陰陽師。
霊的に国を支えていた占い師のことを指す。平たく言えば『国家資格化された占い師』。
主な仕事は占いやオーラの鑑定、周辺地域の運勢鑑定、吉となる方角や日にちの割り出し等々。
そんな陰陽師の仕事で一番有名ともいえるものと言えば、魔除けや妖怪退治などであろう。
そしてその陰陽師が今まさに、剣丞の目の前にいるのだった。
「陰陽師って……本当に?」
「もちろん本物だよ。あ、そうだアスカ、彼に自己紹介したの?」
「忘れれてたっス!私はアスカ!ご主人の式神っス!!」
「ついでに私もしておくか。さっきも名乗ったが私の名はイズナ。妖狐だ。よろしくな」
「あ、ああ、よろしく……?」
あまりにもフランクな自己紹介に、思考に感情が追いついていかない剣丞だったのだが、そこは剣丞の知恵袋が応対する。
「剣丞様、この方々が言っていることは、信じられないかもしれられませんが、どうやら本当のようです」
「詩乃までそんなことを言うなんて……」
「剣丞様がこの村に駆け出した後に、私の遥か後方からアスカさんが走り抜け、さらにイズナさんが地面から浮きながらアスカさんの後を追う姿を目撃すれば信じるしかありません」
「そんなことになってたんだ。確かにそんなことを見たら信じるしかないよね」
「幻覚を見たのかと自身の頬を思い切り抓りましたよ……」
―――さかのぼること数刻前
「い、今のは一体……?」
詩乃は目の前でありえない光景を目撃した。
下手をしたら馬よりも早い速度で誰かが剣丞の後を追い、さらにその後を宙に浮いた誰かが目の前を通り過ぎたのだ。
あれは一体何だったのであろうか。いやそれよりも先ずは剣丞の後を追わなければならない。しかし、自分の運動神経の悪さは把握している。ならばまずやらなければならないことは……
「……いひゃい」
思い切り自分の頬を抓ってみること!!その結果は激痛!!つまりあれは現実の光景!!
「あの、どうしたんですか?自分のほっぺをつねったりして。痛くありませんか?」
「え?」
背後から女の子の声で尋ねられる。
振り返ってみれば白い長髪の女の子が立っていた。
「あ、私の名前はナギっていいます。あなたの名前は?」
「……竹中半兵衛重治」
「えっと、たけなかはんべいしげはる、さんですか?」
「詩乃でかまいませんよ、ナギさん」
「うん、わかったよ詩乃さん。あ、セーイ!ここだよ~!」
ナギと名乗った少女は、大きく腕を振りながら誰かを呼ぶ。やがて姿をあらわしたのは背格好が剣丞と同じくらいの男性だった。……いつもの展開ならば女性だと思っていたのは詩乃の胸にしまっておく。
「ふぅ。まったく、マガツヒモドキの気配が~って急に走り出すんだから。でもイズナも追いかけてくれるから大丈夫かな?」
「あの、あなたは一体……?」
「僕は蘆屋清明。陰陽師さ。さっきここを通り過ぎて行ったのは僕の式神なんだ」
「おんみょうじ……?」
ここ最近噂になっている陰陽師というのはあなたのことなのですか?
陰陽師だという証拠はあるのですか?
さきほど言っていたマガツヒモドキとは鬼のことなのですか?
