星と楓と電脳戦機~Maple of T.E.M.J.I.N~ 作:提夢 刃
ーーキュイイイィィンと小さな耳鳴りが響く中少女は走っていた。心臓は早鐘を打ち、足も縺れかけ荒々しく吐く呼吸はままならず本調子では無い事が見て取れ、追手との距離が段々と縮まって行く。一方、少女を追い掛けている男はとてもでは無いが正気には見えない表情をしていた。木の葉の隙間から降り注ぐ月の光で一瞬映る顔に生気は無く視点も定まらず冒険者の様な装備はしているがボロボロで既に機能を失っている。
「何なんだあの人は……っきゃっ!?」
彼女の恐怖心を煽るのは男が薄く開いた口端から涎を垂らし続けフォームも無く体幹も安定して無いにも関わらず距離を詰めている事だった。
月の光すら届かぬ森の中で一瞬男に気が向いた所為か地面から覗く木の根に足を取られ短い悲鳴と共に転倒してしまう。膝に擦り傷を負い立ち上がる力も出て来なく歯を食いしばりただダイブするかの様に近付く男を弱々しく睨み付ける事しか出来ない己の無力さに瞳を伏せる。耳鳴りも段々と大きく酷くなり直ぐに訪れるであろう痛みに身構えた瞬間ーー
スパァンッ!
風が裂ける様な音に恐る恐る瞳を開けると男の右肩から胸部、左腕にかけて大きな斜めの傷が浮びあがり血が吹き出てよろけていた。
慌てて後ろを振り向くと遠くで身体らしき所が部分的に点々と点滅しており、顔らしきところが横線二本に薄緑色に光っている人っぽいモノが立っていた。
「……新手……?」
混乱からか思ってもいない言葉を発してしまうが少女は男を攻撃した事により警戒心は薄く強張っていた身体が脱力していた。
キュイイッ……とダッシュし距離を詰めて来た人っぽいモノが急に立ち止まり光が消える。少女が聞こえていた耳鳴りの正体はこの人っぽいモノから発しられていた音だった。
余談だが、この時颯輝は少女に言われた言葉に動揺しエイダが『勝手に乱入して来た第3勢力』と言う事旨を淡々と伝え葛藤していたのはここだけの話だ。
閑話休題。
再び光が点灯すると不安定な地面を物ともせずダッシュし少女の横を通り過ぎた。
『怪しい物ではありません』
少女を横切る際、一瞬だけ姿を捉え見た事の無い鎧を全身に纏っている事を認識し無意識に男性かと思った束の間、女性の様な声が聞こえて来た。
人っぽいモノーーテムジンが言葉にならない声で呻く男の前に躍り出ると勢いそのまま左手で拳を作りながら振りかぶり無造作に男の顔面を殴り、メッキョッと鼻が潰れる嫌な音が鳴り背後の樹に叩き付ける。
男は立ち上がる仕草を見せるが、力が入らないのかその場で藻掻いてる所、ゆっくりと近付くテムジンの背中が少女には不気味に見えた。流れる動作でM.P.B.L.-7mk-3を構え光波を発生させると。
ズパンッーーーー
躊躇い無く男の首を斬り落とした。ボトリ、と地面に頭が落ち首があった所からは血が吹き出て樹や『テムジン』を赤く汚す。
『宜しいのですか?』
「……?何が?」
『ーーいえ、何でもありません』
2人にしか聞こえないやり取り、エイダの問い掛けに首を傾げ座り込む少女に振り向く。血塗れで妖しく暉姿に少女は恐怖からビクリと身体を震わせ少し後退りしてしまった。その姿に何を勘違いしたのかテムジンは再度男に振り向き武器を構えるが既に死体は消え、夥しい血だけが残っていた。
『
「動ける?」
「ーーえ?……あ、何とか」
光を発し『テムジン』姿から元の颯輝の姿に戻る。その光景に少女は瞳を丸く開き軽く驚くも颯輝の問い掛けに我を取り戻し、光源が木の葉から零れる月光だけの中頷いた。
「悪いけど急いで門番の人とか呼んで来て貰えないかな?ーー頼むよ……」
暗闇の中でどういう表情をしているのか、お願いをしている柔らかい声色の中、有無を言わせぬ物言いに疑問を口に出そうとした直後弱々しく懇願する声に口を噤み何も言わず小走りでおそらく村の方角へ行ってしまった。颯輝は溜め息を吐くとこれから自身の身に起こる事を少女に見せたくない為の配慮不足であった。
そして、
心臓が一際強く脈打った後握り潰される様な痛みに瞳を見開き痛みに耐え切れずその場で倒れ更に全身に押し寄せる激痛に声を上げ意志とは関係無く暴れる身体を地面に打ち負ける最中。
