扉を抜けた先は、まっすぐな通路になっていた。
壁や天井に刻まれた文字が光を放っているから見通しが悪いということはない。
単なる、まっすぐな通路……に見えた。
《この通路は罠だらけです》
と、プロフェット。彼女が映っているウィンドウは視界の左下あたりに浮かんでいる。
ぼくの視界がゲーム画面だとしたら、ちょうどアドバイスをくれるオペレーターの位置だ。
「それは本当かい、オペ子」
《女神だって言ってるでしょう! 妙な呼び方はやめてください》
「ちょうどそんな感じだったから、つい」
気を立て直して、服の裾を払う。
「じゃあ、どうすればいいの?」
彼女の指示がなかったら、さっきの鐘に潰されていたのだ。ここは言うとおりにすべきだろう。
《まずは地面にぴったり胸をつけて
「立ったばっかりなのに」
《気まずいなーとは思ってました》
かっこつけて服の裾を払ったことに若干の恥ずかしさを感じながら、女神の指示通りに這いつくばった。
《そう、その調子。頭を下げて……いいよー、じょうずにできてるよー》
「あんまり褒められても馬鹿にされてるみたいだな……」
じりじりと進んでいく。自衛隊員が匍匐前進で進む映像を見たことがあるけど、あんな風に素早くはできない。ぎこちなく手足を動かして進むのは、ファンタジックな勇者とは程遠い感じだ。「もうやめていいかな」と言いかけた頃に……
じゃきんっ!
壁から勢いよく槍が飛び出した。
普通に歩いていれば間違いなく全身を貫く角度とタイミング。様々な高さで何本もいっぺんに飛び出してきたから、かわすには床にぴったり伏せているしかない。
またしてもプロフェットのおかげで命拾いしたわけだ。
「助かった!」
《槍をくぐったら、今度は3歩走って前にジャンプ!》
「よし!」
自分でも声が弾むのがわかった。今まさに、トラップだらけの迷宮を攻略している。
ゲームみたいな光景を自分の体で体験しているのだ!
ぴったり3歩で踏み切った。走り幅跳びの要領だ。その直後、足下の床がぱっと消え失せた。
「あっぶな!」
床に開いた穴を飛び越えて着地。
《止まらないで、そのまま走って!》
頭上でカチャッと音が聞こえた。嫌な予感がして、穴を飛び越えた勢いそのまま全力ダッシュ。
ズンッ!
背後からの音で振り返ると、天井だった場所が押し出されて床を押しつぶしている。
「今度は吊り天井か!」
天井が落下してくる罠である。犠牲者を押しつぶすことに失敗した罠には、天井裏から鎖が繋がっている。その鎖が巻き上げられて、落ちた天井を巻き上げていく。
《その罠に乗ってください》
「危ないんじゃ?」
《通路にはまだたくさんの罠があります。天井裏のほうが安全な
ここまでのところ、すべてプロフィットの言うとおりだ。たしかに、天井裏には空間がありそうだった。
さいわい、天井が落下するときは一瞬だったが、上がるのはゆっくりである。ぼくは吊り天井の裏側に飛び乗った。
《このルートを見つけられた勇者はごくわずかでした》
「他にも迷宮に挑んだ人がいるの?」
《9999人の挑戦を見守ってきました》
「じゃあぼくが1万人目かあ」
この時、ぼくは罠を突破したうれしさで浮かれていた。
ほんとうなら、こう聞くべきだったのだ。「何人が突破できたの?」と。
そう聞いていれば、先に知ることができたはずだ。9999人の挑戦者全員が、ここで散っていったことを。
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