聞きたいことは山のようにあるのだが、先ほどの光景が頭に張り付いて言葉を紡ぐことが出来ない。
「えっと詩乃?さんでいいのかな?」
「はい、そうですが何か?」
「あの村に何かあるの?」
ハッとする。そうだ。あそこには愛する夫であり主がいるのだ。一刻も早く向かわねば。
「あの村には私の主が向かっています!早く追いつかなくては!」
「大変だよセイ!どうにかしなきゃ!」
「うん、そうだね。……よし、だったらナギ、詩乃さんをおぶってくれないかな?本当は僕がおぶった方がいいんだけど、変なところ触っちゃうかもしれないし、アスカに霊力渡すのに集中しなくちゃいけないし」
「わかったよセイ。あ、でも私にも少し霊力渡してくれないかな。その方が力も出やすいから」
「了解。そういうわけだから詩乃さん、ナギの背中に」
「いえしかし……」
「いいから早く。急ぐんでしょう?」
「は、はい。では失礼致しまして……」
そう言って詩乃はナギの背中におぶさる。背は自分と同じぐらいだろうか?どことなく落ち着くなと思うと同時に、本当に大丈夫なのかと疑問に思う。
だが、その考えは蘆屋清明と名乗った男性が、懐から取り出したお札によって崩れ去った。
そのお札を指で挟み、彼が集中していると、何やらナギの身体が熱くなり、そして、軽々と詩乃を背中に抱えて、歩き出すどころか全速力で走りだしたのだった。
「詩乃さん舌を嚙まないようにね!」
「は、はいぃぃぃ!」
詩乃が想像していた速度以上のスピードでナギが走り出す。
まるで早馬に跨っているかのようだ。振り落とされないようにナギの着物をしっかりと掴む。
「あ、あのナギさん、あなたはどうしてこんなにも速く走ることが出来るのですか?」
「私もセイの式神なの。今はセイから霊力を貰って身体を強くしているから、こうして速く走れるんだ」
「あなたも、式神?」
式神
陰陽師が使役する鬼神や妖怪のこと。掃除などの雑用から悪霊との戦闘までその役割は多岐にわたる。十二神将などが有名だろう。気になる人はwebでcheck!
「人間だけど式神なの。陰陽師と契約を結ぶことで、その陰陽師の式神になれるんだ」
「そして僕たち陰陽師は、契約した式神に自分の霊力を渡して戦ってもらってるんだ」
「あ、セイも来たの?」
「そりゃそうでしょ。僕と式神との距離が離れれば霊力を渡すの大変なんだから」
「え?えぇ!?」
詩乃が驚くのも無理はない。何せセイも同じ速さでナギと併走しているのだから。
「ど、どうやって……」
「自分に身体強化の術をかけたんだ。でも二人に霊力渡しながら使ってるからキツイ……」
そういうセイの顔色は若干青ざめている。かなりの無理をしているのだろう。
「セイ、このままだとセイが霊力切れ起こして倒れちゃうよ。少しペース落とそ?ね?」
「……しかたないか。詩乃さん、そういうわけだからペース落とすよ。ごめんね?」
「はぁ……」
ぺーす?聞き覚えのない単語に詩乃は首を傾げる。だがどこかでその単語に聞き覚えがある。どこだったであろうか。記憶を掘り起こしていくと、わりと簡単に掘り出される。かつて剣丞との会話の中で彼が使っていたのだ。
聞けば、剣丞がかつて暮らしていた天の国の言葉だと教えてくれた。
ということは、彼も剣丞と同じ天の国の人間なのだろうか?そう思考を巡らせ始めると、その思考はすぐに切断された。
「詩乃さん、もう少しで到着するよ?」
「もうですか!?」
いくら何でも速すぎる。ちょっと話をしている間に目的の村までたどり着いたのだ。これはもう信じるしかない。おとぎ話でもない。彼らが本物の陰陽師とその式神であることに。
「というやり取りが先程ありまして……」
「それは確かにそうだね。俺もさっきからアスカさん?だっけ?耳と尻尾が動きまくってるのを見たしね……」
「人的被害がなかったのは幸いです。とにかく一度戻りましょう。久遠様に報告して兵などを派遣していただかなければいけませんし……」
「あとは彼らのことだよね……」
そういう会話をしながらセイ達に視線を向ければ、傷口を洗ったり包帯を巻いたりと怪我人たちに治療を施している。時々アスカとイズナが、子供達に自らの耳と尻尾を触らせたりして遊んだりしている。
そんな二人の視線に気づいたのか、セイがこちらに近づいてくる。
「そっちの彼が無事でよかったよ。詩乃さんがとっても心配していたから」
「こっちこそありがとう。君たちのお陰で助かった」
「どういたしまして。それでこれから僕たちをどうするつもり?時と場合によっては抵抗するけど……」
「安心してくれ。抵抗させるようなことはしない」
「ただ色々とお話は聞かせてもらうことにはなるでしょうが……」
「だよね~。それに関してはOKだよ。ただまぁ今はここの村人に治療をしたいから、それが終わってからでいい?」
「詩乃もそれでいい?」
「はい。剣丞様」
こうして全員で村人達に出来る範囲で治療を施していくのだった。