貞操逆転世界の万能蛮族女騎士~~Die Leckenbell Story 作:ぱちぱち
幼年期以降は鋭意作成中。明日も投稿します(白目)
騎士
文字にすればたったそれだけの言葉に
どれだけの人の。どれほどの想いが。言葉が、乗せられているのだろうかと考えることがある
それは愚直なまに純粋な強さを表すこともあれば
あるいは将帥としての才知を指すこともある
――そして
―――――――ふぅ。
カリカリと走らせていたペンをそこで置き、小さなため息をつく。
力の入らない右手でも書けるように特注した羽ペンを机の脇に置き、小さく伸びをすると、ギシリと肩骨が音を立てる。その痛みと心地よさに随分と長い時間筆を走らせていた事に気づかされ、唐突に思い出した喉の渇きに傍らに置いていた木製のカップに手を伸ばす。
木製のコップの底に残っていた少量の生ぬるい水を飲み干し、人心地ついて。
「…………ふぅ」
もう一度ため息をついたあと、明り取りの窓からのぞく夕焼けの街並みに視線を向ける。ざわざわと騒めく街並み。木剣を手に走り回っているのだろう子供たちの囃し声に、それを見とがめる親たちの声。時折聞こえる殴打音と、喧騒の声。
今日も我が祖国、尚武の国ヴィレンドルフは平穏に包まれているらしい。
そしてそんな平穏な生活を送りながら、私は、毎日のように。いまだに慣れないペンを握るたびに、繰り返す自問自答を思い浮かべるのだ。
――まぶたに蘇る、彼女の姿を思い浮かべるのだ。
「レッケンベル」
クラウディア・フォン・レッケンベル
その名を口にして、姿を思い浮かべて。その場に今も立っているかのような錯覚すら覚えるほど鮮明に脳裏に刻まれたのっぽの糸目を思い浮かべながら、夕焼けを眺める。夕焼けに染まる我が故郷を。レッケンベルと共に駆けた故郷の街並みを眺める。
我が祖国ヴィレンドルフが誇る唯一無二の英傑だった女。誰よりも強く、賢く、苛烈で、眩しいほどの生き様を魅せて逝った女。
あいつは。
レッケンベルという騎士は私が知る誰よりも。
誰よりも強い騎士だった。
腐れ縁。もしくは幼馴染。私、ネーカ・フォン・ジョシキとクラウディア・フォン・レッケンベルの関係は、言葉にすると単純なものだった。
私たちの縁は幼少のみぎり。確か5つの誕生日を迎えた辺りから始まった……と、思う。不確実な表現になって申し訳ないが、流石に物心つく前の話で、あいつと出会った時に自分が幾つだったかなんて覚えていないのだ。
ああ、少し矛盾する言葉になるが出会った時の事はよく覚えている。近所に住む神童の話を母親から聞いた私は、そんなに凄い奴がいるのか、ならちょいとばかり腕試しでもしてやろう、という軽い気分で顔を見に行ったのだ。
年齢は覚えていないのに会いに行った時の気分は覚えているのかと揶揄されるかもしれないが、あの日の出来事、特にレッケンベルと出会う前の出来事に関しては生涯忘れることはないだろう。もし今この瞬間、当時レッケンベルに会いに行こうとしている幼少の私と会話することが出来るなら私は間違いなくこう助言をするだろう。
『やめておけ。今からお前、月まで届く勢いでぶっ飛ばされるぞ』、と。
あの時のことはもう、本当に心の底から忘れてしまいたいのだが、私の無駄な時に記憶力が良い頭は今でもあの情景を鮮明に思い出せてしまう。
そう。軽い腕試しのつもりでちょっかいをかけた私に、あいつはキョトンとした目を向けた後。
「――カカッ」
にっこりと笑って、右腕を振るった。
今でも耳に残る悪魔のような笑い声と、ついで襲い掛かってきたこれまでの人生で一度も経験したことがないような衝撃。気が付いたときには私は隣家の木製の壁を突き破り人型の穴をあけていた。
好奇心は猫を殺すという諺がある。ケルン派とかいうキ〇ガイ宗教の訓話の一つに生き物の中身を知りたいという好奇心の下、近隣の猫を殺して回った通称『猫殺し』というクソッタレを贖罪主が指先一つでダウンさせたというものがある。総じてヴィレンドルフでは勉強ばっかりやってると猫殺しのようなろくでもない奴になるから体を鍛えなさいという意味合いで話されている訓話なのだが、この時の経験から実は違う意味合いがあるんじゃないかと私は思っている。この訓話は知らなくても、猫殺しにたいして贖罪主が放ったという『貴様血の色何色だぁ!?』という言葉はケルン派を信奉しない他の宗派の者でも耳にしたことがあるだろう。
話を戻して、当時の私はただの一度の経験で大きな学びを得た。あれは触っちゃいけない類のアレだなぁ、と。ただ一度の遭遇で学んだ私は以後慎ましく生きようと齢5つの身で己の身の程を悟ることが出来たのだ。悟ったのだが、次の日に見舞いと称してやってきた年齢の割に大柄な小娘の存在が一晩練りに練った私の人生計画を狂わせた。
「なんでアレで生きてるんだ?」
「テメェ殺す気だったのか」
そういえばぶっ飛ばされる瞬間、「あ、ヤベッ」って呟き声が聞こえたような気がしたがアレはこいつの言葉だったのか。自分が冗談抜きで生と死の狭間を反復横跳びしていた事を知り愕然とした私に、当時はパチクリと大きく開いていた目をそらして彼奴は口笛を吹いた。
それが私とレッケンベルがつるむ用になった最初の出来事だった。
つるむ、である。共に遊ぶ、だとか共になにかをするというより、私と彼奴が共にある事を表す言葉はつるむ、が最も相応しいだろう。
