も居る。

 

 そうして考え出せばキリがない程に世界は危機を乗り越えても尚、戦いの日々に終わりが見えない。

 

 

「僕達も強くなったけど、あのドラゴン相手じゃ危うかった。まだ改善の余地はある。仲魔の更新……はもうほぼ出来ないけど装備やアイテムは見直せる。初見殺しをなるべく避ける為に情報も集め直しだ」

 

「……もう今の立場から降りる、というのも難しいですか」

 

「僕が望んでないよ。一応僕は子供だからって言い訳はたつけど、僕の行動の全ては僕が望んだものだ。強くなる必要に駆られたのは今の情勢ありきだけどね……思えば、随分遠い所まで来ちゃったな」

 

 

 始まりは生きる為の日銭を稼ぐ為だった。

 

 自身は元ファントムの実験体、由奈は元ファントムの殺し屋。学も後ろ盾もなく覚醒者でしかない自分達が生き延びていくには必然的にフリーの悪魔稼業に手を染める必要があった。

 

 過程で真澄と出会って一悶着あったり、シロエやラスキンと出会って魔術を教わったり、日本を駆け巡り様々な依頼を熟して、ただの無力な子供が一端のデビルサマナーを名乗れる程度にはなった。

 

 これらが凡そ数年程度の出来事で、其処でのフェイのレベルは精々30程度。数年の下積みがあったとはいえ、この激動の数カ月でそれがレベル90を超えていた。異常極まる環境で異常極まる戦いを乗り越え続けていた成果がそれだった。

 

 

「一年前の自分に、今はレベル90超えてるんだぞって言ったら笑われそうだ」

 

「レベル100に到達する化物を討伐した、といっても同じですね」

 

「言えてる。まぁでも意味はあったんだよ。苦しくても傷ついても、僕達は強くなれたんだから。今後もそうして超えていくしかない。人々が、僕達が望む日常っていうのはその先にしかきっと存在しない」

 

 

 フェイがゆらりと上体を起こして、立ち上がる。

 片手で<ツカレトレール>*2を飲み干しながら、由奈へ手を伸ばした。

 

 

「僕はひたすら前を向いてやっていくよ。君達の心配通り、僕はただのガキだから加減を知らずにすっころぶ事もあるだろうけどフォローしてくれるって信じてる」

 

「最初から当てにされると困りますよ?」

 

「当てにしてなきゃ、僕はこんな無茶してないさ。今後とも宜しく、ってね」

 

 


 

 

 偽りの日の光に照らされた、御伽噺のような庭園。

 異界の片隅、《悪魔の裏庭》*3とも呼称される世界にて合一神オベロンは佇んでいた。

 

 

「人類は三つの災厄を退けた。そして、フェイも竜を協力者と共に討滅に成功した。他勢力の数々の介入は失敗し、現世は薄氷の上にて保たれた、か」

 

 

 騎士であり、仲魔であるクーフーリンより事の顛末は聞いている。

 太平洋における規格外のドラゴンの出現はオベロンにとっても想定の範疇を超えていた。故にクーフーリンを派遣し、場合によってはフェイの保護すら視野に入れていたが

 

 

「つくづく今までと違うな、フェイ。僕の想定を超え、お前は死線の中で生き残り続けている。今まで真っ先に死んだのはお前だというのに」

 

 

 想起する、今まで積み重なった屍の数を。

 間に合わなかった愛し子(フェイ)の数多の死を。

 

 多くは悪魔か人間によって、力もない玩具のままに壊され尽くして死んで。

 他は戦う力は得たものの、抗い切れずに貪られるように死にゆく結末。

 

 そうならなかったのは自らがフェイを保護し、妖精郷へと幽閉して、眠る様な一生過ごさせた時のみ。

 

 どちらにせよ、本意ではないままフェイは死んでいる。それを理解していながら、オベロンは止められないし止める気もない。現状においては痛みのない緩慢な死こそがフェイにとって安楽だと絶望してしまっているが故に。

