戦国♰ランブル!   作:ミヤビコウ

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楽しんでいただけたなら幸いです


『鬼』

「乙姫様の羽衣は水で出来ているんですね。あたし初めて知りましたよ」

「ちい子さま、どうぞ触って下さいまし」

「いいんですか!?えっとそれでは失礼しまして……わぁ~とっても滑らかなんですね~」

「わたくし自身の霊力ですので消すことも出来るのですよ。ほらこの様に」

「わ!あっという間に消えるんですね」

 閻魔天が剣丞達の所へ向かう少し前、いつものように隊舎の縁側で穏やかな時間を過ごす剣丞隊のメンバーとセイ達。今はセイの隣にいる乙姫が、ちい子と楽しくおしゃべりをしている最中だ。

 そのおしゃべりを聞きながら、今日もセイはせっせと呪符の作成に励んでいる。

 しかし、そんなセイの様子を見ながら、ちい子はある心配をしてしまう。

「あの乙姫様、セイさんは大丈夫なんですか?」

「大丈夫とは?」

「いえ、その、指です。セイさん、呪符を書く前に左の親指を嚙み切っていましたから」

「その傷なら大丈夫。乙姫に治してもらったから。ほら」

 そう言ってセイはちい子に左親指を見せたが、どこにも傷口などはなかった。というか、細かい傷や肌の荒れまでなくなっている。

「なら良かったのですが……初めて見た時驚きました。何の躊躇もなくご自身の指を嚙み切ってましたしね」

「慣れだよ慣れ。それにこうした方が強力な呪符が作れるからね」

 そう。セイは嚙み切った指から出た自身の血を墨に混ぜて呪符を作っているのだ。

 セイによれば、呪符を書く時には術師、もしくは他人の血液を使用すると、同じ内容でもより強力な呪符を作ることが出来るのだそうだ。

 別に普通の墨でも呪符は作成出来るのだが、それでも血を混ぜた方に比べると雲泥の差だ。

 古来より、体内に流れる血液には魂の力である霊力が豊富に含まれているという考えもあり、その思考も相まってこうして呪符を作成するようになったのだ。

「もし仮に筆が無くても血で書けるからね。僕の先輩にも血を混ぜないで書く人もいるし。痛いものは痛いからね」

「ご安心くださいセイさま。即座にわたくしが癒して差し上げますので!」

「ありがとう乙姫。いつも助かってるよ」

 ポンポンとセイは乙姫の頭を撫でてやる。こういうことをサラッと出来てしまう所は我らが夫である剣丞に似ているなぁとちい子は思う。前々から何となくセイが誰かに似ていると感じていたが乙姫に対する行動でようやく理解できた。

 理解出来た所で、以前から聞きたいことを聞いてみることにした。

「あの、セイさんの世界にも鬼っているんですか」

「いるよ。というか何人かは式神契約してるしね」

「えぇ!?そうなんですか!?」

「と言ってもあんなマガツヒモドキじゃない。こっちで皆が想像している様な鬼かな」

 

鬼(おに)

 言わずと知れた妖怪。地獄では獄卒、物語や伝説では人を喰らい恐怖のどん底に突き落とす存在として描かれている。頭に二本の角、口には牙、鋭い爪に虎の皮の褌や腰布を付け、とげ付き金棒を持っているのが一般的なイメージ。

 また、人の怨霊の化身という考えもあるとかないとか。気になる方はwebでcheck!

