星と楓と電脳戦機~Maple of T.E.M.J.I.N~   作:提夢 刃

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ROUND5 体力作り

「貴様ぁ!その弛んだ腹は何だ!何が詰まっている!?」

「……はぁっ、ぜぇっ……ぜぇ……はっ!……夢と、希望と……脂肪でありますっ……!」

「馬鹿者!!夢と希望は詰めて良いモノではない!何時までも自分を見失わない様に常に掴んで離さないでおけ!脂肪は別だ!余分なモノはさっさと吐き出せ!」

 

 

 颯輝は走っていた。かれこれ1時間程だろうか、トータスと別れた後颯輝と椛は受付で無事登録を済ませ説明を受けた後新米冒険者の為の体力作りに勤しんでいた。所謂クエストである。

 颯輝とその他新米初心者は基礎体力を作る為アムホスト内で決められたルートを走らされていた。途中脱落する者や軽々とこなす者、様々いるが颯輝はどちらかと言えば脱落寸前だ。元々鍛えている訳でも無いしマシになったとは言え全身筋肉痛だからだ。支給された運動に相応しいジャージとTシャツを纏い最後尾を息も絶え絶えに走りながらのやり取り、颯輝の相手は初心者に最低限の力と知識を持たせる教官の1人ーージールだ。

 ジールは銀髪で前髪を揃えサイドや後ろは肩辺りまで伸ばしており端正な顔立ちをしているがアイスブルーの瞳は鋭く後ろから颯輝を睨み付けていた。

 

 

「全員!ギルド前に到着次第クールダウンに入れ!その後は座学だ!多目的室に入りスラン教官の指示に従ええ!」

 

 

 颯輝から離れた前方の冒険者集団は振り向かず大きな返事を返す、ジールもジールだが大分離れているのにも関わらず声を届かす程の返事が出来る冒険者達には脱帽だ。颯輝はそこまで気にする余裕は無くただもうすぐでこの地獄が終わる、そう思った瞬間である。

 

 

「きぃさぁまあぁ!!気が緩んだな!?戦いは完全に終わるまで、いや、終わった後も何が起こるか分からない!気を抜くのではない!もう一周だ!」

 

 

 一瞬。ほんの一瞬である。別に颯輝は走りを緩めた訳でも既に崩れているフォームを更に崩した訳でも無い。だが、適当に言った訳でも無く背後から颯輝の表情や心理を読み取ったのであろう。そんな人外じみた叱咤に颯輝の汗塗れの顔は苦痛を一周回って昨夜の男の様に生気を失っていた。

 

 

 一方、椛は先日ジール教官の訓練を終えた冒険者達に混ざり赤いチャイナドレスを纏いツインテールの女性ーーマイに戦闘訓練を教わっていた。武器は右手に木刀、左手に盾。マイは木刀一本だ。

 

 

「甘い!そこだと拳半個分届かない!常に自分と相手の距離と得物の長さを意識しなさい!」

「ーーっ!えぇい!」

 

 

 先に椛が仕掛けた右からの袈裟斬りをマイは回避行動せず指摘と共に突きを繰り出す。若干前のめりになり体勢を崩しかけた椛は無理矢理盾でアッパーをする様に腕を振り上げ木刀を弾く。カァン!と甲高い音が響き渡り、椛は振り上げた腕をそのまま剣を握り両手で柄を握ると勢い良く剣を振り下ろした。

 

 

「そこらの男よりかは見込みがある!しかし!」

 

 

 頭上で木刀を横にして受け止め攻撃を防いだマイは木刀を斜めに傾け椛が持つ木刀を受け流しつつ身体を一回転させその勢いのまま高速で突きを連続で繰り出す。

 木刀を振り切り体勢を崩していた椛だったが間一髪立て直し、瞳孔が開く。あまりの速さに複数に見える木刀を正確に盾で防ぎ、時には受け流し凌ぐ。その姿にマイは攻撃しながら瞳を見開き驚嘆の表情を見せるが攻撃を緩める事は無くフェイントを混ぜ始める。が、椛には通用しないのかフェイントを的確に判断ーーいや、フェイントだと確認してから見切っていた。

 

 

「ーーはああああぁぁっ!!」

 

 

 このまま膠着状態を嫌ったか椛は盾を正面に構え多少の被弾を覚悟し突撃すると、胴体に対して繰り出されていた突きが不意に顔面へ襲うが、盾で弾き肉薄する。

 

 

「その目の良さが命取りだったわね!」

 

