星と楓と電脳戦機~Maple of T.E.M.J.I.N~ 作:提夢 刃
『メル取得。分析――赤い薬取得、青い薬取得』
まだ戦術的機動拡張抑制神経接続具現鎧――『T.E.M.J.I.N』の残り装着時間があるのか颯輝はテムジン姿のままドロップしたアイテム回収に勤しんでいた。落ちているアイテムに近付けば左手首に装着してある腕時計型の機械『メイプルウォッチ』に吸い込まれインベントリに保管される。
『
落ちているアイテムを全て回収した、頃稼働時間が満了しエイダの報告と共に颯輝の身体が光に包まれ元の姿に戻った。
「さてと、取り敢えず……?――ぐっ、あああぁぁぁぁあああああっ!?!?!?」
現状の確認どころか自己紹介すらろくにしていない事に気付いた颯輝はエイダに声を掛けようとした瞬間口端と目から血が流れ頭を鈍器で思い切り殴られたような痛みと全身があらぬ方向へ捻じ曲げられるような痛みが襲う。
それもその筈、人間が出来る動きとは言え高速移動、重力、慣性を全く無視した動き、頭に流れ込んでいた情報にただの一般人である颯輝の身体には負担が大き過ぎた。痛みに耐え切れず地面に倒れ込み、四肢が千切れる錯覚に陥りながら五指を地面に立て毟り身体を痙攣させながら藻掻く。
『鎮痛剤投薬による痛覚の緩和――不可。赤い薬、青い薬による痛覚の緩和――可。緊急投薬します』
人生で経験の無い気絶すら許されない痛みの中涙が溢れ淡々と紡がれるエイダの声は届かず、インベントリから直接アイテムが使用される。
薬等直接飲めば通常通りの効果を得るが緊急時には腕時計型の機械――メイプルウォッチから直接成分を接種する事が出来るが、デメリットとして得られる効果が半分となる。雀の涙ぐらいしか効果は得られないものの無いよりはマシか痛みが微かに和らいだのか、痛みで忘れていた呼吸を浅く繰り返した。
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「…………
『はい。先程の状況では説明する猶予はありませんでした』
そりゃあそうだけど、と言う言葉を飲み込み颯輝は少し腕を動かそうとして――止めた。1時間程続いた地獄は落ち着き始め、頭痛を始め全身の痛みは引いたものの身体を少しでも動かすと痛みがぶり返す、差し詰め酷い筋肉痛と言った所か。
仰向けで虚ろな表情のまま尋ねると冷酷で合理的な返答が来る。
(なんか……人間味が無い……?)
AIに対して抱く感情では無いのだが、ふと颯輝は前世での記憶と照らし合わせ首を傾げ、痛みに表情を歪めた。
「あぅ……あ、俺日下部颯輝って言うんだけど……君は?」
知っている相手に名前を聞くのも変な話だが、颯輝が一方的に知っているだけで初対面の相手に対して馴れ馴れしく接すると良い関係が築けない、颯輝の理性が勝ったようだ。
『人物ライブラリ更新。私は……独立型戦闘支援ユニットADAです』
「エイダ、ね。何時までの縁か分からないけど宜しくね」
『宜しくお願いします』
あからさまに名乗る時に空いた間を気付かぬ素振りをして痛む身体をゆっくりと起こす。途中「あうぅぅ……ぅううぁぁ……」とゾンビじみた声を漏らし普段以上の時間を掛け上半身起こし、その後立ち上がる。
陽が段々と沈み始めていた。ゲームと違い時間の概念があるのかゆっくりしていられない。何も準備せず夜道を移動又は野宿が危険と言う事は颯輝でも分かる常識でもある。幸い、草が生えておらず土が露わとなっている道が続いていた。痛みで身体を引き摺る様に颯輝はこの方向の先に村があると信じて歩き始めた。
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「……つ、着いたぁ……」
『周囲の索敵を開始――敵性反応0。地形情報取得。現在地アムホスト』
時刻は既に宵の口、息も絶え絶えに漸くメイプルアイランドに2つある村の1つ『アムホスト』に辿り着いた。道中拾った木の棒でカタツムリのモンスター『デンデン』を倒しメルやら赤い薬やらを回収した――のは良いが1度考え事しながら移動していたら目の前のデンデンに気付かずぶつかった所、脛を机の角にぶつけた様な痛みが押し寄せたのは驚いた。
俺が溜め息を漏らしている間にエイダが周囲の情報を得たらしい。疲労困憊の姿を構わず曝け出しているが人影も疎らで俺を気にする人物はいなかった。門番をしている兵士っぽい人には怪訝な表情されたけど。
「一応ギルドに報告した方が良いか……あと宿はあったかな……」
流石にママシュがいた事を放置する事は出来ない、放置して被害が出たら寝覚めが悪いし。だが体力が限界だ。布団にS.L.Cダイブしてさっさと寝たい気持ちもある。
『ギルドの一般受付は既に終了しています。従って宿屋『楓の木』へのルートを表示します』
