指示厨女神とエンジョイ勇者   作:五十貝ボタン

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11:百人の勇者

 ぱっと目の前が白く染まった。

 迷宮に来た時と、同じ感覚。

 そして気づくと、ぼくは荒野の中に立っていた。

 

「なんということを……してくれたんだ」

 呆然と空を眺めるロデュスがいた。

「あの迷宮のために、わしがどれほどの時間と労力をかけたと思っているんだ! お前さえ! お前さえ死ねば、何物をも恐れずに済む永遠が手に入ったのに!」

「殺されそうになれば全力で抗うものでしょ。正当防衛ってやつだ!」

《そうだそうだ!》

 晴れやかな顔の女神が同調してきた。女神が腰巾着してくる経験、もう二度とないだろうな。

 

「こうなったら、貴様だけは殺す! わしには無限の時間があるのだ。もう一度迷宮を作り上げ、今度は百万人の魂を用いて、幹世界ごと時間を凍らせてやる」

《そんなことができると思っているのですか》

「やらせるか! 来い、ロング棒!」

 念じれば、手の中に遺物の棍棒が……

 現れない。

 

「あ、あれ?」

「忘れたか。インベントリの力は迷宮へ挑むもののためにわしが与えた能力。迷宮がなくなった今、インベントリも遺物も、お前には残ってはおらん!」

「い……言われてみれば、ブーツやスカーフもなくなってる。ど、どうしよう女神様!」

《おお、お、お、お、おお、落ち着、落ち、落ち着けば解決策が何か……》

「ぜんぜん落ち着いてない!」

 

「馬鹿め! もう一度、焼き尽くしてくれる!」

 ロデュスが腕をかざした。炎球(ファイアボール)がふたたび放たれる。もちろん、炎のマントももはやない――

「うわあああああっ!」

 悲鳴を上げて、身をすくませたとき……

 

 ボボボボボッ!

 ぼくの目の前に現れた何か(・・)が、火の玉を受け止めていた。

 閉じていた目をうっすら開けると……それは、直系5メートル、高さ2メートルはあろうかという――

 ケーキ(・・・)だった。

 

「危ないところだったわね」

 白衣に赤いスカーフを巻いた女性が、ぼくらの前に立っていた。

《パティスロン!》

「はじめまして、女神様。助けに感謝します。これから100回は同じことを言われるから、覚悟しといて」

「100回、って言うと……」

 

「こういうことさ!」

 ぼくらの頭上を軽々と跳び越えた影が、とんぼを切りながらロデュスに斬りかかった。

「おのれ、ステップス!」

 魔導師が身をかわすと、そこへ音もなく飛んでくるものがあった。音がなかったのは、それが音よりも速かったからだ。

 

「クカッ!」

 ガギンッ! 光の障壁を開いて、すんでのタイミングでロデュスが飛来物を防いだ。それは投げつけられた手槍だった。

「いまだ、ウッドリー!」

「まかせろ、剛勇の勇者!」

 10メートルはあろうかという棍棒が、ロデュスを殴りつけた。障壁すらも打ち破り、魔導師を思いきり打ち据えてふきとばす!

 

「そうか! 時間が巻き戻ったってことは……」

「百人の勇者、完全復活だ!」

 ステップスが剣を、ヴァルターが槍を、ウッドリーが棍棒を。それぞれに掲げてぼくに応えた。

「もうロデュスを守る迷宮はない」

「百人の勇者が力を合わせれば、やつにも勝てる!」

「君たちが迷宮核を砕いたおかげだ」

 勇者達から口々に賞賛の言葉が告げられる。

 

「ううん……みんなが助けてくれたから」

 誇らしい気持ちだった。

《そして私が指示をしたからです》

 女神はもっと誇らしげだった。

 

「こしゃくな!」

 ばき、ばき、ばきばき……

 ロデュスの体が砕け、さらにまがまがしい姿へと変わっていく。骨と闇の魔力が渦巻く、巨大な姿へ。

「迷宮の維持に使っていた魔力を、自分の体に注ぎこんでいるんだ。君たちは下がって」

「でも……」

「こういうときは、ドーンと任せればいいの」

 パティスロンの横へ、別の人影が並んだ。

 

「私が守ってあげるから。今度は使い捨てじゃないよ」

 その胸元には、見慣れた(マーク)があった。

《では、任せます。守護の勇者イリス》

 彼女が指を立ててみせたのと同時に、ロデュスの魔力が爆発するように広がった。猛烈な衝撃が砂を巻き上げ、勇者達を弾き飛ばす。衝撃波が届く寸前、イリスが両手をかざした。

 

 ガキィン!

 

 勇者が広げた障壁が、衝撃波を受け止める。

「みんな、行くぞ!」

 破壊の魔法が過ぎ去り、一人の勇者が飛び出していった。彼が振りかざす剣を、ぼくは知っていた。

「サクノス!」

 勇者はぼくを一瞥し、深く頷いた。そして、サクノスと、彼に率いられた百の勇者が魔導師ロデュスとの戦いを繰り広げていく。

 

 ロデュスはぼくと戦ったときとは比較にならないほどの複雑で巨大な魔法をいくつも操った。しかし、その全てを勇者のうち誰かが防いだ。すべての術に対抗策がある。

 万夫不当の迷宮でさえ、プロフェットが万に一つの策で打ち破ったように。

 

 長い戦いだった。ぼくは見ていることしかできなかった。でも、それでプロフェットの気持ちが万分の一でも分かるような気がした。

 そして、ついに……

「今だ、リブロ!」

「さらば、我が師よ!」

 リブロがかざした水晶。魂を封じる迷宮核の欠片へ、巨大なロデュスの体が吸い込まれていく。

 

「おのれ……あとすこしで、永遠が手に入ったのに!」

 世界と時間を呪いながら、ロデュスは迷宮核の中へ封じられた。

 それが、戦いの終わりだった。




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