「雪蓮は予め『知ってる』からわかっているが、そうでなければ気がつけぬように魔術……呪いをかけているからな」
「そうか。ところで私は何と名乗れば良い? 真名でも私とわかるだろう」
「そうだな……、黄射と名乗っておけ」
――side ラインハルト
『良い知らせと悪い知らせがあるわ。どちらから聞きたい?』
下邳郡に入ったので偵察を出撃させて情報収集を開始した翌朝、
何処かで聞いたことあるようなセリフだったが深くは突っ込まない。
「……いい話から聞かせてもらおう」
「下邳攻略に麗羽……袁紹が合流するそうよ」
立地的に来れないわけでもないが、北海が本丸なので正直そちらの目を引きつけたり敵の間引きをしててほしかった。
「……悪い話は?」
「貴方のこと興味あるから紹介しろって先触れでわざわざ連絡してきたわ。……何処で聞きつけたのかしらないけど、顔合わせを避けても顔を合わせても話が拗れるのはほぼほぼ確実。面倒この上ないけど、強く生きて頂戴。あと夕方には合流するって」
「…………今天幕の側に居ると言われないだけマシだな」
何故そんなことを言ったかといえば、目下にて『掃除』してる愛紗と喜雨がいるから。
見られたら絶対面倒なことになるという自信がある。
『とりあえず心の準備はしておいて頂戴。それじゃまた』
そういうと通信を終了する。
「……何方からで?」
「曹操からだ」
私が複雑そうな顔をしてたのだろうか、愛紗が問いかけてきた。
「……あの人ともこういうことを?」
「今のところはしておらん」
「そのうちする気がします」
喜雨の質問に答えたら愛紗がジト目向けてきた。
生真面目だった卿は変わったな*1。
「にしても袁紹か……」
「……ぇ゙、来るの? あのうるさいの」
硬直する喜雨。
「……露骨に敬遠する卿を始めてみた」
「日は浅いですが私も」
「……五月蝿いし、金で解決しようとするし、何より……部屋で農作に適した土とか研究してたときに通りかかったと思ったら『用もないのに土をいじるのは子供のやることですわよ?』って言われたし……!」
「大変だったな」
「うん……」
私が撫でると喜雨はトロンとした目になり、膝に顎を乗っけてきた。
「……そろそろ心配されるのでこれで」
それを見ながら名残惜しそうに義姉のところへ戻ると告げる愛紗。
「ああ。……問題ないと思うが、気をつけておけ」
「? わかりました」
首を傾げながら去っていく。
すると気力が充実したのか、喜雨が立ち上がって伸びをする。
「…………午後はアレが来てもいいように隠れてるからよろしく。一応連絡出来るようにしとくから」
「そんなに嫌か……」
そういいつつ、私に偶然遭遇したときの甘寧みたいな反応してるので根が深いのだろうと納得することにした。
――side 曹操
とうとう来てしまった……。
予定通り私の陣でもてなして変なことしないか出来る限り目を光らせる予定だけど……。
「おーっほっほっほ! 相変わらずちんちくりんですわね、華琳さん!」
「相変わらず元気そうで何よりね」
無意識?に煽る友人に深呼吸して対応する。
「さ、早く案内してくださいな」
「……他の軍にわざわざ挨拶しに行くなんて明日は槍でも降るのかしら?」
「なに寝言を言っていますの? 美羽さんから聞いた『黄金の獣』とやらを見に行くために決まってるではありませんの。――先触れでも伝えたはずですけど……あ(察し)。……華琳さん、ボケ防止には頭を使うことが大切ですわよ……?」
「暗にめんどくさいし借りがある彼の心象悪くしたくないって言ってんのよその胸引きちぎるわよ」
「ひっ!?」
思わず本音が漏れたと思うと麗羽が後ずさった。
「姫、やっぱりアタイたちの誰か使者として挨拶する日取りと日時決めたほうがいいんじゃねえ……?」
「そうですよ麗羽様……」
「かといって美羽さんから聞いた通りなら気に入らない相手には一言も口きかないって言いますし、誰かに紹介してもらったほうがいいとおもったんですけどね……」
「――む? 客人かね?」
声のする方を向くと、
――ラインハルトが毛先が赤い薄水色の髪と赤い瞳をした見慣れない女性を侍らせてそこに居た。
「――」
「「「「…………」」」」
想定の斜め上を突っ走るような行動に言葉を失う私と彼を見て言葉を失う4人。
「いや、あなたも一応客人。ここ私の天幕、アナタ、孫家の人間。足並み揃えてるけど一応他人。理解してる?」
「無論だ。――ああ、見張りの兵士は普通に用事があると言ったら通してくれたぞ?」
……今見張りしてる兵士クビと思った私は悪くないはず……。
色々言いたいことを抑え、飲み込む。
「……ちょうどいいところに来たわね。――ほら、麗羽。彼がラインハルトよ」
