真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -ロストキリギリス-   作:名無しの骸骨

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永久の妖楽園 その4

 思念の渦を掻い潜り、水に沈みゆくように視点を深層へ堕とし込む

 

 精神の奥底への介入は本来単独で行うのは難しい

 自身の体内に異常が発生した際に薬・手術といった外的要因で解決するのと同様に

 他者からのサイコダイブ等を頼って精神の修復は為される

 

 ただ、僕は少々事情が違う

 これまでに僕は幾度となく心の改造・調整・侵入をされてきた過去を持つ

 そうした過去は僕の魂への知覚を強め、こうして目的地へ向かう事を可能としている

 

 暫く魂の底を目指し、より深く堕ちる

 条件は整えたとはいえ一切の補助なしでの秘儀参入(イニシエーション)

 

 道具もなしに暗い海へ潜っているのと一緒だ

 気を抜けば自己を見失って、思念の波に呑まれて溺れそうになる

 

 長い長い道のりはそれだけ多くの時間が沈殿しているのと同義

 

 最初のフェイの死と合一神オベロンの誕生はイコールの関係性

 オベロンの歩んだ時間だけ最初のフェイもまた魂の奥底で眠っている

 

 途方もない時間が物質に囚われない精神世界で立ち塞がる

 迂回路なんてなくて、ただ進んでゆくしかない

 

 進んで、進んで、時の刻みを強引に振り切って

 暗闇に、孤独に囚われないように光だけを目指した

 

 挫けそうになれば愛しい日々を思い出して

 忘れないように何度も何度もそうして

 

 

 気づけば、微かな光が見えていた

 遠ざかる事もなくさらに落ちて、とすんと僕は着地する

 

 其処は妖精郷だった

 現世でも記憶でも幾度となく見た異界であり、故郷

 今までとさほどの差異はない筈なのにこの妖精郷が一番懐かしさを感じられた

 

 

「辿り着いたんだね、此処まで」

 

 

 大樹の下、木漏れ日に金色の瞳を持つ少女が僕を見ていた

 少女は僕と同じ髪、同じ声、同じ姿、同じ心を持っていて

 唯一、瞳に宿す色合いだけが異なっていた

 

 間違いない

 彼女こそが最初のフェイ(オリジン・フェイ)

 オベロンが救おうとして救えなかった愛娘

 

 

「そっ、僕が最初のフェイ

 こっちに来なよ

 話があって来たんでしょ?」

 

 

 彼女は僕の手を引き、大樹の元へ誘導した

 隣り合うように座り込んで僕も日の光を浴びる

 

 ……でも、うん

 何処から話したもんかな

 

 

「……そうだね、僕も悩んでる

 此処まで来たフェイは君が初めてだから

 だけどそうだね、まず僕が何なのかについて説明しよう」

 

 

 最初のフェイ、そのものではないんだよね?

 だとするなら僕が此処居るのは可笑しいし

 

 

「うん、此処に居る僕は残滓に過ぎない

 デックアールヴ……君を襲ったフェイのように何かしらの危害は加えられないし

 逆に僕の方から何かしてあげられない

 ただ、永久の夢幻から君達を眺める事しか出来ない」

 

 

 ずっと……君一人で見続けたのか?

 今に至るまでの全てのフェイの一生を

 僕達のこれまでを

 

 

「なんで、そうなっちゃったかは分からない

 きっかけは多分、お父さんとお母さんが僕を蘇生しようとした時*1だと思うんだ

 合体の魔法(コンバック)を使って、二人の命を犠牲に僕だけを生きさせようとした

 一か八かの賭けで、最悪な形でこれは失敗してしまった

 お父さんにお母さんは吸収、合一されちゃって

 僕は魂の一部だけ漂白されずにずっと残り続けた

 それが、因果の始まり」

 

 

 親は最愛の子を救おうとして救えないまま王は神へと至り

 子は還る場所に還れずに思念だけが取り残された

 

