貞操逆転世界の万能蛮族女騎士~~Die Leckenbell Story   作:ぱちぱち

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幼年期 結

 

「納得いかねぇ。納得いかねぇよ」

 

 その話をジュラの口から聞いたとき、私は手に持っていた木製のコップを握りつぶした。バキリ、と大きな音が部屋の中に響いたのを覚えている。

 

 ぼたぼたと床に零れ落ちる温いエールが手から滴り落ちるのを感じながら、もう一度「納得いかねぇ」と繰り返して、私は席を立った。

 

 キーロ殿下がアンハルトに婿に行く。

 

 そんな噂が流れていたのを、私たちはその日まで否定していた。2年前の大戦だって、軍務大臣が指揮をとってアンハルト王国の大将、先々代のアスターテ大公相手に互角以上の闘いを繰り広げたのだ。痛み分けに近い形で終わった戦役とはいえ、当時のヴィレンドルフ国民でこの戦で「負けた」と思ったやつは一人もいなかっただろう。

 

 そんな状況で、公子が体のいい人質として婿に行く。そんな事を認められる人間は、少なくともヴィレンドルフっ子ではない。

 

 私を含めた周囲の人間は誰も彼もがその噂を否定した。認めたくなかった。認めようとしなかったのに、ジュラの奴は、その話をしてしまった。

 

 八つ当たりに近い感情だというのは、当時の私も思っていた。ジュラはただ、正しい情報を持ってきただけだ。けれど、当時のガキだった私はそれを受け止めることは出来なかった。

 

 好きだったんだ、公子様が。男子というには体格が大きく、厳つい顔つきで――けれどとても柔らかな笑顔を浮かべる彼のことが、私たちは好きだったんだ。

 

 あの方がいつかお婿にいくなんて分かっていた事だった。彼はこの時13歳。王族である彼ならもう婚約者がいてもおかしくない年齢だろう。けれど、漠然と私たちはそれがもっと先のことで。もう少しの間、この時間が続くと思っていたかったのだ。

 

 公子様に会いたいと思った。会って、なにを話すかなんて考えてはいなかった。ただ、公子様に会って、なんでもない事を話して、笑いあって。

 

 そんななんでもないやり取りをしたいと思って、あてどもなく街をふらついて。

 

 そして私はその場にたどり着いた。

 

 レッケンベルと公子様が手をつないで川べりに座り。談笑しているその場所に、私はたどり着いたのだ。

 

 

 

 二人がそこで何を話したのか、何をしたのかを私は知らない。恐らく、何もなかったのだろう事は、分かる。

 

 性欲で脳みそを支配されていたヴィレンドルフのガキにだって、あの二人を見れば。そんなことが理解できるくらいにあいつらの。あの二人の逢瀬にはそういった生臭い感覚がなかった。

 

 レッケンベルがやたらと育った体を縮こませて公子様と肩を寄せ合い、彼の左手とレッケンベルの右手が重なっているのを目にした時。幸せそうに談笑する二人の姿は他者を、異性を思いやるという事はもっと透明で、純粋な感情でも良いんだと、私に教えてくれた。

 

 彼が婿に行ってしまうのは覆せない事だった。この時間はいずれ終わりが来てしまう。それは、とても悲しいことだろう。けれど、この光景は。ずっと色褪せず、きっと私達の心の中に残るものだ。

 

 そうして、二人の仲睦まじい姿を目にして。少しの間二人を眺めて、私は踵を返してその場から歩き去った。ネーカさんはクールに去るぜ、なんて誰も聞いていないのに嘯きながら。

 

 ジクジクと胸の奥からくるなんだか良く分からない痛みを誤魔化しながら家路についた事は、レッケンベルにだけは墓前ですら言えない、生涯の秘密だ。

 

 

 

「ムギ。頼むぜ……あたしらじゃ、一緒に……」

「あいよ。王城(お上)からは良い報酬貰ってるからね。金の分仕事するさ、傭兵としてね」

 

 公子様の婿入りが本格的に決まり、数週間。ひと月もせずに輿入れの日取りが決まり公子様は準備のために街に降りてくる事もなくなった。

 

