「あー、星野さん。どうしたの?」
「みんな帰ってるのにずっと考え事してる人を見かけたらさぁ。気になるよね。それが私のこと見てからずっとっていうなら特にさ」
いかん。しょっぱなからがばったのでは?
「私のこと見たときのあの顔すっごい顔だったよー。雷にでも打たれたのかって感じだった」
「あ、いや、それは」
「ちょっとさ。あんな反応される覚えがないんだよね。月野くん。月野ヒカルくんでよかったよね。なんであんな反応したのか教えてほしいんだけど」
あ、駄目だ。これ。
名前を覚えるのが苦手な彼女がしっかり覚えてる。
完全に興味持たれてる。
「あー、うん。いや、理由はある。あるんだが。これを君に言ってもいいのかわからない。言ったほうが良いのかもしれないし悪いかもしれない。判断がつかない」
「何それ」
不思議そうに彼女は呟く。
「そうとしか言えないんだ。この場合の良い悪いはオレにとってじゃなくて君にとってだ」
「ふーん。なんで月野くんがそんなこと知ってるの?」
別にオレの言ったことを信じたわけじゃないだろう。オレの言葉を流すように彼女は聞いてきた。
「それは……ん。夢で君のことを知った。とりあえず、そういうことにしてくれ。正確ではないがあながち間違いでもない表現のはずだ。ただの夢だと思っていたものが現実に現れてショックを受けた。それが今のオレの状況に近い」
「はは。何それー。夢で私を? 私の何を知ったか知らないけど特に隠してることもないし、そんなに驚くことあった?」
ここってさ、曲がりなりにも現実だろう?
オレが今ここにいて今彼女と話してるってことは、世界がオレにそうしろって言ってるってことだよな。
隠したところで原作通りにいくとは限らないし、そもそもオレが彼女に会わなかったとしても原作通りにいくとは限らないんだ。それが現実ってことだしな。
「星野さんってもうアイドルにスカウトされた?」
「何それー。ふふ、私さっきから何そればっかり言ってる。え、月野くんの夢だと私アイドルになるの? 私が? ないない」
「いや、君はある人にスカウトさえされればアイドルになるよ。正確にはある人が君を見かけたらだ」
「なんで? 今私は絶対アイドルなんてなろうと思ってないよ」
「スカウトの時の会話が原因だね。それで君はアイドルになることにした。なってもいいと思った。でも、オレはそれが良かったことなのかもわからない。別に君がアイドルにならなくても良いんじゃないかと思う」
「わっかんないなぁ……月野くん、いったい君は何が言いたいの?」
「いや、オレはそもそも何を言ったら良いのか悪いのかわかっていない。どちらかというと星野さんがどうしたいのかだ。確かどこかをぶらぶらしているときにスカウトされたんだったと思う。いつも通りの生活をしてたらスカウトされると思うよ」
「ふーん。ねえ、月野くんが言ってる通りなら私ってアイドルになるんだよね?」
「ああ、なる。早ければあと数か月もしないうちに」
「え、はや。それは早すぎない? わたし歌とかまともにやったことないよ」
「それはそう」
「ふふ、ばっかみたい。でも、ちょっと興味出てきちゃったなぁ……ねえ月野くんが言ってることが本当か確かめてみるよ」
「……そっか」
「もしスカウトされたら教えるから――」
そう言って星野さんは手を出した。
? オレは手を重ねた。
「違う。連絡先」
「あ、ああ、連絡先ね」
メモ帳を取り出し携帯の番号を書く。
友達のいない弊害が如実に表れてしまった。
その間、星野さんは笑っていた。