A015.5告白
幼稚園から帰ってきたルビーが話があるというのでアイが帰ってくるのを待って話を聞くことになった。
「ルビー、僕が話そうか?」
「いい、私が話す。ありがとお兄ちゃん」
かなりまじめな話なようだったので、アイと二人で背筋を正して聞くことにする。
「あのね、パパもママもね、気付いてると思うんだけどね。私たち前世の記憶があるの」
「うん、そうだね。二人とも全く隠す気なかったもんね」
「だよね! やっぱりわかってたよね! 私なんで聞いてこないんだろうって不思議だったんだよ!」
テーブルに手をつき、身を乗り出して、食い気味にルビーがオレたちに自分の考えを伝えてきた。秘密が秘密でなかったことに確信を持てて安心したせいもあるだろうか。
「パパたちもわかってたけど、言わないほうが二人とも子供らしく過ごせるかと思ってたからね」
ちら、とアイを見る。
「アクアもルビーも最初は少しずつだったのにどんどん隠さないようになってきたからママどうしようかと思っちゃったよ」
「だって、ほら秘密にしなくてもお母さんたちなら大丈夫だと思ったから……」
言っていて少し照れてしまったらしく、アクアの声が尻すぼみになる。
「でも、ほら、二人ともこっちに戻ってきてすぐのころにはお父さんの前で普通にお喋りしてたから本当に今さらだよ」
「え、そんなことあったかな?」
「えーと、お父さんが初めて見たのはお母さんが復帰したときのテレビのときかな」
「あ、あの時。起きてたんだ」
「あの場で、話は聞かせてもらったって話しかけるのは無理だよ。ルビーがドタバタしてやってきたときは笑いそうになっちゃったけど」
「ふぇーん、反省してまーす。次。次の話しよ。私とお兄ちゃんの前世の話!」
ルビーが慌てて話を元に戻した。
「ねえ、パパ」
「どうかした? ルビー」
一週間ほどショックのあまり幼稚園にも行かず、ふて寝していたルビーも最近は元通りになってきた気がする。
あの次の日、アクアとルビーにはオレも生まれ変わりだったことを話した。
アクアは、だからあまり突っ込んでこなかったんだ、と納得したようだった。
ルビーは落ち込んでいたので、あまり反応は示さなかったが話はちゃんと聞いているようだった。
今はみんな仕事で、家にはオレとルビーしかいない。二人で留守番中だ。
一緒にソファーに座り、オレの足の間に収まって足をぶらぶらさせていたルビーが、オレのお腹に寄りかかり体重を乗せる。
「せんせってさ。もともと思わせぶりな人だったから女性関係とかはけっこう怪しかったんだよね」
「うん」
愚痴かな?
「だから、私じゃないのは残念だけど、ちゃんと結婚して幸せになってくれるならそれでも良いかなって思ったんだ」
「うん」
ちょっといい子過ぎかなー。もうちょっとわがままでも良いんだけど。
「でも、女性関係にだらしないところがあったのは変わらないわけだから心配なんだよね」
「ん?」
雲行きが怪しくなってきた。
「お兄ちゃんって元がせんせでしょ。お兄ちゃんもせんせみたいに誰彼構わずひっかけないか」
「あー、うん、どうだろ。そんなに心配いらないと思うけど」
わかると言えばわかる話ではあるなぁ。
「え、なんで? お兄ちゃんってせんせよりかっこよくなりそうだから私将来が怖いんだけど」
「うん。ルビーもとてもかわいいよ。世界で一番のお姫様だ。でも、ほら、考えてみて。アクアもルビーも前世とは少し性格とか変わってない? パパもそうだからわかるんだけど、前世のころの性格とは少し違うんだよね」
「そうなの?」
ルビーが考えるそぶりを見せる。
「……そうかも。私もさりなだったころとはちょっと違う気がする。お兄ちゃんもそうなのかな? 私が妹だったり、お父さんやお母さんが相手だからあんな感じなんだと思ってたんだけど」
「そうだね。生まれてきてからの環境でも変わるけど、もう一つある。パパはパパのお父さんやお母さん、ルビーのおじいちゃんやおばあちゃんに似てる部分もあるんだよ」
「遺伝ってこと?」
ルビーがオレの顔を見上げる。
