児童養護施設に入所したこともあり、アタシもアイも今まで通っていた学校を変えなければならなかった。
必要最低限なランドセルや教科書等の勉強道具以外は持ち込むことが出来ず、理由としては施設内で共有のゲーム機があったりするのだが、個人所有となると娯楽品嗜好品を持たない子供からの嫉妬や最悪の場合窃盗が発生することがある為の措置で金銭も施設預かりとなった。
そうして、転校した先でアイとは別々の教室となり休み時間に教室を覗いてみると、担任からは転校してきた理由は語られなかったのだろうアイもクラスの子供から質問攻めという転校生の洗礼を受けており、アタシが見た感じだとアイは少し戸惑いながらも楽しそうに見えた。
今までが今までで学校で話す子はいても、家に呼べないこともあり友達と言えるような仲の良い子が出来なかったが、それは施設に入っても同じではある。
けれども、施設に戻れば同じような境遇の子供たちがいることから友達についてはどうにかなるであろうとアタシは考えていた。
その頃からだろうか、アイが嘘をつき始めたのは
アタシがその疑問を抱いたのは学校の帰りにアイとその日あったことを話していた時のことだ。アイのクラスメイトの男の子でサッカーが上手い吉田くんという名前の子がいて、その子と隣の席になったというのだが、アイは吉田くんのことを吉山くんと間違えていた。
アタシも彼、吉田くんという子の名前は知っていた。小学校生のモテる条件とは今も昔も殆ど変わりなくスポーツが得意な子供である。当然それに該当する吉田くんも女子からの人気があった。
「アイ?その子吉山くんじゃなくて、吉田くんよ 男子からも女子からも人気なんだから」
「あれ、そうだっけ?なんか最近、どうしても人の名前が覚えにくくてさ~。でね、その吉下くんなんだけどさ」
注意しても、今度は違う名前になって間違えるアイ。
そうして、しばらく生活してる内にアイは、そうやって人と関わろうとするのを避ける術としているのではと考えはじめた。誰だっていつまでも自分の名前を憶えてもらえない相手と仲を深めようとはしないだろう。
きっとアイは今自分が必要としてくれてる人さえいれば良いのだろう、これは母親との生活から裏切られるのを恐れているんだ。そうでもしれければ、アイ自身心が壊れてしまうからだ。
そうやって、傷つかないように予防線を張って自衛してる。
そんな日が2年ほど続いた時のこと、児童養護施設で本を読んでいるアタシにアイはスキップしながら寄ってきた。
「ねぇ、ねぇレン。お母さん来週、外に出てこれるんだってさ!そしたら私たちを迎えに来てくれるよね?あ~、来週が楽しみだなぁ」
燦燦と輝く太陽の様な笑顔でアタシに話しかけてくるアイに私は愕然とした。
「(ああ、この子はまだあの人に愛を求めてる・・・・・)ああ、そっか来週か~」
アタシは前世での経験もあり、あの母親は来ない事を分かり切っていた。
もし、アイとアタシにまだ母親として愛情を持っているのであれば、この施設の場所を刑務所経由で手紙を書いて送ってくるだろう。
しかし、そんなことただの一度もなかったのだ。
アタシはそこであの女に完全な見切りをつけた。あの女はこれからを母として生きていくよりも、今までどおり一人の女として生きていくつもりであるということに。
だが、アタシの想像で目の前でウキウキしている妹に現実を告げるのは家族としても大人としても心が痛み言えないでいた。
そして、一週間が経ち母が出所する日、母は来なかった。
「・・・・アイ」
アタシは施設の門を見つめるアイの肩を抱き寄せ頭を撫でる。
「大丈夫、きっとまだ忙しいんだよ。私たちを迎えに来るにしても家を掃除したりしないといけないもんね」
気丈に振る舞うアイではあったが、小刻みに震えていた感覚は忘れられなかった。
アタシたちはその日の夕方まで施設の門を見ていたが、街のそこらから『夕焼小焼』とカラスの鳴き声だけが心の中まで響いてきていた。
それからまた、一週間、二週間と過ぎて行ったがあの女が私たちを迎えにくることはなかった。
そして一ヶ月が過ぎようとした頃の土曜日、施設内でアイの姿が見えなかった。
気になったアタシは施設の職員にアイの事を尋ねると、お友達と一緒に遊びに行くと言って出かけたと答えたが、それが嘘であるとアタシはすぐに分かった。
アイから切り出せる話題で友達と遊びに行くという話が今までなかったからだ。
それに、クラスメイトの名前を覚えようとしないアイだ。そうきっと・・・・。
「ねぇ、アイは友達とお菓子を買いに行くからってお財布持っていかなかった?」