「でも……よくもまぁ公子の護衛になんて捻じ込めたわね。アイテム一家(ウチ)としてはありがたいんだけど、こういうのは騎士様方の役割でしょ?」

「もちろん騎士様も護衛にはつくさ。といっても騎士団も主力は北方に張り付いてるからな。それに、2年前の大戦のせいでどこも代替わりしたばっかだから、よ」

「……ああ、はいはい」

 

 ヴィレンドルフからアンハルトへの輿入れ。護衛隊の人間はヴィレンドルフでも精鋭と呼ばれる人間が選ばれていた。流石に当時ヴィレンドルフの武の象徴と言われた騎士団長やその右腕の副団長は遊牧民族対策のために出張る事はなかったが、公子様の護衛隊は騎士隊長格の有力な騎士が護衛隊の指揮を務め、更にその周囲をベテランの騎士数名と彼らを補佐する若手騎士が固めてそれを更に歴戦の兵が支える。

 

 この護衛隊は、当時の疲弊したヴィレンドルフが用意できる、最高の護衛部隊だった。

 

 他国の王族へ嫁ぐ輿入れの護衛に超人の一人すらつけられない。この程度の布陣が、当時のヴィレンドルフの“最高”だったのだ。

 

 だからこそ、レッケンベルは横紙破りを行った。自分が持つ影響力を最大限に生かして、この時自分が切れる最高の手札を護衛隊に捻じ込んだのだ。成人していない自分に成り代わり、公子様を守る人間を傍に置くために。

 

「せっかくの好機だもの。これを好機にお家再興を目指すってのも悪くないわね」

「そういやお前の家は元々騎士だったんだよな」

「3代前に主君は失っちゃったけどね」

 

 アイテム一家のムギは超人だった。それも私のような半端者とは違いかなり上位の、それこそ上澄みと呼べるレベルの超人だった。レッケンベルと出会うまではただの一度も負ける事なく、レッケンベルと出会ってからは齢5つも下のレッケンベルに何度敗北を重ねても食らいつき、貪欲に家伝の戦闘技術を磨き上げていった。

 

 初めて会った時の彼女は大戦で手柄をあげたというのに評価されず、下町で飲んだくれて暴れまわるただのごろつきであった。暴れまわったこいつを止めることが誰にもできず、当時ジャイコゥのグループを吸収し勢力を拡大していたレッケンベルにまで話が回ってきたのだ。

 

 くすんだ瞳で。何もかもを投げやりにしていたムギとレッケンベルの闘いは凄まじいものだった。当時レッケンベルが12歳とはいえ、あいつ相手にまともに戦うことが出来た奴は片手の指にも満たない人数だった。周辺の地形をズタボロにして、爛々と眼を輝かせたレッケンベルがカッカカッカと笑い声をあげたその闘いは、それを眺めていたすべての人間に暴の頂を見せてくれるものだった。

 

 やがて決着がつき、死んだ目をして仰向けに倒れ伏し、レッケンベルを見上げたムギにレッケンベルは酒気覚ましだと水をぶっかけ、そして手を差しのべた。

 

 お前が欲しい。私のモノになれとレッケンベルは囁いて。燻っていたムギの火種に、レッケンベルという火が燃え移ったのだ。

 

「ここで上の目に止まってあわよくばってか」

「ま、今回が無理でもレッケンベル(大将)についてれば目はあるでしょ」

 

 そう言って不敵に笑うムギの姿には、成り上がろうという強い意志と、炎のような輝きが見えた。

 

 彼女の曾祖母は海を渡ったところにある島国でかつては王に仕えていたという。国が滅んだ後は海を渡り、家伝の剣技を頼りに各地の戦を渡り歩いてきて幾代も重ねてきた生粋の傭兵一族で、彼女はその一族の後継者だった。個人的な強さもさることながら当時の私達には貴重な大戦の生き残り(実戦経験者)。毒ガエルの腸をくじで引き当てたりと運がない事を覗けば、当時の私にとって彼女は一部の例外を除いて負ける姿すら思い浮かばないほどの強者だった。

 

 彼女であれば。騎士様方と彼女であれば公子様を無事にお送りできるだろう。公子様はアンハルト王家に嫁ぎ、私たちはヴィレンドルフでいつもと変わらぬ日々を過ごす。この日、この時の事は誰しもが胸の中に秘めた青春の一ページになり、やがて日常に埋没して思い出と変わっていくのだろう。

