戦国♰ランブル!   作:ミヤビコウ

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楽しんでいただけたなら幸いです


甲斐の虎

 同じ頃。甲斐。

 ここは剣丞の妻の一人でもある武田光璃晴信が藩主を務める地。

 当然、光璃にもセイとその式神のことは伝わっており、自らも『歩き巫女』から得た情報を集めて整理しているところだった。

 それにしても突飛な話だ。異世界からやって来た陰陽師とその式神。しかもその原因が宴会芸の暴走。初め光璃は剣丞と久遠の正気を疑った。それを理由に夫の元へ赴いて、思い切りイチャイチャしてやろうかとも画策したのだが流石にそれはやめた。……まぁ今度剣丞に会ったら甘えるのは光璃の中で確定しているが。

 そしてその陰陽術、蘆屋清明にはこの世界をどうこうする気は全くなく、自らの世界に戻ることが目的だということには多少安心した。

 そして何より安心したのは、その蘆屋清明が『男性』だったということだ。これが『女性』だったら『あぁ、また奥が増える……』なんてことになってしまう。それが回避出来たことに光璃はとっても感謝したのは秘密だ。

「姉上ー、いるでやがりますかー?」

「お姉ちゃん、準備できたー?」

「……?」

 不意に光璃の妹、武田夕霧信繋と武田薫信廉の声が聞こえてきた。

「準備?」

「姉上、もしかして忘れているんじゃ……」

「お姉ちゃん、今日はお出かけしようって約束したじゃない」

「……あ」

 そうだった。珍しく三人の予定がない日が重なったから、その日出かけようと約束した。

「……すぐに支度する」

 その支度の時間が四十秒以内であったことは言うまでもない。

 

「それにしても珍しいでやがりますな。姉上が約束を忘れるだなんて」

「夕霧ちゃん、お姉ちゃんだってそういう時くらいあるよ」

「……夕霧、薫、本当にごめん」

「いや別に夕霧も薫も怒ってないでやがりますから謝らなくていいですよ姉上」

「そうだよお姉ちゃん。あ、そういえばどこに行こっか?全然決めてないもんね」

 そんな会話をしながら武田の三姉妹が城下町の通りを歩いている。

 実は一緒に出かけようということまでは決まっているのだが、それ以外はまったく決めていない。実はあえてそうしたのだ。今日は最後まで行き当たりばったり。何が起きるか分からないドキドキを楽しもう。そういう予定だ。(だから護衛も連れていない)

 そんなわけで、行く先々の店先に売られている商品を眺めたり、実際に手に取ってみたり、気に入ったものがあったら光璃が大好きな妹のために買ってあげたり、お弁当買ってどこか見晴らしのいい場所で食べようという薫の提案に賛成をして、近くにある河原にやって来た。

 時間も丁度お昼時。ちょっと行儀は悪いが河原のどこかに座ってお弁当を食べようとした時だった。空腹を知らせるお腹の音が盛大に鳴り響いた音が聞こえてきたのは。

 もちろん武田三姉妹のものではない。しかし武田三姉妹は音の方向へ首を向ける。

「いや~盛大に鳴ったねぇ~」

「ううぅ、すみません……」

「夜じゃないとお魚捕まえられないもんね。もうすこし我慢だよオロチさん」

 この辺りでは見たことのない女の子の三人組だ。その内の一人は笠と外套を羽織っており、相変わらず見事な空腹三重奏を奏でている。余程空腹なのだろう。なんだかフラフラしている。

「あ、あのーちょっといいですか?」

「ほえ?」

「は、はい!なんでしょうか!?」

「私たちのこと?」

「うん。お腹が空いているみたいだけど、いつから食べていないの?」

 そんな三人を見かねた薫がたまらず声を掛ける。あれだけお腹が鳴っているのだ。気にもなってしまう。

「う~ん、最後に食べたのっていつだっけ?」

「えっと確かに昨日の明日のおとといのらいねんのよくじつのさんねんまえでしたっけ?」

「四日前に焼いたお魚を食べて以来だよオロチさん。しっかりして!」

「しかも一匹を三等分にしてね。いや~まいったね~」

「えぇ!?そんなに食べてないの!?私のお弁当あげるよ!」

「え、でもそれキミのでしょ?いいの?」

「だったら夕霧の弁当も食べるでやがりますよ」

「……光璃のお弁当もあげる。遠慮しなくていい」

 焼け石に水かもしれない。本当は野党の類かもしれない。それでも目の前に困っている人がいるのなら手を伸ばす。どうやら自分達は随分夫に影響されているのだなと武田三姉妹は思う。

 それでも空腹三人組は遠慮していたが、最後は光璃の無言の圧力によってその弁当をもらって食べることになった。四日も食べていないこともあったのか、『オロチ』と呼ばれていた女性は何度か喉を詰まらせながら食べていた。そして数分後。

「「「ごちそうさまでした!」」」

 米粒一つ残すことなく完食したのだった。

「いや~美味しかった~!本当にありがとね。餓死する寸前だったよ~」

「本当に!本当にありがとうございます!!」

「うん。ありがとう。えっと……」

「私は薫だよ」

「夕霧でやがります」

「……光璃」

「ありがとう。薫さん、夕霧さん、光璃さん」

 ふわりと、赤毛の少女が微笑みながら光璃たちにお礼を言う。それにしてもこの三人は誰なのだろう。そう思いながら光璃が観察をしようとした時だった。

「え?オロチ様?えぇ!?直接お礼をしたい!?い、今は駄目ですよ!まずいですってば!」

 突如、オロチと呼ばれた女性が慌て始めたのだ。様子から察するに、ここにはいない誰かに向かって話をしているようだ。その様子に夕霧も薫も首をかしげる。しかも。

「ちょ!ダメだって!シャレにならないから!」

「オロチさん!なんとかして!」

 あっちの二人もなにやら焦っている。本当にどうしたのだろう?

