むっと強い熱気がぼくの体を包んだ。
《途中の道のりが変わっても、辿り着く部屋は同じです》
というのが、プロフェットの談だった。
その辿り着いた部屋の床は数歩ぶんしかない。そこから向こうは、赤々とした溶岩で満たされていた。その熱気が、部屋全体に広がっているのである。
「溶岩プールだ! 実物は初めて見た!」
《まあ自然環境下で溶岩を溜めたプールができることないでしょうからね》
溶岩の奥行きは10メートルほどだろうか。その向こうに、次の部屋へ通じる扉が見える。
「ゲームの主人公だったら、こういうところをジャンプで跳び越えるけど」
体力測定で測った、ぼくの走り幅跳びの記録から考えると……うーん、ちょうどプールのド真ん中あたりに飛び込むことになるだろう。
「もしかして異世界転移で身体能力が上がってるとか!?」
試しにその場でジャンプしてみた。ポーンと飛び上がって天井にタッチ! ……なんてことはなく、いつもと同じぐらいの跳躍力だ。
「……なわけないか」
ムワッと熱い空気を吸い込んで余計に疲れただけだった。
「冷静に考えると密室の床が溶岩で満たされてたら呼吸なんかできないんじゃない?」
《ファンタジーだから大丈夫! この世界は幻想でできてますから》
女神が適当なことを言っているので、ぼくも適当に考えることにする。
「で、どうすればいいの? 知ってるんなら早く教えてよ」
《まったく最近の子はすぐ攻略サイトとかに頼る》
「さっきは言うとおりにしろって言ったじゃん!」
《人と会話ができるのが楽しくなっちゃって、つい》
プロフェットが額をこつんとやると。「てへ」という文字が頭上に浮かんだ。メッセージアプリのスタンプじゃないんだから。
《左の壁を蹴ってみてください》
「ここ?」
横を向いて、言われたとおりに壁を軽く蹴る。
ボコン!
と、軽快な音を立てて壁が崩れた。その壁の中に小さな空間が……
「隠しアイテムだ!」
あまりにゲームで見慣れた光景だったので、思わず叫んでしまった。
壁の中には、謎の力でふわふわと浮かぶひとそろいのブーツがあった。分かりやすく、羽の飾りなんてついている。
「この隠し方は悪の魔の城そのまんますぎない?」
《それは《
「無視したなあ」
《さあ、それを装備するのです!》
ブーツはぼくの足にぴったりだった。
履いた瞬間に、体が軽くなったような感じがした。このブーツが自分を助けてくれるのが分かるのだ。
「このスニーカーは……」
《
「そんなことできるの!?」
《『インベントリに入れ!』と強く念じながらしまいこむのです》
それがどういう念じ方なのかはよくわからないけど、わからないときは口に出してみるに限る。
「インベントリに入れ!」
そしてスニーカーを空中にそっと置く動作をする……と、スニーカーはぱっと消えた。
「うわっほんとに消えた!」
《迷宮に挑む勇者の力です。一度でも身につけたものは、強く念じれば装備品との交換もできますよ》
そう言われてみると、たしかに『スニーカーをインベントリに所持している』という感覚がある。
それってどんな感じなんだと言われても、うまく言葉では説明できない。ゲームのキャラクターが何十個もアイテムを持ち運んでいるのを不思議に思っていたけど、彼らもまったく同じ感覚を味わっていたのかもしれない。
「スニーカー!」
念じると、履いているブーツが一瞬にしてスニーカーに戻る。
「ブーツ!」
今度はブーツに。
「スニーカー! ブーツ! スニーカー!」
念じるたびに一瞬で装備が切り替わる。これも魔法の力だろうか。
《インベントリの使い方は覚えましたね。そのブーツは『疾駆の勇者』ステップスが遺したものです。そのブーツを使って、この溶岩を跳び越えるのです!》
「よし!」
扉に背中をつけ、助走をつけて勢いよくジャンプ! ……したとき、はたと気づいた。
《スニーカーのままです!》
「しまった!」
入れ替えて遊んでるうちに、履き慣れたスニーカーのほうを装備した状態になっていたのだ。
とうぜん、ごく普通の中学生のジャンプ力しかない。溶岩プールのド真ん中へ、ぼくは飛び出していた!
踏み切ってからでは遅いかもしれないけど……
「ブーツ!!!」
靴が羽根飾りのついたブーツに変わる。溶岩の中へ落ちる寸前、ぼくは
「二段ジャンプ! すごい!」
足場などないにも関わらず、ぼくは一度目の跳躍よりもはるかに身軽に跳び上がっていた。溶岩プールを悠々と跳び越え、向かいの壁に激突しそうになりながら着地。
《あ、危なかったぁ……》
「ほんとうにゲームみたいだ」
プロフェットはぐったりしていたが、ぼくはむしろ気分が上がってきていた。元の世界では絶対にできない体験を次々にしている。
《ヒヤリハットは重大事故のもとですよ! ハインリッヒの法則を知らないんですか》
「何それ?」
《地球に帰ってから調べるよーに!》
女神から知恵を授かるチャンスを喪失してしまったけど、そんなことは気にならない。
「この調子で、どんどんいこう!」
扉を開ける。命の危機なのに、ぼくはわくわくしていた。
次はどんな罠が待ち構えているだろうか?
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