今でこそヴィレンドルフ開闢以来の大英雄と謡われるレッケンベルだが、幼少期の彼奴はギリギリ世襲が許される平騎士の跡取り娘であり、貴族よりも平民に近しい身分の存在だった。確かに奴は1つを知れば10にも20にも帰ることが出来るオツムとそこらの大人が束になっても敵わない肉体を持つ天からも何物も与えられた生まれながらの超人であったが、身分だけは持ち合わせていなかった。
対して私は王都の門番長の一人を母に持つ役職もちの騎士の娘だが、門番という最も庶民と接する機会の多い役職の家であったためか、貴種としてのお上品な嗜みより町中を泥だらけになって駆けずり回るほうが随分と性に合っていた。
そんな私たちが一緒にいるのだからまぁ、剣のお稽古や乗馬訓練をして日々研鑽に励みます、なんて優雅な毎日を送るわけがない。幼少期のレッケンベルと私、それと近所に住んでいた外交官の家の長女、ジュラの3名は毎日のようにつるんではそこかしこに迷惑を振りまいて生きていた。
ジュラのやつは元気だろうか。最近はアンハルトとの折衝でろくに家にも帰れないとよく愚痴をこぼしていた。アンハルトの英雄を引きずり出せという女王陛下の無茶ぶりを、今も必死にこなそうとしているのだろう。仲間内では『尻拭い』のジュラと呼ばれていた。幼いころからやたらと口の上手い奴で、近所にあるパン屋『やけくそ亭』のパンを3等分して食べようとした際、一番大きな部分を言葉巧みにせしめた時のことは忘れられない。口も頭も切れるレッケンベルを口先で丸め込んだ奴は、後にも先にもあいつしか居ないだろう。
そのせいでレッケンベルに使える奴だと目をつけられて、ほぼ半強制的につるまされることになったのはジュラにとって最大の誤算だっただろうが。
レッケンベルが騒動を起こし、私がそれに相乗りして、ジュラが後始末を行う。幼少期の私たちは非常にバランスの取れたグループだった。行動力も実行力もあった私たちは、今思えば大概な無茶もやらかしていた。
ある時はガキだけで近隣の野山を駆け巡って獣を狩り、ある時は辻斬り紛いの黒騎士を罠にはめて棒で叩いて警邏に突き出した。ああ、敵対グループのガキ大将をおびき出すためにそいつの兄貴を浚って手籠めにした、なんてのもあったな。ガキ大将のジャイコゥは実家がそこそこ有力な商人で、その財力を惜しげもなく使う気風の良さで子分も多かった。たしかあの“戦争”の時は30人だか連れてきてたっけな。流石にヤバいと思ったがその苦労以上に十分
苦労したとはいえ所詮は町内のガキどもの集まりだ。20名ほどはレッケンベルの奴一人でぶちのめしていたし、流石にレッケンベルほど早く強く動くなんて出来ない私でも7,8名を腕力に任せてなんとか畳むことができた。残り数名にボコボコにされていたジュラからはあの時の事で文句を言われた事もあるが、元凶はレッケンベルの奴なんでその文句はあいつの墓に言ってほしい。
まぁレッケンベルの奴は「お前の使いどころが戦場じゃないと知れたな」と笑顔で言い放っていたから、文句を言っても気にもされないだろうが。
レッケンベルは悪童だった。それこそヴィレンドルフ一と言われるほどの、だ。
圧倒的なまでの武力と、それに比するほどの頭の冴え、それらを上回るカリスマ性。
あんまりにも強いものだから齢10を数える頃には年下や同年代、少し上くらいは全てあいつの傘下になっていたし、呼吸をするように他者を率いてしまうあいつはその頃には下町の中である意味勢力とも呼ぶべき集団を率いる立場になっていた。
そうして居ると望む望まないに関わらず他所のグループとのあれこれが出来てくるもんだが、あいつのやり方は実にヴィレンドルフらしいものだった。少しでも敵対的な相手はその圧倒的な武力で叩き潰して、自身の支配下に勝利と恩恵を分け与えていくのだ。
ジャイコゥの一派を傘下に加えて年少のほぼ全てを勢力に加えてからは、権力とは遠く、燻るように生きていた連中がこぞってレッケンベルの元へと集まるようになった。傭兵家業を営むアイテム家の4姉妹に孤児だけで形作られていたスリの一味、モグリに近しい露天商の互助会。
彼奴は例えるなら、強く燃える炎だった。見る者を捉えて離さない業火のような女だった。だから、あいつの元には心根が湿気ちまって燃えられない、そんな奴がよく集まったのだ。
あのまま10年も時が過ぎていれば、あいつはヴィレンドルフを飛び越えて神聖帝国全土に根を張る巨大犯罪組織の長かなにかにでもなっていたかもしれない。それだけの才覚があいつにはあったし、実際そうやって生きた方があいつにとってはどれだけ楽な生き方だっただろう。天上にも勝る美酒に財宝、美男。奴ならそれら全てを思いのままに出来たはずだった。
もしもあいつに、その力を。その全てを捧げるものがなければ、そんな未来もあったかもしれない。
けれど、そうはならなかった。
齢12の時にあの人と、あの場所で。レッケンベルは、その未来の全てを捧げるべきだった相手と出会った。
それが大英雄レッケンベルの、すべての始まりだったのかもしれない。
話が出てくるたびに「あいつ生きてたら全部解決したのでは?」と思わされる万能悪魔超人の話にかこつけてヴィレンドルフという面白蛮族国家を書いてみたくなりました(言い訳)