真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -ロストキリギリス- 作:名無しの骸骨
凍てつき、生気を失う肉体
魂は砕け散り、全ては暗闇へと落ちていく
感情の全ては形を保たないまま溶けて、魂の破片が万華鏡のように煌めきながらかつての末路を映し出していた
多くの僕は、誰かに利用されて道具のまま消費されて朽ちていた
其処から抜け出せた僕もまた大切な物を守れずに力尽きて
強くなれた僕も戦い抗って、こうして死んで逝く
どの僕も、本質は変わりはしなかった
無価値で無力な自分が嫌で、それでも大切な何かを守ろうと力を求めていた
微かに差し込む光に必死に手を伸ばして、最後は結局暗闇に落ちる
徒労のような生が酷く虚しい
数多の周回を見てきただろう三大勢力の誰もが宿していた諦観
その気持ちの一端が少しだけ理解できた
「っ、て……あれ?」
突如、堕ちていく体が浮遊しながら止まった
同時に世界に色が戻る。失われた全てが僕には感じ取れていた
瞼を開き、風景を眺めれば暗闇の中で星々が輝く宇宙が見えた
中央に浮かび上がる水色の惑星、数多の衛星が環を描いて廻っている
『天王星を直に見るのは初めてかな、フェイ』
聞こえる筈のない他者の声に、ある種の確信を以て振り返る
蝶のような羽に、西洋の王族のような衣服、男か女かも分からない中性的な容姿に僕と同じ金の髪
前にあった時より彼の容姿は少し変わっていた
「……オベロン」
『そう、あまり深刻そうな顔をするな。とりあえず一命は取り留めたよ、ギリギリだったがね』
方法は皆目見当つかないけれど、今ここで彼が出てきた事に疑問はない
あの状態の僕に介入し、命を拾えるとするならオベロンしかいないとは思っていたから
ただ、オベロンに対して色んな感情が混ざってどう反応すればいいか僕には分からなかった
そんな僕を見て、オベロンは苦々しく笑っている
「何から言い出せばいいか、分からないんだけど……なんで天王星?」
『これを見て貰えれば少しは分かるだろう』
オベロンが指を鳴らし、周囲の風景が一変する
眼下に広がる見渡す限りの森林に、見たこともない程の多くの妖精達
彼らは人々と言葉を交わしながら平和に日々を過ごしている
其処は紛れもなく妖精郷だった
『オベロン、チタニア、パック、アリエル、マヴ……
天王星の衛星として存在していたかつての妖精郷さ』
「その口振りだと、もう存在していないんだね」
『ああ』
再度、オベロンの指が鳴って風景が変貌する
あれだけ煌びやかに在った全ては消え去って、暗闇だけが残っている
空間を満たす熱と、黒ずんだ星の欠片達
これらは何かに焼き尽くされたのだと悟れてしまった
さながら太陽に全てが呑み込まれたかのように
『私はフェイを失い、救おうとした末路でティターニアと合一を果たしてしまった
世界を放浪し、テオゴニアに拾われ……多くの時を重ねた末に妖精郷たる星々を開拓した
これは滅びてゆく世界より生存した人々と妖精達へ新たな居場所を与える為に
いずれフェイを取り戻した末に帰るべき場所を与える為だった』
オベロンが僕を見つめる
より正確に言えば僕ではない僕……最初に損なわれたフェイを彼は見ていた
『それよりまた時を経て、過去の周回でフェイを救い出し、僕の作り出した妖精郷へ誘った
そうすれば周回の中でフェイは生まれず、同位体がその役目を果たす
世界を救えないのならそれが最良だと、そう思っていた
……だが、結果はこれだ』
結果は、もうとっくに示されている
取り戻した筈の世界はまたもや砕け散った
救い出したかつての僕も妖精郷に居た人々や妖精達も……炎の中に消えたのだろう
そうしてまた、オベロンだけが生き残った。生き残ってしまった
『失った物はまた取り戻せばいいと……そう考えた罪であり、罰なのだろう
あれ以降、新たに妖精郷を作り出すのにも失敗した
再びフェイを救い出せたとしても、定められたが如く繰り返し早死した
時を無意味に重ねる度に……フェイの生に間に合う事さえ少なくなっていった』
オベロンが俯き、悔悟を重ねる
その瞳は乾きながら疲れ切っていた
『原因は、分かっている
