戦国♰ランブル!   作:ミヤビコウ

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楽しんでいただけたなら幸いです


事実は小説よりも……なんだっけ?

「んん……」

 ある日の夜、二条城であてがわれた寝所で寝ていた久遠が不意に目を覚ました。しかも、不思議なことにまるで眠気がやってこないほどに頭がすっきりとしている。

 久遠の経験上、こうなったら再び寝ることは不可能だ。ならばと少し行儀は悪いが、寝巻のまま月見でもしゃれこもうと外に出る。

 だが、そんな久遠の思いとは裏腹に、その日の夜は雨模様で月の光の一筋も射してはいなかった。少し残念には思ったが、ならばと降りしきる雨音でも楽しもうと縁側に座り耳を傾ける。

 一定の間隔で、とても優しい雨音に包まれ久遠の心は心地よくなっていく。出来れば隣に夫の剣丞がいてくれれば、さらに心地よくなるのだろうと思ってしまうあたり、自分も随分誑されたものだという考えは恥ずかしくて誰にも言えない。

 そんな事を思っていると、複数人の気配がこちらに近づいてくる。これが小波や鬼一法眼ならば人数まで把握出来るのだろうが久遠にそんな芸当は出来ない。やがてその気配の話し声が聞こえてきたところで、ようやく久遠はその気配の人物を把握することができた。

「おい……なんで僕を起こす必要があったんだ?」

「原初の火ならば行燈替わりになるだろう?」

「僕は行燈じゃない!」

「五月蠅い。夜中だ。そんなこともわからないのか」

「キミが叫ばせたんだろう!?」

「あ、あの善如龍王様、火天様にそのようなことをさせるのは、あまりにも恐れ多いのですが……」

「よいではないか双葉。十二天の一柱の力で書物を読んだとなれば、それはそれで面白いことになりそうじゃ……ん?なんじゃ久遠もいたのか」

「あぁ。目が覚めてしまってな」

 足利姉妹に善如龍王、最近セイと合流した火天が姿を現したのだった。

 

「ではこの雨はお前が降らせたのか」

「土煙が酷かったからな。こういう時はまとめて流すに限る」

「言葉の通り、善如龍王は面倒ごとを勢い良く水に流すから気を付けるんだよ。このぐらいの明るさでいいかい双葉?」

「はい。でもよろしかったのですか火天様?」

「問題ない。僕も火力の訓練になるしね」

「ものは言いようじゃな……」

 先程までの静かな雨音とは違い、今は少し姦しい会話の花が咲き乱れる。

 話を聞けば、最初双葉が読書をしようとしたことが発端だったそうだ。

 行燈の油の代金ですら馬鹿にならないため、月明かりの下で読もうとしたが、見ての通りあいにくの雨。諦めようと思ったその時、善如龍王が双葉のもとにやって来たそうだ。

 本を持つ双葉を不思議に思った善如龍王は双葉からその理由を聞き出すと、あてがわれた部屋で眠っていた火天を蹴り起して連れてきた。理由はもちろん行燈替わり。

 だが、蹴り起したときの音で一葉も起きてしまい、このような状況になってしまったというわけだ。

「改めてだが、おぬしらの力には驚かされるばかりじゃ。敵に回さぬでよかったと心底ほっとしておる」

「善如龍王に聞きたいのだが、人に仇なすアヤカシもいるのか?」

「いる。結果論でいえば我も火天もそうだ。今降っている雨を大雨に変えれば川を氾濫させることもできるし、火天のアレを適当に投げれば火事になる」

 善如龍王の指差す先には、双葉と一緒になって本を読む火天が作り出した火球がふわふわと宙に浮かんでいる。

「我らの『常識』が、人の『常識』から外れれば、自ずと『人に仇なすアヤカシ』の誕生だ。まぁ運良くその『常識』が信仰となれば御の字だろうさ」

 久遠と一葉は、善如龍王の言葉にハッとさせられる。

 自分の常識は他人の非常識。それは自分達にも当てはまる。国を納める者の『常識』が、必ずしも民を救うわけでもない。それは民も同じ。あちらは藩主の『常識』を知らない。

 その互いの『常識』がズレれば国は荒れる。さらには他国との関係も荒れる。行きつく先は戦しかなくなる。

「そこまで深刻に考えなくても大丈夫だろう。そうならぬように陰陽寮や陰陽師という存在がいる。我らも人間の『常識』は知っているつもりだ。だから安心して我に双葉から団子を献上させ続けろ」

