真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -ロストキリギリス- 作:名無しの骸骨
フェイと出会ったあの日を思い浮かべる
『君が、僕を買ってくれる人?……ふふっ、綺麗なお姉さんだ』
衣服を纏わず、病的なまでに白い肌には至る所に生傷があって
煌びやか金髪は黒ずみ、宝石のような碧瞳は一切の明るさを失っている
鴻上博士が試作で作り出した
奴に捨てられ、
可憐な容姿に引かれたのか、特異性に興味があったのか、当時の私の考えは色々あったのだろうが
結局の所、今に絶望しながら何かを願っているような姿に同情したからかもしれない
『お姉さん……久遠 由奈っていうんだ。じゃあ、由奈って呼ぼうかな』
『由奈は僕を……食べる為に買ってくれたんだよね? ううん、それ自体はいいんだ。僕にとっては誰かの糧となれるのは幸せな事だと思えるから。何処でも食べて貰って、いい』
柔らかく小さな手が、私の頬に触れた
羅刹に染まり、食人鬼でしかないこの身を慈しむように
『でも食い殺しちゃうのは止めとこう。きっと君の疵になってしまうから』
『だからね、もし全部喰らいたかったら……僕が死んだ後にしてほしいなって』
『全ては癒せないけど、それで君の中に僕は確かに残る。大丈夫、寂しくない』
そう告げられた言葉が何度も頭を過った
既に終わってしまった日々、二度と取り戻せない時に手を伸ばして必死に今から目を逸らす
『だからね、僕が死んでも……泣かないで』
かつてそんな言葉を残したことを思い出した
そうして、私は見たくもない今を認識する
貴方が死に、還らない現実を直視した
「……無理ですよ。貴方だって私が死んだら泣くでしょう」
涙は零れず、しかし失意は溢れて止まらなかった
こんな結末を迎える為に私達は戦った訳じゃない
こんな最期の為に貴方と生きてきた訳じゃない
こんな私を生かす為に貴方を守った訳じゃない
激情と後悔は渦巻き、無意味に消えていく
伝えるべき思いも言葉も届ける相手を見失ってしまった
「起きて下さいよ、フェイ……お願い、お願いですから……!」
迷子のように私はフェイの躯に縋りつく
喰らえば、残った肉体すら損なってしまうから
この寂しさを捕食で埋めるなんて不可能だと心が訴える
悲哀が本能を凌駕して、あの日の約束は果たされず
朽ちた妖精郷の風がただ泣いていた
「酷い顔をしているぞ、メアリ」
「バルツァー先生……そっちはもう大丈夫なんですか?」
「ああ、各自対応に当たっている。
此処から出るのに苦労はしそうだがな」
混沌の三つ巴の幕は下りた
フェイが放った
最悪を多くの奇跡によって乗り越えた彼らが目の辺りにしたのは凄惨極まる妖精郷の崩壊具合だった
中枢に存在していた“全て”が黒い灰と化していた
踏み締める大地も見渡す景色も灰色で、壊れかけ
時間と空間は激しく捻じ曲げられた挙句に今この場は魔界との距離を大幅に縮めてすらいた
「幸い、ラスキン老とシロエとは通信は繋がった。
あの合一神は打倒され、救援は送っているようだが……例の<禍の団>が無尽蔵に溢れているらしい」
「直ぐの脱出は難しい、という事ですね」
「
失敗すれば魔界或いははたまた別の虚無に落ちかねん。
完全なる崩壊を迎えなかっただけ御の字というべきかもしれないが」
空虚な風が吹いて、黒い灰が舞って散る
朽ちた妖精郷は破綻寸前であったものの戦闘が終わって以降、悪化はしていない
全てがギリギリの所でフェイが全てを終わらせるべく博打に打った事、博打は成功した上で崩壊要因の一つであったヤヒロノヒモロギのマガツヒが多少なりとも消費された事、二陣営の全てが一度に消滅した事
これらの要因が重なり、崩壊は急ブレーキを掛けて沈静化
妖精郷の現状が最悪に近いのは変わらないが、最低限復興の余地は残った
「この世界は時間を掛ければまた復興できます。しかし、人は……」
メアリの憂いを込めた視線が蹲る由奈と、彼女が抱く骸へと向けられる
この戦いにおける唯一目を覚まさず、生還が出来ていない者
久遠 フェイは蘇生魔法を用いても復活を果たせなかった
原因は分かりきっている
エターナル達と夜叉鬼達の全ての猛攻を耐えきり、半死半生の状態で放たれたのがあの光だ
朽ちかけた心体に過剰なまでのマガツヒを注入し、限界を超えての連続行動
自壊からの自爆の果てに、フェイの全身は
あらゆる魔法とアイテムを用いて肉体の姿形だけは元に戻せたが、魂までは癒せない
妖精郷に溶けるようにフェイは眠り続けている
「……私はまだ諦めた訳ではありません」
フェイを抱えながら、由奈が立ち上がる
幽鬼のような無を顔に浮かべながら、内に秘めた激情を必死に抑え込んでいた
