「女神プロフェットに感謝を」
サクノスの言葉に合わせて、百人の勇者がいっせいに胸に手をやり、祈りの仕草をした。
「それから、焼き菓子と甘いチョコレートを」
《あぁー、幸せですぅ~~》
パティスロンに捧げられたクッキーをむさぼりながら、プロフェットは涙を流していた。
「そして1万人目の勇者へ、最大の賞賛を!」
「よくやった!」
「君のおかげだ!」
「誰にもできなかったことをやってくれた!」
百の勇者の百の賛辞を浴びて、思わず顔を赤らめてしまう。
「ありがとう。でも、ぼくが迷宮に挑むことができたのは、みんなが遺物の力を貸してくれたおかげです」
自分でも、自分がしたことを信じられないくらいだ。
「そしてなにより、プロフェットの導きがあったから」
《ひゃい》
名前を呼ばれた女神が、口につめこんだクッキーで頬を膨らませながら返事をした。
「この女神は職権を濫用してぼくを勝手に呼び寄せるよう仕向け、大した説明もなく一方的に迷宮に挑ませましたが……」
《言い草がひどくないですか!?》
「事実でしょ」
ウィンドウのなかの女神を冷ややかな目で見てから、向き直る。
「……でも、それはこの世界を救うためです。あなたたちの戦いを彼女はすべて見守り、それに基づいてぼくに助言してくれていたのです」
荒野に風が吹く。砂がゆっくりと巻き上げられ、青い空に向かってつむじを描いた。
《しかし、その使命も終わりの時を迎えました。あなたを地球へと返さなければなりません》
プロフェットが(口の中のものを飲み込んで)パチン、と指を鳴らした。
ぼくの目の前に空間のひずみが現れた。鏡面のように輝くそれは、プリズムのように虹色の光を発していた。
《地球へと繋がる
「地球へ……」
門を見つめる。勇者達に見守られながら、使命を終えての帰還……
「……も、いいんだけど」
くるりときびすを返して、ぼくは歩き始めた。
《ちょっと! もう使命は終わりなんですよ!》
「だって、せっかくのファンタジー世界だよ。あんな迷宮だけ見て帰るんじゃ、面白くないって!」
使命が終わったんだったら、もう指示に従わなくたっていい。
今度こそ、世界をぞんぶんに楽しめるんだ!
《ちょっと、勇者の皆さん! 何か言ってやってくださいよ》
「呼び出させた責任は女神様にあるってことで」
「俺たちもロデュスを封じたんだから、使命は終わりだ」
「みんな、あとは自由にしてくれ!」
《そんなあ!》
勇者たちに手を振って、ぼくは歩き出した。
《あなたが帰るまで、私が付き合わなきゃいけないんですよ!?》
「どこかすごい景色が見られるところまでの道を指示してよ」
《私はツアコンじゃなーい!》
女神の訴えが、広々とした荒野に響き渡っていた。
〈了〉