「今までの話が台無しになったような気がしたのは我だけか?」

「安心しろ久遠。余も同じ気分じゃ」

 確かに残念にはなったが、それでも得るものはあった。藩主と民の『常識』の間には、常に剣丞がいる。剣丞が互いの常識の『ズレ』を見つけて修復してくれる。改めて、夫の存在に感謝だ。

「へぇ。冒険活劇を題材とした物語なんだね」

「よろしければ火天様もご覧になりますか?」

「キミが読み終わったらそうさせてもらおうかな」

 そう言った火天であったが、無意識に双葉が読んでいる本に目が行ってしまう。

「彼の者は、心通わせた龍の背に跨り天へと上り……」

「おい。なぜこちらを見ている火天」

「別に?他意はないよ。えーと、その龍の咆哮は稲妻よりも猛々しく響き渡り……」

「火天。随分と安い挑発をしてくるではないか」

「僕はただ、目にした文章を音読しているだけだ。キミのことだとは言っていない。自意識過剰なんじゃないか?」

 あ、ヤバい。これこのままいったらマズイことになる。久遠、一葉、双葉は本能的に感じ取る。

 気のせいだと思いたいが、あの二人を中心とした空間が重くねじれ折れ曲がっているような気がする。あと少しで冷や汗が噴き出る。その瞬間だった。

「いいだろう火天。その挑発に乗ってやる。お前が合流したおかげでセイの霊力が増えた。その量を推し量るには丁度いい」

「別にそういうわけじゃないんだけど……キミを焚きつけてしまった以上、僕も協力するしかないか……」

「善如龍王?火天?一体何をするつもりなのだ?」

 戸惑う久遠たちをよそに、善如龍王と火天は三人の背後に回り込むと目を閉じて集中する。まるで、自らの真の力を解き放つかのように。

「特別だ。貴様らに物語の一端を体験させてやる」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「これは……!!確かに得も言われぬ体験じゃな!!」

「きゃああああああああああああああ!!!」

『うるさい。振り落とされても知らぬからな』

「そうならない様に僕が術を行使していることを知っていて、よくそんなこと言えるね」

 今、三人は一葉の言葉通りに凄まじい体験をしている。

 なにせ、『伝説に語られる龍の姿となった善如龍王の首筋』に必死に掴まって天を翔けているのだから。

 あっという間に三人は二条城を眼下にし、暗い雨雲の中を突き進む。耳朶にする風の音は、暴風そのものを耳に直接叩き込んだようで、どれだけの大声を出そうとも他人に聞こえることはない。

 そして当然のように火天も善如龍王の顔の横で並んで空を翔ける。火天は現在、三人を雨風や気温と気圧、とにかく地上とまったく同じ環境になるような結界を施している。そうでもしなければ、人間は簡単に死んでしまう。

『怖いなら目でも瞑っていろ。あぁ、そういえばこんな一文もあったな』

 そこで善如龍王は軽く息を吸い込む。そして、

 

『■■■■■■■■■――――――――――――!!!!!』

 

