「さっきはごめんなさいなのです。綾那、勘違いしちゃったですよ……」
「もういいよ綾那。私も綾那にひどいことしちゃったからお互い様だよ」
剣丞隊隊舎の広間にて、綾那と酒吞童子が互いに謝っている間に、歌夜と小波が結菜と情報共有をしていた。
セイのこと、式神のこと、なぜセイとその式神達が鬼のことをマガツヒモドキと呼んでいるのか、今のセイの立ち位置等々その他諸々。ついでに剣丞が一葉からの書状を久遠と呼んでいることも。
当然綾那、歌夜、小波は大変驚き疑ったが、さっきの綾那と酒吞童子の戦闘、閻魔天が召喚した門、さらに宙を泳ぎながら気絶しているセイの頭を突く魚たちを見てしまえば嫌でも信じるしかなくなってしまう。
ちなみにではあるが、先程酒吞童子が引きはがした地盤は、閻魔天の門からピッタリ嵌るように出され、何とか霊力切れから回復したセイの術で元に戻っている。
「とにかくそういう事なの。これから驚くことが増えてくると思うけれど、そこは何とか耐えて頂戴ね?」
「かしこまりました結菜様。それにしても驚きです。ね、小波」
「はい。まさか死ぬ前に閻魔天様と会うことになるとは……」
「呼びましたか?」
いつの間にか小波の後ろに現れた閻魔天に声をかけられ驚いた。
それだけではない。何せ隠密である小波が気付けなかったのだ。余程の事がなければ気取られず背後を取られることはまず無いに等しい。
「あ、閻魔天様。セイの調子はどうなの?」
「術が使える程度には回復したので大丈夫でしょう。念のためと言って乙姫が膝枕をしていますが」
「結菜様!いくら何でも閻魔天様にその言動は失礼になるのでは!?」
「なんかもうこれで慣れちゃったのよね。それに閻魔天様がそれでいいって」
「そうです。仮面を被った表情よりも素の表情の方が素晴らしく可愛いのです。あぁ、やはり可愛いは正義……!!」
若干トリップしている閻魔天に苦笑いを浮かべながら引いてしまう歌夜と小波。まぁ
今まで信じられてきた人物像とだいぶかけ離れているのだから仕方がない。
「えっこれどういう状況?」
なので一葉からの書状を読み終え、ようやくやって来た剣丞の声を聞き逃したことも仕方のないことだったのだ。
「色々あったんだなセイ。しかし酒吞童子か~。俺も名前は知ってたけど本物を見るとは思わなかったよ」
「うんまぁね。それとこんな格好でごめんね剣丞君。まだちょっと身体が重くてね……」
「気にしてないから大丈夫だよセイ」
隊舎の広間にて、剣丞は隊みんなと車座になって座っている。……のだが、未だに霊力切れから回復しきっていないセイは、今度はナギの膝枕で寝ている。当然乙姫はナギに役得を奪わないでと抗議したが、交代しないと乙姫の膝が痛くなっちゃうからとセイが説得してどうにか収めたのだった。
「本当にごめんねセイ。無意識だったとはいえ……」
「綾那もごめんなさいなのです……」
「もう気にしてないからいいよ二人とも。それで剣丞君、奥さんからはなんだって?」
「それなんだけどね……」
一葉からの書状によれば、ここ最近の鬼の被害状況や動き等々を直接あって話がしたい。ということがつらつらとそれらしく書かれていたそうだ。だがそんなことは建前で、『剣丞とイチャイチャしたい!』という己の欲望に忠実な書状だったのだ。
「ちょっと待て。その一葉とやらはこの国の将軍なのだろう?その将軍がそのような理由でそんな書状を送ってよこしたのか?」
「まぁ公方様ですからね……」
「公方様だもんね……」
「公方様ならあり得るよね……」
「それでいいのかこの国の将軍は!!」
イズナがそう言うのも無理はない。だが、この場で一葉の人となりを知っている者からすれば首を縦に振ってしまうだろう。
何せ普段から幕府の予算の足しにするという無茶苦茶な理由で、町に繰り出してはチンピラまがいの連中と戦っては金を巻き上げることもあるのだから。
だが、どうやらイチャイチャ願望以外のことも書かれていたらしく、むしろそちらの方が重要な案件であったのだ。
ここ最近、奇妙な事件が多発しているそうなのだ。
たとえば、ある山では雨が止むことなく降り続いている。
細く長い赤い光が木々の間を縫って走っている。……等々。
