星と楓と電脳戦機~Maple of T.E.M.J.I.N~ 作:提夢 刃
秋風に肌を撫でられ再び意識が浮上する、最悪な気分だ。ああ、思い出した。確か人間関係のイザコザで耐え切れず首を吊った、そんな最期だったか。死んだ俺が何故こんな所にいるのか――それとも、確率は低いが実際には死んで無く何者かに運ばれたのか。月並みの言葉しか出て来ないが何処か他人事の様に受け入れてしまっている自分に気が滅入る。いや、糞みたいな上司に金輪際会わずに済む、と考えればプラマイゼロか。いや、明らかにプラスかもしれん。
そんな事よりもムーンゲートだ。あそこは本来俺が物理的に行ける場所では無い、気絶した所為か少し冷静さを取り戻してきた。折角永らえた命、どうすべきか悩むが冗談半分な現状に1つの推測が浮かび上がる。それなら死んだ事とムーンゲートに行った理由が一気に解決する。
「異世界転生……?」
これだ。いや、これしかない。言葉に出した瞬間身体が軽くなった錯覚すら覚える。自分自身がそうなるとは全くの想定外だがなった以上は仕方がない。存外割り切れる自分に感謝しつつ身体を起こす。良く見ていなかったが此処は高台となっていて見晴らしが良い、この場所も何処か見た事がある。確か――
『おはようございます』
「ひゃぅわ!?」
急に声を掛けられ肩が跳ねた、我ながら情けない声が出たと思う。感情が無く聞き覚えのある予想外な声に内心ドキドキしながら声の発生源であろう左手首にある機械に目を向けた。小さなディスプレイが淡く点滅して、そこにはしっかりと『ADA』と表示されていた。
(いやいやいや……これは……)
夢みたいな出来事に飛び跳ねたい程嬉しく思うが見知らぬ男から急に「エイダ?」なんて言った暁には警戒される事間違いないであろう。何事も第一印象が大事、相手がAIという事も忘れてどう話そうか考えていると
『正面に敵性反応、3』
事務的に告げられる言葉に首を傾げた直後ズシン、と地面が揺れた。慌てて立ち上がった直後正面の地面の崖際から3つの影が現れる。着地すると同時に再び地面が揺れ土煙を舞い上げ、視界を妨げる。影の1つは大きい。
「……ママシュ!?」
じゃあ、ここはメイプルワールドって事になるらしい。新しい情報に喜ぶ暇も無く4メートル程の巨大なキノコのモンスター、『ママシュ』を中心に左右2匹のママシュをそのまま縮小したモンスター『メイプルキノコ』が素早く俺に襲い掛かってくる。
『回避して下さい』
「く、ぅ!?」
言うが早いか咄嗟に避ける。聞こえは良いが無様に地面にダイブし、腹から打ち付け痛みに顔を歪めてしまう。俺が知っているメイプルキノコより動きが早いしあの何考えているか分からない目が赤くなっていた。俺の身長と同じ位のキノコがあの速度でぶつかる、と考えると額から冷や汗が垂れ、更に重要な問題がある。
『使用可能な武器――該当無し。戦力差圧倒的不利。撤退及び
そう、武器も無ければ俺はただの一般人。戦闘の知識も力を振るう術も知らないし身体も鍛えている訳でもない、異世界もといメイプルワールドに転生したからって何かチート能力があるとも思っていない。ゲームに準ずるなら
「
『
目の前まで迫るメイプルキノコ達が突如俺を包む光に勢い良く弾き飛ばされ、俺の視界も真っ白となり若干の浮遊感を覚える。脳内にイメージとして現れる緑色の線が人体の爪先から段々と上がって行き、ワイヤーアートとして人体を生成する。しかし、その姿はただの人の姿では無く右手には剣の様な武器を持ち顔にはバイザー、頭にはアンテナのような物が生えており、次々と情報が流れ込んで行く。
――戦術的機動拡張抑制神経接続具現鎧――
初めて聞く名前、しかしその姿を俺は確かに知っている。
「テムジン……?」
光が消えた頃俺は青と白を基調とした色合いのバーチャロイドの姿になっていた。テムジン――TVゲーム『電脳戦機バーチャロン』の看板機体の名前。型式番号はMBV-04-G右手にはしっかりとM.P.B.L.-7mk-3(Multi Pul Beam launcher)が握られていて、重みを感じる。伏せていた瞳をゆっくりと開け吹き飛ばされた衝撃で動けないでいるメイプルキノコ一体に視線を向けると『ピピピ』とロックオンマーカーが現れ捉える。横に小さく距離計も出されおよそ5メートル。ふう……と一息吐きと視界の隅に小さくエイダのアイコンが出てきた。