そんな俺の呟きに仕事の早いエイダはそう言って地面に青い線を表示させルートを教えてくれた。
「いや、どうやって調べたのさ」
『その質問に対する答えは現在持ち合わせておりません』
企業秘密か何かかな?多分、メタトロンのちょっとした応用かも知れない。一般受付と言う事は登録、相談やら雑務の受付が終わってるだけで緊急やクエストの報告等の受付はやっているのだろう。まあ、急ぎって訳でも無し取り敢えずルートに従って歩く。灯りが点く民家を眺めながらゲームとの差異を実貫する。ゲームのアムホストは狭く特に何も無いイメージだったが、しっかりと人が住んでいる気配はあるしそこそこ広い。情報共有は明日でも良いか、と考えていると3階建ての建物が見えた。喧騒が少し聞こえるのを踏まえると1階が酒場、2階3階が宿なのだろう。
両開きの戸を開け室内に入ると話し声が一際大きく聞こえ、食べ物やアルコールの匂いが鼻腔を擽る。今更ながら服装が奇抜では無いか不安に駆られるも誰も此方を気に留めないと言う事は問題無いと言う認識で良いと思う。
この世界に来てから何も食べていないが、痛みで空腹感は無いし早くゆっくりしたい。睡魔が段々と俺にユカラ撃ちし始めてきた。自分でも何を言っているか分からない。
「いらっしゃい!泊まっていくかい?50メルだよ!」
冒険者の新米達が明日の予定等を相談している横を通り過ぎ受付の前に立つと気さくなおばちゃんが案内をしてくれた。
良かった。部屋が埋まっている事を全く考えていなかったがどうやら大丈夫らしい。泊まる旨を伝え支払おうと何時もの感覚で財布を取り出そうと右手をポケットに突っ込んで――現金を持ち合わせていない事に気付いた。
(あれ!?金って何処に保管されてるんだ!?)
『金銭のやり取りは此方のメイプルウォッチで行われます。取引を昇任し互いのメイプルウォッチを近付けて下さい』
俺の思考を読み取ったのかエイダがフォローをしてくれた。予想だが本来メイプルウォッチにAIなんぞ積まれている筈も無く喋って大丈夫なのか、と思うも何も反応が無い所を見ると聞こえていないらしい。取引承認はエイダが既に済ましているらしく俺は素早く左腕を出した――ここまでの所要時間僅か4秒。何の疑問も持たれず場を凌いだが、格好つけて左腕を出す何とも言えない姿になってしまった。
おばちゃんも左腕を出しホワンホワンホワン、みたいな通知音が鳴る。
「毎度あり。部屋は3階の1番奥だよ!はい、これ鍵ね」
無事取引完了したらしい。鍵を受け取り軽くお礼を言うと階段を昇る事実にげんなりしつつ移動をする。2階に昇ると1階の喧騒は全く聞こえず静かな空間となった。まあ、2階には用が無いのでそのまま3階へ。
人間2人分程の幅に綠色の絨緞、ランプで照らされた廊下を歩き左右にある扉とは別に突き当たりにある扉が俺に割り振られた部屋なのだろう。しっかりとした木材で出来た扉を眺めた後、鍵を差し込み解錠する。部屋に入り鍵を閉めると机とテーブル、シングルベッドに窓と言う簡素な室内に丁度良い感じさを覚え自然と笑みが零れる。窓から外を覗くと木々が生い茂る森しか見えなかった。
「限界だからもう寝る。悪いけど情報交換とかは明日しよう……ああ、近場で少しでも何かあったら起こして……」
『了解しました』
ベッドにダイブしたい衝動を抑え律儀にパーカーを脱ぎ机に置き、もぞもぞとベッドに潜りつつエイダの返答を聞いた瞬間、気絶するかの様に眠りに付いた。
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深夜。1階の酒場も閉まり誰もが寝静まった頃、木々を避け足場の悪い森の中で走る2つの人影があった。
「はぁ……はぁっ……くっ……!」
前を走る追われている人影が緊迫した呼吸と共に走っている方向とは逆方向――背後に向かって片手を突き出し掌から弱々しい光弾をもう1つの追ってくる人影に3発放つ。その光弾に避ける動作も無く、1発被弾するも物ともしない姿に奥歯を噛み締め、せめて時間稼ぎにと光弾を木の枝に放ち視界を悪くさせ疲労が蓄積し重くなっていく身体に鞭打ち逃げ続ける。
一方泥の様に眠る颯輝の左腕に装着されているメイプルウォッチからエイダは2つの移動物体及び戦闘行為を感知するも此方に害は無いと判断、静観という結論を下すも颯輝が出した
『イレギュラー発生。起きて下さい』
淡々と告げられる言葉に颯輝は当然気付く筈も無く深い眠りを続ける。
『イレギュラー発生。起きて下さい』
復唱。何か言い方が変わった訳でも声色が変わった訳でも無い。室内に虚しく消えるエイダの声に颯輝はいびきで答え眠り続ける。
『Message of the blowing wind Erasing memories
