それでは、楽しんでいただければ幸いです。
「中々に美味い。感謝しろ双葉。これで京が雨に沈むことはなくなった」
「善如龍王様の寛大なお心遣い、感謝いたします」
「のう、お主本当に善如龍王だと言うのか……?」
「お前耳が悪いのか?医者に診てもらえデコっぱち」
「デコっぱちじゃと!?」
「いやしかしその頭の角を見るとそうとしか言えぬだろう一葉」
「ほう、老眼は患ってはいないのだな見栄っ張り」
「見栄っ張り……!?」
「善如龍王様ってあんなに辛辣なの?」
「公方様や久遠様にあんな事言えないよね……」
「無礼討されても文句言えないですよ……」
「聞こえているぞ田舎娘三人衆。雨と雷、嫌な方を選べ。嫌な方をその身に馳走してやる」
「「「ひぃっ!!!」」」
「ま、まぁまぁ、龍王様だってセイの式神なんだからそんなに心配しなくても大丈夫だって」
「種馬はさっさと厩舎に戻っていろ。双葉、お前にも一本団子をくれてやるから隣で食べるといい」
「ありがとうございます。善如龍王様」
「その団子は双葉様が買ってこられた物なのではありませんか?」
「今は我のものだ。そんなことも理解出来ぬのか?種馬の軍師」
「否定出来ない所をつかないでください!!」
「待って詩乃!?否定出来ない所ってどこ!!?」
道中しっかり双葉が自腹で団子を買って二条城へ戻って来た一行は、砂埃等を落とし身綺麗にしてから剣丞達に事件の報告を始めた。
やはりセイの式神が原因だったこと。ついでに鬼に襲われたこと。その鬼を、事件の原因である式神、善如龍王が退治したこと。
鬼のことも驚いたが、全員が最も驚いたのは善如龍王だろう。
それもそうだ。異世界の、とはいえ本物の龍が目の前にいるのだから。
そしてそんな龍王は、さっさと広間の縁側に座ったかと思えば、「さっさと団子を寄越せ双葉」と、当事者同士でなければ分からないことを平然とやって見せたのだ。
そして団子を双葉が持ってくると、何事もなかったかのように団子を食べ始め、冒頭の光景へと戻ったのだった。
「あれ本当に善如龍王様なのです?善の「ぜ」の字なんかないので痛ぁっ!!」
「綾那!?」
「綾那様!?どうなさいましたか!?」
「雨粒一滴額に垂らしただけでそこまで痛がるのかお前は」
見れば善如龍王が綾那の額に雨デコピンを炸裂させていた。どうやらしっかり聞こえていたようだ。しかも視線を庭に向けてしっかり団子を食べながら。
一通り団子を食べ終えると、スッと立ち上がり隣で座っている双葉も立ち上がらせる。
「あ、あの善如龍王様……?」
「茶が飲みたい。お前が淹れろ。そういうわけだデコっぱち。こいつを借りる」
「だから誰がデコっぱちじゃ!?」
「離れに茶室がございますので、そちらをお使いくだされ善如龍王様」
「そうさせてもらおう。ほれさっさと行くぞ双葉。案内は任せる。あぁそれから幽だったか。道中の話は面白かったぞ。褒めてやる」
「恐悦至極にございます」
そう言い捨てると、今度こそ善如龍王は双葉を連れてさっさと茶室へ向かっていった。
「なんなんじゃアイツは!!余のことをデコっぱちと呼びおってからに!!」
「流石の我も見栄っ張りと言われたのは初めてだ。セイ、アイツはいつもああなのか?」
「あれでもまだマシな方だよ。もっと酷いこと言われたり命令されたりしたし」
「因みにどんな命令だったんだ?」
「夕方までに山の頂上にしか咲かない花を、身体強化の術使わないで全力疾走で取ってこいとか?」
「無茶がすぎるではないか」
「まぁその後汗を流してやる~とか言われて全力の放水を頭の上から掛けられてたっスよ」
その場にいた全員がドン引き。確かにそんな経験談を聞かされてしまえば、あれくらいの毒舌など可愛いものだ。
「ですが善如龍王様はやけに双葉様に絡まれている様子でしたが、あれはどういう事なのでしょうか?」
「善如龍王さんが双葉ちゃんの事気に入ったからかもだね。じゃなきゃあんなに絡むことなんてないと思うよ詩乃さん」
「余の妹は、とんでもない存在に好かれたものじゃの。一先ずこれにて長雨の一件は解決したな主様よ」
「ああ。セイありがとう。助かったよ」
「それが僕の仕事だから気にしないで。でもまだ一つだけ。これから一気に片付けていくから」
その通り。まだこの手の案件はまだ多数存在している。善如龍王も戻ってきたので、事件解決のスピードも上がるだろうが、その本人が素直に力を貸してくれるかどうかも怪しい。