「〜〜〜〜っ!!ぐっ、ふ……ああああぁぁぁぁぁぁ!!うっ…おえぇっ!」
突如先程の出来事がフラッシュバックし男の首を斬る生々しい感触が蘇り胃の中から酸っぱい物が込み上げ堪らず嘔吐し口周りを汚す。痛みと嘔吐で涙が溢れ視界が歪みだらしなく鼻水を垂らし何度も胃液を吐き出しえづく。
不幸中の幸いか身体が意識を保つ事に拒絶反応を起こし颯輝は身体を痙攣させながら気を失い、辺りは夜中の森に相応しい静寂が支配する。
『……何故そこまでして戦闘行為に介入したか、理解不能』
ヒトの心が分からないエイダの声が、静かに消えた。
ーーーーーーーー
『お前、休みの日も自由な時間は無いからな』
意味が分からない。休日が時間の唯一の楽しみなのにそれすら奪われたら何を生き甲斐にしたらいい。
『本当使えないよな。成長する気あんの?』
うるさい。こっちも出来ないなりに試行錯誤してるつもりだ。言ってる事はわかるが正論ばかり言われた所で気が滅入るだけだろう。
『だから顔もキモいしモテないんじゃないの?生きる価値無くない?』
黙れ黙れ黙れ黙れ。全く関係無い事を一々言うな。コンプレックスぐらい自覚している。それをついでの様に軽々しく伝えなくていい。お前は俺の何なんだ。
『お前が逃げても俺の伝手を使って必ず探し出してやるからな。んで費用とか全部お前に請求すっから』
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れーーーー
ーーーーーーーーーーーー
「ーーっぁ!!?」
思い切り目を見開くと見慣れない天井が映った。どうやら嫌な夢を見ていたらしく冷や汗が顔中に流れていた。1度深呼吸をした後利き手である右手を動かそうとして動かない事に気付いた、何だか温かいしとても落ち着く。何故か分からないけど腕動かないし汗拭けなくても仕方無いなぁ、なんてボーっと天井一点を見つめてると左手を動かせば良い事に気付いた。どうやら相当寝惚けていたらしい、それじゃあと意気込んで左手を動かそうと力を入れた途端激痛に見舞われ声を漏らしてしまう。
『おはようございます。ペナルティ中の
力を入れるのを諦め重力に身を任せベッドに沈む。エイダの小言らしき報告を聞き流し溜め息を漏らす。
『ーー何故、その少女を助けたのですか?』
ーー少し理解が遅れた。少女を助けたのは邪な考えが無い訳では無い。訳では無いのだが、何て言えば良いのか……そんな事より先程エイダは何と言った?『その少女』?
「ーーんっ……んぅ……?」
ふと、痛む首を右に曲げると床に膝立ちとなり俺の右手を両手で包みながら便利の縁に顔を埋め薄っすらと瞼を開き真紅の瞳を覗かせていた。頭の獣耳がピコピコと揺れている。可愛い。
目と目が合い視線が交わり数十秒ーー
「……ひゃわぁ!?めめめ目が覚めたんですね!……大丈夫ですか?」
可愛らしい声と共に飛び跳ねる様に起き上がり、豊かな胸を揺らす。大分眼福であり俺自身テンション爆上がりする光景な筈なのだが夜中の出来事があった所為か感情の起伏が乏しかった。
「生きてるんなら多分平気。それよりも……えー……あー……そっちも大丈夫?……俺の事とか」
冷や汗で汚れた顔を少女が丁寧にタオルで拭きその心地良さに身を委ね瞳を伏せつつ互いに名前を知らない筈の状況で名前を呼ぼうとして歯切れ悪く聞いてしまった。
それに、昨日自分の行動を思い出し溜め息を零す。吐き気等はもう無いが、
「私は転んだだけなので平気です。昨日の事もエイダさん?から聞きましたしーーあ、私犬走椛って言います。昨日は助けて頂き有難うございました」
顔からタオルの感触が離れ、ゆっくりと瞼を開けると椅子に座り柔らかく微笑む少女ーー椛の姿が映った。わざわざ律儀に名乗り頭まで下げられると何だかこそばゆい感じがする。
「あ、日下部颯輝って言うよ。何かの縁だし、名前で呼んでくれたら嬉しい」
「はい。じゃあ、颯輝さん。宜しくお願いしますね」
「お、おう……宜しく、椛」
恥じらいとか無いのだろうか。いや、挨拶に恥じらいを持つのも変な話なのだが割りとぶっ込んだつもりが平然と返されてしまったので動揺してしまった。顔、紅くないだろうか。