 

 此度、世界を滅ぼす災厄を乗り越えたとてオベロンの心象に変化はない。

 次に訪れる<四度目の死>(■ネト■シュ)は不可能だと。

 

 だからこそ、テオゴニアに身を置いている。合一神として身を置けるのは此処しかなく、彼らが世界の救済に行きつくかもしれないから。

 

 だからこそ、フェイを安楽のままに間引いていた。その救済は途方もなく時間が掛かるから。

 

 

「確かに、伝え聞いていた貴様の子より幾分か壮健そうだな。少なくとも諦観に満ちた貴様よりは戦いがいがありそうだ」

 

「野暮用は済んだのかい、ギリメカラ」

 

「ああ」

 

 

 ぐらりと、異界が揺れて新たな神が庭へ足を踏み入れた。

 暗い青緑の三つ目の大男、大阪にてミザールの討滅を行っていた合一神ギリメカラ。

 

 彼はオベロンに対して知古のように振舞いながら、乱暴にベンチへと腰掛ける。

 

 

「現世の奴ら、此方が思った以上に手強そうだ。雑多に居る連中でも力に驕り、格下を舐め腐ってる下位の合一神なら殺せるだろうな」

 

「君の抱えてる軍団ならどうだい?」

 

「レベル80、90を超える強者の存在を踏まえれば厳しいだろう。時間を稼げるのは間違いないが、後はその場にいる面子次第だ。所詮、俺と俺が指揮できる兵隊だけではな」

 

「なるほど……だが、セプテントリオンが終わった以上は計画を進めなければいけないか」

 

「やはりヨヨギ公園にあったのか、あれが」

 

「まだ完全ではないが、間違いない。ヤヒロノヒモロギはヨヨギ公園で顕現する

 

 

 ヤヒロノヒモロギ、それは神霊の依代となる霊石。

 

 霊石としての効能を使えば、異世界の神すら呼び出す事が可能。ボルテクス界においてはカグヅチへと接続する鍵のような役目も果たしている。

 

 そして、マガツヒを吸収する機能を持つ。内部に蓄積されたマガツヒを使用しての悪魔召喚、自己のパワーアップ、純粋な破壊エネルギーとしての利用……用途は多岐に渡るが、効力は内包しているマガツヒの量に比例する。

 

 

「ヤヒロノヒモロギはボルテクス界が存在する周回にて多くがヨヨギ公園に保管されていた。その周回の僕とティターニアが管理し、然るべき者に渡すか或いは奪われていた」

 

「だが、疑似的なボルテクス界ならともかく、本来の意味でのボルテクス界は此処に現れていない。だというのにヤヒロノヒモロギが顕現するのであれば……」

 

「積み重なった世界の残骸、その中にあるヤヒロノヒモロギのみが限定的に漂流、浮上する。今回の周回はその条件が満たされているからね」

 

「ヨヨギ公園と妖精郷が健在である。加えて、魔界との距離が何らかの形で縮まっているかどうか。この条件を満たしていなくとも出現する事はあるが……可能性はごく僅かだ」

 

「条件を満たした上でも、ボルテクス界・ダアト以外で現れる可能性は本来低い。今回の調査も万が一を踏まえてだったが……当たりを引いたね」

 

「大外れの間違いだろう。この不安定な情勢であれが現れれば……最悪も考えられる」

 

「前々回はかなり不安定な状態で出現し、極めつけにマガツヒが固体状となってヤヒロノヒモロギ内部へ凝縮。入手を巡って三大勢力で抗争へと発展し……最終的にマガツヒの暴走が原因で関東が文字通りに吹き飛んだ。それは避けたい」

 

 

 オベロン、ギリメカラは共にLv100に到達する合一神。テオゴニアにおいても一時は幹部であった二柱であり、彼らがヨヨギ公園における一連の狂乱、その根源とも言えるヤヒロノヒモロギを重要視するのには訳がある。

 

