「三若の行儀が良くなったのはそういう理由であったか。納得がいった」
「そりゃあ閻魔様が見てるんだもの。真面目にもなるわね。そういえば剣丞も最近背筋が伸びてるじゃない。もしかして剣丞も怖いの?」
「あんな光景見たら誰だってそうなるよ……」
閻魔天がやってきてから数日後、剣丞は久遠に会うため登城した。理由はここ最近のセイについての報告。本当はセイを連れて来た方がいいのだが、「奥さんと水入らずで話しておいでよ」「閻魔天が可愛い子を門に磔にしないように見てないといけないし」とのことだったので、素直に甘えることにした。
「それにしても、セイが『十二天』を式神としているとは驚きだ」
「本当ね。あれには私も心臓が飛び出すかと思ったわよ」
十二天(じゅうにてん)
仏教の護法善神(ごほうぜんしん)の天部である十二種の総称のこと。
ちなみに閻魔天は南を護っている。気になる方はwebでcheck!
この説明はセイから聞いた。この世界での十二天。仏教においての守護神。本当にセイが神様と知り合いなのだという証拠でもあった。
が、セイにしてみれば違う意味で驚いたのだそうだ。セイの世界での十二天は、『世界に天災をもたらす霊獣』として存在しているのだ。
だいたい封印されていたり祀られているのだが、何かの拍子に目覚めてしまえば、それは天災を目覚めさせることと同義。もし仮に全ての十二天が目覚めれば、世界に終末が訪れるとも伝わっている。
そんな嘘だろと思ったが、『可愛くなければ無間地獄行き』なんて理不尽な裁きを下された身としては、それは確かにと納得してしまう。その理不尽な裁きがもし全人類に下されればみんな揃って地獄行きになってしまう。それだけで世界は終わりだ。
だが、それほどの力を持った存在が他にもあと十一柱もいるのだから生きた心地がしない。もしセイ達がこっちの世界へ来た拍子に閻魔天以外の十二天が目覚めてしまったら……
そんな表情を読み取ったのか、セイはみんなにこう言った。
『十二天全員目覚めているけど僕の世界は滅んでないよ。たまに喧嘩して地形変わっちゃうぐらいですんでるから』
地形が変わる喧嘩とは一体……そこに閻魔天が追撃をする。
『私を含め、十二天はすべてセイと式神契約を結んでいます』
「デアルカ……」
「何をどう言っていいのか分からなくなるわね……」
「ひよところとちいが無言でアスカさんとイズナさんの耳と尻尾モフモフ触って、詩乃が乙姫さんに抱きついて現実逃避している様子を、閻魔天さんが可愛いって言いながらウットリした表情で眺めてたよ……」
「我だったら乙姫の爺やのウミガメの甲羅を磨くであろうな……」
「私だったら剣丞に抱きつくわ。久遠はそれでいいの?剣丞に抱きつかなくて?」
「べ、別に我はそんなことは……」
「はいはい顔を赤くしながら言っても説得力ないわよ」
「えぇ。そしてその仕草も表情も素晴らしく可愛いです。あぁ、この世界には可愛いが溢れています」
「そうだね閻魔天さん……んん!?」
剣丞が驚くのも無理はない。
あまりにもサラッと会話に入ってきたのが、ここにいないはずの閻魔天がちゃっかりいたのだ。
「どうやってここまで来たのだ!?」
「今は消しましたが獄門を使ってここに。可愛いの波動を感じ取ったので居ても立っても居られず」
「ねぇ、セイはどうしたの?もしかして置いてきたとか……?」
「今はナギと乙姫に抱きつかれ身動き出来ないでしょう。それに、セイの霊力について説明するいい機会です」
そして閻魔天は、まるで悪気などなかったかのように話し出す。
閻魔天とセイが出会ったあの日、セイの霊力が全盛期とは言えないが増えたのだ。これは乙姫やアスカ、イズナにナギにも確認を取ったため、まず間違いないだろう。
では何故増えたのか?セイとセイの式神達は知恵を出し合いある結果に辿り着いた。
セイがこっちの世界へ送られた際、セイの霊力が同じくこっちの世界へ送られた式神へと分割して配分されたのではないかと。
セイの式神、つまりアヤカシの中には、霊力が極端に減ると戦うことが出来なくなる他、その姿形を保つ事が難しくなり消滅してしまう存在だっている。
そこでおそらくセイと契約している式神が、ある種の防衛本能が働いたのか、有り余るほど巨大な霊力を持ったセイから霊力を奪った結果セイはそうなったのだろう。
そしてその霊力は、元の持ち主であるセイに出会うことで変換されるのだろう。何せ供給元が近くにいるのだから一々奪い取る必要がないのだから。