 

「気性は荒い方々は多いですが、可愛らしい方もいらっしゃいます。ちゃんとお話をすればわかって下さいますわ」

「あたしも会ってみたいです。そのセイさんの式神の鬼に」

「案外すぐに会えるんじゃない?事実は小説より奇なりって言うし」

 まぁこうして作者はその小説を書いているわけですが……。

 そして案の定、そのセイの言葉が盛大なフラグになってしまったのだ。

「た、大変ですちい子様!お、鬼が!鬼がやってきました!!」

「えぇ!?そんな!?とにかく皆に知らせて!ひとまず訓練通りに動いてください!!」

 なんとまさかの鬼の襲撃の報がもたらされたのだ。

 いやそれ以前にどうやってこの近辺に来るまで誰も気付けなかったのだろうか。となると、偵察部隊でも察知出来ないほどの少人数で来たか、身を隠しながら接近出来るような上級の鬼でも来たか。

 だがその前に、セイはその一報を持ってきた兵に訪ねる。

「あ、ちょい待ち。その鬼って数はどのぐらいなの?」

 セイも一応こちらの『鬼』、もといマガツヒモドキの習性は教わっている。異形のバケモノであり理性もなく、只々破壊と殺戮を繰り返す存在。中には下級の鬼を統率することの出来る上級の鬼がいる。その他色々……。

 そして厄介なのは数が多いこと。

 だが、帰って来た答えは意外なものだった。

「それがたった一匹なんです」

「え?一匹だけ?」

「へい。一匹だけなんです」

 それはおかしい。基本的に鬼は集団で襲ってくるものだ。それが一匹だけだとすれば、考えられるのは群れからはぐれた鬼の可能性がある。

 だが、もしかしたらと思いセイは質問を重ねる。

「その鬼の外見ってどんな感じだったか分かるかな?大体でいいからさ」

「へ、へい。頭に二本の角、天海様の様な色の髪、紫の服にでかい棍棒、んでもって人間の図体ぐらいある紫のひょうたんを背負ってます」

「あー、なるほどね~」

「セイさま、もしや……」

「もう分かった。というか霊力補足出来たよ。ねぇちい子さん」

「どうしたんですかセイさん!?早く鬼の迎撃準備をしなくちゃ!!」

「その鬼、僕の式神だから大丈夫」

「え?」

 セイの、式神?

 セイの周囲の音が一瞬消えてなくなる。

 呆気に取られていると、後ろからわらわらと兵がやって来て陣が組まれていく。その速さはあっという間で、兵の練度がよく分かる。

 だが、その陣が組み終わると同時に、件の『鬼』が姿を現した。

 さっきの兵の言う通り数はたったの一人。

 だが、その『圧』が違いすぎる。確かに剣丞隊は鬼との戦いに慣れているが、そんな経験が簡単に吹き飛んでしまうような『圧』だった。

 だがしかし、そんな『圧』もどこ吹く風といったようにセイと乙姫は兵達の前に出て、その『鬼』と相対する。セイとその式神の力は剣丞隊中に知れ渡っており、ついでに兵にもセイ謹製の結界符も一人一枚持たされている。

 だがそれでも心配は心配だ。そんな事をちい子が考えていると、ついにその『鬼』とセイが頭一つ分といった距離にまで近づいた。

 流石にこれはまずいのでは……全員がそう思っていると、おもむろにセイが『鬼』を迎え入れるかのように両腕を広げた。

「……」

「えっと、なんていったらいいのやら分からないけど……まぁ取り敢えず……」

「……」

「無事でよかった。ほらおいで、酒吞」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ~~~ん!!セイ~~~!寂しかったよ~~~!!!」

 その『鬼』、いやセイの式神『酒吞童子』が泣きながらセイに抱き着いたと同時に、閻魔天の門が出現して閻魔天と一緒に結菜が姿を現したのだった。

 

「うぅ~~~なんであんなマガツヒモドキが鬼だなんて呼ばれてるの!?おかしいよ!オオエ山のみんなもイブキ山のみんなだっていい子ばっかりなのに~!」

「酒吞さま、それはわたくし達も同じですわ。それにセイさまは皆さまの誤解を解こうと、こちらに来てから毎日のように説明をなさっておいでです」

「……でもみんなの目が私のこと怖がってる」

「まぁそこは少しずつ分かってもらおうよ酒吞。ね?」

 今剣丞隊と結菜の目の前では、縁側にセイと乙姫に挟まれながら座り、慰められている紫色の奇妙な着物を着た『鬼』がいた。

 当然その三人を取り囲むように兵が配置されている。セイの式神とはいえ鬼は鬼。警戒に越したことはない。……のだが、その包囲などどこ吹く風といったように結菜が閻魔天と共にセイ達に近づいていく。もちろん兵達は止めようとするが、そこは閻魔天が視線で黙らせる。