『Multi Pul Beam launcherオンライン。パワーボムオンライン。T.E.M.J.I.N緊急装着完了。チュートリアルを行いますか?』
「チュートリアルはいらないよ」
『了解しました、武器エネルギー残量に注意して下さい。稼働時間2分30秒です』
どうやら時間制限があるらしい。それならば、さっさと終わらせた方が良い。視界の下に青色のゲージが3つある事を確認しつつイメージするのはゲームのあの動き、空いている左手を何度か開閉し感触を確かめてみる。
「よし――GET READY!」
気合を入れる掛け声共に武器を前に突き出し走り出す。すると背中にある箱型の装置《Vコンバータ》が開きCDのような物体《Vディスク》が晒されると同時に光が溢れ、斥力を推進としてキュイイイィィン!と心地良い音と共に身体が加速した。5メートル程の距離を一瞬で詰め、刀身に青白い光波を発生させメイプルキノコの左脇をすれ違い様に逆袈裟に斬り付ける。
『敵性反応、残り2』
斜めに真っ二つとなり可愛らしい(?)声を上げ溶ける様に消えるメイプルキノコを横目にすぐさま身体を捻りもう一体のメイプルキノコと向き合えば得物を突き、左からの袈裟斬りを繰り出す。2体目も溶けて消えた後遅れてジャリンジャリンとアイテムドロップの音が聞こえてくるが拾う暇は無い。
『敵性反応、残り1』
エイダの報告を聞きながらママシュを見上げる。相変わらず何考えているか解らない無表情を晒し続けるも手下が倒された事は認識しているのか遂に俺に襲い掛かってきた――やってる事はメイプルキノコと同じで全身使って飛び跳ねているだけだがスケールが大きいと迫力も違う。接地する度地面が揺れているが構わずパキュキュンッ!と反動補正もろくにせず素早くビームを3連射させる。的がデカいから難なく胴体に命中しママシュをノックバックさせ、無表情から涙目となった。だが、すぐに無表情へ戻るとデカキノコが高く飛び跳ねた。
『強力な攻撃に注意して下さい』
「突っ込む!」
『過剰なアドレナリン分泌を確認。警戒力低下』
あはははは!楽しい。小さい頃から憧れていた動きが
「なんのぉ!」
前のめりだった身体を無理矢理起こし体勢を入れかえる様に地面を抉りつつスライディングしてギリギリ通り抜け、慣性を無視したかの様に真上にママシュより高くジャンプしつつ向き直ると左手に力を込めボムを生成しサイドスローでボムを投擲し次に武器を横一文字に振り光波を飛ばす。投げたボムが振り返ろうとするママシュに当たると青白い半球型の爆風が広がりソードウェーブの追撃で再度怯ませ、一息吐く暇も無く着地後ダッシュして距離を詰めママシュを通り過ぎた瞬間移動彷徨はそのままに反転しトリガーを引いた。
先程よりも太いビームが発射されママシュに吸い込まれるように当たるとメイプルキノコと同じ様に溶けて消える。一瞬の静寂の後
『敵性反応0。初めての装着でしたがお見事です』
エイダの声に反応せずM.P.B.L.-7mk-3を2度振った後左手で小さくガッツポーズをする。
青空の下で、俺は人生初の戦闘行動を行ったのであった。
読んで頂き有難うございます、提夢 刃です。書いていて一人称視点や三人称視点での地の文が難しいな、と痛み入る思いです。コツとかあれば是非ご教授して頂きたいレベルでへこんでいます……同じような言い回しばかり使っている気がしますし……次話辺りにでも主人公とエイダの設定を入れたいと思っています(主にエイダ)
文章が殆どバーチャロン知っている人向けになってしまい知らない人にも分かりやすく説明したくても長くなってしまうので興味を持って頂けたらwiki等覗いて頂けたら幸いです。
さて、小さい頃からテムジンに乗りたいと思っていた筆者ですが大きさの関係状装着型のアーマーにする事で何とか丸くする事が出来た……つもりです。全く展開は進みませんがそろそろ椛も出したいので下手なりに頑張りたいと思います。