 ボルテクス界以外に存在するヤヒロノヒモロギは発掘された化石に近い。

 

 滅び去った世界に存在していたヤヒロノヒモロギは世界ともに埋没される。そのまま埋まり続けてゆくべきものがバグによって近似周回に現れてしまったに過ぎない。

 

 この方法で出現したヤヒロノヒモロギは多くの時を経て、機能が不安定化。さらに言えば滅んでいった世界のマガツヒを自動的に吸収し、内部へ蓄えてしまっている。

 

 暴発すればオベロンの言葉の通り、固体状に圧縮されたマガツヒが一気に自滅。惑星とはいかずとも、日本列島に穴を開ける程度は出来る。そう、過去が実証してしまっている。

 

 

「前回は我々テオゴニアの手に渡り、マガツヒも消費し尽くした上で霊石も有効活用できた。だが、今回は前回の浮上よりかなりの年月が経っている……不安定性もマガツヒ量も前々回と同レベルか少し劣る程度かな。勿論、それも予測に過ぎない」

 

「セプテントリオンによって世界が揺れる度に高濃度マガツヒが散布されてしまっているのが決定的だ。話によればエデンの連中も目を付けているのだろう?」

 

「勘づいているかは不明だが、デヴァローガも今回は動き出す可能性が高い。勿論、ヤヒロノヒモロギの用途は暴走させる事だ」

 

「……そうなれば魔界も浮上するのではないか?」

 

「面倒臭い情勢だな、本当に」

 

 

 ヤヒロノヒモロギを求める理由は三大勢力毎に異なる。

 

 テオゴニアはマガツヒも霊石の機能も欲する為に可能であれば奪取をしたい。

 エデンは何より他二勢力に使われるのを嫌う為に破壊か、無力化を第一に。

 デヴァローガは霊石も世界もどうでもいいので爆弾として指向性を持たせて使用、世界の滅亡を目的とする。

 

 既に幾度となくぶつかった三大勢力は互いのやりたい事を把握している。そして、これらの衝突において一番被害を被るのは現地勢力である。

 

 狂乱の異変を察知して多数のDBにいざという時の依頼を出しているのもオベロン達は把握済み。どれだけ迅速に事を為してもDB達による防衛は確定している以上、現地勢力との衝突もまた避けられない。

 

 

「現状イニシアチブを握っているのは僕達だ。予定通り、ヤヒロノヒモロギの奪取を主目的として行動を開始。但し、状況によって最終目標を変えていこう。ほぼ確定でイレギュラーが発生するだろうからね」

 

「俺のやるべき事は変わらん。作戦は前話した通りでいいな?」

 

「ああ、決行のタイミングは僕が指定する」

 

「なら良い。俺は兵の調整に入る。役目を果たせよ、オベロン。それがテオゴニアの為にも、我々の為にもなる」

 

 

 釘を刺すようにギリメカラは言い放ち、庭園より姿を消す。

 ただ一人、仲魔もなくオベロンは庭園を見つめて物思いに耽る。

 

 

「フェイ、我々が事を為したなら妖精郷に来てしまうのかな」

 

 

 自らの存在を認知し、<黄金の花園>ともそれなりに近しいフェイが戦いに参入する可能性は高い。オベロン自身にとってはそれは確信に近い。運命を巡る様に、対峙は必須と考えている。

 

 

「で、あるなら……“私”でも“俺”でもなくただのオベロンとなった“僕”が相手になろう。最早、ティターニアは消えてしまったから」

 

 

 過酷な過去を乗り越え、今を精一杯生きながら、死の宿命を塗り替えるように進むフェイにあてられたのか。オベロンは自らの形を変容させていた。

 

 陰陽のバランスを保つ事なく、ただのオベロンへと肉体も精神を合一。姿形も純粋な妖精王へと回帰し、しかしその出力は今まで以上に。

 

 それは今のフェイと相対する為の覚悟の為なのか、半身であったティターニアを巻き込まない為なのかオベロンには分からない。

 

