後日、待ち合わせ場所にて、斉藤の名で予約したことを伝えると個室に案内された。
「あ、テルくん、おそいよー」
「いや遅くはない」
アイがいた。
アイの前にいる壱護社長に目を向けると諦めたような顔をしていた。
見つかったのか。
「こっちこっち」
呼ばれたのでアイの隣に座ることにする。
「よく来てくれた。わりぃな」
「いえ。今日は時間取っていただいてありがとうございます」
「ああ、いいよ、こっちも必要だったことだ。話し方も楽にしていい。何ならアイと話すときの喋り方でもいい。いや、できるならそうしてくれ。その方が分かりやすい」
「そうそう。テルくん口調が堅いよ。佐藤社長も言ってるしふつーに話そ」
「斉藤だ」
アイとの関係を測るにはその方が早いからなんだろうなぁ。
「んん。わかった。そうする」
先にメニューからいろいろ頼んでから話し始めることにする。
「ああ、悪かったな。アイも連れてきて」
「社長もひどいよねー。わたしは会う時間が少なくなってるのに一人で会いに行こうとしてるんだから」
「大丈夫ですよ。いたら話せない話をするってわけじゃないし、逆にいたほうが良かったかも」
隣からわちゃわちゃちょっかいかけてくるアイに片手で応戦しながら返事をする。
話すことは基本的に他の人に知られるとまずい話ではあるので、注文が届いてから話を始めることにする。
「じゃあ、星野のことについて話し」
「アイ」
アイを見つめる。
こっちを見つめている。
壱護社長も見ている。
「いつも通りって言ったんだからいつも通りでいーじゃん」
「まあ、確かにそうか」
アイが言ってることは間違いじゃない。
「じゃあ、アイのことについて話しますけど。おそらく社長さんは最低限気づいてるとオレは思うんですけど、まず第一にアイは基本陰キャです。取り繕うのがうまいから、素を出してないときはわかりづらいかもしれませんが、まず人付き合いをうまくこなせません。この点を念頭に置いて関係のある人たち、同じグループのメンバーとかかな? その人たちとの関係に気を使ってあげてほしいです。外面はいいんで一時的な接触ならそつなくこなしてくれると思うんでそっちは大丈夫だと思います」
「テルくんも同じじゃーん。あとまだちょっとかたいよ」
「まあ、そうだけど。社長さんには関係ないだろ。そうは言ってもアイと同じようには逆に難しいわ」
アイの物言いに対応する。
「えー、付き合い長くなるよきっと。テルくんも知っといてもらったほうが良くない?」
壱護社長は頭を抱えて天を仰いでいる。
「いや、もう、わかった。月野くんのことも一緒に教えてくれ」
「はあ、そういうなら別にいいですけど」
うん。なんかもう無理って感じだな。
「それで、なんでアイは月野くんのことテルって呼んでるんだ? 名前はヒカルだっただろ」
「秘密だよ」
あだ名みたいなものですと答えようとしたらインターセプトされた。
「まあ、そう言ってるんでこっちのことは月野でもヒカルでも大丈夫ですよ」
壱護社長は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「まあ、わかった。とりあえずメンバー間のコミュニケーションを気を付けた方が良いって話だろ。確かに最初のうちはともかくなぁ」
壱護社長がアイに目線を向ける。
思い当たる節はあるんだろう。
「メンバー間がギスギスし始めたらやりづらいと思いますし、良かったら気を付けてあげてください。どう気を付けるかはお任せになっちゃいますけど」
「そうそう。社長がスカウトしたんだからちゃんと面倒見てよ?」
煽りおる。
まあ、これが二人のコミュニケーションなんだろう。
というか随分なついている。
「あと特に気を付けるのはもう一つだと思います。オレとアイは基本、人の名前と顔を覚えるのが苦手です。なので基本名前で呼びたがりませんし、呼んでも間違えていることが多いです。これはもうどうしようもないんで、そういうものだと思って対応してください」