現在、足利衆や霊能力者などに命じて調べさせてはいるが、まるで原因が分からずお手上げ状態なのだそうだ。
「というわけなんだけどってセイ?どうしたんだ?」
見ればセイとイズナが頭を抱え、アスカとナギが苦笑いを浮かべている。というか剣丞の話を聞き始めてからセイ達の顔色がどんどん悪くなっていった。ということは。
「なぁセイ、もしかして……」
「それ多分僕の式神の可能性が高いよ。イズナはどう思う?」
「いや確実にそうであろう。はぁ、よりにもよって面倒なヤツらがいるものだ……」
やはりそうだ。実は書状に書かれていたこれらの事件。発生時期がセイ達を剣丞隊に組み込んだ時期とほぼ重なっているのだ。であるからして、剣丞と久遠はこれらはセイ絡みであるだろうと予測したのだ。
「つまりどういう事っスかご主人?」
「その一葉っていう剣丞君の奥さんの所に、準備して皆で行くってことだよアスカ」
「剣丞様、出発はいつになさるので?」
「遅くとも三日以内かな。一葉からは特に何も書いてはいなかったけど、急ぐことに越したことはないからね。というわけで詩乃、どうにかならないかな……?」
相変わらずこの方は無茶を言いなさる。言いなさるが、それでこそやりがいがある。だからこそ私はこの方に全てを捧げようと誓ったのだ。
「かしこまりました剣丞様。そういうわけですので早速準備を始めましょう。歌夜さん、今連れている松平衆の人数を教えてください」
「了解です詩乃さん」
「ひよところには必要になるであろう糧食や具足、それと必要経費その他の計算を。ちい子さんはその補佐をお願い致します」
「まかせて」
「頑張ろうねちい子ちゃん」
「うん。お姉ちゃん!」
「小波さん、句伝無量をお願い致します。エーリカさんや梅さん、それと雫にも連絡して連携を図らなければなりませんから」
「かしこまりました」
テキパキと指示を出していく詩乃にセイ達は舌を巻く。流石剣丞隊の軍師。本人は嫌がっているが今孔明と呼ばれるだけのことはある。
そういえば以前剣丞が、『詩乃がいなければ剣丞隊は回らない』と言っていたことも頷ける。
そう思っていると、その詩乃が申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「あの、セイさん。お願いがあるのですが……」
「詩乃さんどうしたの?」
「出来る範囲でいいので、あなたの式神のお力をお借りしたいのです」
「えっと例えば荷物を運んだりとかそういうこととか?」
「はい」
それは確かにその通りだろう。
綾那との戦いで見せた酒吞童子の怪力や、閻魔天の門。荷物は軽々持ち運べるし、門を通じれば移動時間の短縮できる。移動時間が短縮できれば、それだけ必要経費も抑えられる。
おまけに乙姫の治癒能力があれば、移動中に体調が崩れた者がいたとしても問題はない。
だが、セイはこの世界の人達になるべく式神の力に頼って欲しくないというスタンスを取っている。なので詩乃は断られることを前提でセイに頼んだのだ。
セイがその答えを紡ぐまで数秒。しかしその時間は詩乃にとっては数刻にも思ってしまう。
「酒吞。荷車を出したりするの手伝ってあげて」
「うん!綾那、どこから持ってくればいいの?」
「酒吞!こっちなのですよ!」
「アスカは剣丞君に何すればいいか聞いてから動いて。あ、それとイズナは」
「計算関係の手伝いであろう?まかせておけ」
「乙姫は皆におにぎりでも作ってあげて。それと怪我人の治療もね」
「かしこまりましたわセイさま。今こそ花嫁修業の成果を見せるとき!」
「閻魔天は……」
「可愛い可愛い詩乃の補佐でもしましょう。では剣丞隊の帳簿を拝見いたします」
セイも式神達にテキパキと指示を出して剣丞隊の手伝いをお願いしていく。てっきり断られると思っていた詩乃は驚いたが、セイの代わりにナギが答える。
「詩乃さん。セイは困っている人を見ると絶対に助けちゃう人だから。そうだよね、セイ?」
「うーん。自分でも甘いとは思ってるけどね。それにやっぱりさ、剣丞君とその奥さんを早く合わせてあげたいじゃない。だからかな?それに」
「それに?」
「当事者として早く事件を解決しなきゃだしね」