第三十三話 山越帰順と不穏な大陸情勢
――side ラインハルト
比較的平和な日々を過ごしていると、山越からの使者が来たと連絡が入り、城に行くことにした。
「――つまり金と引き換えに山越は戦力を出すと」
蓮華の言葉に眼下の赤毛の大男――山越の鬼人の異名を持つシグムンド――は頷く。
「そうだ」
「……山越は一枚岩ではないわよね?」
ネロの言葉に男は口元に笑みを浮かべる。
「問題ない。――オレに敵対する部族は長、あるいは全員始末した。山越はオレの下で1つの勢力となっている」
何人かがヒェッと声をこぼしたが、ネロは短く
「……そう」
とだけ答える。
雪蓮は少し考えるそぶり見せたあと口を開く。
「ちなみにどれだけ出せる?」
「2万。いくつか部族潰して構わんなら追加で2000ほど出せる」
こちらの陣営の全員がこちらに目線を向けた。
私に丸投げするつもりらしい。
「……現在所持している土地の放棄、山越の民全員の寿春への移住、寿春が敷く法の遵守を条件に寿春の民としての登録及び漢の民と同等の扱い、放棄した土地と同等の金か土地を用意しよう」
「ほう? いいのか?」
シグムンドの色々含んだ問いかけに私は頷く。
「寿春の復興はしているが郡全体でいえばまだまだ復興はできておらん。なんなら廃村状態の土地が6割超えてる県もあるくらいだ。そこに人が入るならそれに越したことはない」
寿春を乗っ取られるリスクはあるが、ザミエルとヴァルキュリアあたりをドバルカインにつけておけば問題なし。
代わりに揚州の真ん中に居座るようにある山越の支配域を手に入れられ、そこに手をいれることにより、揚州をより発展できる等のメリットがあるので漢の民と同等の権利を出してもお釣りが来るのである。
「……良いだろう。そちらの受け入れ体制が整い次第こちらも移住を始めよう」
「すぐ始めて構わん。受け入れ体制自体はととのっている。早馬で連絡すれば良い」
手を差し出してきたので私も歩み寄り手を取る。
「……ふむ……そちらの部下として娘をつけても構わんか?」
シグムンドの提案に対し、私が答える前に蓮華が口を挟む。
「一応教えておくけど、彼に色仕掛けは通じないわよ?」
「ほう?これだけ美女に囲まれていれば目も肥えるか」
「違うわよ、ここのほとんど彼の手付きだし手付き全員で相手しても余裕ある体力おばけだから彼を籠絡とかするのは無謀ってこと」
それを聞くとシグムンドは余裕そうな顔から困惑の色を滲ませた。
「……それでも構わんなら好きにすると良い」
私が手を離すと頷いてから
「そうさせてもらおう。……今日はこれで失礼しよう。移住の第一陣に併せて此処に娘を送らせてもらう」
そういうとシグムンドは踵を返し、去っていった。
「……ついでにみんな集まったことだし、明日の定例会議を先取りでやっておきましょうか」
「「「「「賛成」」」」」
蓮華の問いかけに全員が賛同する。
「とりあえず内政の方、どうかしら」
「寿春以外はいずれも黄巾賊発生以前の安定した状態ですな。作物の方は収穫も安定しており、試験的に品種改良したモノを取り入れたところでは収穫増の報告をうけておりますぞ」
蓮華が話を振り、雷火が答える形で揚州の報告を告げていく。
「……不正問題の処理をして多少ごたついたとはいえ、寿春以外は概ね安定してるわね」
ホッとした顔をする蓮華。
「では次に大陸の情勢の報告をさせていただきます」
レナルルがそう告げると皆の纏う雰囲気が引き締まる。
外の情勢次第で仕事が増えたりするのもあるからだが。
「涼州は馬騰亡き後、韓遂による統治で安定しております。一応馬騰の知己ということで細々と友好関係を持っていますが問題ないでしょうか」
「良いんじゃね?馬騰の娘の方は劉備のトコいるらしいし、そっちにも季節の挨拶と贈り物欠かさなきゃ」
炎蓮の言葉にレナルルは頷く。
「次に益州ですが、州刺史の劉焉が朝敵認定され、劉備が州牧に任命されたたため、益州に入りました。その後、劉備軍に馬騰の長女馬超とその家族が合流し、漢中の張魯を帰順させたとのこと。現在劉備に敵対する勢力を帰順、討伐し、益州統一を行っているようです」
「劉備の監視はラインハルトに任せていいわよ。愛人いるしね……?」
ジト目を向けてくる蓮華。
嫉妬深いのも私は愛してるぞ?
アイコンタクトしたら照れ出した蓮華を嗜めるように咳払いするレナルル。
「……続いて豫州は引き続き袁術が州牧をしており現状維持。特に変化はありませんが……本人は張勲とともに洛陽にいるようです」
「……いないほうが平和だからいいんじゃない?」
詠の言葉に旧董卓軍の面々が頷く。
「……その洛陽ですが、袁術が皇帝に度々呼ばれおり、名門閥とも宦官閥とも距離をおいているようですね」
「……なんかきな臭いから、そのあたりの細作増やしておいて」
雪蓮のカンはよく当たる。
「かしこまりました」
なので提案はすんなり通るのであった。
「次は徐州、交州、荊州ですが、特に動きはありません」
「交州の爺、そろそろくたばらねぇかなぁ……」
炎蓮のボヤきに目線が集まるがレナルルの報告は続く。
「最後に兗州及び河北四州です。……ここが一番きな臭いですね。曹操、袁紹配下の軍が頻繁に小競り合いをしたり、互いの州の豪族に暗殺依頼や反乱の教唆をほのめかす手紙などの不穏な火種がばらまかれており、烏桓あたりには曹操の名前で幽州割譲を条件に袁紹討伐を文書でやりとりしてるという噂もあります。……戦闘が起きるのも時間の問題かと」
「……曹操陣営は末端の兵士も精鋭だが数は少ない。その上蝗害の予兆を掴んでそちらに兵を割いている。袁紹陣営は兵数こそあれど練度は低い上、青州や幽州の復興に手を回しているから外に目を向ける余裕もなし。外部からの干渉……中央の宦官閥と名門閥の代理戦争かもしれんな」
知りうる情報を開示しつつ、あり得る可能性を口にする。
「……たしかに曹操の祖父は宦官で、袁紹は名門ですけど……そのためにそれぞれの閥が火種を拵えてると……?」
亞莎が困惑した顔をする。
「……可能性はある。……蓮華。状況によっては独断専行するが構わんかね?」
「だめだと言っても止めないクセに。……どうせ負けそうな方の武将を保護したいとかでしょ? ウチじゃ面倒見ないから、劉備あたりに押し付けなさい」
「わかった」
妥協案を先に出されたので素直にそれを飲む。
「とりあえず、目下は平時の状態で内政に注力ね。文官組はいつもの仕事に加えて山越の寿春移住と移住後の山越支配域の調査よ。武官組はいつもの調練に加えて山越移住の護衛や山越支配域の調査の護衛になると思うから、動けるように最低限の準備しておいて頂戴。 それじゃ、解散」