指示厨女神とエンジョイ勇者   作:五十貝ボタン

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5:動く床

 ビュオオオオ……

 閉ざされた迷宮の中のはずなのに、空気が渦巻く音が聞こえる。

 その部屋は広大な縦穴になっていた。穴が深すぎて、底が見えない。

 縦穴の中を、いくつもの板が飛び回っていた。板は人が一人乗るのがやっとなくらいの大きさで、よく観察するとそれぞれが決まったパターンで同じ場所を動いているようだ。

 

「今度は『動く床』かぁ。ほんとにゲームみたいだ」

《地球人類の幻想が形になった世界ですからね。最近のカルチャーの影響が大きいんです》

「やっぱりゲームみたいなものってことじゃん」

《ステップスのブーツがあればここは簡単なはずです。先を急ぎましょう》

 女神の言う通りだ。今のぼくは遺産の力でいつもよりずっと身軽に跳ぶことができる。床が動いていても二段ジャンプで軌道を修正できるのだから、落ち着いて渡っていけばすぐに部屋の出口にたどり着ける。

 

 でも、ぼくには気になることがあった。

「もしゲームだったら……」

 床の動きにはパターンがある。壁の代わりに『動く床』が迷路を作っているわけだ。ゲームでもよくあるパターンである。動きを見極めれば、出口にたどり着くために使う必要がある床は全体の半分ほどだ。

 残りの半分はどこにもつながらない、いわばハズレの床だ。でも、パターンをよく見ればハズレからハズレへ乗り継ぐことができるルートがあった。攻略には関係ないルートが、どうしても気になった。

 

《そっちは扉じゃないですよ》

 プロフェットは相変わらず保護者のような口ぶりだ。

「いいんだ、こっちで」

 彼女にできることはぼくに話しかけることだけで、ぼくの体を操ることはできない。宝箱の部屋では従ったけど、今は反抗心のほうが上回っている。

 

 床から床へ飛び移るうちに、部屋の中をぐるっと回って、入口があった場所の下にある空間にたどり着いた。部屋の入口から出口に向かっている時には見えない、巧妙な隠しスペースだ。

「宝箱だ!」

 狭いスペースにちょこんと宝箱が置いてあった。

 隠し宝箱に罠はないだろう。さっさと開けることにする。

 

《天啓の勇者リブロの耳飾り!》

 いたく感動した様子でプロフェットが声を上げた。

 耳飾りをつけてみる。魔法の力だろうか、遺物の効果がすぐにわかる。

「すこしだけ未来のことが予知できるみたいだ」

《古代帝国の言語を解読した、とても賢い勇者だったんですよ。こんなところに遺物があったなんて》

 

 勇者ひとりひとりのことを、プロフェットはよく知っているみたいだった。そんな女神が知らない場所を見つけたのである。

「女神でも知らないことがあるんだね」

《私は、いままでで迷宮に挑んだ勇者たちを見ているだけでしたから》

「その割にはなんでも知ってるような口ぶりで指示してたじゃん」

《そのほうが女神らしくて安心感があるじゃないですか!》

 ……だんだん化けの皮がはがれてきた気がする。




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