数分前、セイたちが買い物から帰ってくると、目の前に見慣れた巨大な門が存在していた。そこで何があったのか兵に聞いてみると、剣丞と三若が、突然現れたこの門に吸い込まれたていった、と答えた。
たまたまそこに居合わせた兵の全員で何とかこじ開けようとしているのだが、まったく開く気配すら見せることがない為、丁度セイを探そうとしていたとも。
そして買ってきた物をナギたちに預けてセイは門に手を当てて集中する。こんなことが出来るのは閻魔天しかいない。きっとセイの霊力を辿って来たのだろうが、目の前に彼女の『正義』があったため剣丞ごと地獄に送ってしまったのだろう。
本当は乙姫もいた方が心強いのだが、そんなことは言っていられない。きっと今ごろ吸い込まれていった全員が恐怖のどん底にいるはずだから、さっさと助け出さなければ。
この門は閻魔天の力のよって出現したもの。本来ならばこちらから干渉は出来ないが、そうも言っていられない。
今の僅かな霊力を門へと注ぎ、自分が門の外へといることを閻魔天に教えてやる。さぁ、答えてくれ閻魔天。こちらから探しに行けなかったことは謝罪する。だからどうかこの門を開けてくれ。今君が招いたのは、この世界の友達なのだから。
『……ならばその弁明を聞いてあげましょう』
セイの頭に直接声が響いたと思ったら、その門が開きセイも吸い込まれていった。
「久しぶりねセイ」
「キミを探しに行けなくてすまない。でも、もう一度言う。キミの裁きは間違っている」
「ならば聞かせてもらいましょう。その方達に対する弁論を」
「セイ……」
「大丈夫。絶対みんなの無罪を勝ち取るから」
セイは呼吸を整えて背筋を伸ばし、閻魔天を正面から見つめる。
ここにいる全員がその光景を見て、以前彼が「神様と買い物したことがある」と言った証言が本当だったことと思い知らされる。
「閻魔天、『正義』とは何のことだと思う?」
「『正しい義』のことだと以前説明したはずでは?」
「そうだったね。じゃあ閻魔天。和奏ちゃん、雛ちゃん、犬子ちゃんのことをどう思う?」
「どう、とは?」
まるで禅問答のような会話だ。だかしかし、どうしてここで三若が話題に上がるのだろうか?今だ震える三人を抱きしめながら剣丞は思う。
「客観的に見て、この子たちはどう見える?」
「……」
「この愛くるしい顔立ち。つぶらな瞳。今は恐怖で震えているけどその震えがなかったら、その笑顔はさぞかし可愛いんだろうね」
ん?
「閻魔天。キミも本当は理解しているんじゃないか?この子たちの可愛さに!」
んん?
「閻魔天。改めて問う。『正義』とは?」
「……可愛い」
んんん?
「可愛いは?」
「『正義』」
んんんん?
「つまり彼女たちは?」
「可愛いは正義。可愛いは至高。可愛いは頂点」
んんんんん?
「では彼女たちに下された裁きは?」
「その方らの裁き、無間地獄行きは撤回。無罪放免とする。これよりその方らを元居た世界へと戻そう」
「「「「ええええええ!!!」」」」
なんだそれ!?可愛いから無罪放免!?そんな裁きがあるのか!?
驚愕する剣丞だったが、彼に対する裁きは違った。
「ただし、新田剣丞の裁きは先程と変わらず無間地獄行き。それでは送り返す」
いやいやいやいや!?