 或いはティターニアなんて、合一したその瞬間から存在していなかったのかもしれない。愛する妻も子も失った自分が正気を保つ為に、思い込んだだけなのかもしれない。だが、もうそんな事はどうでもいい。  

 

 

「僕は答えを変えられなかった。だが、お前なら違う答えを提示できるのか」

 

 

 この何処までも不条理な世界で、理不尽に命を散らすしかないお前(フェイ)が出した答えとは何なのか。それは安楽な死より価値がある物なのか。示せるのなら示してほしい、とオベロンは願う。

 

 

「我らの故郷、永久の妖精郷にて全ての決着を」

 

 


 

 

 一つの戦いが終わり、束の間の平穏と共に時計の針は回り続けている。

 刻々(コクコク)刻々(ギザギザ)と止まる事なく、動き続けて。

 再び、運命の時は訪れてしまった。

 

 

「ヨヨギ公園で、大規模な妖精の暴走現象……? それだけじゃなくて、何処からか現れた悪魔の集団が内部に侵略しようとしている!?」

 

 

 第三次セプテントリオンより一カ月もたたず、火種は燃え盛った。

 突如として現れた悪魔の軍勢がヨヨギ公園に侵略を開始。内部にて再度発生した暴走現象の沈静を図っていた<黄金の花園>の面々は迎撃しつつ異界奥地へ退避を開始する。

 

 

「クソッ! どっから湧いて来たんだこいつら! どいつもこいつもつえぇし! 悪魔だぁってのに統制が取れすぎてる!」

 

「少なくともガイア再生機構じゃないな! 兎にも角にも手筈通り、応援を呼んでくれ!」

 

 

 ヨヨギ公園周辺に居たDBが集結、妖精郷へと入り込んだ悪魔達との交戦を開始。事前に異変によるイレギュラーを予期していた彼らは外部へと応援を要請。<黄金の花園>と盟約を結んだ者達が次々と戦場に駆けつける中でソレが現れた。

 

 

『俺達にとっての運命の時が訪れた。本意ではないかもしれんが、お前達にも付き合って貰う』

 

 

 邪龍ファフニール、魔神ホルス、鬼神アタバク。

 悪魔達の軍勢を率いるレベル90を超えた最上位悪魔の襲来。

 

 そして、軍勢の全てを統括しながらDB達へ猛然と襲い掛かるレベル100を超えた悪魔達の総大将。合一神ギリメカラがDB達の前に立ち塞がり、<黄金の花園>との合流を拒むように応戦する。

 

 

「……僕も行かなきゃね。貴方も居るんだろう、オベロン。決着をつけよう」

 

 

 レベル100の合一神の到来により一転、劣勢へと追い込まれたDB達の元へと久遠 フェイを筆頭とした実力者達が合流。戦いの規模はもはや緑化会の時のソレすら超えて

 

 

「テオゴニアは動いた。我々も彼らを利用し、行動を開始しましょう。準備は良いですね、楽園の同志達よ。アレを無力化しないと上層部も困りますから」

 

『<プルシャ>と<カーラクータ>は不発に終わった。故にこれよりヤヒロノヒモロギによる世界滅却を目標とする。総員、万物灰燼・処分せよ』

 

 

 多くの勢力を巻き込み、それぞれの思惑を叶えようと誰も彼もが火に油を注ぎ続けている。

 妖精郷はかつてのように焔に包まれ、戦火の熱は何処までも広がっていった。

 

 

 

 

-【混沌の妖楽園編】 開幕 -

 

 

 

 

 ―――――そして、全ては混沌の渦の中へ

 

 

*1
ロストキリギリス『新たな仲魔と来るべき戦い』にてメアリ・バルツァーより話された内容

*2
ペルソナ3出典。味方の疲労状態を治すアイテム

*3
真VV出典。龍穴よりアクセスできる仲魔の休憩所のような場所で、仲魔とコミュったり出来る

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