 

 一瞬盾でマイの姿が隠れた隙に体勢を低くし左足を軸に回転し足払いを繰り出す。その不意打ちすら椛はジャンプして躱すと木刀を足払いを空振りしたマイに振り下ろす。

 

 

「貰ったぁ!」

「ーーーー!」

 

 

 一閃。マイの脚と椛の足裏の隙間は3cmも空いていなかっただろう、それ程椛は完璧な回避と攻撃だった。しかし、マイの闘争本能に火がついたのか足払いの回転に立ち上がる勢いを加え空中にいる椛の腹部を横切る様に思い切り叩き付け斬り抜けた。

 

 

「か、はっ………」

 

 

 ドゴッ、と鈍い音を奏で空中にいた椛はそのまま意識を刈り取られ地面に倒れ込む。

 マイは切り抜けた体勢からゆっくりと立ち上がり木刀を軽く振り払い残心を終えると我を取り戻したかあわてで椛の傍に駆け寄る。

 

 

「ーーあっ!やっちゃった……大丈夫!?……じゃないわよね……誰かこの娘と一緒に行動してた人とか知ってる?」

「それでしたら確かジール教官と一緒に走っていた人がそうだった気がします」

「ちょっと呼んで来て貰える?」

「はい!」

 

 

 椛を仰向けに寝かしつつ模擬戦闘を中断し観客と化していた冒険者に知り合いの有無を尋ねると、1人が颯輝と椛が一緒にいた所を見たのかマイに伝えた。目尻を下げ申し訳無さそうに頼むと冒険者は元気良く返事し村の中で走っているであろう颯輝を探しに行った。

 

 

「反応が良いから咄嗟に本気出しちゃったなぁ……またジール教官に怒られる……」

 

 

 椛の服を軽く捲り上げ白い綺麗な肌を露わに似した後MWから白い薬を取り出し、布に湿らせると木刀によって赤く腫れる腹部に添え治療を行い、自身の未熟さを恥じらいながら空を仰ぎ見る。

 

 

 青空は、次第に橙に染まり夕暮れが近付いていた。

 

 

 

 

 ーーーーinterlude inーーーー

 

 

 時は午前中、颯輝が二度寝した時に遡る。

 

 

「エイダさん?少しお話しませんか?」

『雑談、と言うプログラムは搭載されてありません』

「まあまあ、そう固い事は言わずに」

『………………』

 

 

 颯輝から規則正しい寝息が聞こえ始めた頃、椛は食事を終え食器を返却するとエイダに提案を持ち出した。颯輝が毛布に包まって寝ている為か電子的な声は若干くぐもって聞こえるのはご愛嬌だ。

 それきり沈黙を貫くエイダに椛は暫く思案するとポン、と掌に握り拳を軽く叩いた。

 

 

「あ、私が知ってる限りで良ければメイプルアイランドとビクトリアアイランドの地形を共有したいんですけど」

『MWのリンクを開始ーーーー同期完了。メイプルアイランド及びビクトリアアイランドのデータをライブラリに追加しました』

「早いし便利ですねぇ。エイダさんが私のMWに来る事は出来るんですか?」

『母体は既にこのMW(颯輝のメイプルウォッチ)で登録している為永続には不可能ですが一時的には可能です』

「じゃあ、颯輝さんのMWを奪ったら使える、って事ですね?」

『原則登録者以外が使用した場合ハッキング等の可能性がある為、高度なセキュリティロックをかけるので問題ありません』

「意外と律儀なんですね」

『発言の意図が不明』

 

 

 椛が提案を言うが早いかエイダは直ぐに椛のMWと同期を始めデータを得る。ふと思い付いた椛の疑問に淡々と返すが紡がれた言葉に椛は笑みを零し意味深に伝えるがエイダは颯輝以外には使われたくない、と言っている事と同義な事に気付いていない様だ。

 

 

「分からないなら良いです。けど、AIって言うのは成長する、と言うのは知識ではあります。メイプルワールドの何処かにも使われてるって聞いた事ありますし……何か無いんですか?」

『………………宜しいでしょうか?』

「はい!」

 

 

 椛の発言に思う所があったのか暫くの間の後、疑問をぶつける。

 

 

『自身のコンディションが劣悪の中、何故無関係の人を助けるのでしょうか?』

 

 

 それは昨夜颯輝が起こした行動の事であった。エイダの技術で姿は分かったもののそれでも危険を犯してまで助けた意味が未だ理解出来ないのであろう、助けて貰った椛本人に聞いた。