「今ある手段ではこの子は治せなかった。ですが外部なら、まだ可能性はあります」
「……<黄金の花園>は全面的に協力するわ。こうなったのは私達のせいだもの」
「全てはあの侵略者共が悪いのですよ。
それに、私はこうなると薄々分かっていながら止める事も肩代わり事も出来やしなかった」
最愛の人が届かぬ場所へ行こうとしている焦燥と罪悪が由奈の心を締め付ける
フェイが取った手段の果てを由奈は予測がついていた
予測がついて尚、代替案を出せずにこのような結果に至ってしまった
メアリもまた由奈と同じ立場であった故に苦しんでいる
では誰が悪いか、これは明確に三大勢力だ
<黄金の花園>と妖精郷は一番の被害者であり、フェイ達は契約に則って彼らの救援に来た立場である
率先して戦いを選び取ったのは飽くまでフェイ達だった
「だから、貴女は気を落とさなくていい。
この子を戦わせてしまったのは私なのだから。
そう、守れなかったのは私なんだ……」
しかし、いざ死んでしまえばこうも無様に心は壊れてしまう
フェイはまだ外部を頼れば助かるかもしれない、そんな逃避に浸らなければ由奈は正気を保てない
エリヤや由奈の手を借りて、無理なら人脈の全てをあらゆる手を使って、命を繋ぎ止める
助かった後にどうしていくべきか思考が巡った
もうフェイを戦わせたくない、彼を何とか説得して、必要なら閉じ込めて私達で管理すれば
外の人々の意見はもうどうでもいい。こんな子に戦いを強要させる現実はそもそもとして間違っている
全て無視して、ただ思いを吐き出せばいい
後は、後は、後は
じゃあもしフェイが死んでしまった後は……?
意味がない。理解したくない。考えたくない。嫌だ、それだけは
そうなったら全てが色褪せて、生きる意味さえなくなってしまうから
ガチガチと震える奥歯を噛み締め、思考を必死になって逸らして――
『残念ながら君達にフェイは取り戻せない。その子の死は運命であるから』
唄うような呟きが響き、同時に展開された何かが灰色の風景を、緑と光に満ちた
「……オベロン」
空を見上げた由奈はそれを成した者の名を呟いた
合一神オベロン、かつての妖精王が全てが終わった後に降臨した
『酷く怪しい登場であるし、其方の言い分も多くあるのだろうが……
僕が先の二陣営のように攻撃を仕掛けなかった事を踏まえ、まず話を聞いてほしい』
新たなる合一神の登場に、即座に戦闘態勢に入るバルツァー達
これを牽制するようにオベロンの仲魔は立ち塞がる
『単刀直入に話そう。フェイのその状態はもう手遅れだ。
魂は肉体から殆ど離れ、その子は逝くべき場所に逝こうとしてる。
外部に頼っては最早間に合わない。だが、妖精王である僕ならばフェイの命を救える』
「…………!」
オベロンの言葉に、由奈は目を大きく見開かさせた
もうフェイは間に合わないと、そんな想像が何度も頭を過っていた最中に蜘蛛の糸が垂れ流された
『方法を詳細に話す暇はない。その子の状態は火急だ。速やかに決断してほしい』
「貴方に頼れば、フェイは……フェイは帰ってくるんですね?」
『その子の魂と肉体は保証する。後遺症はあるが、其処だけは確かだ』
「……ではお願いします。私も同行させて頂きますが」
『勿論。久遠 エリヤと神城 真澄、この二人もまた妖精達が連れてくるだろう』
「由奈さん!」
「……彼は、少なくともフェイに関する事だけは信用におけます。
それに私達にフェイを救えなかった以上、こうする他ないじゃないですか」
差し出されたフェイの蘇生という何ものにも代えがたい選択肢
これを言い出したのはテオゴニアの合一神ではあるが由奈は過去にオベロンに命を救われた過去*1を持つ
さらに言えば、オベロンはフェイ達の手助けをした事はあっても敵対するような行為は行わなかった
其処までの信用を以て、由奈はオベロンを信じる結論に至った
メアリの叫びでさえ決定を裏返す事は出来ない
『メアリ……今代の
しかし、もう口出しは止してほしいな。これは僕とこの子の問題なんだ』
「……では、これだけ聞かせてほしいわ。何故、彼が亡くなった今に現れたの?」
テオゴニアによる侵攻に対する怒り、他諸々の文句を呑み込んでメアリはオベロンの信用を測る一つの問いを投げ掛けた
『エデンの部隊と交戦状態にあった、崩壊し掛けた妖精郷を踏み留まらせる為に小細工をしていた……そうして、手遅れになった。デヴァローガとエデンの戦力を見誤った、僕のミスさ。全面的に僕が悪い』
「本当にそれだけ?」
『我が目的を果たす近道、その為にわざと蜘蛛の糸を垂らすような塵にまで堕ちたつもりはないよ』
何故愛するわが子が亡くなった後に現れたのか?