アタシは職員にそう切り出し、確かにアイの財布を渡したと話した。
「(やっぱりだ。そなるとアイが向かう先はあそこしかない)」
あの女が今も住んでいるであろう、我が家だ。
施設から実家までは大した距離ではないが、子供の足で行くとなるかなりの時間と体力が必要になる。
そうなると事前に家に帰るためにそこまで行ける交通機関を調べていたはずで、そのためにお金も貯めてたであろう。
アタシは職員に母親に会いに行ったことを告げると、すぐさま警察にも連絡し実家のある場所へと向かうことになった。普通であればあり得ないことだが、アタシが双子であることもありアイが行きそうな場所にも心当たりが何か所かあると話したところ特例で同行することができた。
20~30分ほど車を走らせ、実家の前に車を止め玄関にあるベルを押す。もちろん傍には施設の職員だけでなく警察も待機している。
何度かベルを押すとゆっくりと玄関の扉が開かれ、母親だったあの女が顔を出した。
「どちら様・・・・・あら、アイの次はレン?何よ2人揃って、悪いけどあなた達を暮らすことはできないからじゃあ」
そうして早々に扉を閉めようとするのを警察が阻止して、アイの行方について聞き込みを行い始めた。
この女の先程も物言いからするとアイはやっぱりここに来た。
「あんな子なんて知らないわよ、少し話したけど直ぐ帰って行ったわ!もういいでしょ!?」
段々と荒々しい態度になってきたこともあり、この女の言う通りすぐにアイを追い払ったんだろう。
「おまわりさん、ありがとうございます。その人のいう通り多分妹はここにいないと思います。アタシは妹がいそうな場所を探してみます。それと、星野さん今までありがとうございました。産んでくれたことには感謝します。お邪魔な様ですしこれから先アタシたちはあなたの前に現れることはありませんので、貴方もこれから何があろうとアタシたちの前に現れないでください。」
ただ、淡々とまるで無機質な業務連絡をする社会人の様に別れの挨拶を交わすとアタシはアイが行きそうな場所へ向かった。
最初に向かった場所は、転校する前まで通っていた小学校。
しかし、今日は土曜日ということもあり、校内は鍵がかかっておりグランドではスポーツクラブだろうか野球少年たちが練習試合に向け練習に励んでいた。
ここではないと早々に切り上げ次の場所へ向かうとアイはいた。
そこは学校と実家の中間にあたる公園だった。
ブランコに座り込み俯くアイに言葉が詰まったが、まだ小さい拳を握りアイに声をかける。
「探したよ、アイ。施設の皆が心配してる・・・・帰ろ?」
後ろから語りかけたものだからアイの体が一瞬ビクッと跳ね上がるが、すぐにアタシに返事を返してくれた。
「レン?・・・・よく分かったね私がここにいるのをさ」
「ちょっと探したけど、アイの行きそうな場所は大体わかるよだって、双子だし」
「あ~あ、やっぱりお姉ちゃんだなぁ・・・敵わないや!」
顔を上げ足をブラつかせるアイ。
取っているこうどうとは逆に今にも消えてしまいそうな脆さがアイの背中からはひしひしと伝わってくる。
「アタシも、あの家に行ったよ・・・・。」
「そっか~、残念だよねぇ・・・・・・・・・・・・・・・。」
アイはそういうと立ち上がり次につながる会話はなかった。
「アイ?」
「ねぇ、レン。何でだろうね?私いつかはお母さんが迎えに来てくれるって信じてたけど、毎日一日一日経つたびに不安になったの・・・・でも、信じたくてさ。今まで貯めたお小遣い全部使った帰ってきてお母さんとお話しした」
「そしたら、「アンタたちなんて邪魔でしかない、愛してすらなかった」って言われた・・・そう、言われたのぉ」
アイが私の方へと振り返る。
「それならぁ!!私たちが生まれてきた意味って本当にあるのかなぁ!!!?」
泣いていた。
きっとアタシがここに来るまでも泣いていたのだろう、アイが一番のお気に入りと言って着ていた服はしわくちゃでそれで涙を拭いたのだろう袖の部分は濡れており、頬を伝った涙が痕になってそれをなぞる様にまた目から出てきた涙が流れていく。
そんなアイにアタシは何も言えなかった。
本当ならここで何かを言ってあげれればよかったんだ・・・・・。
そうであったならきっと、アタシたちは。
感想評価、本当にありがとうございます。
アイが幸せになれればといった感想をいただいて胸が苦しく・・・・。
作者はハッピーエンドな作品は大好きなのですが、筆を取るとどう頑張っても救いが無くなる方向に向いてしまうのです・・・・・。
色々と分岐は考えていますが、本筋はバットエンドまっしぐらです。