――side ラインハルト
同日夜、私達は依頼報酬の一部としてここまでの遠征にかかった兵糧などを袁術から分捕って出立の準備を整えていた。
穏と粋怜、明命は捕虜輸送などの関係で不在だ。
すると30人ほど引き連れたカノンがやってきた。
軍議用の天幕に孫家が集まり、彼女とその取り巻き?もそこに集められた。
「汝南救援に向かう皆さんに合力する旨を伝えたところ、クビにされた。それでもついてきてくれる者たちがいるのでできるなら客将や兵士等で雇ってもらえないだろうか」
「良いわよ。貴女は……ラインハルトの指揮下に。他の者はうちの部隊に組み込むわ。……兵士とか貴女に家族とかは?」
確認のためおずおずと問いかける雪蓮。
「皆独り身なので身軽です。同じ志を持った者から、すぐ動ける者をあつめましたからね」
「そう……それじゃ、彼らの案内を」
「はっ!」
雪蓮が天幕の内側にいた兵士に声をかけると彼は取り巻きたちを連れて行った。
「……で、イオンとラインハルト的にどうなんだ?」
「私としてはカノンさん居てくれたらとっても安心できるかな〜」
「……あとは本人次第だろうが……さほど時間もかからんだろう」
「? 何の話で?」
蚊帳の外であるカノンは首を傾げ、イオンがサドっけある笑みを浮かべる。
「なんでも? 積もる話もあるし、一晩の為に天幕追加は労力増えるから、私達の天幕でお話したり、身体休めてね」
「? たしかにラインハルト殿の指揮下にと言われたので命令とあれば従いますが……貴女たち夫婦なのでは?」
「それはそれ、これはこれだよ。 さ、場所移動しようか」
そういってカノンの背をおして天幕を出るイオン。
私も出立が明日の朝なのを確認し、イオンの後を追う。
なお、亞莎は冥琳のところに預けてる。
表向きは指揮や相談事についてを実際に見聞きして勉強させるため……実際は夜に目を覚まされて情事を目撃されるのはあまりよろしくないからである。
束たち5人も別の天幕に配置してある。
まあ、イオンの心の平穏のためのコラテラルダメージということで是非もなし。
私の天幕にたどり着くと、組み立て式の寝台に椅子が数脚用意されていた。
「カノンさん」
「えっと……随分と機嫌がよろしいですね、イオナサル」
椅子に座らせてその後ろで鼻歌交じりに手櫛で髪を梳かし始めるイオン。
「うん。だって――好きな人と好きなものを共有したいって思うのは普通でしょ?」
「へ?」
「……」
カノンは素っ頓狂な声を上げ、私は沈黙を保つ。
「あの、それはどういう」
「……アーシェスと禊してて、アーシェスのことを恋する乙女みたいな顔で話してて、隠せてると思った?……私達が還ったあとも、ネイちゃんやレナルルさんみたいに最後まで独身貫いてるのも知ってるからね?」
触らぬ神に祟りなしなので気配遮断して空気であることを務める私。
「――だから、2人目はカノンさんが良いんだ。 旦那様も認めてくれてるから……だめ……かな?」
「…………随分と強かになりましたね。 お二人が良いと言うならば……」
立ち上がってこちらを振り向くとカノンは頭を下げる。
「未熟者で頑固な不束者ですが、どうかよろしくお願いいたします」
「うん! よろしくね、カノンさん!」
「イオンのこと、助けてくれるとありがたい」
私の言葉にイオンが何か閃いたようだ。
「……早速だけど、カノンさんに手伝って欲しいことあるんだ」
「私にできることなら何でも」
「……」
カノンの返事にイオンが笑みを浮かべ、自分は手加減せねばと心のなかで合掌しつつ、流れに身を任せることにした……。
「昨日はお楽しみだったようだな?」
「イオンが今まで見たこと無いくらいで、ツヤツヤしてる……」
出立前に一同が揃う中、開口一番に炎蓮と雪蓮が脊髄反射で気がついたことを零していた。
「ほーら、カノンさん、皆に報告しなきゃ」
「ひゃん」
そういってうしろからカノンのお尻を軽く叩くイオン
聞いたこと無い声を出したカノンだが、すぐに我に返る。
「……紀霊。真名は
「……で、ラインハルト的には3人目以降解禁か?」
炎蓮が私に問いかける。
「あまりポンポン増やすものではないのだが……まあ概ねそういう認識で構わん。但し、3人目はほぼ内定しているし件の人物は向かう先にいる」
「……あんまり引き抜いて袁術怒らせないでよね?」
私の言葉と前袁術が言ってた証言から、誰なのか見当ついた雪蓮がやれやれポーズしながらたしなめてきた。
「善処する」
「んじゃまあ、兵士の調練ついでに賊討伐して、袁術から報酬とラインハルトの3人目候補ぶんどるとすっか!」
「ええ、そうね。――これより西方、汝南救援に向かう、天幕撤去次第出立!」
「「「応!!!」」」
――side 丁奉
「なんか城壁直下の死体が消えて敵も半分くらいになったのは良いけど、そろそろ士気が限界っぽいのよね……どうしたものか……」
『先日の約束までまだ1日と少しあるが……朗報だ、東を見たまえ』
ここ数日1人で居ると聞こえてくる幻聴?の言う通り東を向くと土煙が見えた。
「……孫の旗……あ、カノン……紀霊の旗あるじゃん。援軍呼んだのに来なかったから向こうもなんかあって来られないのかと思ってたけど……」
『4日程前まで黄巾の賊に城を包囲されていたが、南の孫家が救援に駆けつけ開放したのだ。……他にも君の古き友人やそのパートナーであるアーシェスと呼ばれた機械を操っていた者も君の無事を願っている。あと一息を耐えたまえよ』
「は? ちょっとそれどういう……気配が消えた……」
周りを見ても誰もなし。
眼科には敵の蠢く姿。
「……あと一息、ここで抜かれるわけには行かないわね」
――side ラインハルト
汝南近郊に到着後、殆ど休息することなく敵にぶつかる強行軍がなされた。
――え? そうでもないと兵士が鍛えられない?
