――side 愛紗
「『――我らが属尽であり、義勇軍を以て賊を討伐の一助をした劉備には益州牧を任ずる。――皇帝を僭称し、黄巾賊の決起を促したとされる劉焉とその配下である張魯を、漢中太守の馬超と共に討伐し、益州に安寧をもたらすことを期待する。しかと励め』……」
小沛の城、玉座の間にて。
中央からの使者が出ていったあと、渡された書簡の内容を読み返して私達に再度事実を通知する桃香様。
「……(ほぼ)根無し草から州牧の出世はすごいよね!」
「……中原からはたいぶ遠くなったけど……」
電々と雷々が皆の言葉を代表して告げてくれた。
「……劉焉って人と、張魯って人を討伐させるために、取ってつけた勅とかないよね?」
桃香様はそう言いつつ、我々の参謀である朱里と雛里に目を向けた。
「その点については中央の思惑が読めないのでなんとも……。ただ、劉焉の討伐を我々に期待にしてるのは間違いないかと」
「しかしこれにより、大義名分は得られましたし、勅を見る限り討伐の目的は僭称していることなので、地位の返上と帰順させることができれば、現在の益州の国力をそのまま私達の地盤にできるかと」
「……ということは交渉で丸く収まれば最善ってことだね」
桃香様の言葉に2人は頷く。
「しかし、益州とは……大陸の真反対ですな。我々についていくと希望した兵士次第ですが、移動だけで相当な費用になるかと」
星(趙雲)がこぼした言葉に私は口を開く。
「移動に必要な物資と費用に関しては、後援者が居るので問題はない。使者を迎える直前に『あの方』から寿春経由、挨拶することを条件に制限解除の許可をもらっている」
「ラインハルトさんが? ……もらえるものはもらっておかないとかな。それじゃ、私は燈さんに連絡するから、皆は引き継ぎや同行希望者の一覧作成と、各自引っ越しの準備をお願い。来週までには出立するから、よろしくね」
「「「「はっ!」」」」
――side 翠(馬超)
「――ふざけるな!」
眼の前でいけしゃあしゃあと語る中央の使者に斬りかかろうとして、姉妹と従妹に取り押さえられる。
「……はて、馬超殿は涼州にて生まれ育ち、韓遂殿は『お亡くなりになられた馬騰殿と同じく』并州にて生まれた方ですよね?故に『生まれた州の州牧にはできない』という法に基づき、継承は認められません。故に『馬騰殿に次ぐ者』として韓遂殿を州牧にと、皇帝陛下が御指名しました。……勅に逆らうということは反逆の意思アリとなりますが……?」
「……!」
「お姉様抑えて!」
「お母様の遺言思い出して!」
歯噛みしながらも『涼州の地に縛られず、自由に生きなさい』という母の言葉を思いだして、藻掻くのを辞めた。
「……そして馬超殿には『漢中太守就任』の勅が出ている。漢中太守を僭称する張魯を討伐し、漢中を治めよ。そして劉備という州牧と共に、皇族の背信者となった益州牧僭称者である劉焉を討伐せよとのことだ」
使者は書簡を蒲公英(馬岱)に放り渡すとさっさと去っていった。
「……アタシだけだし、3人は
「何巫山戯たこと言ってるの!」
「戦と馬以外てんで駄目な姉だけで行かせられるわけないじゃん!」
「険悪でもない家族が離れ離れなんて悲しいこと考えないでよね」
「……お前達……ありがとう……。それはそれとして誰が戦と馬以外てんで駄目だって?蒲公英?」
「そこは感動で聞かなかったことにするのがオトナだよ!やっぱりダメダメだよお姉様!」
「なんだとコラ蒲公英! 扱いてやるから練兵場に行くぞ!」
――side 月(董卓)
使者の先触れから、汝南にて袁術への勅と共に私への勅も渡すので遅れずに来るようにと言われたため、私は慌てて袁術さんのいる汝南に向かった。
そして使者が来る前に間に合い、使者から勅を受けることになったのだけど……。
「――董卓の許昌太守の任を解き、新たに柴桑太守を任ずる」
「……はっ」
……軌道に乗ってきたところで他所に移されるの、これで何度目だろうか。
詠ちゃんが私の落ち込みに気がついて手を握ってくれた。
私は詠ちゃんの顔を見て頷く。
大丈夫だから、と言葉にしない代わりに。
「……袁術には豫州牧をそのまま、司隷校尉と執金吾を命じる」
「はっ!」
……思わず握った手の力を強くしてしまった。
慌てて緩めたあと、詠ちゃんに目で謝る。
別に大丈夫と返してきたけど、後でちゃんと言わないとね……。
「……以上だ。これにて失礼」
言うだけ言って去っていく。
私たちも、その場を後にした……。
「……というわけで、柴桑にお引越しになりました」
城の傍の宿に居た霞さんたちと合流して、宿のお部屋で報告。
それを聞いた恋ちゃんが何やら左腕の物を触れたりしてるけど……何してるんだろう。
「……柴桑、揚州の郡の1つ。なら揚州牧の孫策の所のラインハルトに連絡したほうがいいかなって」
「……たしかそれを使えば連絡できたのだったか」
華雄さんの言葉に恋ちゃんは頷く。
「……あ、返事来た」
「なんて送って、なんて返事帰ってきたんや?」
「『柴桑太守に月がなったからよろしく』って送ったら『許昌出立日を教えてくれれば、日をまたぐ前に柴桑へ送り届ける』って返ってきた」
「……それがホンマなら引っ越し楽やなぁ」
「ラインハルト、できないことはいわないから、本当にできると思う」
霞さんの言葉に恋ちゃんが首を横に振りながらそう答えた。
「とりあえず……州牧の孫策に挨拶するから引っ越しの後に時間取りたいことを伝えておいて」
「ん、わかっ…………『州牧は孫策から妹の孫権になった。州牧挨拶とかは、引っ越してから予定調整する』って連絡来た」
「……言い忘れただけならいいんだけど、会話聞かれてたのなら恐怖ね」
詠ちゃんの言葉に私たちは頷くことしかできなかった。
――side 麗羽
「文醜、顔良にそれぞれ幽州と青州の州牧を任ずる」
「「謹んでお受け致します」」
2人の返事を聞いた使者はさっさと去っていく。
「……麗羽樣、これは……」
真直さんが口にする前に手で制す。
「……私は白蓮さんたちのところに行きますので、二州制圧のための軍の編成と何進様に関する中央への働きかけを続けてください。それと中央に送る細作を増やすように」
「……はっ!」
……河北四州を治める立場になれましたけど、素直に喜べませんわね……。
私はその足で白蓮さんたちがいる部屋へと向かった。
――side 華琳
「……ここまで来ると病的ね」
使者が帰ったあと、私は肩をすくめる。
「遠征費用だけ考えればトントン、兵士や騎馬の損失考えれば赤字ですものね。中央は華琳様を恐れすぎですわ」
もらった金と遠征にかかった費用を頭の中で弾き出した栄華が顔をしかめた。
「まあ、洛陽時代に宦官のかなり立場上の人も規則違反で棒叩きしたのが尾を引いてるんじゃないっすかねぇ」
華侖が思い出すように言うと、当時を知る面々が頷く。
「……それより今後をどうするか、考えたほうが良いのでは?」
風(程昱)の言葉に皆が頷く。
「そうね。……今は領内を整備しつつ、他所……河北、河南との交易を支援。その中に表向き商人の細作部隊を紛れ込ませましょう。後は軍備を緩やかに増やしておいて。……このまま平穏無事に済む気がしないから」
「「「御意に!」」」