僕がフェイを救えず、フェイは苦痛の中で死ぬ……因果がそう記憶してしまった
どれだけ手を伸ばそうとも運命は死を告げてくる
失敗したのだ、全てに』
煌びやかな
合一神に至った彼の光は眩い筈なのに、その色彩は澱んでいる
黒々とした諦観が全身を包んで、もう手放せない
魂が老いたまま彼の視線は過去に囚われ止まっている
『嫌にならないか、この世界が
どれだけ足掻こうとしても明確な悪意によって救いは阻まれている
余裕をなくした人々と悪魔は自分の事しか考えられない
我々の手が真の救済に辿り着けるかどうかも分からない』
オベロンの思念が、言葉を通して痛烈に突き刺さる
膨大な時と苦痛を次ぎ込んで全てが消え去った虚無と絶望と諦観
『だがそれでも……時を重ねれば、届きはする筈だ
お前は眠り続ければいい
本当の意味で世界の救済が為される、その時まで
僕がお前を、フェイに夢を見させ続けてみせるから』
安易な同情を口にするのも憚られるから、上手く言葉が出てこない
……けれども
「その夢はもう見ない……僕は生きるよ
未来に何があるか分からないけど自分の運命は自分で決めたいから」
『飽くまで、そう言い張るつもりかお前は
分かっている筈だ。あの
どれだけの苦難が、これから押し寄せてくるか想像できないお前ではあるまい
現に僕が救わなければお前は此処で死んでいただろう!』
“今回も乗り越えられたから次も何とかなるだろう”
そんな淡い希望を抱いて、多くの人々は進んでいる
セプテントリオンの被害は甚大だったが生き抜いた人々も少なくはなかった
アメリカは健在で、日本もその運営には問題はなく
しかし、“次”が何とかなる保証なんてものも存在し得ない
僕は結局ミザールの増殖に対して何ら決定打を与えられていない
解決方法も提示できないまま海面上昇・津波を場当たり的に抑制し続けただけで如何なる方法でミザールの出現が止まったか分かっちゃいなかった
無意味ではないが、同時に無力だった。結果がそう示している
だから危機感は無駄に積もるがやれる事は今までと変わらない
迫りくる滅びに全力で抗うだけ……滅びに抗えなくなるその時まで
世界の人口は10億を切り、多くの国や勢力が消失した
次はどうなる? その次は、次の次、そのまた次は?
一体どれだけ犠牲を払って、いつ終わるのか?
この世界は絶え間なく苦難を人類に示し、絶望を突き付ける
ヨヨギ公園、妖精郷が三大勢力全てに襲撃を受けたのもまたその一つに違いなかった
『お前は十二分にこの世界で生き、苦しんだ果てに一度は死んだ身だ
これより愛する者と、死ぬその時まで夢に堕ちたとして……一体誰が責められる?』
「かもしれないね。でも、逃避じゃ何も変わらない
結局死の運命は僕に付き纏うし、貴方もそれに囚われたままだ
こんな事を続けた所で楽になりはしない……もう終わりにしよう」
かつての日にオベロンから提示された安らかな楽園で愛する人々のみと一生を過ごす甘美な夢
だが夢は覚める物であり、本当の意味で永遠には続かない
何事にも終わりがあって、だからオベロンは苦しみながら永遠を繰り返している
『……僕の言葉で意志を曲げるつもりはないという事は分かった
ならば彼女達に問いかけてみるといい』
視界が浮上するようにして歪む
夢が覚め、意識が取り戻されるのに近い感覚
宇宙は視界から消え、暗闇へと戻った先に日の光が差し込んだ
「フェイ!!!」
「うわ、ちからつよ……つよいって、由奈」
差し込む光を間近に瞬きを繰り返していれば強く体を抱き締められた
涙を流し、縋りつく由奈の姿がまず見えて
その後ろには焦燥と安堵を重ね、酷く感情を乱している真澄とエリヤが居た
ここまでの経緯は分からず戸惑うが、彼女達が五体満足で生きているという事実にまず安堵した
「状況はオベロンから聞いている。こうなるのであれば俺達も別動隊に加わるべきだった……すまない」
「あっちもギリギリだったから難しかったでしょうけどね
でも、息を吹き返して本当に良かった……本当に」
「心配掛けてごめんね、エリヤ、真澄……由奈も」
「一人で無茶しないでください!!!」
「うん」
由奈を安心させるように頭を撫で、エリヤと真澄にも謝りながら改めて周囲を見渡す
