「よし、続き話すぞ」
「はーい、お願いしまーす」
なんだこいつ。今までと距離感が違いすぎて脳がバグりそう。
「さっきまで話してたのがオレのことだ」
「そうだね。次は私がアイドルになったらの話でいいの?」
「そう。と、言いたいところだが少し違う。まずこの世界の仕組み、と言ったら大げさに過ぎるが、そうだな、転生の仕組みだ」
「え? 他にもいるの!?」
「いるかもしれん。あったことはないが」
アイは呆けるように息を吐く。
「まずオレがお前のことをなぜ知っていたかだが、星野アイ、君が主軸のアニメを見たからだ」
「アニメ……アニメ!?」
「そう。前世の記憶だな。まあ、主役はアイではなくアイの子供なんだが」
「子供!?」
「そう。ファンに殺されたアイの復讐に生きる子供たちの物語だ」
「私死んでるじゃん! アイドルになったらダメじゃん! そもそもなんでアイドルなのに子供がいるの!?」
「それな」
でもそれおめーのことだよ。
変に一個一個考え込ませるより、とりあえず情報の洪水で流してしまおう。
「まあ、ここがアニメの世界とかそういうわけではない。オレたちは別にアニメ顔なわけでもなく普通に三次元だし、髪の色だって普通に黒がメインだ。声だってアニメで聞いた声とは違う、と思う。割と似てるから記憶との違いがあまりつかない。オレが君をアニメや漫画で見た星野アイだと認識できたのは。君が教室で自己紹介したとき、君を見た時だ。名前と見かけの特徴、喋り方の癖で君がオレの知ってるアイだと判断したんだな。それまでオレは普通に元居た世界と似たような世界に転生したんだと思って生活していた。いや、正直なところ君がアイドルにスカウトされるまでは半信半疑だった。アイとよく似た環境で過ごした、よく似た見かけの、同じ名前の女の子って可能性もぎりぎりあった。もしそうだったとしてもオレが馬鹿だったで済む話だしな」
口を開けてぽかんとするのもかわいい。
こういう時は視力が上がりそうというんだったか。
「はー、いや、もうわけわかんない。え、私漫画に描かれちゃってるの? プライバシーは?」
「違う世界の人間にプライバシーなど存在しない。というかそんなものは想定されていない。ご愁傷さまだとは思うが。まあ、だからオレがお前のことを知っていたわけだな」
「うへー、それはもういいよ。あ、でも他にも私のこと知ってる人いるかもなんだ」
当然の疑問だな。1人いれば10人いてもおかしくないって可能性もある。
「さあ……いるかもしれないしいないかもしれない。まあ、別にいたとしても漫画とか小説と違って変な能力はないと思うからスルーでいいんじゃない? アイドルにとってのファンみたいなもんだろ」
「まだアイドルですらないんだけど」
「アイドルになったらぽこじゃか接触してこようとするやつ増えるかもな」
そう。雨後の筍のように。
「まあ、なってもならなくても、そういう意味では危険度は変わらんだろ。アイドルになったらそもそもお近づきになるのにハードルが高いし、ならなかったらそもそもここが推しの子だと思わないだろ」
「推しの子?」
「アイが出てた漫画のタイトル。いろいろミーニングはあるがアイドルのこと推すって言うだろ。それに子供の子で推しの子。アイの子供たちの物語だしな」
「へー」
かぐや様はいいだろ。そもそも読んだことないから微妙につながりはあるくらいしか知らないし。ストーリー的にはほぼ関係ないって話だし。
「で、話を戻すぞ。転生の仕組みだ。そもそもこの世界には転生がある。オレが転生してきた他の世界からではなく、この世界で死んだ人間がこの世界で死ぬ前の記憶を持って生まれ変わることだな。つまり魂があってそこにオレたちの記憶や性格なんかが保存されてるわけだ。しかし普通の子供は魂がリセットされた状態で生まれる。これは書かれていたわけじゃないからわからないが、おそらく死んだらほかの魂と混ざって均一化されるとかそういう話なのかもしれん。まあ、どうでもいい話ではある。で、魂が記憶を残したまま生まれ変わるのには外的要因がある。他の魂と混ざらないよう保護されてる必要があるわけだ」
「待って、ちょっと待って。ごめん。理解できなかった」
手のひらをかざしてストップをかけるアイさんがいた。
「えーと、つまりそのアニメで転生が存在するって描かれてたってはなしでいいのかな?」
「そう。そして普通はそんなこと起きない」
「でも普通じゃなかったら起きると」
「そう。魂をなんとかできる存在がいる」
「えーそれって悪魔じゃん」
「そう。神とか悪魔とか言いようはいくらでもあるけどそういうたぐいだな」
「ファンタジーじゃん」
「まあ、漫画に出てきたのは日本の神様の係累っぽかったけど。カラス操ってたわ」
「思ったよりしょぼかった」
「いや、現実に影響及ぼせる神様とか恐ろしい以外の何物でもないぞ。まあ、あまり大っぴらに干渉はしてなかったのが救いなくらいか」
ジュースで口を湿らせながら話をする。
「じゃあさ、テルくんもそんな感じなわけ? 神様に転生させられた、みたいな」
「多分そうなんじゃない? いや、会ったことはないし、そういう気配を感じたこともないんだけど。たださ、名前がそもそもおかしいんだよ。オレはもともとお前と同じ苗字だった。今の苗字と名前も関連性が微妙にあるし。名前もな。正直なところオレに前世なんて存在しなくて適当に記憶を植えつけられて生まれてきたって言われたほうがおかしくないくらいだと思う」
「やっぱり悪魔じゃん」
「まあ、本当にオレの前世があったとして、その前世の世界だってこっちじゃお話の世界になってたっておかしくない。別にどっちだろうとオレにはあまり影響はないよ」
特に自嘲の意図のある言葉だったわけではないがそう聞こえたかもしれない。
「でも私は君に会えてよかったと思うよ。泣かされたり、驚かされてばっかりだけど」
「言い方」
「心がすごく軽くなった気がする」
やっぱすごいなぁ。この子。
「理解者がいるってのは安心感があるからな。一歩間違えればなんでこいつ私のこと知ってるのこわってなってフェードアウトしてもおかしくなかった。だからそう思ってくれるのはうれしいよ」
目をそらしながら言う。
ちらと見るとじっと見つめられている。
「ふふん。もらってばかりじゃ悪いからねー。たとえアラフィフのおじさんでも君の理解者には私がなってあげるよ」
「言い方」
落ちを付けないと喋れないとでも言うのか。
そもそもお前の未来の息子のアクアくんだって推定アラフィフの時に黒川さんと本気で付き合おうとしてたぞ。