 その咆哮によって、視覚と聴覚の一切を奪うような稲妻が生み出された。

 流石の久遠と一葉もこれには目を瞑った。双葉に関しては、空に翔け昇った時から終始目を瞑っりっぱなしだ。

「三人とも。目を開けてごらん。到着した」

 火天の優しい声で心がホッとすると共に三人は気がつく。善如龍王の動きが止まり、暴風の音が鳴りやんだことに。そして、おそるおそる目を開ける。

「こ、これは……」

「感激じゃな……」

「わぁ……!」

 眼下に見えるは、地平の先まで続く静かなる雲の海。先ほどまでの暴風がまるで噓かのような静けさで、むしろ耳が痛くなる。

 そして、ほんの少し目線を上に向ければ、そこには 魂が抜け出てしまいそうになるほど美しい星空が広がっていた。

 まさにここは、桃源郷という名が相応しい。そしてそんな空間に、自分たちがいることが不思議でならない。どう表現すればいいのか。どれだけ頭を探っても相応しい言葉が出てこない。

「ここまで美しい星空を我は見たことがないぞ……」

「地上に比べて空が近いし空気も澄んでいるから、余計に星の光が強く見えるのさ。寝転がって見てごらん。もっと凄い眺めになる」

「そうか。ならば……おぉ!!双葉!久遠!こうして眺めるとこの夜空と一体になったようじゃ!!」

「どれ、ならば我も……」

「お姉様!久遠様!善如龍王様に失礼ですよ!」

『かまわん。ただし、明日の団子は倍だ。いいな?』

「キミはそれでいいのか善如龍王……」

 呆れた表情で火天は言うが、内心では驚いている。

 確かに軽く挑発はした。もし仮にやったとしても、水を操り龍のように見せるだけかと思った。だが実際はご覧の通り。善如龍王の性格からすれば、ここまでサービスするのだろうかと悩んでしまう。

 だがそれよりも、今はセイのことが心配でしょうがない。善如龍王がこの姿になるには膨大な霊力が必要だ。自前の霊力ならば何ら問題ないのだが、絶対にセイから霊力を強制徴収している。だって火天がそうなのだ。現在三人の生命維持装置代わりの結界の霊力は自前だが、それ以外はセイの霊力を借り受けている。だとするならば……

『おい時間だ。戻るぞ』

「もう帰ってしまうのか?」

「もう少しぐらい見てもかまわぬじゃろ?」

『今、この姿を維持するためセイの霊力を使っている。だが、その霊力が段々と減っている』

「え?善如龍王様、火天様、このままではもしや……」

「三人の帰りは自由落下だね」

『真下の地面に三つの赤いシミを作りたくば、いつまでも眺めていろ』

「お姉様!久遠様!お二人の言う通りすぐさま戻りましょう!!」

「う、うむ!そうであるな!!」

「余も十分堪能した!!さぁ帰ろう帰るとしよう!!」

 そんなことを雲の上で言われてしまえば誰だってこういう反応になる。だがしかし、そこに追い打ちをするのが『悪女龍王』と『原初の火』。

「おい善如龍王。お前尻尾の方が透けてきていないか?今から戻って間に合うのかい?」

『いよいよセイの霊力も尽きてきたか。……まぁ全身複雑骨折で御の字だろう』

「だったら早く戻らぬか!!」

『いやしかしここまで来るのも疲れた。帰りは遅くなってしまうやもしれぬな』

「下るのならば上りより早いのではないか!?」

「どうかお願いです善如龍王様!!明日のお団子はいつもの量の五倍差し上げますから!!」

 ちょっと怖がらせすぎたかな?と火天は思うが、たまにはこんな悪戯をしたっていいだろう。そしてやっと善如龍王がこんなことをした理由が分かった。

 

『お前たちの泣き顔に免じて早く帰ってやる。せいぜい泣きわめくがいい』

 

 この三人の泣き顔を拝みたかった。きっとただ、それだけだ。

 

 

 

 

おまけ

「剣丞。大地とはかくも有り難いものなのだな……!」

「やはり地に足をつけることこそ大事なのだ主様よ!」

「いきなりどうしたの二人とも?あれ、双葉いつもより団子多くない?」

「善如龍王様とのお約束ですので……」

 

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