朽ちていた筈の妖精郷は光を取り戻し、自然を溢れさせている
しかしその様は人造的で何処か不自然に感じられた
オベロンが結界や神威にて再現した物と、断定しながら……数m先に佇むオベロンを見つける
『最愛との再会が叶って何よりだ
その上でまた問おう……“どうする?”』
オベロンは問い掛ける、永遠の夢に堕ちるかどうかと
由奈達もあの場に居た以上、問いの意図は分かるだろう
頷けば僕達はこの異界に囚われ、一生を過ごす
内部の時間は外部とは乖離し、経過していく時間は僕達が操作できる
此処が夢である以上、生体維持に必要な全ては問題ではなく穏やかな一生を過ごせるだろう
果てに待つのは安楽なる死
戦いで得られる痛みも苦労もなく、飽和した安らかな最期が待つ
拒否すれば僕達を強制的に夢に堕とすべくオベロンとの戦闘になるだろう
今の僕の状態では勝算は低いだろうが打ち倒せれば自由な未来が開ける
越えた先にあるのは幾多の試練と戦い
果てに待つのはどうしようもない絶望かもしれない
どうあれ僕は今を生きる為に戦うと決めているが、彼女達は分からない
由奈と真澄は過去に“キリギリス”ではなく“アリ”として異界に籠っての穏やかな日々を望んでいた
エリヤはアンナとウリックを失い、荒れ狂う情勢の中で傷心は癒えていない
そこまで考えれば何も言えなくなってしまった
戦いたいというのは僕のエゴでしかなかったから
「……答えはもう決まってるって面ね、フェイ」
そんな僕の心境を見透かしたかのように真澄が口を開いた
「僕はこの世界で生きていたい
でも、それはずっと戦い続ける事だから……」
「そうでしょうね
少なくともまだ後1年位、其処まで何とか生き残れても荒廃した世界が残る
神話の終末の如く、誰も生き残れないか選ばれた人々しか存在できないかもしれない」
その中に僕達が入っている保証はない
こうして前線に戦っている以上、いつ命を落としてもおかしくない人生が続いていく
「でも、貴方がアリではなくキリギリスを選んだからこそ今があるの
キリギリスではなくアリとして過ごしていたらマンハントに狩られていたでしょうし
戦い続けたからこそ私は一族の因縁に決着をつける事が出来た
貴方のお陰で、今の私は此処に居るわ」
身に纏う巫女服を正し、真澄は僕の前へと出る
続くようにエリヤが隣に歩んだ
「俺も同じだ。お前と出会わなければ生きていく事も……
アンナとウリック、あの子達と向き合う事すら出来なかった
お前のやってきた事に確かな意味はあるんだ、フェイ」
「でも、これからもずっと辛い道に君達を付き合わせてしまうよ」
「お前にだけ辛い思いさせるのよりは、ずっとマシさ
俺にはもうお前だけしか残っていないんだからな」
エターナルとして戦い、最後には灰になったアンナ達の最期が脳裏を過った
エリヤは離別を懐旧して悲痛な笑みを浮かべているが、彼女の瞳には確かな光が宿っている
「そのお前が明日に希望を見出したなら俺もそうしたいと願うんだ
一緒に運命を乗り越えよう」
「……ありがとう」
二人は戦う事を選んだ僕を肯定してくれた
でもまだ、由奈が立ち上がれていない
由奈が悪いんじゃない。原因は僕にある
僕はまた彼女の心を傷つけてしまったから
「由奈、君はどうしたい?」
自分を顧みなければこうなると分かっていたのに、ただ最善だからと命を捧げた
もし立場が逆で由奈が僕を庇った挙句、無残な死体だけが残ったのならと……考えたくもない
だから、まずちゃんと話さないといけない
傷つけ合う事はあっても、心はすれ違わないように
「……貴方を戦わせてしまった原因は私です
戦う事しか能がない、穢れた私の傍に居る為に貴方は強くなってくれた
でも嫌になったんです。貴方を守り切れず、傷つけてしまう事に
それでまたあんな風に死なせてしまって……!」
呪われた羅刹の血、それによる人食いの業、これらを抱えたまま生存できる比類なき戦士としての才能
鋭くも堅い研ぎ澄まされた魔剣のように複合されたその力は途方のない物だった
しかし、その力故に裏社会でしか生きられない
彼女自身に表社会で生きていける出自・経歴・知識がなかったのも大きかっただろうが
久遠 由奈には戦い以外の選択肢は用意されていなかった