 

 

「ふふっーーすみません。う〜ん、確かに颯輝さんが知ってる姿だから助けてくれるかも、って言う打算はありましたけど……昨夜会えるとは思ってませんでしたしーーそう言えばどうやって私を見付けたんですか?」

 

 

 颯輝の行動を聞いて嬉しそうに笑うと昨夜出会えた事が偶然らしく不思議そうに尋ねる。

 

 

『就寝前に些細な事でも何かあったら起こしてくれ、という任務を遂行しただけです』

「じゃあ、私が助かったのはエイダさんのおかげでもあるんですね?有り難う御座います。()()()()()()()()()()()()()()」 

『私に理由はありません。あくまで任務遂行を努めただけです』

 

 

自分が助かったのは颯輝だけではなくエイダとの2人のおかげで助かったと改めて感謝するも続いた言葉には瞳を見開いた後口端を釣り上げ意地悪い笑みを浮かべた。

 

 

「それだと颯輝さんと同じ考えですね。人助けに理由なんて特に必要ないんですよ」

『ーーーー』

 

 

 まあ、私は人じゃないですけどね。と椛は笑いながら続けた。

 エイダは回答によるエラーか、はたまたAIらしからぬ考え事をしているのか、毛布の中でMWが淡く点滅を続け、そして消える。

 

 

『……ランナーに対する好感度が高いのは何故でしょうか?』

「……?颯輝さんの事ですか?確かにこの人なら大丈夫そう、って思ったのもありますけど、私には使命がありますからね。協力するなら仲が良い方が捗るでしょう?あ、颯輝さんには内緒ですよ?」

 

 

 聞き慣れない単語に首を傾げ間が空くが、颯輝の事だと認識すると理由を告げる。要は友好関係の方が都合が良い、と言う事だ。颯輝が聞いたら泣きそうである。

 

 

「それに。力が戻った後、私が私でいられるかーー」

 

 

 何処か哀しげに呟く言葉は果たしてエイダに届いたのだろうか。

 肌寒くも心地良い風が開いていた窓から入り、椛の独白を静かに運んでいった。

 

 

 

 ーーーーinterlude outーーーー

 

 

 

 

「んんっ…………あれ…此処は…?」

「椛っ、気が付いたか…良かった……マイ教官の一撃で気絶したの、覚えてる?」

 日もすっかり沈んだ頃椛は意識を取り戻し瞳をゆっくりと開く。映った光景は見覚えのある天井で場所が宿屋の一室だと理解するも意識直前の記憶と擦り合わせる事が出来ず混乱し、少し遠くから颯輝の声が聞こえてくると鮮明に記憶が蘇る。

 

 

(あの一撃、見えなかった……)

 

 

 動体視力も良い椛ですら恐ろしく速い攻撃を思い返し密かに溜め息を零しつつ攻撃を受けた腹部を擦り視線を颯輝に向ける。すると颯輝は何故か部屋の隅で椅子に座って安堵の笑みを向けていた。顔や支給された運動服は泥で汚れていて、椛に向けている笑みも何処か強張っており無理をしている様に見えた。それもその筈、颯輝は既に昼間の訓練による激しい運動で全身の筋肉痛と汗でベタベタしている不快感に襲われているからだ。

 

 

「先にシャワー浴びれば良かったのに」

「……椛が気絶してるのに呑気にシャワーなんて浴びれる訳無いだろ……いたた…」

 

 

 椛の素朴な疑問に颯輝は唇尖らせそっぽを向きつつ答えた後首を動かした所為で痛みに悶えてしまう。

 

 

「……起きれる?」

「はい、お腹に食らっただけなので問題無いです」

「じゃあシャワー浴びちゃいな。お先にどうぞ」

 

 

 過剰に心配をする颯輝に問題無く答え身体を起こし立ち上がりタオルと服を用意すると思い出したかの様に颯輝に振り向く。

 

 

「診てくれたお礼に、ちょっとなら覗いていいですよ?」

「ーーな、ななな何を言ってんだか!早くさっぱりして下さい!」

 

 

 冗談とも本気とも受け取れる声色で揶揄うと颯輝は顔を真っ赤に染め上げ言葉遣いが変になり動揺を隠せずジト目で見詰める。

 

 

「ふふっ、颯輝さんのえっちーー見守っててくれて有り難う御座います」

 

 

 