 オベロンはそれに構わず生まれゆく全てのフェイを救おうとした

 でも生きるフェイの魂には死にきれなかった君の思念が憑いているから因果は死へと結びついてしまう

 覆せない因果は次第に確定した運命へと変わる

 果てにオベロンはああなった 

 

 ……なるほど、救われないね

 

 

「死ねなかったから僕も、お父さんも運命に囚われてる

 ……この世界じゃよくある悲劇だし、世界そのものだってそんなものだ

 ずっとずっと時間は進んでいるのに、足踏みして

 また昨日と同じ明日が、次の滅びがやってくる」

 

 

 だけど苦しんではいるんだろう

 この世界だって当たり前に滅んでいってる訳じゃない

 全ての存在が理不尽や悪意に苛まれ、抗い苦しんで滅んでいる

 あらゆる破滅を当たり前にしちゃいけない

 

 

「僕は此処で終わらない夢を見続けている

 ぼやけて霞んで、何もかもはっきりしないけど

 痛みと絶望の思念だけは僕の奥底に届いていた」

 

 

 彼女が浮かべた表情はオベロンにもよく似ていた

 多くの年月を見てきた疲労と繰り返される破滅への諦観と絶望、嘆き

 両眼の煌びやかな黄色は澱んで、僕の顔すら直視できちゃいない

 きっと多くのフェイも最終的にこの心境に到達したのだろう 

 

 

「嫌なんだ、この世界が

 でも……君が望むなら前に進みたいなら、いいよ

 僕を取り込んで現世に帰るんだ

 お父さんに勝てるかは分からないけど、楽にしてあげてほしい」

 

 

 精一杯の笑みと共に出された提案は僕の望む物だった

 

 最初のフェイに何かする力はないけれど僕と同一の魂であるのに変わりはない

 彼女との融合を果たせば、壊れかけの僕の魂を修復した上で新たなる段階へ自らを昇華させる事が出来る

 

 だけど、今の君と融合は果たせない

 

 

「どうして? 君にはやるべき事があるでしょ

 こんな僕に構っていられる時間はない

 前を見て、叶えたい夢に向かって進んでいけばいい」

 

 

 答えは単純だよ、()()()()()()()()()()()

 

 君が吸収される形で融合を果たそうとオベロンには届かないだろう

 前に進むには僕達は互いに向き合い、折り合いをつけなくてはならない

 

 

「いいや、君と僕は違うよ

 僕は君のように戦えないし、此処から出る勇気もない

 運命が変わらなかったのは何も因果だけじゃない

 僕が、僕達がそう望んだからなんだ」

 

 

 伝わる感情で一番大きかったのは恐怖だった

 

 生まれた瞬間から破滅が決まっている人類

 どれだけ破滅に足掻こうとしても次々に襲い掛かるそれは乗り越えられなくて

 足掻いた分だけ苦痛と絶望が加速する

 

 嫌だ、こんな世界

 そこで苦しみたくもないし生まれたくもない

 

 どうしても生きるのならせめて痛みや不幸のない世界で

 其処が例え微睡むような夢でも良いからと

 

 全てのフェイは一度は思う

 多くのフェイはその理想郷を夢見て無惨に死んで

 一部のフェイは与えられた理想郷にて永眠する

 

 

「そうだよ、僕達はそれでよかったんだ

 お父さんが作ってくれた夢は危険が何もなくて、安らかな日々がずっと続くんだ

 退屈を感じれば其処で終わる事だって出来る

 それ以上に望む物なんて何もない」

 

 

 それは違うな

 僕達の望みはそんなんじゃない

 

 オベロンが与えた夢は苦痛を取り除く為に停滞を強制させる

 それはオベロンにとっても僕達にとっても妥協であり、本意じゃない

 

 安楽で、痛みがないだけでは人は満ち足りない

 美味しい物を食べたり、遊んだり、何かを目標に頑張ったり

 多くの望みを抱いて、人は日々を彩る様にして生きていく

 