この子がこうなる前に救う事は出来なかったのか?
やろうとはした
やろうとはしたが、想定外の二陣営の戦力と妖精郷の崩壊具合に手を尽くしていたら間に合わなかった
そういうどうしようもない答えしかオベロンは捻出できなかった
救えなかった事に対する絶望と無力、螺旋の周回にて幾度となく味わってきた感情に苛まれながらオベロンはメアリから視線を外す
『話は終わりだ……君は
僕の求める彼女ではないし、僕が救いたかったこの子でもない』
話を打ち切るように乱暴に放たれた発言に伴い、妖精郷の変貌はさらに加速していっている
元からあった妖精郷に上書きするように、全ての色は妖精郷本来の物へと変わる
それは神域の乗っ取りであり、異界の主がオベロンへとなっている証でもあった
メアリにはこれに抵抗する力は残っていない以上、これは避けられない事象だった
『この妖精郷も、一時的に借りさせて頂く。だが安心すると良い。
用が終われば、この上書きは消失するし本来あるべき妖精郷ももう少しマシな状態になってるだろう。
君達もこの瞬間に無事に外へ誘導するさ』
「……貴方は、何が目的なの?」
『過去には苦痛が満ちて、今に救いはなく、未来は袋小路を繰り返す。
なら世界の全てを変えて、黄金の神話を続ける他はない。
だが、それでは我が子は救われるその日まで死に絶え続ける』
妖精郷の構造がオベロンの思うがままに代わってゆく
オベロンが許した者以外、侵入を許さずに時空間が歪む
そうしてメアリ達は強制的にこの場から排出されようとしていた
『だから夢を見させるのさ。全てのフェイが、安らかに眠れるように……何度だってね』
邪魔をするな、と口外にそう告げながら舞台は塗り替えられる
ハリボテの妖精郷を神たる妖精王が掌握した
全てはかつて叶えられなかった
これから堕ちてゆく
たった一人を救い続ける為の永久の妖精郷が此処に顕現する
<久遠 フェイ>
二陣営の馬鹿火力で半分死んでる状態&マガツヒ過充電スキル二連射&命削りの4回行動で肉体がミンチになってLOSTしかけてる人。ワンチャン生き残りをかけていたが普通に帰ってこれなかった
<久遠 由奈>
ミンチになっているフェイを初手で確認して発狂した人
外面だけは蘇生を信じて保っていたが、内面は病み切っている
だからこそ蜘蛛の糸を掴んでしまった。掴むしかなかった
<黄金の花園>
地獄を乗り越えて虚無が残ったが、とりあえず全員生きてる方々
バルツァー先生が滅茶苦茶頑張ったと思われる
オベロンが妖精郷乗っ取ったのでこの後はラスキン達と合流して、禍の団レイドに参戦している
<エデン陣営>
実はフェイ暗殺の命も受けていたのでメタ戦術(由奈を警戒して魔法ダメ軸)もやって潰しに来てた連中
ほぼフェイを詰ませていたが、デヴァローガのせいで盤面ぐちゃぐちゃにされた挙句に殺しきれなかったフェイの光に呑み込まれて死んだ
<デヴァローガ陣営>
特にフェイの事は知らない奴ら。へー、セプテンでこっちが過去に投下したドラゴン殺してんなー位には思ってる。フェイ達にヘイトを大分押し付けていたが<業炎>の火力が尋常ではなく全員満遍なく削られた所で光ぶっぱされて死んだ
<合一神オベロン>
全てが終わった後に登場した神。過去のトラウマ(一杯)が刺激され、此方も目が死んでいる
エデンとデヴァローガの介入は予測していたが、予想以上に過剰戦力だったのとその殆どの矛先がフェイ&黄金の花園に向いていたのでガチ焦りしていた