――side ラインハルト
「……太陽が眩しいな」
マジックミラーになっている窓から差し込む陽の光に目を細める。
「今回の記録……1日と18時間……新記録ならず……ガクッ」
一応記録を取っていたマイも気絶。
4人でローテーションなので回復加味しても持った方だろう。
身を清め、服を着たあと、馬車から飛び出して屋根の上に。
「……む、北数里先*1に軍勢が居るな……」
「申し上げます!」
ザリガニ*2……じゃなかった、斥候の兵士がこちらに駆け寄って、声を上げた。
「話せ」
「北二里の地点にて他軍の斥候と接触。確認したところ、曹孟徳の軍勢が近くを行軍中とのこと。いかが致しましょう!」
「(向こうの斥候と所属とかは情報共有しているし……)先触れをしてほしい。そちらの長と挨拶したい旨も伝えるように」
私の言葉に斥候は拱手してから去っていく。
そして馬車に戻り、雪蓮たちを叩き起こして情報共有。
「別に挨拶とかいいと思うけどなー」
「炎蓮の言ってたこと忘れたか」
「ちぇー。わかったわよ。冥琳居ないからあなた、アタシと梨晏、勉強のために亞莎の布陣で行くから、祭と粋怜は部隊の指揮よろしく」
『『『了解』』』
「……ほんと便利よね。頼り切ってると痛い目見そうだけど」
端末で行軍面子と通話していたのだが、完全に使いこなしている。
「……できたぞ。服は自分で着るといい」
ブラッシングなどが終わったのでそう告げると不貞腐れたように
「めんどくさいから着せて〜」
と言ってきた。
「着るに難しい服ではないだろう。それに私がやれば着せるだけで終わらんだろうに」
「えっち」
「そういう匂い漂わせて人前に出たら後ろ指刺されかねんぞ?」
「ついでに露骨にあなたとの関係ほのめかせばあなたへの詮索や他の勢力が引き抜きしようとしても諦めるかなーって」
「私を引き抜けば実質孫家掌握できるとか思われかねんからやめよう、な?」
「はーい」
素直に服を着て近くの姿見で確認し、頷く雪蓮。
「それじゃ、行きましょうか」
そこには後に小覇王と呼ばれるであろう、苛烈さを身に宿した英雄が不敵な笑みを浮かべていた……。
――side ラインハルト
両軍の進軍を一時止め、曹操軍側には天幕が作られていた。
「――私は曹操。字は孟徳。この軍勢の指揮官で、兗州牧よ。こっちは夏侯惇に夏侯淵。荀彧に曹洪よ」
金髪ツイン縦ロールの美少女は自己紹介と部下の紹介しつつ、こちらを見定めるようにすこし圧をかけていたが、直ぐにそれを解いて
「楽にして頂戴。同じ黄巾賊討伐する同志なのだから」
笑顔を見せる。
「……私は孫策、字は伯符。揚州牧よ。こっちは私の夫のラインハルトに部下の太史慈に呂蒙よ」
私たちは挨拶をする。
「……男を連れてくるとか正気かしら」
「桂花。……部下が申し訳ないわね。ただ……一廉の将の待遇の男が珍しいと思ったのも確かね。実力のほどはどれほどかしら」
「たぶんこの場にいる全員で殺しにかかっても返り討ちよ?」
こちらにアイコンタクト向けてきた雪蓮。
……どうなってもしらんぞ?
「そんなまさか」
「論より証拠。直ぐ塞がる程度で加減しなさいよね」
雪蓮の言葉を横に私は加速し、日本刀で一度に5つの斬撃を繰り出し、納刀する。
「……その証拠に彼もう武器を振り終えてるし。首筋のそれが何よりの証拠ね」
5人が首筋に触れると薄っすらと滲んだ血がそれぞれの手に付く。
「ありえないわ、妖術よ!」
荀彧が現実を拒否するようにそう告げるが
「やめなさい、みっともないわ。――春蘭、秋蘭は『見えた』かしら?」
「……自分の側をなにが光るものが通ったことくらいしか」
「微かに音もしておりました。……が、自分の首元以外は見えませんでした。」
汗を一筋流しながら答える2人。
それを見て、こちらに向き直る曹操。
「……疑って悪かったわね」
「自慢の夫のこと、わかってくれればいいのよ」
「なお、雪蓮様は正妻ではない模様」
梨晏がからかい混じりにそういうと、目を丸くする曹操。
「正妻じゃない? 正妻は別にいて複数人で囲ってるってこと?」
首を傾げる後の覇王。
「まあそうなるわね。夜の方も1人じゃまず歯が立たないから2〜3人がかりが普通だし、色々規格外なのよ」
「……彼を単独で黄巾賊に突っ込ませたらどうなるかしら」
「たぶん20万くらいなら皆殺しにできるわよ?三日三晩私たち相手できる持久力とさっきの斬撃を連発できるのだから。『だからこそ』彼には本陣で指揮官しててもらうつもり。そっちも適性あるし」
何処まで遠慮しないかで変わるが大体雪蓮の言うとおりだろう。
「なるほどね。……ラインハルトだったかしら、もしそちらから出奔するなら私の所に来なさい。歓迎するから」
「検討はしておく」
「でしょうね。だからこそほしくなるのだけど。……それと袁紹には気をつけなさい。あなた彼女に好かれる気がするし。そうなったら金に糸目を付けないで振り向かせようとしてくると思うわ」
「そんなにか」
「ええ。 やっても驚かないわね」
「それは気をつけねばな」
私の言葉に頷く曹操。
世間話みたいな雰囲気から一転、空気が引き締まる。
「さて、そろそろ『仕事』の話をしましょうか」
「お話し中、申し訳ありません!」
曹操が話の腰を折られて不満気味だったが、声を上げた兵士に目線を向けた。
「なにが起きた。敵襲か?」
「いえ、義勇軍を名乗る一軍がこちらにきておりまして、この軍勢の長に挨拶したいとのこと」
その言葉に雪蓮と曹操が視線を交わす。
「そっちの兵数は?」
「えっと、1万だったかしら」
「あら、それなら私たちは八千もいないことになるんだけど」
「「……」」
面倒臭そうな予感を感じたのか、軍勢の長を押し付け合い始めた。
「雪蓮。必要なら補佐する」
「…………わかったわよ」
ため息ついてから
「4人選抜して来るよう伝えて頂戴」
「はっ!」
「ところで代表者はなんていうの?」
「劉備と名乗っておりました」
「……」
どうやら三国志を代表する3大勢力がここで邂逅するようだ。