だが実際は予測なので確証はない。できれば他の式神が数体セイの所へ来れば確証が得られるのだが、その肝心の式神がどこにいるのかも分からない。
「あー、その閻魔天さん。乙姫さんとかあなたが探すとかって出来ないの?」
「既に霊力を辿っています。が、まるで霞が掛かったかのように正確な位置を割り出すことが出来ません。私の時もそうです。この城下に辿り着いてからようやくセイの存在に気付けたのですから」
「デアルカ」
「そうなると、セイの式神をここで待つか、それともこっちから探しに行くかってことになるのかな?」
「それはセイが決めることです」
確かにそれはそうだ。式神についてはセイがどうするかによる。だがしかし、それ以上の問題もある。
それは今のセイの立場だ。現在セイは剣丞にその身柄を預けられているため、形式的には剣丞隊所属の陰陽師ということになっている。そのため、セイの行動範囲はどうしても剣丞の指揮に委ねられることとなっているため、勝手な行動をする事が出来ないのだ。
「じゃあ剣丞次第ってことになるのね」
「セイからはそこらは俺にまかせるとは言われてるけど……」
そこでチラリと剣丞は閻魔天に視線を向ける。全ての決定権は剣丞が握っている。もし行き違いになったら?こちらでセイ関連の事件が起きてしまったら?考えていけばキリがない。
だがそこで、察したのか閻魔天が助け舟を出してくれた。
「私の力はその方らの常識からすれば逸脱しています。それはセイの式神全てに言えること。仮にこの地にて我々に関わる事件が起ころうとも、我らだけで解決することも可能です」
「でもセイから霊力を分割して吸収しなければいけない事が起きたのに大丈夫なの?」
「巨大な山を均等に分割して自分の母屋へ持ち帰った。と言えば理解しやすいですか?そういうことなので問題はありません。それに我々にも霊力はあります。補助として彼の霊力を使うのであれば大丈夫でしょう」
山を分割……何とも凄い例え話だが、式神本人が言っているのなら本当の事なのだろう。それに閻魔天や乙姫の力も既に体感している。それならば何の問題もない。
「デアルカ。どうやら話はまとまったようだな」
「なんていうか剣丞が閻魔天様に終始言われっぱなしだったけどね」
「それは自覚してる……」
「まぁそう落ち込むな剣丞。流石に今回は悩むな、という方が難しい。剣丞、早速で悪いのだが頼みがある」
「どうしたの?」
「うむ。実は先刻早馬が来てな。一葉からの書状を持ってきたそうだ」
「一葉から?」
「では私は退散します」
ここからは彼らの話。そう悟った閻魔天はいつものように門を出現させセイの所へ戻ることにしようとした。瞬間だった。何かを感じ取ったかのように動きを止める。そしてため息をつきながら。
「どうやらまた来たようですね」
「またって何が来たの?もしかして……」
「その通りですよ結菜。セイの式神がまた到着したようです」
「まことか!?」
「早く行かないと」
「待って」
そう言って剣丞と久遠を止めたの結菜だ。
一葉からの書状。それはつまり征夷大将軍からの書状だ。何が書かれているかは分からないが、一刻も早く確認することの方が重要だ。
それならば全員で行く必要もない。つまり。
「ここは私が見てくるわ。二人は一葉様からの書状を確認して」
「だが結菜……」
「優先順位を間違えないの。それに乙姫様や閻魔天様もいらっしゃるのだから大丈夫よ」
流石は織田久遠信長と新田剣丞の妻。流石は蝮の娘。流石は連合の奥を取り仕切っている人物。肝が据わっている。
「……分かった。では結菜。任せる」
「任されなさい!」
そうして結菜は閻魔天と共に門をくぐっていったのだった。
「本当に我らには過ぎた妻だな剣丞」
「感謝してもしきれないね。じゃあ早速書状を見よう」
剣丞隊隊舎の庭に、唐突に巨大な門が現れ扉が開くと、その扉の向こうから閻魔天と結菜が姿を見せる。その時間僅か数秒。本当にあっという間だ。
「剣丞から話は聞いていたけれど本当にすごいわね。もう着いちゃった」
「それでも一度地獄は通っています。通る距離を短縮することでそう感じているだけです」
「そうなのね。生きている内に地獄に行ったなんて信じられないわ」
「肝が据わっていますね。おや?あれは……」
「噓!?あれってまさか……!?」
二人の目の前にいるその式神。しかしその式神は結菜も知っている妖怪だった。
今まさに、この日ノ本を混乱に貶めている存在。
『鬼』だったのだ。