Stars are the witnesses of our existence(クソデカ大音量)』
「うわあぅ!?」
何が何でも命令を忠実に遂行するプログラムか、はたまたAIにあるとは思えない意地か、何処かで聞いた事のある歌をライブラリから引っ張り大音量で流した。颯輝にしか聞こえない様に再生したのは周囲への配慮か――いや、イレギュラーに気付かれない為だけだろう。
耳元で爆発した様な音に颯輝は一瞬で目が覚め飛び跳ねる様に上半身を起こし室内を見回す、心臓が早鐘を打っていた。
『おはようございます。イレギュラー発生の為起床して頂きました』
「…………?――あぁ、有り難う。何が起こった?」
『宿屋裏手にある森の中にて戦闘行為が発生中。映像を表示させます』
颯輝が起きたと同時に音楽が鳴り止み首を傾げる最中エイダの報告に寝る前に自分が頼んだ言葉を思い出すとお礼を述べ尋ねる。どういう技術かエイダはメイプルウォッチの画面から映像を浮かび上がらせ颯輝に見せた。
どうせ酔っ払いの小競り合いだろうと、欠伸を零しながら観ると俯瞰視点で戦闘が行われている事が分かった。戦闘、と言うよりは追う、逃げるの関係に見て取れた。追い掛けているのは生気がある様には見えない男性、追われているのは白い髪に狼の様な白い獣耳と山吹色の頭襟、フサフサな白い尻尾に白の装束に楓が彩るスカート。その姿はまるでーー
「――――!?エイダ!今すぐ
『非推奨。ランナーのコンディション低下中及び此方に被害は無い為戦闘は避けるべきです』
「そうかい!生憎俺はランナーじゃないんでね!それに、多分
『……発言の意図が不明。何故自ら危険な場所へ行くのですか?』
エイダの警告を屁理屈で押し通しままならないイメージを無理矢理作り上げ、身体から光を発した後颯輝は再びテムジンの姿となった。
窓を開け空いている左手で縁を掴み足を掛け外に飛び出そうとして、エイダの疑問に答えていない事に気付いた。
下心は、あるかもしれない。しかし憧れた姿になれる今、前世で惨めとは行かないが何も取り柄も無い人生を思い返しヒーローになりたい、認められたい、という承認欲求が颯輝のコンプレックスに無意識になっていた。色々と感情が混ざる中バイザーを光らせ簡潔に言葉を紡いだ。
「男の子だから、かな」
『……理解出来ません』
「いつか解る時が来るよ」
その言葉を合図に、3階から飛び降り独特なダッシュ音を奏で闇夜の森に消えた。
読んで頂き有難うございます、提夢 刃です。地形はメイプルストーリーみたいに足場が浮かんでいたりジャンプの際は高く飛べる等、詳しく書けておりませんが気合でイメージして頂ければと思います……他力本願寺ですみません……拙い文章ですが、また読んで頂ければ幸いです。それでは最後に当物語での設定をご紹介したいと思います。
日下部颯輝 『颯』ただの一般人。174cm77kgと筋肉があまり無くお腹が出てる細ポッチャリ。前世の知識を活かしフラグ立てたりその場凌ぎしたりする。割りとゲームの『メイプルストーリー』と相違点があるがはたして……?
颯輝曰く「テムジンで種撃ちしたい」
テムジン 『テ』 皆大好き(偏見)電脳戦機バーチャロンに登場する看板機体。当物語ではバーチャロイドでは無く戦術的機動拡張抑制神経接続具現鎧
Tactical タクティカル
Extension エクステンション
Maneuver マニューバー
Jagrant ジャグラント
IncarnationArmer インカーネーションアーマー
Neuro-Link ニューロリンク
と言うシステムの略称で登場する。流石に強過ぎるので
·装着する際は神経を集中させ鎧を構築する時間が必要
·使用後はHPとMPが減少するペナルティ。
·直ぐに装着出来る
等制約がある。今はまだOMGテムジンだが……?
ADA 『エ』 皆大好き(誇張無し)独立型戦闘支援ユニット。この物語のエイダはレオ·ステンバックと出会わずアランとディンゴの2人がジェフティのランナーとなり戦っていたようだが関係は良好だったとは言えず人間臭くない。アーマーンを破壊する際ジェフティを自爆させエイダのユニット周りが致命傷を負うも月まで漂流し月でVクリスタルとメタトロンをちょっとした応用で何とかなった。
メイプルウォッチ 『楓』 見た目スマートウォッチみたいな機械。ゲームのインベントリをどうにかしようとした結果こうなった。本来は手動だがエイダがいるおかげで自動で色々やってくれる。
犬走椛 『椛』 当物語の椛は獣耳尻尾有り、瞳に楓マークが浮かんでおり袖無しの丸いフワフワが着いた白い装束に黒布地に紅葉が拵えてあるフレアスカート。裾の広がったアームカバーで二の腕、肩、脇が丸見え。装束の下には鎖帷子を着ている。胸は割りとある。