そういうものではない気がするが……。
なお、カールとマキナによる頭数減らしもあったが、包囲で摩耗していたのは攻める側も変わらず、孫家軍の一当で敵軍は瓦解。
待っていたとばかりに打って出た丁奉軍により多くの賊が討ち取られた。
「ってことで、アタシは丁奉。真名はネイ。袁術には愛想尽かしたから出奔してきたわ。よろしく。特にイオンとイオンの旦那さん♪」
濡羽色の髪をサイドテールにした、金色の瞳の……少々幼いスタイルの娘が超絶軽い挨拶を言ってのける。
「ネイちゃん! うん、うん!よろしくね!」
「良しなに頼む」
「……ネイ、貴女も……ふふ……」
喜ぶイオン、握手に応じる私、どこか遠い目をするカノン。
とりあえず……今あそこにいる袁術との交渉が先だな……。
「寿春と汝南救援、ご苦労じゃ。またなにかあれば頼むぞ」
天幕にやって来た袁術はそういうとさっさと去っていく。
ねぎらいの言葉RTAかな?
……なんかネチネチ言われたりするかと思ったが、何もなし。
「復興の方が優先度高いだけでは?」
「そこに隠れてる2人が出奔したのもあるんじゃねえか?」
「いつもひっついてる張勲不在が原因でしょ。難癖つけてくるのいつもアイツだし」
冥琳、炎蓮、雪蓮が心当たりを告げる。
……しれっと人の心読んでない?
「不思議そうにしてるのと状況から察した」
「なんとなく」
「お母様と同じく」
「わ、私も頑張らなきゃ……」
3人の返答に対抗心を燃やすイオン。
卿は卿だ、得意分野で頑張ればいいから……。
「……で、なんでアタシ縛られてるの?」
帰路についた夜、私の天幕にて。
眼の前には後ろで腕を縛られて椅子に座らされているネイと、その左右で宝物庫産の蝋が何故か減らない低温蝋燭を持ったイオンと音は派手なのにあんまり痛くない鞭を持ったカノン。
「……いやね? ネイちゃんも禊でアーシェスと仲良くしてたし、私が居なかったら仲のいい熟年夫婦みたいにいつの間にかなってた気がするから、『3人目』になってほしいかなーって。 私との相性もいいし、カノンさんも居るからさみしくないよ?」
「ネイ、そのうち慣れます。貴女だけ逃げようなんて許しませんから」
「いや、慣れたらダメでしょ、そのあたり! というかカノンのは完全にエゴだし」
イオンとカノンの言葉にツッコミを返すネイ。
料理とか発明品とかは頓珍漢なものを作ったりするネイだが、こういうところでは常識的なツッコミを入れてくれる。
2人のブレーキを頑張ってもらいたいところだ。
「ラインハルトもラインハルトでいいの!? 重婚だけど」
「……卿が皇帝の仕事から逃げられなかったように、私も半ば忘れていた前世の業から逃げられなかったということだ。……いや、それは言い訳だな。卿が私の側に居てくれると嬉しいし手放したくない強欲さとイオンの立場に今生の私の立場……諸々が絡み合ってる結果だ。 よほどがなければ受け入れる覚悟はできている」
「……アンタの想いは分かったしアタシも望んでたところあるし受け入れる。3番目っていうありがたいところもね? でもね……」
言葉を区切って、私達3人を見ながら告げた。
「アタシ、
「「「えっ?」」」
「えっ?」