真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -ロストキリギリス- 作:名無しの骸骨
顛末の話をしよう
漂流勢力としての天魔衆は全滅した
孤島であり、包囲された環境で逃げ出せた者は居らず、数の暴力も
クンバカルナが<燃やし尽くし>*1を放って大惨事になりかけたり、インドラジットが散発的に<メールの雷火>*2で撃ち落としてきたり、覚醒したアティカーヤが<チャトゥルプジャ>*3がブッパしてきたり色々と大変だったらしいが幹部級の討伐も叶った
僕達もラーヴァナと戦い、何とか勝利した末に由奈を救えた
てっきり精神世界で戦う羽目になるものかと思ったけど自力で何とかしたらしい
代わりに5億年ボタン擬きというべきか、誰も居ない空間でかなりの時間放置されたとの事で疲弊はしていたが治療と休息によって概ね回復
天魔衆は倒し、由奈も取り戻した
全て丸く収まるハッピーエンド、結果としては最上だろう
と、話は此処で終わらない
事後処理はヤタガラスと自衛隊、行政の方で執り行う
異界化は溶けたがあの規模の戦いが起こった地であり、高濃度MAGが今も漂ってる
放置すれば別の勢力に利用されかねないし、島の扱いには頭を抱えている
さらに大変なのが戦いに参加してくれた皆に対する報酬だろう
大体みんなレベルアップ出来たし、そもそも個人で抱える問題でもないんだからロハで良い(組織経由で報酬は補填してくれるらしいけど)と言ってくれたが……何かしらの形でお返しはしたい
個人的に特にお世話になった方々には色々融通したが、出来なかった人々の要望はキリギリスでの活動を通して答えていくかな
とはいえぶっちゃけいつも通りと言えばいつも通り
通常の依頼業務に加え、シロエさんを介した検証チームでの活動、ヤタガラス・悪対といった協力組織に対する情報交換、コミュニティとして初期より大規模になったキリギリス、ひいては掲示板の確認とトラブルの対応
なんか気付けばやっていたという仕事も多々あるが、それも意識的にすることになる
僕はこれまで多くの事を成し遂げてきたという自負はあるが、その全ては他者ありきのものだ
仲魔や由奈達は勿論の事、シロエさんやラスキン老といった知古からの支援、依頼を通して知り合った戦友達との繋がりや、顔も良く知らないけどネット経由で助けてくれたキリギリスの皆まで
困難な現状を乗り越える上で僕は数え切れない支援を受けているし、可能な限り報いたい
「……色々考えてるんでしょうけど、まずは身体を治してくださいね
無茶もしないでください」
「分かってるよ。最近は……うん、本当に酷かったし」
とか何とか考えてると、ベッド横の椅子に座る由奈に窘められた
戦いが終わった後、僕はヤタガラス系列の病院にぶち込まれて今も入院中だ
四人全員そうなった訳だけど、一番完治に時間が掛かってるのは僕である
由奈は検査がメインだったけど他はグリーンで問題なし
エリヤと真澄はかなり疲労が溜まっているけど許容範囲内で、今はリハビリがてら僕の代わりにあれこれ動いてくれている
肝心の僕は……この1か月の動きのあれこれが一気に身体に来ていた
考えてみると第三次のセプテン襲来から1か月経ってないのである
太平洋であの二体のドラゴン*4を倒した後にミザールと津波を只管相殺して、ヨヨギ公園に来た
ここ数カ月の中でもあらゆる意味できつい日々だった
お陰で肉体も精神も研ぎ澄まされたような感覚はあるものの、瀕死*6と覚醒*7とドーピング*8を立て続けにやったせいで僕は今もベッドと友達だ。現状になってやっと少し休めるとも言えるけど
「数日休んで……そっからまた忙しくなるね」
「この場では色々言えませんが、動きはあるようです」
「行けるかなぁ」
「フェイ」
「体調優先でしょ、分かってる分かってる」
過去の振り返り、未来に目を向ければ暗雲漂う……というか、どうなるか分からな過ぎる意味でお先真っ暗だ
どの勢力が先に動くかによって情勢は大きく変わる
はたまたそれは
世界は激動を余儀なくされる
今までの比を見ないレベルで、これは確実
さらに言えば 僕達は因縁の大半を昇華したけれど、まだ一つ残っている
決着をつけたのは神城一族、アンナとウリック、
残ったのはデックアールヴと名乗った、僕の同位体の存在
彼女は自らを先兵のように扱っていた
詰まる所、本体が居る。きっとラーヴァナのように過去の僕の残骸が集合している、という想定が一番近そうだ。彼、彼女達ともいずれ決着をつける必要があるだろう
そういう訳で此処まできても前途多難なのは変わらない
世界は依然として救われないまま、人類は困難に立ち向かい続けている
明るくもなれないが、俯いて諦めもしない
生きる為に自分が出来る事を精一杯やり続ける