「そうだね。パパは二人から生まれてきたからね。前世の性格、記憶、経験はもちろんあるんだけど、そこに体からの影響があるような気がするかな。やっぱり血っていうのは強いよ。体が違えば全部が全部同じにはならない。だからルビーにもパパたちから受け継いだものがあるはずだよ」
「そっか。なら大丈夫かもしれないね。パパとママって一途だもんね。お兄ちゃんのそういうとこ緩和してくれるかも」
良いところが似て、悪いところはあまり似てほしくないけど、こればっかりはどうしようもない。
オレたちのこれは他人への関心の薄さからくるものでもあるから、あまり似ない方が良い部分でもあるんだよな。
「ルビーが将来どうするかはわからないけど、この前言ってたように一生一緒に暮らしてもパパたちは嬉しいだけだから、好きなことをしなさい。ルビーは自由だよ。もちろんあまり人に迷惑をかけないようにね」
「……うん」
ルビーはこちらに向き直り、オレのお腹に顔を押し付け、力を込めて抱き付いてきた。
そんなルビーの頭を撫でる。
それが気持ちよかったのかルビーがより顔を押し付けてきた。
「まあ、アクアが本当にそうだっていう保証には全くならないんだけどね」
ルビーががばっと顔を上げる。
「駄目じゃん!」
「駄目だねー。この辺は本人次第なところがあるからパパたちはアクアが大丈夫なよう願ってようね」
「えー、もー、お父さんの馬鹿ー」
二人、家で楽しく過ごした。
「と言うような話をルビーとしたんだけどどう? アクア」
「どうって、これ3歳の子供に話すような話じゃないよね。お父さん」
「年頃になってから聞く方がまずくない?」
「別にいいけど。ルビーにそんなこと思われるほどそんな感じだったかな……」
それはお父さんにはわかりません。けど結構転がしてるイメージが頭に残っている。
誠実な人だったはずだから、多分別れるのが早かったんだろう。愛するのが苦手なタイプだったんだろうな。愛されたいタイプの女性とは相性が悪そうだ。
そうなるとゴロー先生の相手は、私が幸せにしてやるってタイプの女性かな。
「うーん。でも確かにあまりそんな気起きないかも。年頃になったらわからないけど。でも中学生とか高校生になってもしない気がするなぁ。めんどくさいよね、ああいうのって。前は結構楽しかった気がするんだけど」
アクアはあまり興味がなさそうに言う。
「わかる。完全に遺伝だよそれ。お父さんもお母さんに会わなかったらきっと一生独身だったから。本当ならあまりよくない部分なんだけどね」
「そうなんだ……そういう話聞くと、論文に書いて発表したくなる。結果から逆算なんて誰もできないだろうし。でも無理か、サンプルに出せる話じゃない」
「うん、やめといた方が良いよ。でもそのへんお医者さんと言うより研究者っぽいよね、アクアは」
「本当だ。確かに前世の時と感じ方が違う……」
人は生きている限り変わり続けるものだからね。
「まあ、アクアは芸能関係の仕事してるし、出会いも多いんじゃない? お父さんは今よりましだけど多分半分引きこもってた気がするから出会いも何もなかっただろうけど」
「この歳で出会いって言われてもピンとこない。もうちょっと大きくなってからだね」
「はは、でも親子でこういう話ができるのも楽しいものだね」
「うん。でもこういう話をお母さんとするのはちょっと勘弁してほしいかな」
「どうだろ。普通に話題に出しそうな気もするし、お父さんに任せて自分は聞かないようにしてそうな気もするね」
アクアは少し驚いたような顔をする。
「お父さんでもお母さんのことでわからないことがあるんだ」
「そりゃ違う人間だからね。知らないこともいっぱいあるよ。それでも一緒に居れば幸せだし、楽しいから、アクアにもそのうちそういう人が現れてくれたらいいね」
「どうだろ。見つからなかったら僕もずっとここにいていいよね?」
「もちろん。何なら見つかっても大丈夫。ああ、さすがにお嫁さんが嫌がるかな?」
「どうかな。見つかったら考える」
親子の語らいの日だった。
では、少しお休み貰います。