実を言うとアスカ同様前衛タイプの式神がいればいいのにな。と思うセイ。現在前衛は剣丞隊の兵が担当してはいるが、この先何があるか分からない。だからこそ接近戦の得意な式神がいてくれれば心強い。
まぁそんな都合よくいかないのが世の中なんだよね。と思っていた矢先だった。
「ようやく見つけたぞ我が教え子よ。先生はとても嬉しい」
庭の方からいきなり少女の声が聞こえてきたのは全員にとって寝耳に水だった。
全員が全員そちらに目を向けると、嬉しそうに微笑む少女が確かに庭に立っていたのだ。
「おや、アスカとナギもいたのだな。イズナはどうした?」
「あ、えっと、こことは違う所にいるっスよ」
「そうか。それは安心した。他にも式神が?」
「えっと、乙姫さん、閻魔天さん、酒吞童子さん、善如龍王さんの四人だよ」
「なるほど」
「……待て!!貴様は一体何者だ!?どうやってここに侵入した!?」
口火を切ったのは小波だった。
その少女があまりにも自然に話をしていることに誰も気が付いていなかったが、そこは隠密。すぐさま意識を切り替えると警戒レベルを一気に引き上げる。
「教え子の霊力を感じ取ったので、あそこの塀を飛び越えて着地したのだが何か問題があったのだろうか?」
飛び越えて、着地した?
言っている事はごく簡単なものなのだが、その内容が問題だった。
城の塀を飛び越えることは容易なことではない。が、それ以上に彼女が音もなく着地したことの方が問題だった。
なにせ彼女が着地した場所というのが、白い玉砂利が敷き詰められている場所なのだ。ほんの僅かでも歩けば音が鳴る場所だというのに、そんなところに音もなく着地する事など可能であろうか?
「我は何か間違ってしまったのだろうか……だとしたら申し訳ない。どうか許してほしい……」
「先生、まずは自己紹介しなきゃ。名乗りもしないで入ってきたら警戒するよ?」
「なるほど。確かにセイの言う通りだ。我が名は『鬼一法眼』。気軽に法眼先生と呼んでくれ」
鬼一法眼(きいちほうげん)
六韜(りくとう)という兵法の大家であり文武の達人。源義経の武術の師匠と伝わっていたりもする。気になる方はwebでcheck!
「「「「「鬼一法眼!!!!!?」」」」」
彼女らが驚くのも無理はない。鬼一法眼。かつての源氏棟梁の息子の師匠。その名はあまりにも有名であまりにも偉大な存在だ。
「か、歌夜、あの人が鬼一法眼なのです?」
「私に聞かれても……でもあの人の腰の辺りに烏の翼があるわ……」
そう、歌夜の言う通り鬼一法眼の腰の辺りから黒い翼が生えていた。確か源義経は牛若丸と呼ばれていた幼少期、鞍馬山で烏天狗に修行をつけてもらっていたと伝えられていたが、彼女自身もそうなのであろうか?
「ああこれか。我は烏天狗だからな」
さらっと認め翼を軽くパタパタと羽ばたかせる。
アスカの耳と尻尾や善如龍王の角でも驚いていたのだが、さらに驚く要素が増えた。
「それにしても教え子よ。少し鈍ったのではないか?動きが硬いぞ」
「これでも柔軟毎日やってたけど?」
「いや硬い。少しほぐしてやろう」
そう言いながら鬼一法眼は、また音もなくセイの目の前まで近付いていく。あと数センチでキスしてしまう様な距離までになったときだった。
すかさず鬼一法眼が、セイにパロス〇シャルを仕掛けたのだった。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
「やはり硬くなっているな。どれ、もう少し……」
「法眼先生待って!今回はマズイ音がしてるから!!」
「加減はしているから大丈夫だ。そら」
ボキッ!ベキッ!バキッ!
「あ、あの~法眼さん?」
「君は?」
「えっと蜂須賀転子正勝と申します。転子で結構ですので」
「それでどうしたのだ転子?」
「セイさん、大丈夫なんですか?物凄い音が関節からしてましたけど……」
「それだけ関節が硬かったという証拠だ。関節は外れてはいない」
「でもピクピクしてますけど!?」
「それだけ鍛錬を怠っていたという証拠だ。セイ、明日から法眼先生が鍛えてあげるから一緒に頑張ろう?」
もう既にやっている事が常軌を逸しているのでは?とアスカとナギ以外の人間が思うのであった。
おまけ
「中々だった。次はさっきの団子も付けろ。当然お前が買ってこい双葉」
「かしこまりました善如龍王様」
「……素直すぎるのもつまらんな。性格は『アイツ』と正反対か」
「アイツ……?」
「独り言だ。気にするな」