「む。……私はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。……人に呼ばれるときはたいていラインハルトかハイドリヒ卿と呼ばれている。こっちは私の友人の『黄射』だ」
「……」
ラインハルトの紹介に無言で頷く黄射。
……洛陽に居たとき、みかけたような気がするのは……まあいいわ。
「……こっちの一番偉そうなのが袁紹。そっちの若草色の髪の娘が文醜。そっちのおかっぱの娘が顔良。そして若干痴女疑惑がある服とシニヨン*2キャップを左右対象につけてる娘が田豊よ」
「……なるほど、よろしく」
……田豊の服の下半身*3見て首を傾げていた。
……私だけしかおかしいと思ってたわけじゃないみたいで少し安心した。
「あのー、何故私だけ痴女疑惑つけられてるんでしょうか……」
「……気の所為よ」
「えっ、でも「気の所為よ」あっはい」
田豊の疑問を封殺してから、ぽーっと彼を見続ける袁紹の尻を抓ってやった。
「痛っ!? 何するんですの華琳さん!」
「馬鹿みたいにぼーーーーーっとしてたから大丈夫か軽く刺激しただけよ」
「華琳さん私は……っ!」
こちらに怒鳴ろうとした麗羽はハッとしてラインハルトの方へ顔をゆっくりと向けた。
「……ああ、こちらのことは気にする必要はない。――存分に久しぶりの友人とのじゃれ合いを楽しむと良い。私の用事はたいしたことではないのでな」
「いや、あの、その……」
「……どうやら麗羽、アナタが同じ金色の髪してるし、普段出会わない系の男性だからか普段通りに話せないみたい。――変な噂あるせいで萎縮してるのもあるけど」
助け舟出すのめんどくさいけど、何もしなかったらソレはソレで面倒な予感しかしない。
彼が自分から来たし、予定がご破産したので半ば自棄の行動である。
「それはあまり良くないな。――孫家の一人として名門との伝手を作れるという打算込だが、私で良ければ話し相手になろう」
彼が指を鳴らすと私の家具が一部いなくなって、代わりに客室にあるような椅子と長机が現れた。
……寝具は地味に貴重なモノ使ってるから絶対に返してもらわないと……。
「……あれ、ここには寝具が合ったはずでは」
「麗羽。彼は規格外なの。――彼や彼のお気に入り、彼の配下に常識が通じないと思っていたほうが精神的に良いわよ」
「……なる……ほど?」
首を傾げる麗羽たち。
一方彼はそんなの知らないとばかりに長机の長辺の中央側の席に座る。
私は諸々考えて短辺の側に、そして麗羽たちはラインハルトの反対側に座った。
「では手土産代わりの甘味を提供するとしよう」
再び彼が指を鳴らす(というか手袋してるのによく鳴らせるわね……)と、またたく間に机に取り分ける用の皿と三叉の
「……」
「すごい……」
「……」
「なあコレたべていいのか!?」
驚く3人を差し置いて文醜がラインハルトに問いかけた。
「――構わんよ。まだ有り余ってるしな。――ただ、甘味の欠点として、あまり食べすぎると太るがな」
「ならあたいはよく動いてよく寝てるし大丈夫だな!」
そういいながら一人先行して甘味をホイホイととっていき、食べ始めた。
……太らないのと寝てるところはあまり関係な……寝る時間が少ないと成長しないとか太りやすいとか聞いたことが……
今はそんなコトどうでもいいわね。
「麗羽? 食べないなら私がもらうし、私への手土産だから部下に振る舞うけど」
「いただきますわ!」
麗羽が我に返り、動き出したことで残る二人も動き始める。
「なんだこれ、すっげえ美味しいし甘い!」
「本当だ……どうやってつくった……あ、そういうの秘密なやつですよね」
文醜につられて顔良が聞こうとして、引っ込めた。
「材料と作り方についてはまとめた物がある。ほしければ用意しよう。――ただし、材料集めと調理中及び素材の温度管理関連がかなり難しいものばかりだ。それでも構わないなら甘味料理の本を贈呈しよう」
「あ、ありがとうございます!」
顔良が嬉しそうにお礼を言った。
「……随分と手慣れてる感ありますけど……」
「来る者拒まず去る者追わずで彼複数人の女と関係持ってるから」
田豊の疑問に乗じ、自分からは言わない情報を暴露してやったら、彼はただ頷くだけだった。
……思ったより反応が薄かったのが少し悔しかった。
「私が知ってるだけでも江東の虎やその娘の上2人、孫家の宿将連中も半分以上コイツの毒牙にやられている。実態は倍以上いると見ていいだろうな」
さっきから黙っていた黄射がラインハルトを後ろから刺すような事を言い出した。
……やっぱりどっかで見たことがあるような……。
「……来る者拒まずと華琳さんがおっしゃってましたが、苦手な人でも受け入れるんですの?」
「限度はあるがな。――権力に固執する者、血族の実績を自分の実績のように自慢するのが日常茶飯事の者あたりはお断りすることを真面目に考える」
「……」
わりと的確に麗羽を殺しに行ってない???