 

「そうしても結局全ては無情に終わるじゃないか

 君もあれだけ頑張って戦ったのに一度は苦しんで死んでしまった

 お父さんに助けて貰わなきゃあのままで……なのにどうして世界を肯定できるんだよ」

 

 

 確かに僕は苦しんでいた

 生まれてから悪魔の娘(デビルドーター)という消耗品としてあれやこれや身体を弄られて

 僕と同じ境遇の子達も助けられずに、ただただ安楽な夢を願った

 

 けど、あの日に手を差し伸ばされてから道筋は変わった

 多くの夢が出来て、抱いた願いの為に頑張っていきたいと

 幸福に生きたいと思えた

 

 君は闇の中で足掻く僕を見ていたから分かる筈だよ

 そして、僕も君という光を夢に見ていたから分かるんだ

 

 君が此処に残っている本当の理由は、そうできなかった未練なんだろうなって

 

 

「……僕はさ、ずっとお父さんとお母さんの妖精郷で生きてきたんだ

 戦争とか荒廃とかで外には危険って事で出られなくて……愛されて、祝福されて生きてきた

 不幸だった訳じゃないけど窮屈だった

 もっと多くの事を知って、自分で何かを選び取りたかった

 でも、この繰り返される絶望でそうする事に一体何の意味があるんだろう」

 

 

 世界は輪を描いて回るのではなく、輪を描くようにして進んでいる

 変わりたいと願い、前に進んでいくのならそれは多少なり世界に反映される筈だよ

 

 

「僕一人そうした所で世界は変わらない」

 

 

 それでも確かに変わってくれた人々は居る

 その数が少なくとも、前を向いてくれた人々がまた影響し合って別の誰かを立ち上がらせてくれる 

 きっとこの世界はその繰り返しで此処まで来てるんだと思う

 

 人類全てがそうなる事はきっと出来ないだろう

 どうしようもない絶望に屈してしまう時はある

 不安は常に付き纏って、僕達の心を蝕んでしまう

 

 それでも希望も絶望も分ち合って、期待と不安に揺らめきながら人は足を進められるんだ

 

 だから、まず一歩踏み出してみよう

 始めて見なきゃ後悔をするかしないかも分からない

 

 

「光を見上げても、真っ白にはなれない

 闇に堕ちようとしても、全てを黒く染まり切れない

 入り混じった灰色の世界で生きるしかないんだね

 ……でも、うん、分かったよ」

 

 

 少女が木漏れ日から抜け出して、立ち上がる

 日の光の下、するりと手が差し伸ばされた

 

 

「取り敢えず行こうか

 此処が恋しくなる前に」

 

 

 頷き、手を引かれて僕も立ち上がる

 

 彼女に憂いや不安はあっても、もう迷いは見られない

 進むべき道を見出したかのように彼女は僕の手を引いて歩き出す

 この夢幻の楽園を抜け出す為に

 

 

「君の言葉全てに共感はできない

 心は同じでも、見てきた物が感じてきた物が違い過ぎる

 この一寸先には闇しかない道を消え入りそうな蝋燭の火で行くのは不可能だと

 今でもそう思ってる」

 

 

 歩めば、歩んだ分だけ周囲から光が消えていった

 心象世界とは今まで生きてきた世界の具現である

 滅びゆく世界は死にながら見た悪夢でしかなく、心象世界を構築するには至らない

 

 ただ一つ在るのは故郷の妖精郷。それ以外は何もなく

 木々をすり抜け、湖を眺めて、草地を越えれば、其処には虚無だけが残る

 到達した先の見えない闇を僕達は進む

 

 

「でも、思い出した事があるんだ」

 

 

 微かに光が見えた

 彼女は躊躇いなく進んで、光をつかみ取った

 

 