「だからオロチ様ダメですってば!これフリでもなんでもないんですってばぁ!!……あ」

 ピタリ。とオロチが顔を青ざめながら動きを止めた瞬間だった。

 オロチの両肩の上の空間に、突如として巨大な黒い渦が現れた。そしてさらに、その黒い渦から、人一人を簡単に丸吞み出来るほどの巨大な蛇がずるりと出現してきたのだ。

「きゃあああああ!!」

「な、なんでやがりますかこれは!!?」

「……夕霧!薫!」

 そりゃそうだ。こんな光景、間近で見れば誰だってこうなる。それでも光璃は妹二人を守るため、腕を広げて仁王立ち。そんな光璃に、大蛇がゆっくりと近づいていき、そして―――

 スリスリと、優しくその巨大な頭を光璃の体にこすりつけていたのだ。それだけではない。その黒い渦からもう二本首を出すと、夕霧と薫にも同じことをしているのだった。

「え?え?」

「お家流……?でもなんだか違う気が……」

「オロチ様~出てこないでって言ったのに~」

「あちゃ~ど派手に出てきちゃったね~」

「ど、どうしよう……!」

 パニック状態の心を無理矢理落ち着かせ、光璃は思考を巡らせる。彼女たちのこの力は、明らかに人のそれではないし、お家流でもない。あまりにも強力すぎる。ならば『鬼』?それも違う。それならばもうとっくにこの大蛇の餌になっている。だとすれば―――

「……オロチに、聞きたいことがある」

「な、なんですか?」

「……蘆屋清明という名に、心当たりは?」

「え!?セイさんを知っているのですか!?」

「よかった~セイ、無事だったんだね~」

「うん。ホッとした……!」

 蘆屋清明の名に反応した。だったら間違いない。

 彼女たちは、例の異世界からやって来た式神なのだろう。

 

「なるほどね~そういうことだったんだ」

「セイさんが無事だって分かっただけでもいいですよ」

「うん。あ、それじゃあちゃんと自己紹介するね」

「アタシはカノエ。『白虎』だよ~」

「同じく、ヤマタノオロチです。長いのでオロチと呼んでください」

「私はカグツチ。よろしくね?」

 

白虎(びゃっこ)

 中国神話に登場する神獣で、西の守護者。権威や子宝の神でもある。気になる方はwebでcheck!

 

八岐大蛇(やまたのおろち)

 日本神話に登場する怪物。頭と尾が八つ、八つの谷と峰にまたがる程の大きさの大蛇として描かれている。また、水神という解釈もある。気になる方はwebでcheck!

 

加具土命(かぐつち)

 日本神話に登場する火の神様。その他に、鍛冶、防火、陶器、温泉を恵む神とされていて、エピソードがかなり不遇。気になる方はwebでcheck!

 

「信じられないでやがりますよ……!」

「でも夕霧ちゃん、さっきのオロチさんとかカノエさんのお耳とか……」

「……この感触は間違いなく本物。とっても不思議」

「ん~ちょっとくすぐったいな~もう少し優しく触ってよ光璃」

「……ん、ごめんねカノエ。夕霧と薫も触ってみる?」

 カノエはすでに自らのケモ耳と尻尾を晒して光璃に触らせている。もうすでにヤマタノオロチというとんでもないものを見られているので、自らも人外の証拠を見せて触らせている。それはもちろんカグツチも同じで、自らの炎で作り出した大剣を見せて武田三姉妹を驚かせた。

「わぁ~猫のお耳みたいだね夕霧ちゃん」

「本当でやがりますね。でも恐れ多いでやがります。神獣白虎の耳を触るなど」

「いつでも触っていいからね~」

「ですが、本当にいいのですか?セイさんと合流するまで皆さんの所でご厄介になっても……」

「流石に迷惑なんじゃないかな?」

「……問題ない。そうしてくれた方が混乱を避けられる」

 何度も言うが、カノエたちの存在は規格外すぎる。そんな規格外があっちこっち移動され、うっかりオロチ様が出てくれば大混乱待ったなしだ。鬼の脅威がある中で、これ以上の混乱は避けたい。だからこその提案だ。目の届く範囲にいてくれた方がこちらとしても安心出来る。

 ついでに、なぜか自分の勘がこう告げている。『ここで留まらせることが出来なければ、美空にドヤ顔される』と。それはちょっと嫌だ。

「じゃあ厄介になるね~その代わり、この爪と牙でキミたちを護るから」

 

 

 

 

おまけ

「オロチ様に頼めば魚を簡単に捕まえられたんじゃないかな?」

「それやったんだけどね~」

「捕まえたそばからオロチ様がそのまま食べてしまって……」

「オロチ様のお腹がいっぱいにならないと私たちに分けてもらえないんだ……」

「それはまたなんとも……」

「……人の目もあるから、夜にしか出来ない。夜まで我慢って、そういうこと?」

「そういうこと~」

 

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