僕含め、今生きる人々とはそういうものだから不安はあれど絶望はなかった
「……んー、ちょっと外いこっかな。天気も良いし」
「車椅子は必要ですか?」
「いいよ。今は杖なしでも歩ける。お医者さんの許可も取ったよ!」
「知ってます。では転ばないようにお願いしますね」
「子供じゃないんだから」
「子供なんです。ほら、手を出して」
差し伸ばされた由奈の手を握り、エスコートを受けながら病室から中庭へ
入院患者用に整備された緑の園、色鮮やかな花々が咲き誇り、中央にあるベンチに腰掛けた
此処に前に来たのはヨコハマレルムの一件が片付いた時*9だったかな
「ねぇ、由奈」
「何です?」
「全部終わったら、どうしようか」
「気が早いですよ。まだ何も光明は見えてないのに」
「もしもの話さ。何かしら未来に対する希望は持ってないと」
「私がそういうの考えるの苦手なので、ご教授してください」
「聞いたの僕なんだけど……まぁいいや」
物憂げに色々考えても、空の色は変わらず綺麗で透き通っている
もし全部終わったら、そんな結末があるのかどうかすら分からないが
というか終わったら終わったらで問題は山積みだろうけど一旦其処からは目を逸らす
「前にさ、学校行った事ないって言ってたじゃん
だから一回行ってみたいよね。僕、同年代とまともに過ごした事1度もないし」
「私もエリヤも真澄も通いそこねました。コツはお伝え出来ません」
「一応、日本生まれなのにね……」
僕は実験体で、由奈は羅刹、エリヤは崩壊世界の漂流者で、真澄は一族と京都ヤタガラスにずっと使われていた。全員が小学校にすら一度も通ってないというのはこの業界でも中々ない
「後はねー、皆で旅行も行きたいな。依頼で日本中行ったけど、リラックスは出来なかったし」
「貴方となら何処へなりとも構いません」
「そんでゆっくり休みたい。今は無理だけどね!」
「ええ、存分にどうぞ。眠りを妨げる者は私が斬ります」
「物騒~……ねぇ、君はどう?」
「私のやりたい事ですか?」
「うん」
由奈が押し黙る
すんごい真剣に考えて、百面相しながら何処か迷う素振りを見せている
暫くそうして、観念したのか由奈は顔を赤らめながら再び口を開いた
「いずれ死する時まで貴方が傍に居てくれるなら、それで十分です」
「へへ……それ、昔と変わってないじゃん……んへへ」
「文句言うのか、嬉しがるのかどっちかにしてください!
公言するのも結構恥ずかしいんですからね!」
「でも良かった。なら僕の一番の願いを伝えて良さそうだね」
「一番の願い?」
いつも本心を語らず、口下手で恥ずかしがり屋の由奈もこうして勇気を出してくれた
なら次は僕の番だろう
胸に秘めて、言わなかった事はある
今まで言わなかったのは踏ん切りが付いてなかったのと覚悟が足りていなかったから
しかし、互いの因果を超えて僕達はこうして共に居る
最早迷うべき理由は微塵もない
「僕はね、家族が欲しい。一人は寂しいから、もっと皆と一緒に居たい
何よりエリヤと真澄とラクシュミ、そして君とも」
「っ、それは……!」
「結婚しよう、由奈」
はぁ、言っちゃった! 言っちゃったよ!
目は空いてるけど心臓バクバクで、まともに由奈が見れない!
というかなんで僕、病院の中庭で言っちゃったかな!?
普通はムードの良いデートした最後に、夜景みながらロマンチックな場面で言うよね!?
「此処、病院ですよ! 突然、何を言ってるんですか!」
「そそそそれは本当にごめん! でも、伝えれる時に言わなくっちゃって!」
「いや、良いんですよ!? でも、その、あの……ちょ、ちょっと待ってくださいね
家族になる、結婚、家族になる、結婚……結婚!?」
わたわたと由奈は僕以上に慌てふためき、顔を真っ赤に染めて挙動不審となっていた
気が動転しすぎてベンチ椅子から転げ落ちそうになったりもしたり、それを見て僕もちょっと落ち着いた
「嫌?」
「滅相もない!!!……で、でも良いんですか、本当に?」
「僕はずっと貴女とそうなりたいって思ってたよ」
「わ、私には戦うこと以外、何もできません」
「花嫁修業しないとね。大丈夫、僕や皆がレクチャーするよ
ああ、稼ぎは僕に任せて。自信あるよ」
「気立ても良くないし、根暗です」
「僕も基本は静かな方が良い
それに君との会話は凄い心地良い」
「……私には罪業があります。殺し屋として自らが生きる為に殺しを重ねました
多くの人肉を喰らい、貴方も一度は喰い殺しかけた
羅刹王でなくなり、我が身の呪いは幾分かマシにはなった
しかし、私は未だに羅刹なのです。人を喰らわなくては生きていけない」
「なら今まで通り、僕を喰らって生きればいい
或いは治療法を見つけるのもいいかもね
何はともあれ、僕はそれで君を見放すつもりはない」
「どうして……どうして、そう言ってくれるんですか?」