「ああ、それでオレの名前も覚えねぇのか。ちなみになんでか聞いてもいいのか?」
「ああ、気になりますよね」
アイの方を向く。
「んー。いいよ」
「おそらく発達障害って事になるんだと思います。オレもそれほど詳しくはないんですけど、おそらくそうなんじゃないかと。基本的には生まれつきという話らしいんですが、育った環境によっても起こりうるって話らしいです。まあ症状はともかく割とよくあることだろうし、病気じゃないんであまり改善しようもないから付き合っていくしかないんですけどね」
壱護社長は眉を寄せてしまっている。
「わりぃな。言いづらいこと言わせちまったみたいで。それで月野くんの方もか?」
「オレのほうも全然ですね。アイは名前を覚えるのが特に苦手ですが、オレは名前自体は頑張れば覚えることはできなくもないです。ただオレは顔の識別がほとんどできません。アイも程度の差はあれそういう部分があります。同じ場では一度認識すればその後は問題ないんですが、後日、別の場所であったとき顔を見てその人と見分けることができません」
「そりゃまた……」
「例えば社長さんなんかだと金髪、サングラス、スーツ、声、場所で見分けてる感じです。特徴がそこそこ似ていたら、別の場所で見かけても見分ける自信がないです。話しかけて違った場合を考えると、自分から話しかける気にもなりませんし……なのでコミュニケーションそのものに問題が起きやすいです。これは誰に対してもですね。オレは大体、2、3年付き合いがあれば見分けられるようになります。付き合いが深ければもうちょい早くなりますけど」
「えー、何それ私よりひどいじゃん。初めて聞いた」
アイが不満顔で突っ込んでくる。
「いや、アイのことはわかるんだから問題ないだろ。まあ、中学からの奴らはいまだに顔の区別がつかないんだが」
「いや、それは大丈夫なのか?」
「まあ、ぎりぎり大丈夫と言えなくもない感じですかね。これって結構ごまかしは利くんですよね。人のことにあまり興味がないんだろうな、くらいには思われるんでしょうが。人を覚えないとまずい環境だとアウトだと思います。まあ、まだ学生なんで大丈夫です」
壱護社長は悪いことを聞いたと頭をかいている。
「まあ、あまり気にしないでください。ただこういう事情があるので少し配慮してもらえたら助かります」
「数年付き合えばいいんだから社長はそのうち覚えるでしょ」
「お互いのことはわかるんだよな?」
「流石にアイは見間違えませんよ」
「友達だからね」
オレとアイの様子を見て、壱護社長は何かを飲み下したようだった。
「あー、しゃあねぇ、わかった。わかったから、会うにしても周りにはわからないようにしろよ。あとでいろいろ教えてやる」
「すみません。ご迷惑をおかけします」
壱護社長に礼を言う。
「ああ、あとアイはご飯、えーと白米が食べれないわけじゃないんですが、苦手なので可能なときは違うものにして、気を使ってもらえると助かります」
「あー、厄ネタね。いい、わかった。だがオレがどうにかできる範囲内だけだ。どうやっても日本じゃ無理じゃねーか」
「んー、怖いだけで、食べれないわけじゃないから。やってもらえたら嬉しいけど、大丈夫だよ」
大体こんなものだろう。
伝えたからと言って、何がどうなるかもわからないが、手探りで理解していくよりは先にこういうものとわかっていてもらえた方がましなのではないだろうか。
壱護社長は自身の夢のためもあるだろうが、基本的にお人好しなせいか、アイに対して甘い感じだ。
アイドル活動において、オレがアイにできることなんて何もないからな。
壱護社長には自身の夢のためにも頑張ってもらいたい。
その後もいろいろ話をして、一緒に帰るわけにもいかないオレは先に帰った。
特殊ルートに強制エンディングが含まれてた……
続け方は考えてます。