椛が食べ物を持って来ると言い部屋から出ると今更ながら窓から朝日が差し込んでいる事に気付いた。エイダに聞くと朝の6時らしい。
「それで、椛にはなんて話したんだ?」
『自分の身を顧みず救出行動に移った事と、2度の戦闘行為を分析した結果、T.E.M.J.I.N装着中は心拍数の上昇及び好戦的な精神パルスを検知した事の2つです』
身動き1つするのもしんどい為首を右に曲げたままエイダに聞く。随分簡単に伝えた為か前者は随分美化された気がしなくも無い。後者には心当たりがあるが、まあどうこう出来る訳では無いので何とかさせるしかない。
『ーー助けるのに意味はあまり必要では無い、と述べられました』
予想外な発言に痛みを無視して首を180度曲げメイプルウォッチーーエイダを見る。
『理解出来ません。与えられた任務を迅速に遂行する為無駄な行動を省き全うするべきです』
無機質で、それでいてAIとして模範的な回答。別に否定するつもりは無いしニュースで戦争云々の話は聞くが身の回りで考えたら無縁のただの一般人の俺と戦闘支援を目的として作られたエイダでは価値観が違うのは当然だと思う。だが、それでも言わなければいけない事があった。
「エイダ。君の任務ってなんだ?」
『極秘事項の為お答えする事は出来ません』
「ふぅん?
『ーー貴方は何者ですか?』
「この際腹を割って話そうか。俺とエイダ、それに椛はこの世界の人間じゃない。薄々気付いてたんじゃないの?」
咄嗟にエイダも1人として数えてしまったが別に良いだろう。自分が別世界から来た事、ついでにこの世界やエイダと椛は俺から見ればゲームの世界であるものと伝えた。俺は見覚えのある場所だが色々と混乱してピンと来るのが遅かったが、エイダからして見れば文明の違いがあり過ぎて直ぐに気付いたのでは無いだろうか。
『ーー軍事要塞「アーマーン」は
「……?アヌビスだけじゃなくジェフティも?レオは?ディンゴは?」
何か可怪しい。エイダが返答するのに少し間があり言葉もただの可能性の話でありおそらく最後まで確認出来て無さそうなのは確かだが、ジェフティがアヌビスを倒してアヌビスのエネルギー臨界放出でどうのこうのじゃなかったか?
『はい。アーマーン内での戦闘後ジェフティのランナー「
……ん!?俺が知っている
「最後ディンゴが脱出って言ってたけどジェフティのエネルギーを使って生命維持とかどうなったの?」
『その様な処置は行われておりません』
……また原作と違う情報だ。過程は違うけど同じ結果に行き着いた、って事か。確かバタフライエフェクトとかそんなの。
「うーん……俺の知っている知識と少し違うし、やっぱりそっちはそっちの世界でちゃんとあるのかもね。気を悪くする様な事言ってごめん」
流石に作り物の世界で存在を全否定する様な言い方は悪かった、思い込みはダメ絶対。
『気を悪くする、というプログラムは組み込まれておりません。ですがーー私はこれからどうすれば宜しいのでしょうか?』
気にしてない、という事だろうか。俺ももう少し考えて発言した方が良いな。脊髄反射で喋る節があるのは良くない事だな。
それより、後半の言葉が何処か不安気に聞こえた。任務は果たされジェフティはもう無く、突如異世界に跳ばされ有耶無耶になっていたが存在意義を失っている現状だ。
「AIとかプログラムとかそういう発言禁止ね……本来だったらムーンゲートーー月の遺跡で機能停止しても良かったんだ。それでもメイプルウォッチの中にいるって事は無意識にエイダが生きる事を願ったんだよ。だからさ、理由を探せば良いんじゃないか?テムジンの事もあるし傍で俺を助けると思ってさ」
『私が、存在する……理由ーー』
今のエイダにはまだ難しいかも知れない。だが、此処に存在する以上きっと何かあるのだろう。俺には大層な理由は無いがエイダに時間は沢山ある筈だ。それはそうと我ながら臭い台詞だと思う。……死にたくなって来た、いや1度死んで今も死に体なんだった。洒落にならん。
それっきりエイダは黙り込んでしまった。気まずい訳でも無く、動くと絶対痛いだろうから動きたくないしどうしようか悩んでいた所、扉の開閉音が聞こえた。視線を向けられないので分からないが椛が戻って来たのだろう。何か美味しそうな香りがする。
