「ほう、思ったよりも早いな」
最下層――迷宮核の間。
魔導師ロデュスは同じようにぼくを、いや、ぼくたちを待ち構えていた。
「お前を倒すための作戦を聞いてたんだ」
「ははは! そんなことができると思っているのか?」
ウィンドウの中で腕組みしたプロフェットが請け合うようにうなずいた。
《余裕ぶった仕草に惑わされないで。彼はこの場所から動けないのです。いかに世界最高の魔導師とはいえ、9999もの魂をひとつの核に閉じ込めておくにはかなりの魔力と集中力を消耗するはず》
「クカカカカ! 核を制御しながらでも、勇者どもを倒すくらいのことはできる!」
《来ますよ、さっき話した通りに!》
「わかってる!」
ロデュスが骨の手を振り上げる。魔力がその手の中に集中していくのが感じられた。
プロフェットの指示はこうだ――
《迷宮核を制御しているロデュスは、複雑な魔法よりも使い慣れた呪文を好みます。私が見た限り、その呪文は三つのうちのどれかでした》
だから……その三つの呪文すべてに対抗できれば、ロデュスの攻撃には対応できる!
ロデュスの最初の呪文は……
「
リブロの耳飾りのおかげで、術を発動させるよりも一瞬早く、その術が見える。
「
ロデュスの魔力が凝縮された火の玉となって放たれた。炎はいくつにも分裂し、かわす隙間がないほどに膨らみながらはじける。
「マント!」
インベントリの装備が、一瞬で呼びだされる。
炎の勇者ピュロスの遺物、炎のマントがぼくの全身を覆った。ファイアボールがいくつもの火柱をあげる中を、まっすぐに突き進んでいく。
「貴様ぁっ!」
ロデュスの声には怒りがみなぎっていた。すぐに、別の魔力が集められる。ぼくは炎を振り払いながら突進する。
《次は……》
「
ロデュスの魔力が氷点下の空気を作り出し、空気中の水分を凍り付かせていく。ぼくの全身の血液を凍り付かせるほどの冷気が迫る。
「シールド!」
両手で抱えるほどの大盾。前面に突き出し、その後ろに隠れる。
《氷の勇者イセルドラの盾。冷気を阻み、吸収する力を持ちます》
ロデュスが巻き起こした吹雪が盾に阻まれ、氷の壁がそそり立つ。大盾を振りかざすと、
パキィン!
澄んだ音を立てて氷壁が砕ける。プロフェットの予言の通りだ。
盾をインベントリに戻して、再び突撃する。
「次の術を見せてみろ!」
「小僧が!」
魔導師が指を広げてかざした。幻像が、ほんのすこし未来のその術のイメージを描き出す。
ロデュスが得意とするみっつめの呪文。詠唱よりも早く、ぼくは動いた。
「ジャベリン!」
手の中に現れたのは、短い手槍だ。振りかぶって放ると、ぼくとロデュスの間にまっすぐに突き刺さった。
「
ぱっと青い稲光が走った。だが、魔導師の手から放たれた稲妻はぼくへ向かうことなく……床に突き刺さり、避雷針となった手槍へと収束する。
「こしゃくな!」
顔を失った魔導師が歯がみする間に、ぼくはさらに突進。投げ槍の横を通り過ぎ、ロデュスまであと数歩の距離へと迫った!
《ロデュス、覚悟!》
「くっ!」
跳び上がる。手の中にはロング棒だ。まっすぐに振りかぶって、ロデュスの頭上へ迫る!
「効かぬと言っただろう!」
ロデュスが防御の呪文を展開した。以前に棍棒を弾き返した障壁の呪文だ。
「分かってるよ! だから……」
その障壁の上で、ぼくは
ステップスのブーツの力で二段ジャンプ。ロデュスの頭上を飛び越えた!
「しまった!」
そう、ぼくらの目的は最初から、ロデュスに一撃を加えることではなく……
「迷宮核が狙いか!」
9999人の魂を捕らえた迷宮核の水晶へ。大上段に武器を振りかぶる。
「この迷宮を破ることなどできない!」
「《サクノス以外には、でしょ!》」
インベントリから即座に武器を持ち替える。ぼくの手の中には、あらゆる迷宮を打倒する力を持った、サクノスの剣が現れていた。
「やめろ!」
振り返るロデュス。しかし、立て続けに呪文を放った後だ。ぼくの動きを止められるほど素早く使える術はない。
乾坤一擲! 全身の力をこめて、剣を振り下ろした。
ガンッ!
サクノスの剣が水晶の表面を打ち付ける。その振動が水晶の中で二重三重に反響し……
ビシッ……ビシビシッ……
いくつもの亀裂が走る。
そして……
パキィン!
高い音を立てて、迷宮核が砕け散った!
「馬鹿なぁあああああ!」
《百人の勇者が力を合わせれば、これくらい!》
「このことを恐れてきたんだろう。だから、一度に一人しか挑めない迷宮なんてものを作った!」
水晶の中の魂たちが、一度に解法された。
「プロフェットの指示のおかげで、ぼくが遺物の力を合わせられたんだ。お前の恐れていたものが、これだ!」
そして、迷宮にかけられた魔法が崩れていく。つまり……
時間が、また巻き戻っていく。
迷宮が作り出される前へ――
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