「お父さんとお母さんの跡を継ぎたかったんだ

 妖精郷で頑張る二人はとても大変そうだったから

 少しでも助けに慣れたらなって

 そんな日は来なかったし、この剣も抜けなかった」

 

 

 其処には石の台座に剣が突き刺さっていた

 煌びやかな装飾の施された童話であるような西洋剣

 その持ち手を眩しく焦がれるように触れている

 

 

「曰く王の資格がある者のみに引き抜ける伝説の剣らしい

 お母さんはそんな事言ってたけど、本当かどうかは分からない

 王様だったお父さんが使ってる所、見た事ないし」

 

 

 剣を引き抜き、次代の妖精王に至る

 その果てに両親への恩を返して確かな平穏を齎す

 それが君の夢だったんだね

 

 

「結局の所、僕は二人に守られるだけで羅刹の王に臆したまま殺されてしまった

 王になる為のあらゆる資質も僕には持ち得ない

 叶わなかった幻想だけれど、もう一度それを追ってみるべきなのかもしれない」

 

 

 言葉と裏腹に剣を引き抜こうと彼女は強く力を振り絞っている

 台座は震え、ぎりぎりと剣は音を立てるが揺るがない

 

 となれば最早やるべき事は一つだ

 僕もまた剣を握る

 彼女の手と重なり合うように、力を加えた

 

 

「現世で足掻く君の存在は僕が成りたかった理想の姿だった

 それが心を見ていない表面的な物だったとしても夢見て、憧れた」

 

 

 夢幻で揺蕩う君を見て、羨ましいと思った

 痛みのない安楽な夢幻では何者も傷つかないから

 だけど僕はその夢幻がどれだけの屍の上にあるか知っている

 もう憧れ、夢を見る事は出来ない

 

 

「「幻想は折られが、その否定たる夢幻もまた無為と示された

  だからこそ僕らは一つとなって

  新たな命題を導き出さなくてはならない」」

 

 

 重なり合った手が一つに、剣が引き抜かれる

 かつての幻想を今度こそ追う為に

 

 その、一瞬の刹那

 

 

―――汝、運命に囚われた子よ―――

―――憂いを抱えし旅人よ―――

 

 

 暗闇が満ちる空を見上げ、涙が出そうな程に懐かしさを覚えた

 赤子の僕を優しく抱き留めた、抱き留められなかった音

 二度と聞けないと思っていた妖精女王たる母の声だった

 

 

―――立ち止まることをやめ、貴方は歩き出した―――

―――道を選ぶ時です―――

 

 

「楽園にはもう戻らない

 僕は選んだ道を惑いながら振り返らず進むよ

 さようなら、母さん」

 

 

 熱く燃え滾る心臓の鼓動

 握り締めて掲げたい程の熱を剣に乗せて、僕は声に応える

 

 

―――ありがとう、気高き別れを選びし子よ―――

―――これよりは、恐れも、不安も、貴方の光―――

 

 

 空より光が差し込む

 多くの願いと祈りが込められたそれを抱き留め、歩き出す

 

 

―――汝、『王道』を照らす、輝ける星よ―――

―――目覚めなさい―――

 

 

 抱いた光で道を照らし、掲げた剣は暗闇を切り裂いた

 戻れない楽園の跡を踏み締めて

 妖精王、父が待つあの地へと僕は迷わず進んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 フェイとオベロンの戦いに決着はついた

 

 オベロンが与えた数多の束縛はフェイ達の動きを強く抑制し、騎士の魔槍がその隙を容易く貫く

 崩れた盤面に数多の妖精達が支えとなる者達は全て倒れた

 

 残るフェイもまた自らの象徴たる極光をぶつけ合った末に押し負けた

 

 

『……王よ、これで本当の良いのですか?』

 

 

 騎士たるクーフーリンはオベロンに問いかける

 かつてフェイを守れず、見習いだった騎士は全てを失った王の意にこれまで付き従ってきた

 

 安楽の楽園にフェイを堕とし続けるというのも悲劇しか齎さない世界で必要以上に傷つかない為の処置と自らの納得させていた

 