 

 誰しもが。恐らくは当時のレッケンベルですらもそう思っていた。

 

 綺羅びやかな衣装に身を包んだ公子様一行は王都を一周。群衆たちにその晴れ姿をみせたあと、王都の正門を通りアンハルトへの旅路につく。

 

 レッケンベルと私は、それを城壁の上から見送った。何度も、何度も振り返って手を振る公子様の姿を。去っていく馬車が見えなくなるまで。見えなくなったあともずっと、それを見送った。

 

 私達の青い日々を、見送った。

 

 

 

 

 

 公子様がアンハルトへ旅立った後。私たちは、忙しない日々を過ごしていた。レッケンベルを筆頭に私やジュラといった騎士階級のものは修業が本格化し始めたのと、下町の仲間内でも成人を迎える者は食い扶持を稼ぐために働き始めるものが増え始めたからだ。

 

 毎日胃の中身が無くなるまで吐き、条件反射で卑猥な訓練歌を歌えるようになるまで扱かれているうちに、青春は思い出に変わっていくのだろうか。

 

 柄にもなくそんな詩的な言葉を思い浮かべながら、母について門番の仕事を仕込まれていた私の元に伝令の騎兵が駆け込んできたのは公子様たちが出立して凡そ1週間の時が経った頃だった。

 

 息も絶え絶えに、鬼気迫る表情で。余りの焦燥具合に水を進めた母の申し出を断って、彼女は公子様を含めた一団が、騎馬民族の襲撃に合って皆殺しになったと語ったのだ。

 

 

 

 調査に行った第一騎士団が戻って来た姿は、今でも覚えている。

 

 普段ならば整然と並び、勇邁卓犖とは彼らの事を指すのかと謡われるほどの勇士たちが仲間たちの死骸を棺に詰め、顔に影を落として。俯いて泣き暮れながら、彼らは帰って来た。

 

 開かれた門をくぐり、何も言わず。時折すすり泣くような彼らの姿に、行き交う町民たちは話を止め、その場に立ち止まり。不思議なほどの沈黙が町中を包む中、彼らはまっすぐに町の大通りを歩き、王城へと進んでいく。

 

 彼らの背を見送った後、母が門を閉じるのを横目に私は王城へと走った。公子様が死んだという事を信じたくないという気持ちもあったが、何よりもレッケンベルの事が頭を過ったからだ。

 

 レッケンベルは炎だ。生まれながらに心の中に、燃え盛る業火を飼っている。

 

 私はそれほど頭がよろしくない。腕力だけが自慢の門番の娘だが、その事だけは理解していた。だから公子様の死が、レッケンベルのタガを外してしまうのではないかと考えたのだ。

 

 不気味なほどに静かな街中を走り、大通りを駆け抜けて王城へ。普段は閉じられている正門が開け放たれたままなのを目にして、焦燥感のようなものを感じた私は足を速める。

 

 そして王城を守る番兵たちは地に伏し、煌びやかな輝きを放つ鎧をへ込ませてうめき声をあげている姿が目に入り、私は自分の予感が現実のものとなった事を悟った。

 

「クラウディア!!」

 

 大きく叫び、地に落ちていた番兵の槍を引っ掴んで王城に駆け込む。

 

 後を追うのは簡単だった。レッケンベルを止めようとした警備の兵や騎士が、半ば目印のようにそこら中に倒れ伏しているからだ。そしてそれらの数は奥に行けば行くほどに多くなっていき、やがて誰かが争うような喧騒の声が耳に入って来るようになる。

 

 大きな扉の前にレッケンベルは居た。全身に傷を負い、体中を赤く染めながら、門に手をかけていた。

 

 傍らには棺を運んできたのだろう、つい先ほど門を潜っていった騎士たちが顔を歪めて地面に転がされている。誰一人とて死んだ者はいないのが見て取れた。

 

「クラウディアッ!!」

 

 たった一人で、ヴィレンドルフの王城に押し入り。しかも誰一人殺さずに最奥まで到達したのか。

 

 これまでにヴィレンドルフを賑わせたどんな英傑ですら出来そうもない事を齢14でやってのけた奴は、私の声掛けに反応もせず、ギィと音を立てて開いた扉の中へと入りこんでいく。