どれだけ力があろうとも心はまた別であり、由奈は羅刹としての血も力も忌避しながら戦いそのものを嫌っている
自分が傷つくのは耐えられるが、大切な他者が傷つくのが許容できない
僕もそういう人間だから気持ちはよく分かるし、僕が強くなりたかった最初の理由もそんな彼女に寄り添いたかったのが本意だった
「次は上手くやる、なんてのは言い訳にすらならない
だからまぁ、うん……そうだね
あんまり上手く言えないけれど、やりたい事が出来たんだ
その為にこれから頑張っていきたい」
「……それって何です?」
「色々だよ。此処の皆と一緒に何処か旅行に行ったり
一日中のんびり過ごしたり、仕事も頑張っちゃったりさ
面白いアニメとかゲームとかも積んでるの多くあるし
後はそうだな、学校とかも興味あったり
聖華学園とか行ってみたいんだよね、体験入学とかでも良いからさ」
「何だか、俗っぽいですね。もっと格好いい事言うかと思いましたよ」
「言おうと思ったけど、全然思いつかなくて……」
「……でもちょっと安心しました
私は貴方が遠く感じていましたから
一体何故ここまで必死になっているのかと」
「僕も悩んではいたし、不思議だったんだよね
我ながら何で此処まで無理に頑張ってるのかって疑問だった
現状が全力全開を強いてくる、まぁそれもあったけど
やっぱ……みんなで今の世界で過ごすのが一番楽しいと自覚できたんだ
仮にこの夢に堕ちちゃったら出来ない事も一杯出来てしまって
本当の意味で笑えなくなる、それは嫌なんだ」
寄り添いたいと思いはいつしか対等になりたい、守りたいという願望へと変わった
何かを知る度にやりたい事が広がっていって、願いは移り変わる
僕の根本の望みは大切な人と穏やかに生きる事
牢屋に囚われた奴隷として望んだ最初の、幻想のような夢
けど今はより多くの幸福が欲しかった
三人とだけじゃなくて他の人達と関わりあうのも楽しかったし、戦い強くなって誰かに認められるのも心地よかった
他にも上げればキリがない。エゴが肥大化し、欲深くなったと言えるだろう
よりロマンチックに言い換えるのなら……果てない夢がいつの間にかに出来ていた
「此処は平穏で、何にも侵されず……きっと末永く僕達は過ごせるだろう
でも、それだけだ。退廃的な平穏が僕達を蝕み、最期には死を選ぶだろう
これは不幸な死ではないけれど、幸福な終わりでもない
叶うならハッピーエンドを……望んで、追っていたい」
「光を追って、もし叶わず闇に堕ちてしまったら?」
「その時は落ち込んだり、絶望したり、悔んだりする
だけど其処で終わりじゃないんだ
妥協して、改善して、考え直して……そうしてまた新たな願いをきっと見つけられる
諦めるのではなく叶える為に……今は至れなくとも至れるその時まで
少しずつ歩んでいく事は出来る筈だ」
「この世界ではどうしたって叶わないかもしれません」
「その可能性はあるかもね
でも、まずやれるだけやってみよう
未来なんて誰にも分からないんだからさ」
俯く由奈に、手を差し伸べる
言える事は全部言った
信念だとか思想だとかそういうのがあればソレっぽい語りで言えたんだろうけど、今の僕にはこれが限界だ
僕は高レベルの覚醒者であり、同時に無知な子供でしかない
理屈ではなく感情で訴えかけるのが一番だろう
これもエゴではあるけれど僕が彼女に寄り添ったように、彼女も僕に寄り添ってくれると
そう信じている
「私はただ、貴方さえ居れば幸福で在れると思っています
それは今も変わっていません
けど、真澄やエリヤ……他の皆と過ごした日々も確かに楽しかったんです
それは否定できません
もう少し欲張ってみるのも、悪くないかもしませんね」
手を取り、由奈は立ち上がった
表情に憂いはあっても迷いは断ち切れた様子だ
「あー、後一番の理由言ってなかったかもしれない」
「何で人が立ち直った後に気になる事いうんです……?」
「でも改めて考え直したら、アホみたいにこっぱずかしい理由だから言わない」
「何で其処で言い渋るんです!?」
「未練とかやり残しとかあった方が良いでしょ
だって僕達はこれから明日の為に戦うんだから」
「それっぽく言い訳してるだけではありませんか?
