ビュオオオオ……
閉ざされた迷宮の中のはずなのに、空気が渦巻く音が聞こえる。
その部屋は広大な縦穴になっていた。穴が深すぎて、底が見えない。
縦穴の中を、いくつもの板が飛び回っていた。板は人が一人乗るのがやっとなくらいの大きさで、よく観察するとそれぞれが決まったパターンで同じ場所を動いているようだ。
「今度は『動く床』かぁ。ほんとにゲームみたいだ」
《地球人類の幻想が形になった世界ですからね。最近のカルチャーの影響が大きいんです》
「やっぱりゲームみたいなものってことじゃん」
《ステップスのブーツがあればここは簡単なはずです。先を急ぎましょう》
女神の言う通りだ。今のぼくは遺産の力でいつもよりずっと身軽に跳ぶことができる。床が動いていても二段ジャンプで軌道を修正できるのだから、落ち着いて渡っていけばすぐに部屋の出口にたどり着ける。
でも、ぼくには気になることがあった。
「もしゲームだったら……」
床の動きにはパターンがある。壁の代わりに『動く床』が迷路を作っているわけだ。ゲームでもよくあるパターンである。動きを見極めれば、出口にたどり着くために使う必要がある床は全体の半分ほどだ。
残りの半分はどこにもつながらない、いわばハズレの床だ。でも、パターンをよく見ればハズレからハズレへ乗り継ぐことができるルートがあった。攻略には関係ないルートが、どうしても気になった。
《そっちは扉じゃないですよ》
プロフェットは相変わらず保護者のような口ぶりだ。
「いいんだ、こっちで」
彼女にできることはぼくに話しかけることだけで、ぼくの体を操ることはできない。宝箱の部屋では従ったけど、今は反抗心のほうが上回っている。
床から床へ飛び移るうちに、部屋の中をぐるっと回って、入口があった場所の下にある空間にたどり着いた。部屋の入口から出口に向かっている時には見えない、巧妙な隠しスペースだ。
「宝箱だ!」
狭いスペースにちょこんと宝箱が置いてあった。
隠し宝箱に罠はないだろう。さっさと開けることにする。
《天啓の勇者リブロの耳飾り!》
いたく感動した様子でプロフェットが声を上げた。
耳飾りをつけてみる。魔法の力だろうか、遺物の効果がすぐにわかる。
「すこしだけ未来のことが予知できるみたいだ」
《古代帝国の言語を解読した、とても賢い勇者だったんですよ。こんなところに遺物があったなんて》
勇者ひとりひとりのことを、プロフェットはよく知っているみたいだった。そんな女神が知らない場所を見つけたのである。
「女神でも知らないことがあるんだね」
《私は、いままでで迷宮に挑んだ勇者たちを見ているだけでしたから》
「その割にはなんでも知ってるような口ぶりで指示してたじゃん」
《そのほうが女神らしくて安心感があるじゃないですか!》
……だんだん化けの皮がはがれてきた気がする。
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