 

 その背を追って走り、部屋の中に飛び込んで。

 

 最初に私が見た光景は。

 

 それは。

 

 

 

 耐えきれずに胃の中の物を吐き出してしまったのは、本来恥ずべき事だったのだろう。

 

 けれどその光景を、それを私は耐えられなかった。直視することが出来なかった。

 

 死臭が漂う、箱が敷き詰められた部屋。その中心に、レッケンベルは立っていた。

 

 傍らには式典などで遠くから見たことのある宰相殿下と、軍務大臣。それに少し遠くに、倒れ伏した騎士団の副長閣下の姿が見える。

 

「見ないでくれ」

 

 か細い声が、部屋の主から発された。

 

 宰相殿下は、震える声でレッケンベルにそう告げた。

 

 懇願だ。

 

「頼む、レッケンベル」

 

 一国を、ヴィレンドルフを早逝した姉の代わりに差配する女傑は、己の半分ほどしか生きていない無礼な小娘に、そう懇願したのだ。

 

 涙で濡れた、ぐしゃぐしゃの顔をレッケンベルに向けて。力づくで排除するでもなく。

 

「キーロを、見ないでやってくれ」

 

 自身の愛した息子の死骸を、ただ見るなと。懇願したのだ。

 

「お前のことはキーロの口から幾度も聴いた。きっとこの国を背負って立つ立派な騎士になると、キーロはいつも嬉しそうに語っていました。お前がキーロと幾度も逢瀬を重ねたことも、お前がキーロを見送ったことも、私は全て知っている」

 

 ぽつりぽつりと呟くように。

 

「だから、レッケンベル」

 

 震える声で、顔を両手で抑えたまま、宰相殿下は口にした。

 

「キーロを、見ないでやってくれ」

 

 レッケンベルが持つ。彼の首を目に入れないように俯いて、そう口にした。

 

 キーロ殿下の首には、ほとんど何も残っていなかった。まず目は恐らく小刀で乱雑に抉られたのだろう、眼孔の周囲に切り傷の跡が見える。耳と鼻は力任せに引きちぎられたようでぐちゃぐちゃになってしまっている。

 

 恐らく生きたままそれらは行われ、そして死後はそのまま放置されてしまったのだろう。苦悶の表情で固まったキーロ公子の首を、レッケンベルは両の手で持ち上げ、見入っていた。

 

 後から考えればわかる。これは、メッセージだ。

 

 公子様を襲った北方の遊牧民族は、護衛を皆殺しにした後に公子様を惨殺し、その死体をメッセンジャー代わりに仕立て上げた。小癪な真似をして逆らおうとするヴィレンドルフとアンハルトに、遊牧民族が送ったメッセージだ。

 

 『私たちはお前らがどこで何をしようがいつでも殺せるんだぞ』と、奴らは実例をもって声高に叫んだのだ。

 

「なぜ」

 

 数秒か、数分か。もしかしたら数時間ほどか。

 

 じぃっとキーロ殿下の顔を眺めていたレッケンベルは、ぽつりとそう声を出した。

 

「なぜ彼が死なねばならなかった」

 

 疑問を言葉にして、噛みしめて。

 

「なぜ戦う術も持たぬ彼が死なねばならなかった!」

 

 そして我慢しきれなかったように。濁流のように、レッケンベルの口から言葉が放たれた。

 

「弱いからだ! 我々が、ヴィレンドルフが弱いから彼を死なせてしまった!」

 

 キーロ殿下の首を胸に抱き、嗚咽を滲ませながらレッケンベルは叫んだ。

 

「呪われよ! 畜生にも劣る蛮族! 呪われよ! 不佞なヴィレンドルフ! 呪われよ―――」

 

「何もできない――クラウディア・フォン・レッケンベル――ッ!」

 

 彼を死なせてしまった全てを。自分すらをも呪って。

 

 あの日レッケンベルは、子供の殻を脱ぎ捨てた。

 

 クラウディア・フォン・レッケンベル(ヴィレンドルフの悪魔)はあの日、あの棺の前で生まれたのだ。

 

 

 

 

 

 それからほどなくして、デキナイコは家督をついで騎士となった。

 

 私もジュラも成人と共に実家での騎士修行が厳しくなり、しばらく顔を合わせない日々が続くようになった。

 