「えっといいかしら?あなたはセイの式神でいいのよね?」

「そうだけど……」

「私の名前は斎藤帰蝶結菜。結菜でいいわ。あなたの名前を教えてくれないかしら?」

「私は『酒吞童子』。イブキ山の出身で、オオエ山の総大将」

「酒吞童子……!」

 

酒吞童子(しゅてんどうじ)

 丹波と丹後の境にある大江山に住んでいると言われた鬼の頭領。もしくは盗賊の頭領とも言われている。

 京都から若者や姫君をさらっては食い殺す悪鬼として描写されている。気になる方はwebでcheck!

 

 酒吞童子。その名を聞いて全員が警戒度を引き上げる。それはそうだろう。様々な絵物語で悪鬼として描かれているのだから。

 結菜もその名を聞いたときは驚いたが、そこは蝮の娘の胆力で無理矢理気持ちを落ち着かせる。それに何より、犬神や妖狐の耳と尻尾をモフりお伽噺のお姫様と談笑しながらお茶を飲み十二天の一柱とも仲良くさせてもらっているのだから、酒吞童子の一人や二人ぐらいで怖がっていてもしょうがない。

 それに、どう見たって今はセイに泣きついている可愛い女の子にしか見えない。だからきっと大丈夫。……なんだか剣丞に似てきたなと思いつつ、結菜は酒吞童子と目を合わせて話しかける。

「じゃああなたのこと酒吞って呼んでいいかしら?」

「うん。いいよ」

「じゃあよろしくね酒吞。そういえばここまでどうやって来たの?」

「森の中に隠れながらセイの霊力を辿って。でもセイの霊力が弱くて辿るのが大変で……」

「そっか。大変だったわね。笠とか使おうとか思わなかったの?」

「この角だと笠突き抜けちゃうよ。それにみんなマガツヒモドキのせいで鬼のこと怖がってたから人里にも降りれなかったし……」

「それはそうね。あ、そうだ。ちょっとその角触っていいかしら?鬼の角になんか触る機会なんてこっちではまずないもの」

 セイ達を除く全員が改めて思い知らされる。

 この胆力だからこそ、織田久遠信長の正室、新田剣丞の第一側室、新田剣丞の奥の取り仕切りが務まるのだろう。

「想像よりも固いのね。ねぇ、この角って新しく生えたりするの?」

「ううん。本数は生まれた時から変わらないよ。でも神経通ってるからちょっとくすぐったいかな……」

「え?そうなの?ごめんなさいね。あ、そうそう。ちい子」

「は、はい!」

「兵はもう大丈夫。下がらせて」

「ですが……」

「平気よ。責任は私が取るから。こんなに兵達に囲まれていたら警戒するのは当たり前じゃない。それに彼女はセイの式神なのでしょ?だったら大丈夫よ」

 そうして結菜はさっさと兵を下がらせるように命じ、剣丞隊もその命に応じて下がっていく。というか下がるしかない。なにせ『お前ら分かっているんだろうな?』と言わんばかりに若干開きかけている閻魔天の門が背後に存在しているのだから。

 そんな事をするのは式神である酒吞童子を守ることもそうだが、閻魔天が結菜の言葉と心を気に入っているからでもある。

 後は酒吞童子のことを改めてセイから説明してもらうだけだったのだが、

「でりゃあああああああああ!!」

 その行為は少女の激しい大声によって遮られたのだった。

 

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