……まぁ分かりましたよ。征くのなら真っすぐ歩んでください
道は私が斬り開きますから」
「うん!」
そうして言葉を尽くして、僕達は揃ってオベロンへと向き合う
随分と時間を掛けたというのにオベロンは何もせず、佇んでいるだけ
「待たせたね」
『いや、いいさ
姑息な手段でお前を止めようとしたのは此方であるし
待つのは慣れているからね
それに子の成長を喜ばない親はいない
例え別の世界、別のフェイだとしても……お前が見出した希望は素晴らしい物だ』
オベロンが僕を見つめる視線は眩しい光を見つめるかのよう
示した言葉、行動、これからの全てを見定めながらオベロンは淡々と言葉を紡ぐ
『だが、お前は今まで叶わなかった幻想に彼女達の命を委ねた
今の世界において未来を目指すという行いがどれほど重い物であるか
理解できないお前ではあるまいよ
青臭いだけの希望は無力で、何も変えられない
だからこそ停滞であろうとも妖精王として僕は永遠の夢を提示している』
「もうネバーランドは必要ない
人々は夢を見るけれど、それは明日を迎える為だ
暗い夜を超え、夜明けを目指す
不確定でもより不幸になるかもしれなくとも
辿り着く“明日”は僕達が決める!」
『ならば是非もなし、我が子よ
譲歩は此処までだ』
対話の時間は終わりを迎えた
微笑みを浮かべ、オベロンは戦意と神威を解き放つ
偽りの妖精郷が揺れ、その全てが僕達に敵意を向けている
『お前が幾ら歩んだ所で辿り着ける理想郷なぞ存在しない
歩んだ先には須らく無情な今だけが残り、幻想は消えてゆく
それでも足掻くというのなら僕程度、超えられないんじゃ話にならない』
オベロンの瞳が紅く輝き、笑みが深まる
合一神にみられる急速なマガツヒの膨張、即ち全力の戦闘態勢
“やれるものならやってみろ”
そう言わんばかりにオベロンは全力全開で僕達を潰しに掛かるだろう
「上等! そっちもトラウマで手を抜くなんて無様、晒さないでほしいな!」
『言うようになったな。ならば現実を教えてやろう』
深呼吸をして、息を整える
オベロンによって修復された魂は継ぎ接ぎだらけで、あまりに不安定
長期戦は望めないがそんな事はオベロンは百も承知だろう
再び何かしらの勝ち筋を見出さなければならない
考える時をまず稼ぐべく、マグネタイトを必死に練り上げる
「『
掛け声が重なり、互いの仲魔が召喚される
平常から戦闘へ、思考を、動きを加速させていく
そうして運命を超える為の戦いが幕を開けた
<久遠 フェイ>
あれやこれやとそれっぽい信念を探していたが最終的に俗人らしい理由しかないなと気付いた
苦しいし辛いし何もかも不幸に終わるかもしれないけれど、幸福な明日が欲しい
誰もが思う事を胸に、夢の為に走り出した
<オベロン>
一度滅び去った妖精郷を再び取り戻す為に星々に理想郷を築いた
しかし、理想郷は太陽に焼かれてフェイは救えずまま夢は叶わず堕ちてしまった
愛する者を埋葬し続けるだけの墓守であり、もう変われない存在の象徴
故に問う、神たる妖精王として
お前の掲げた光がまず自らを越えられるものかどうかを
でなければ夢に堕ちるしかないと示し続ける