「なんで剣丞だけそうなんだよ!?」
「雛たちは無罪なのにどうして!?」
「なんでなの閻魔様!?」
三若が抗議するのも当たり前だ。何故自分たちは良くて剣丞はダメなのか。その理由は至極当然、単純明快。
「可愛くないからに決まっています。それでは彼を無間地獄へと」
「閻魔天!ちょっと時間を貰いたい!!許してはもらえないだろうか!!」
大声で右腕を挙げながら閻魔天に抗議をするセイに、閻魔天はやれやれといった表情を浮かべ、「三分間だけ待ちましょう」と答える。
そうして時間を貰ったセイは、自分の周りに三若を呼び寄せ、小さな声で何かを言っている。
初めは和奏が「そんなこと出来るわけないだろ!」と叫んではいたものの、雛と犬子に説得され、顔を赤くしながらコクリと頷く。
セイは一体何を言ったのか。気になる剣丞だったが、遂に時間が訪れた。
「セイ、時間です。彼とのお別れに何を言うのか決めましたか?」
「閻魔天。これが僕たちの答えだ」
「「「閻魔天さま~。どうか剣丞さまを助けてくださ~い!!!」」」(上目使い&頬赤らめ&猫なで声&困り顔&その他諸々可愛い要素メガ盛りおねだり)
「新田剣丞も無罪と致します。これにて閉廷。地上へと送りましょう。あぁでも弁護人には話がありますので残るように」
またも巨大な門が唐突に剣丞たちの背後に現れ、声も上げることなく剣丞たちは吸い込まれて地上へと強制送還されていった。……セイ一人を残して。
「……本当は初めから、全員無間地獄に送る気なんてなかったんだよね?」
「あれ程の可愛い存在を地獄へ堕とすなど愚の骨頂。仮に新田剣丞だけを堕としたとしても、彼女らの可愛い笑顔が曇るだけ。それは世界の損失です。非常に残念でしたが」
「それで?閻魔天から見て剣丞君たちはどうだった?」
「……あの程度で折れるのならば、その程度の人間だった。それだけです。ですが、セイのことを隠した発言はいただけません」
「舌は抜かないであげてね?」
「考えておきましょう。……これよりは、セイの式神として力を振るいましょう。十二天の一柱として」
「うん。よろしくね、閻魔天」
一方地上では……
「本当に剣丞様達は無事に帰ってこられるのですか?」
「平気だよ詩乃さん。セイが上手くやってくれるから」
「ですが万が一ということも……」
「あ!門が開いたっスよ!」
ギギギ、と鈍い音が聞こえたかと思うと、バァン!と凄まじい音とともに閻魔天の門が開き、これまた勢い良く剣丞と三若が目を回しながら吐き出された。
「いてて……帰ってこれたのか?」
「う~ん……」
「あいたた……」
「ふえぇぇぇ……」
「剣丞様!ご無事ですか!?皆さんも体の何処かに異常はありませんか!?」
まず詩乃が気になったのは、全員が五体満足で帰って来れたかの確認だ。ただでさえ『噓をつけば閻魔様に舌を抜かれる』というような場所に送られたのだ。確認しない方がおかしい。
「大丈夫だよ詩乃。舌は引っこ抜かれてないし和奏達は……」
「な、なぁ犬子。ボクの舌はちゃんとあるか?」
「ちゃんとあるよ和奏。えっと雛ちゃんのベロは?」
「ひゃんろふひでつはめるからへいひらよ~(ちゃんと指でつまめるから平気だよ~)」
「当然です。可愛いは正義。正義を傷つける愚かしい行動はしません」
「「「「「え?」」」」」
鈴のような可愛らしい声がした。
まさかと思いながらギギギ、と錆びた門のように首を後ろに向けると、やっぱりいた。自分達を地獄に呼び寄せ無間地獄行きの裁きを下した存在。
閻魔天と、剣丞達を弁護してくれた蘆屋清明がそこにいた。
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!えんまさま!!?」」」」
「正確には閻魔天ですが。まぁいいでしょう。セイが元の世界へ戻るまで厄介になります。聞けばナギや乙姫もいるとのこと。可愛いは守らねばなりません。ですので……」
そして、にっこりと小さな花が咲くように。
「よろしくお願い致しますね?」
誰もが可愛いと肌で理解してしまう様な笑顔を浮かべたのだった。