「僕は君に恋し、愛している。それ以上の言葉が必要かな」
涙ながらに自己否定を繰り返す彼女の頬に触れた
其処は人肌で暖かく、血の通わない冷酷な羅刹ではない
久遠 由奈は人間であり、僕が愛したい人なのだ
「ただ、こう告げるのは君だけじゃない
真澄達にも同じように家族になろうって、そう言った
僕は誠実じゃない。不義理を働いている
それでも僕は君に一緒に居て欲しい」
「嫉妬、しない訳じゃありません
でも承知しました。貴方には彼女達が必要で、私にもきっと必要です
何度も何度もあらゆる意味で助けられました
貴方とこうして会えるのもそのお陰です」
彼女もまた僕の頬に手を伸ばし、触れた
その瞳にもう迷いはなく、一つの覚悟が宿っている
「条件はあります。私より先に死なないでください
そして、貴方が戦う際に一番危険な役割は私に委ねる様に」
「それは……」
「罪人で然るべき私が、幸を得るならより多く功が必要です
功とは即ち貴方をどれだけ助けられるか。それが私の存在理由
これは私が生涯において果たさなくてはならない義務なのです
でなければ私に貴方の隣に居る資格はありません」
「じゃあ条件、死んだら許さないから」
「お互いに、です」
其処から、言葉もなく僕達は接吻した
羽に触れる程度の短い口付けの後、僕達の契約は交わされた
「えへへ」
「ふふっ」
小恥ずかしさと歓喜を互いに抱いて、似たような笑みを溢した
僕達の間に繋がられた縁は二度と断ち切る事は出来ないだろう
「あ、結婚式どうしようか! 色々また忙しくなる前にやっときたいよね!
それに役所にもいかないと!」
「フェイ」
「うん!」
「見られてますよ」
「えっ」
気まずそうな由奈の視線の先を、僕も目で追った
そこにはこれまた気まずそうなエリヤと真澄が居て、若干腹を立ててそうなラクシュミも居た
……聞かれて、見られてた? そういや此処、病院だった
ああ、僕はなんて愚かなんだろう。穴があったら入りたい
「あー、告白するなら屋上とかの方が良かったと思うぞ?」
「ソウカナ? ソウカモ」
「この病院にはないわよ
ああ、それと途中から中庭に防音結界はったから心配いらないわ
私達は全部聞いたけどね」
「アリガトウ」
「随分とまぁ熱の籠った告白でしたねぇ! 私が居ながら浮気ですか!」
「いや、君にも同じくらい言ったよね! 申し訳なさはある!」
「一言少なかった!」
「姑かよ!」
エリヤは目を逸らしながらアドバイスをして、真澄はすんごい笑顔でサムズアップしてるし、ラクシュミは頬を膨らませて文句を言っている。僕を詰りたいだけで本気ではないし、女神らしからぬ愉悦の半笑いを浮かべている。こいつはなんで女神でいられるんだろう
「フェイ、式するならドレス着てくださいね」
「由奈!? いや、タキシード着たいんだけど!」
「最初、タキシードでお色直しでドレスで良いんじゃないか?」
「エリヤ?」
「早着替えの達人の伝手あるから、そう時間は掛からない筈よ
つまり現実的に両立は可能」
「真澄?」
「というかタキシード、多分似合いませんよ
大人しく最初からドレスにしましょうよぉ」
「おい、ラクシュミ」
「仲魔の総意ですぅ。全会一致ですぅ」
怒涛の連携の前に、僕は何もできない
これまでだって今以上に無力を感じた時はなかっただろう
そして彼女達の僕に対する女装癖は留まる事をしらないらしい
あれ、一応夫になるで良いんだよね僕
「まぁ、全部いいよ
君達が喜んでくれるなら、僕はそれが一番だ」
でも、そんな彼女達を僕は心から愛している
彼女達も僕を愛し、何処までも尽くしてくれている
心の中は信頼と愛情で一杯だ
例えこれからどれだけの困難があろうと最期まで戦い抜けると思わせてくれる
この幸福が直ぐに壊れてしまうかもしれないという不安はある
世界がどれだけ呆気ないものか、僕達は知ってしまっているから
だが、それでも僕達は生きる事を選んだ
妖精王から願った未来を託され、羅刹王から過去の無念を引き受けた
世の無常は終わらず、絶望はいつだって僕達を苛む
道は暗く、迷い戸惑いながらただ進むしかない
だから家族となる彼女達の手を握り締め、僕は歩んでいく
呪われて生まれてきた僕が祝福された生を送る為に
「だから皆、こんごとも宜しく。末永くね」
願わくば死しても別たれないように
僕は彼女達に駆け寄り、二度と離れぬようにと強く抱き締めた
そうして僕達は家族となれた
寂しさはもう感じなかった
今後は一種のDLC的な感じでちょくちょくお話がある予定ですがロストキリギリスの本編としてはこれにて終了となります
長らく本作を読んで頂いた読者の皆様、誠に有難うございました!
今作の大本である『真・女神転生オタクくんサマナー 〜世界滅亡パパ活計画を阻止せよ〜(ほびー氏作)』も是非宜しくお願いします!