「遅くなりました〜。昨夜の門番の方と会いまして、アムホストのギルド長が話を聞きたい事らしく身体が良くなったら顔を出して欲しいとの事です」
「やっぱり只事じゃないか……ママシュの件もあるし丁度良いね」
颯輝さんを運んでくれた人達ですよ。と付け加えて1階での出来事を伝えてくれた。そう言えば此処まで運ばれた経緯を聞いていなかったな、と思いつつ当事者として最低限の責務とお礼を言わなければ。
「食事、出来ますか?パンとスープと薬を持って来たのですが……」
そう言って椛は手慣れた手付きで
「ごめん……身体動かすの辛いから薬でいいや」
「そ、そうですよね……ごめんなさい!でしたら私がーー」
『直接此方から投薬しますので此方に頂けないでしょうか?』
「ーーあ、分かりました」
オイオイオイ、辛いわ俺。食べやすい物は持って来たが動けない事を忘れてた椛が耳を垂らしシュンとするも、直ぐに立ち直り言葉の流れ的に俺に食べさせてくれる発言をしようとした瞬間エイダが遮る様に淡々と促す。椛は瞳を丸くパチクリと瞬きさせた後置いた薬を俺のMWに近付け小さな光となって消える。どうやら譲渡されたらしい。
『赤い薬、青い薬を投薬します』
報告と共に薬が全身に行き渡り、少し痛みが和らいだ気がする。
片手ゆっくりと伸ばし掌を開閉させる。うん、さっきより大分マシになった。エイダも余分に投与してくれたのだろう精神的にも漸く持ち直しゆっくりと上半身を起こす。
「……よっ……あだだだだ…」
「あっ、無理しないで下さい」
当然ながら完治した訳では無く身体が悲鳴を上げ、それでも無理矢理起こそうとすると椛が近付き背中を支えてくれる。介護されながらのっそりと身体を動かしベッドの縁に座る。
「有り難う椛。エイダもありがとね」
『MWの持主を失う訳にはいきませんので』
何処かで聞いた事がある台詞、だからこそかジェフティとMWで大きな違いがある事に気付かなかった。
椛は椛で何か言いたそうな表情をしていて、視線を彷徨わせていた。こうやって普通にやり取りしているが自分が人間じゃない事を気にしているのだろうか。
「どうかした?」
「えっと……その、私……実は人間じゃないんです」
うん、知ってる。白狼天狗とかで妖怪とかそっちの類でしょ。不安気に俯き若干上目遣いで俺の顔色を伺っているが俺には動じないーー場違いだがその姿が可愛過ぎて脳内で吐血はしているが。安心させる様に笑みを見せそのまま続きを促す。
「私は……楓の樹から創られた精霊の分身なんです。弱まり続ける違いを取り戻す為に
……はい?それはちょっと知らない。予想外な言葉に笑みが消え瞳を瞬きさせる。情報量が多過ぎる、頭を整理させようとすると椛が首に掛けていた赤く形が歪な丸っぽいペンダントを掌で添え見せてくる。
「本当はこれ、紅葉の形をしてるんです。メイプルワールドの何処かに散らばっていてそれを集めるのが私の使命なんです」
ふむ、まじまじ見てみると葉先が5つあった様に見える……そうなるとヘネシス、カニングシティー、ペリオン、エリニア、スリーピーウッド、の5箇所と思うのは安直だろうか。
取り敢えずこれは保留。情報も少ないし安直な考えを持っていると足元掬われるかも知れない。出来るなら早い事に越した事はないだろうが直ぐに、って訳でもなし巡っていたら見付かるのではないだろうか……希望的観測だけど。
それよりも椛の姿だ。昨日楓の樹の傍で倒れていた人からって言っていたけど……も、もしかして?
「はいーー颯輝さん、貴方の記憶でこの姿になりました。私に……力を貸してくれませんか?」
拙い文章を読んで頂き有難うございます、提夢 刃です。本来もう少し早く投稿出来たつもりだったのですが『仕事の時間だ、747』と言われ中々捗らず……あとメンタルにもダメージが蓄積してて…AC6と私情で涼みませんでした。幸い投稿を心待ちにしている人がーーって自虐は良くないですね、すみません。
何処を削って何処を入れるべきか分かりませんが試行錯誤しつつ書き続けていきたいと思います。