 しかし、長すぎた日々は停滞への疑問を生む

 妖精王の行いは親が子を思う物であったとしても何も産みはしなかった 

 子供が前に進もうと足掻く姿まで頭ごなしに止めるのは常軌を逸しているのではないかと

 

 

『正しくはないだろう

 真の意味でフェイを幸せにはしないし、世界の救済に何ら関与はしない

 だがな、もう僕はこれしかないんだよ

 此処から抜け出しは出来ないんだ』

 

 

 齎した夢は嘘と欺瞞で塗り固められた偽りの安楽である

 しかし、夢ではない真実とは破滅と同義でオベロンにとって到底受け入れられる物ではない

 

 テオゴニアは未だに救済に手が届かない以上、フェイの苦痛を減らすという意味でこれ以上の手はなく

 フェイとこの世界の可能性を信じるには多くの事に絶望し切っていた

 

 故にオベロンとは腐り枯れた花を延々と埋め続けるだけの墓守以上にはなり得ず

 暴走した回転木馬のように最早止まりようのない機巧でしかない

 

 オベロンはこの運命から抜け出せない

 

 

「もう止まれないのなら、何度でも示すよ……僕の全てを!」

 

 

-《フェイは<ワイルドハント>を放つ!》-

 

 

『ッ……あれで倒れていない!?』

 

 

 突如、オベロン達の眼前に閃光が奔る

 視界を満たすそれは倒れた筈のフェイから放たれた物

 

 仲魔諸共、身を焼く光にオベロンは複数の異変に気付く

 

 

『出力が大幅に上がって……いや、何故攻撃が届いて……!』

 

 

 一つはフェイの<ワイルドハント>のダメージが格段に上がっている事

 体感で1.5倍以上の向上であり、今のフェイでは逆立ちしても出せないあり得ない威力

 

 そして、そもそもとしてオベロン達へ攻撃が出来ているという点

 <魔法の輪>は依然として展開されている

 にもかかわらず攻撃を許されているのであれば間違いなく結界が無視されている

 

 発生した複数の異常にオベロンは一つの答えに辿り着く

 

 死を間際にした際の覚醒

 愚者から異能者へ、異能者から覚醒者へ、覚醒者から超人・転生者へ

 導師へ、神人へ、超越者へ……自らの殻を破り、新たな自分へ辿り着く

 

 不完全な生命体である人間だからこそ起こり得る進化の過程

 フェイもまた其処に辿り着いたのだと判断する

 

 そして、閃光が晴れた先で推測の正しさは証明された

 

 

\カカカッ/

妖精王子(プリンス)/魔女久遠 フェイLv99全てに強く、破魔吸収。BS無効

一部の物理・火炎・氷結・呪殺反射

 

 

 黄金に輝く髪と端麗な容姿はそのままにフェイは大きな変貌を見せていた

 

 身に纏っていた黒い魔女服は白銀の装甲が混じり、何処かの騎士のように 

 双眸の色合いは蒼と金の二種に分かたれて(オッドアイ)

 片手には眩い光が灯され、もう片手には剣が握られている

 

 弱体化していた筈のレベルは人類の限界(レベル99)にまで到達

 堂々とした振る舞いに弱った影もなく、フェイはオベロンと妖精郷なしに自立を果たしていた

 

 

『あぁ……そうか……

 やはりお前は其処に居たのだな、我が子よ

 その剣も使えるようになったのだな』

 

 

 胸中に浮かぶ感情は困惑や驚愕ではなく、安堵と歓喜だった

 

 覚醒までの過程で何が起こったかは知り得ない

 だが、フェイの片眼に宿った黄金は本当に救いたかったあの子の物であり

 フェイが握る剣は自らも引き抜けずあの子が求めていた名も知れぬ漂流物だったから

 