 ――私達の幼年期は、そうやって終わりを告げたのだ。






 剣戟の音が響く、

 先ほどまで周囲を守ってくれていた騎士たちの姿は最早どこにも見えない。

 逃げてしまったわけではない。ただその全てが殺されてしまっただけだ。

「そこそこの超人つけてるじゃない。脳筋どもの余力はもうちょい削った方が良さそうね?」
「………大将、すま――」

 ザシュリと肉を断つ音がする。また一人、護衛の人間が死んでしまった。

 いいや、もう。

「誇っていいわよ? このクレマ様に肉薄したんだもの。来世ならワンチャンあるかもねぇ?」

 自分以外は誰も、生き残っていないのだろう。

「族長! 斥候がアスターテを見つけました!」
「早いわねぇ、あのババァ。ま、今日はあいつと殺り合うには準備が足りないから……」

 金色に輝くような見事な豹の皮を纏った女が、私の前に立つ。

「目的、果たしちゃいましょうか」

 爬虫類のような視線を私に向けて、彼女はにんまりと口元を歪めた。

「お前はメッセンジャーだ。力を合わせて頑張りまちゅ♪なんてくっだらない抵抗してるバカどもに身の程を知らせるためのね?」
「あぐっ!」

 女の手が私の髪を掴み、引き上げる。抵抗することも出来ず顔を上げた私の頬を、彼女の舌が這う。

「この場で命乞いして股を開くなら命だけは助けてあげてもいいわよ? お前の面は好みじゃないけど王族ってレア感は魅力的だし。まぁその後顔の皮と男根は切り落として婚姻なんて二度と出来ないようお化粧するけどね? あ、ついでに目を抉って足の腱も切っときましょうか。スリルもあって楽しいでしょ? この辺にも野犬くらいは出るだろうしね?」

 ニタニタと笑顔を浮かべながら私にそう告げ、彼女は反応を楽しむように私の表情を眺める。

 けれど、私は恐らく彼女を楽しませることは出来ないだろう。

「もしくは貴人らしくサパっと死んどく? それも楽し……」
「わかりました。勝者である貴女のお慈悲に縋りましょう。この場で命を乞い、股を開き――顔の皮と男根をそぎ落としてください」

 彼女の言葉を遮るように、私はそう口にした。中途半端な所で言葉を遮られた彼女は、最初私が何を言ったのかが分からなかったのか「……は?」と気の抜けた声を上げた後少しずつ表情を険しくし始める。

「たとえどのような姿であれ私は生きねばなりません。それが私を産み育ててくれたヴィレンドルフへの報恩なのです。たとえ――たとえ子を作るという男児の本懐を遂げられなくとも、私は生きてアンハルトにたどり着かねばならぬのです」
「………そんな役立たず誰が居るかっての。アンハルトでもヴィレンドルフでも無用の長物よ?」
「かもしれませんね」

 自分の命が、死へと近づいている。それが分かっていても、私は言葉にしなければいけない。

 どれだけ惨めでも生きなければいけない。たとえその生きるための足掻きが無意味なものだとしても、生きなければいけない。

「ですが何かの役に立つかもしれない。自裁するのは、それを確認したあとでもいい」

 私の言葉を聞き、ついに無表情になった勝者へと頭を垂れる。地に額をこすり付け、懇願の言葉を発する。

「クレマ様、どうか」

 たとえこれが無駄なことであっても。

「――気が変わったわ。アンタは生かしてはおけない」

 私は、足掻かなければいけなかった。

「目を抉り、耳と鼻と舌を引きちぎり。苦悶の表情を浮かべたアンタの首を見ればどれだけの愚鈍でも目を覚ますでしょう。あんたを生かして帰すより、そちらの方がリスクが少ない」

 クラウディア

「認めるわ。キーロ公子。アンタは私が、殺さなければいけないと思わされた人間だった」

 一緒に逃げると言ってくれたね

「このクレマ様手ずから、終わらせてあげる」

 国を頼むなんて偉そうな事をいってしまったけれど。本当は、とても嬉しかったんだ。君を抱きしめて、そのままどこか遠いところへと行きたかった

 クラウディア。私の、最愛の騎士(ひと)

 どうか、幸せに







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