 颯輝の反応を楽しむかの様に笑うと脱衣所に入り姿を消すも、再び顔だけ覗かせ今度は邪な気持ち無しにお礼を述べる。颯輝も察したのか瞳を丸く開き瞬きを繰り返す内に椛は再び姿を脱衣所に消した。

 

 

「……単に昨日のお返しだよーーそれにしても…………体操服椛、良かったなぁ……」

『ライブラリを更新しました』

「何を!?」

 

 

 颯輝は単純に椛と出会った日に傍にいてくれたお返し以外何も考えておらず一人になった部屋で溜め息混じりに小さく呟き、椛の体操服を思い返すと先程まで沈黙を貫いていたエイダが急に不穏な言葉を紡ぎ出していた。

 

 

『それより、クエストを確認しますか?』

「AI様ははぐらかすプログラムは入っているようで。ジール教官に何言われたか覚えて無いから頼むよ」

『了解しました。正面にモニターを表示します』

 

 颯輝が操作する事無くMWの液晶から光が伸び宙に映像が映し出され、依頼主の姿とクエスト内容が表示される。内容はジール教官のスパルタ訓練に耐える、と言う内容だった。颯輝はクエストを受けた時には既に体力的に瀕死の状態でその後直ぐに椛の件で呼ばれた為記憶に無く訝しむ表情を見せるのも無理は無かった。

 

 

「随分と曖昧な達成条件だな……報酬はーー赤い薬と青い薬10個ずつと、メルも貰えるのか。ゲームだと特に何も思わないけど実際に経験するとなると申し訳無くなるね…」

 

 

 自身の身を守る為の依頼な為、訓練で培った技術及び体力が報酬と言われても文句は言えない立場にも関わらず薬と金が貰えるのは初心者救済措置と言うべきか。

 

 

「まぁ、貰えるモノは借金と病気と疫病神と不運以外貰っておこう」

 

 

 色々思考を回す気力も無く既に決まっている以上考えるのも無駄だと判断し颯輝は直ぐに考えるのを放棄し、深く壁に寄り掛かり瞳を閉じる。

 微かに聞こえる水音が心地良く、汗と汚れの不快感よりも睡魔が勝り始めゆっくりと夢の中へ誘われると、

 

 

 「…エイダ…死ぬ様に寝る……って、椛に…伝えといて…」

 『了解しました』

 

 エイダの返答を聞く前に力無く項垂れる様に眠りについてしまう颯輝は言葉通り寝息も立てず死人の様に見えた。

 

 数分後、シャワーから上がった椛にエイダが『死にました』と告げられ、慌てふためき思い切り揺さぶり起こされたのはまた別の話である。




 ご愛読有り難う御座います。そしてご無沙汰しております、提夢 刃です。色々と多忙やら別件で中々執筆する事が出来ず気付いたら2ヶ月が経ち年末になっていました。今年も冴えない1年で思い返すと溜め息が出てしまいますが遅いながらも書けたら良いな、と思っています。要所要所やりたいモノは思い浮かぶのですがそこまでに至る内容が中々捗らないと言うか……それと、申し訳ありませんがカービィタグがついていますがカービィが登場するのはまだまだ先です。一応大まかな流れだと
 リス港口→ヘネシス→ペリオンでカービィが登場する予定ではありますが、ヘネシスとペリオンの間にもしかしたら別の場所に行ってカービィ要素を出すかもしれません。カービィ要素待ちの方がいましたらもう暫くお待ちして頂けると幸いです。バーチャロン要素も入って無いのはご愛嬌って事で……街中をテムジン姿で歩き回るのは流石に悪目立ちが過ぎますので……

 それでは、最後にキャラ紹介して終わりたいと思いますので次回も気長に待って頂けると嬉しいです。良いお年を!

 ーーーー
 マイ 『チ』 多くのプレイヤーが最初に『可愛い』と思ったであろうNPC。赤目チャイナ服ツインテ、絶対狙ってるだろコイツと思ったらパンモロの女の子NPCも直ぐに出てくるので割と狙って無いかもしれない……口調とか割と情報が少なかったので解釈違いがあるかも知れないけど是非も無いよね。

 ジール 『銀』 何処かでロボット乗ってそうな見た目の人。主に近接戦闘術を担当しているが割と偉い立場で会議やら書類やらで多忙の日々が続いている為、初心者に八つ当たりしている様に見えるが生き残って欲しいという願いから、全力で鍛え教えている。部下のマイには少し手を焼いている。
「会議、書類、指導。全てこなせずして何が教官だ。これ位余裕だろう」は本人談。
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