僕たちは幼稚園に入園した。
「そういや、ルビーは生まれ変わる前何してたの?」
「え、今さら?」
なんとなく聞いてみた僕の言葉にルビーはそう反応した。
「今さらと言うか、今さらだからなんとなく聞いたんだけど。家で話すようなことでもないし」
「あー、うん。そっか。そうだね。今さらだよね」
正直、僕も、そしてきっとルビーも今が幸せすぎて過去がどんなだろうと特に問題がない気がするから聞く気になったのだ。
「私の前はね。病気で病院で暮らしてたの」
「うん」
ああ、さりなちゃんと一緒の境遇だったのか。確かにダブる部分はあった。
「もう前のお母さんもお見舞いに来なくなって、テレビでアイを見るのとせんせだけが救いでさ」
「んん?」
は?
「でも結局、12歳で死んじゃって、次に気付いたらママの子供だし、せんせもいるしで夢がかなったんだって」
「ちょい待ち」
「何?」
「え? さりなちゃん?」
「え、なんでお兄ちゃんが前の名前知ってるの?」
「嘘だろ……」
「本当だけど。あれ、もしかして知り合いだった?」
「あ、うん。ちょっと待って……ちょっと何て言おうか迷ってる」
「何それ。名前教えてくれればいいんじゃないの?」
「いや、それがちょっと問題があってだな……」
「今さら言わないのは無しだよ。私はもう言ったんだから」
「いや、言いたくないわけじゃないんだ。ただちょっと信じられないような話だから説明が難しい」
「生まれ変わりとかみたいなことが起こってるんだから信じられないも何もないでしょ?」
「いや、それはそうなんだけど、それに輪をかけてというか」
え、これ今から説明するの?
さりなちゃんに?
僕が???
「もう、名前言えば解決でしょ」
「落ち着いて、落ち着いて聞くんだ。僕は決して嘘はつかない。その前提で聞くんだ」
腹を括ろう。
「何? そんなにやばいの? え? 誰?」
「……雨宮吾郎だ」
「は? せんせは生きてるでしょ?」
「生きてるな」
「なのにせんせなの?」
「そうだな。少なくとも僕の認識ではそうだ」
ルビーは僕が嘘を言っているとは思わないでくれるだろうが、自分で言っていて何を言ってるんだこいつ感が拭えない。
「……私が最後にあげたのは?」
「アイ無限恒久永遠推しキーホルダー」
「せんせじゃん」
「そうなんだ」
うん。すごい簡単に本人確認が取れたな。
「え? どゆこと? なんでせんせが二人いるの?」
「いや、僕は雨宮吾郎を前世に持ってるけど、ここの雨宮吾郎じゃないと思う」
「ここってどこ?」
「この世界って意味だ。僕はたぶんここと似た違う世界の雨宮吾郎だ」
「どゆこと? ううん。いい。わかった。黙って聞いてるから一から話して」
突っ込みどころが多すぎて話が進まないと思ったのだろう。
ルビーが僕に話の続きを促した。
「わかった。まず明確に僕の記憶と違うのはお母さんが子供を産むときお父さんがいなかった点だ。あのお父さんがお母さんが子供を産むのに来ないはずがない。お母さんは秘密、内緒だったか? まあそんな感じのこと社長に言ってたから、社長にも隠してたんだと思う。つまり、父親が違う可能性すらある」
「えーママがパパ以外と一緒になるわけないじゃん。あ、ごめん。続きいいよ」
僕の言ったことがあまりに変だと思ったのだろう。即行で突っ込まれた。
そうだよな。お母さんがお父さん以外とくっつくところなんて僕にも想像できない。
「まあ、僕もそれはそう思うんだけど、違う世界のことだしな。その後は、こっちの雨宮吾郎と一緒でお母さんの担当だったんだけど、僕たちが産まれる前に記憶が定かでなくなってる。僕の記憶がいつ途切れたのか思い出せない。死んだ記憶はないんだけど、僕は今の僕の名前に全く違和感を覚えなかった。何ならしっくり来た。星野アクアマリンだぞ。ありえないんだよ。少なくとも僕がありえないと思っているのに違和感を覚えていなかったんだ。つまり僕は星野愛久愛海だったことがあるはずだ。それもこの名前、アクアマリンに違和感を覚えず、愛着を覚えるほど長く」
「あ、お兄ちゃんもちゃんとそういう認識あったんだね。てっきりセンスがママ譲りなのかと……ごめん。ごめんなさーい。ほ、ほら、他の記憶はないの?」
そういう風に思われてたのか……
じろりとルビーを見ると、ルビーはすぐに謝り、今の話を無かったことにするため話を戻した。
こいつはまったく……
まあ、いいかと話を戻すことにする。
「全くない。思い出す出さない以前の問題だ。きれいさっぱり失ってる。今まで何度か考えたことはあるけど、全くとっかかりがない。思い出そうとして頭が痛くなるようなこともなければ拒絶反応が出たりもしない。たぶん生まれ変わりの弊害なんじゃないかな。全部記憶を引き継げなかったんだ。あー、子役をやろうと思ったのは前世の影響がありそうだ。これしかないというほどしっくりきたからな。まあ、違いで思い浮かぶのはこのくらいだな。もしかしたらもっとあるのかもだけど」
「それで子役のお仕事続けることにしたんだ……じゃ、せんせではあるけど私のせんせじゃないってことだよね?」
「たぶんな。たどった道筋は同じかもしれないけど。それに、だから一度、僕は、僕にとってのさりなちゃんと双子だった可能性もある」
「うん。流石に私もお兄ちゃんと結婚する気にはなれなかったから良かったのかな?」
「うん?」
何だって?