「まああとは……即座に拒否とはならんが心象が悪化していくことがある」
「……それは一体」
「――他者への感謝などが無い人間だな。たとえ『そういう役割であったとしても何かを頼み、やってもらったら感謝をする』。コレができないのを見ると悲しくなる。いや、悲しくなるのは語弊があるな。――人を道具のように扱う相手が果たして私を道具扱いしていないのか? と疑問が鎌首をもたげるようになっていくというだけだ」
「まー、たしかにひとことありがとう言われた方が嬉しいよな。あ、この皿に乗ってたのおかわり」
文醜がうなずきながらおかわりを要求している。
……食べ過ぎじゃない???
と思ったが私の部下ではないし、たぶん食べても太らない気がするからそっとしておくことにした。
「ひとまずこれでいいかね?」
「お、ありがとな!」
力関係的にはよろしく無いけど、文醜の偽りない言葉に満足なのか頷いている。
「……貴方は……焔のようですわね」
「急にどうしたの麗羽。どこか頭でも――あぶなっ!?」
こちらを見ずに鎧の篭手外してぶん投げてきたんだけど!?
あんなコトできるなんて初めて知ったわよ!?
「……ふむ」
ラインハルトは続けて、と言わずに先を促した。
出来たら篭手投げるなって言ってほしかったのだけど……。
「太陽と違い、手に届く。だけれど触れてしまえば貴方に飲み込まれる。遠くで見ている分にはキレイに視える。でも見てるだけでは物足りない。――そう思って近づき、気がつけば抗えない力で捉えられ、飲み込まれる……そんなふうに見えますわ」
……そう言えば麗羽は太学*4でも成績一位とかよく取ってたわね。
変なところ以外応用が異様に苦手だったけど。
「なら、人を、呑み込んでいく危うい私を排除するべきではないのかね?」
「理性のみで生きてる存在がいるなら、排除するべきというかもしれません。――しかし、美羽さんから聞き、私が実感した限り、私達が束になろうと傷一つつけられない。ソレに、私ももう『手遅れ』のようなので」
「(なぁ斗詩、麗羽様の何が手遅れなんだ?)」
「(多分惚れちゃって敵対しようと思えないってことかなって……)」
「(はえー……姫がそんなこと言うとは……)」
「猪々子さん、後でお話しましょうね?」
「うぇっ!?」
麗羽の言葉に横でヒソヒソ話してた文醜と顔良。
なお文醜だけ怒りの矛先になったらしい。
「……卿が何を思っているかはわかった。その上で言うが『来る者拒まず、去るもの追わず』そのあり方で私は基本あり続ける。それだけだ」
そういうと彼は机の甘味を追加してから立ち上がる。
「一つお節介をしておこう。……卿の強引さは強みでもあるだろう。――だがたまには部下の言葉に耳を傾けると良いかも知れぬな」
そしてそのまま去っていく。
……なんか、田豊が崇拝するような視線を彼に向け始めたのだけど、そんなに耳傾けてもらえてないのかしら……。
あ、黄射が慌てて天幕を出た彼についていった。
……あの後ろ姿……劉表の部下に居たような……?
「……あれ? 甘味の本……」
首を傾げる顔良。
そういえば渡すみたいなこと言ってたけど……あ。
「貴方の皿の側にあるわよ」
「えっ? いつの間に!」
「さあ? 私も今気がついたから」
私の言葉を横に本を開き、ぱらぱらとめくる顔良。
それを左右から覗き見する麗羽たち。
顔良が百面相してるあたり、本当に材料確保と温度の管理が難しいのかしら……
「……後で私ももらおうかしら」
いやその前に、他の軍に麗羽たちと顔合わせさせたり諸々すり合わせするのが先か……。
麗羽と彼の最初の顔合わせが思ってたより遥かに穏やかに済んだ分、楽な気持ちで次を考えることが出来、行動できた。
……麗羽やその部下が根回しや奔走するべきと桂花に疑問投げかけられて気がついた。
が、途中で投げ出せず、結局最後まで奔走したのはここだけの話。
……あ、寝具返してもらってない