――side ラインハルト
「つーわけで、黄祖っつーちょっかいかけてくるやつ〆てくるから、蓮華、シャオ、穏、雷火、明命、亞莎、ラインハルトは留守番な」
ある日の朝、唐突にそう告げられ、兵士3000を集めて炎蓮たちは出立した。
「……拙速は巧遅に勝るというが、前触れがなさすぎるな……」
「大殿の決断力と行動力は常軌を逸しているが、そのおかげで乗り越えた苦境や詰みから打開出来たことが数え切れぬほどある。思うところはあるが、文句は言えん」
出立から約1時間後――書簡の嘆願などを処理しながらぼやいた言葉に雷火が反応して答えてくれた。
「……そういえば亞莎とか言った小娘……明命から気と暗器の扱い学ばせるのは良いが、儂から文字や文学・礼節、冥琳から軍師の知識、穏から歴史の勉強をさせようと思った? 言い方悪いがアレが勉学できるようにはあまり見えんのだが……」
「――なんとなく、と言ったら怒るかね?」
私の言葉にため息混じりの雷火。
「…………お主にだけ見える何かがあるのだろう。とりあえずはそういうことにしておいておく。――実質お前の部下だからな、大殿とあの小娘、お前の同意で大殿の家臣になるまで、お前の部下……陪臣のままだ。その間の尻拭いや面倒はちゃんとやれよ」
「無論。――孫家が人の道を違えぬならば、いずれ亞莎は一廉の将として、采配を振るい、軍師としてその知略を孫家のために振るって見せるだろう。――内政官として何処までできるかは……未知数だが」
「育ててみねば分からぬところがあるのは人も作物も同じか……儂も筆頭内政官と呼べる者の育成を考えねばな」
思うところがあったのか、ぼやくように零す。
そしてこちらを見て
「もし在野や下級文官のまま燻る者でお主のお眼鏡にかなう者がいるなら、推挙してもらうかのう」
と冗談めかして言う雷火。
「そんな人物がそうそういるとは思えんが、居たら推挙しよう」
そんな軽口を叩いていると、扉を開いて一人の女性が入ってきた。
金色のボブカットに近い髪型をし、青い目をしている。
服装は……質のいい古着をアレンジしたようなモノに見える。
「城から書簡が届きました」
「ご苦労」
雷火はうなずいてねぎらいの言葉をかけていた。
「では失礼して――「少し待て」」
私はその女性を止めた。
「……何でしょうか」
「――イオナサル・ククルル・プリシェール」
「! どこでその名前を――」
驚いて言葉をこぼしたか、ハッとして口をふさぐ。
「雷火、彼女を確保するんだ!」
机を視点にバク宙して入り口を塞ぐ。
「藪から棒にどうした!?」
「この娘、十中八九前世に大国の宰相をしていた有能なやつだ!絶対に逃してはならん! そうだろう、レナルル・タータルカ!」
「なぜ私の前世の名を……!?」
「卿のジェノメトリクスにイオンと入ったこと*1もあれば、知らないうちにイオンの心を治す手伝い*2をしたりと卿とは何かと縁があったのでな!」
「えっ、まさかアーシェス……!?」
「すまん儂話についていけてないぞ!?」
アワアワする雷火を横に、私は彼女に告げた。
「――悪いことは言わん。私が推挙しよう。孫家の内政を担ってもらおうか。何、サボりがちのネイの代行分もやっていた宰相時代に比べたら仕事量は天と地ほど差があり、確実に楽でやりやすいはずだ……! それに卿の実力を発揮すれば給金も弾むはずだ、そうだろ? 雷火」
「お、おう。儂並に働くなら数年で屋敷建てられると思うぞ?」
「……!そ、それは……」
「悪い話ではないはずだ。さあ、どうする?」
「――ということで抜擢した
「是儀、字は子羽、真名を
「オレたちが小競り合いしてる間に何してんだ……雷火の肩の荷が下りるっぽいし良いけどさぁ……」
そこそこホコリにまみれ、帰ってきた炎蓮たちとの定例会議にて彼女を紹介したところ、ジト目で見られた。
「あ、ラインハルト様には、イオン……妹に会ってもらいますのでよろしくお願いします。――アレだけのことしたのですし、責任、しっかり取ってくださいね」
しれっと言われた一言で私はいくつも驚きの事実と逃げてはいけない宿命を突きつけられた。
「おい、お前いつの間に城から出て女に手ぇだしたんだ!? オレ知らんかったぞ!?」
目を丸くする炎蓮。
「残念だがこの地に降り立ってから今までに城からは出てない。――かといって城に誰かを招いた覚えも、ない。――もっとも、その件の娘とは……うむ……」
前世云々の説明どうしようか悩んでいたが、その前に炎蓮が爆発した。
「どういうことかキリキリ吐けよラインハルトォ!!!!!! 正妻……一番と決めた女がすでにいるならそうといえば攫……迎えを出して連れてきてやったんだぞ! もっと早く言えよ! 天の国にいるならどうしようもなかったがこっちにいるならなんとかしてそいつに話つけて一夫多妻認めさせることできるだろうが!!!!」
「怒る理由が不純かつ流石に露骨すぎるわよ、お母様!」
炎蓮の言葉に流石に突っ込む雪蓮。
「詳しくは追々話す。とりあえず彼女が文官仕事することは伝えた。あとはよしなに」
私はそう言って逃げ出すことにした。