「え、だってせんせとは結婚の約束したでしょ」
「あ、あー、あれ。え、でも今のままじゃ結婚とかほぼ無理だと思うぞ」
「え、私が16歳になったら結婚してくれる約束は?」
「いや、僕が言ったのは16歳になったら考えるだったはずだけど」
僕ならさりなちゃんに嘘をつくようなことはしなかったはずだ。
「そだっけ。私もちゃんと記憶が引き継げてないのかな。それともこっちだと私が言ったとおりだったのか。でも16歳になったら考えてくれるんでしょ」
「さりなちゃんもその時僕のことモラリストとか言ってただろ。モラリストはそんな約束しない。あとよく考えるんだ。僕が言ったのはさりなちゃんが16歳になったら考えるだ。ルビーじゃない」
「え、私もさりなでしょ。今はルビーだけど」
「宮崎にいる僕は知らないな。僕だってさっき初めて知った」
「え?」
「そしてさりなちゃんが16歳になったのはお母さんと同じだから3年以上前だ」
「つ、つまり」
「雨宮吾郎だったらこう考えると思う。約束の16歳も超えちゃったな。さりなちゃん……って。それでもさりなちゃんが二十歳になるくらいまでは引きずる自信はあるけど、そのあとはちょっと自信ないぞ。自分から積極的にどうこうはしないと思うけど」
そもそもさりなちゃんがいなくなった後も普通にデートとかはしてたし……
「え、今って?」
「そうだな。二十歳までもう1年ないな」
「駄目じゃん!」
「うん。僕にはここから挽回する方法が思い浮かばない。誰も雨宮吾郎にアタックかけてないよう祈るくらいしか……」
元が自分なだけあって望み薄な気がするが……
それなりにモテてたからな……男女関係にそこまで清かった覚えがない。
それでも合わない人とは付き合わないだろうけど。既に誰かしらと付き合っててゴールイン間近と言われても驚かない。
さりなちゃんとアイのことを許容してくれる相手となら結婚してもおかしくない。もういい歳だしな……
「パ、パパとママに相談してみよう」
「え? 本気か? 何て言うんだ」
「ま、まずせんせがどうなってるか聞いてみる。なんなら全部言ってもいい。パ、パパとママならわかってくれるよ。きっと。も、もちろん、お兄ちゃんのことは言わないよ」
血の気の引いた顔でルビーが僕に言う。
「まあ、二人とも多分その辺は今更な感じだから受け入れてくれると思うけど……ルビーがそこまで言うなら僕も付き合うよ」
「お、お兄ちゃん……!」
ルビーが感動を表すように僕の両手を握って包み込む。
いや、本当に今さらな話だからな。ルビーが感動するほどの話じゃないぞ。
多分ルビーもなんだろうけど、さりなちゃんと言うよりルビーとしての認識の方が強い。
さりなちゃんと知っても妹としか思えない。
僕たちは、家族だからな。
次回! さりなちゃん蒼天に墜つ!
……ごめんよルビー。ゴロルビは作者には無理だったよ。
ゴロー先生の解像度を上げるとどうしてもこうなっちゃうんだ……
8巻54ページの存在感よ。