 名乗り上げた妖精王子(プリンス)の意味は自らとは異なる次代の王への歩みに他ならない 

 此処に至って、フェイ自身が本当に成りたかった存在に辿り着きつつあるのだと

 オベロンはそう確信できた

 

 

「賭けには勝ったよ、アラハバキ」

 

『では征くがいい、サマナー

 貴様の選んだ険しい道筋に沿って』

 

 

リカームドラ*2味方全体のHP・MPを最大値まで回復し、蘇生を行う

術者は死亡する

 

 

-《アラハバキは<リカームドラ>で身を捧げる!》-

-《由奈・真澄・エリヤが蘇生される!》-

 

 

 覚醒を以て復活を果たしたフェイはアラハバキへと命じる

 

 アラハバキを召喚していた理由は一か八か賭け、覚醒に成功した後に全体蘇生で盤面の回復を狙う為

 覚醒による衝撃と瞬時に浴びせた攻撃によってオベロン側の動きは一時的に硬直している

 

 その隙に由奈達が蘇生され、戦線へ復帰

 状況は膠着しながらフェイとオベロンは再び向かい合った

 

 

「随分嬉しそうだね、オベロン」

 

『打ち倒した者の覚醒なぞ、求めている筈もないが……

 我が子の金の瞳を見たのは本当に……久方振りだったからな

 心が揺れ、気を動転してしまう物さ』

 

「なら戦いも辞めたって構わない筈だけれど」

 

『いいや、それとは話が違うな

 むしろ覚醒を経たからこそ戦いの意義も変わる

 お前が真に行くべき道を見つけた事と

 それで世界が救われるかに因果関係はない』

 

 

 英雄が一人覚醒した所で世界が救われない事をオベロンは知っている

 

 求められるのはソレだけではなく、世界其の物の強度が求められる

 力も資格も意志も……あらゆる勢力が全てを求めているのはそういう事だから

 

 だから、オベロンの為す事は変わらない

 運命の牢獄たる永遠の夢に堕ちるか、超えていくか

 

 もはや王の支配に縛られなくなった子の飛躍が一体どこまで届き得るのか

 これが最初で最後の機会である故に全てを振り絞らなければならない

 

 

『いずれにせよ、お前は真に“フェイ”となった

 だからこそ、また問うとしよう

 お前は如何なる方法で理想郷を目指すのか』

 

 

 オベロンは問い掛ける

 幾度となく、子の歩みを確かめるように

 

 

「ただ、隣の人に手を差し伸べ続けるよ

 僕が救われた分だけ、他の人も救われるべきだから

 それで前を向けるかは別の話だけど

 そうして歩んでくれる人々と一緒に明日を目指す」

 

 

 意志はより確かに、力は大きく変質した

 やれる事は変わらず真っ直ぐに行動し続ける事

 救われるべき人々に手を差し伸べて、自らもまた多くの人々の支えを得ながら歩みを続ける

 

 どうしようもなく自分は未熟で、満ち足りない部分は多いから

 せめて自らが抱いた希望のままに、小さくとも揺るがない道標となる光を示すのだと

 

 

-《フェイとオベロンは戦列の仕切り直しを図る(バトルスタイルの再選択を行う)!》-

-《呼吸が重なり、加速する! プレスターンバトルで合一!》-

 

 

『その言葉、確かに聞き届けた! ならば今度こそ問答は無用!』

 

「もう攻撃も魔法も通じる! 真っ直ぐに殴り合うよ!」

 

 

 そうして王権を争うが如く、覇気を飛ばす

 同じ妖精というルーツを持ちながら神へと合一した者と人として融合を果たした者

 玉座から失墜した妖精王と人で在る事を選んだ妖精王子は幻想をぶつけ合う

 

 激戦の再開。虚構の楽園たる妖精郷が大きく震えた

 彼らの資格と振る舞いと責務を、朽ちた世界の欠片として見つめていた        

*1
『天魔衆撃滅戦 その2』参照

*2
DDSAT1

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