自分の生まれる前、親が何をしてるか気になった3人。
彼女たちが雷火から話を聞いたところ、とんでもないことをやらかしてたようで……?
『眠らぬ獣の優雅な?一時』
睡眠がいらないつよつよぼでーのラインハルト。
何を思ったのか誰も居ない厨房で料理を始める。
今回はフグ鯨がメインの食材のようです。
孤独のグルメかにぎやかなグルメかはてさて……?
拠点にて その1
『孫三姉妹、母の軌跡を聞く』
――side ラインハルト
雷火、冥琳、穏、レナルル(と自主的に書類運びなどの雑用を志願した亞莎とイオン)とともに書類仕事をしていると、雪蓮、蓮華、シャオが押しかけてきた。
「どうなされた? なにか仕事で不備がありましたかな?」
心当たりがない雷火が代表するように、首かしげて問いかけた。
「お母様のこと……特に昔の事とか、色々教えて頂戴?」
シャオの切り出した言葉に雷火がしばらく意味を理解できないのか硬直した後絞るように告げた。
「……本人に聞けばよろしいのでは?」
「それがさー、『昔のことなんざ忘れた、雷火や祭あたりから聞いとけ』の一点張りなの」
「たぶん自分の黒歴史を自分の記憶から忘却してるわよ、アレ」
シャオと雪蓮がため息混じりに理由をこぼす。
「祭からは徐州で初めて出会ったときの破天荒ぶりや、私たち妊娠してて明らかに重いおなかのまま賊討伐してたことは聞いたけど、その他の期間どんな風だったのか、知ってる?」
蓮華の言葉にうーーむと唸るように筆を止めてこめかみのあたりを指で刺激する雷火。
興味あるのか自分以外仕事が疎かになっている。
「廬江太守になる前、揚州刺史直下の司馬*1として、揚州各地を転戦してた時期がありましてなぁ。……そのおかげか当時の豪族や商人、各地の太守や県令と面識を得ましたな。アレが今の孫家の安定に一役買っているのは事実。実際、今でも大殿の管轄外にいる者の何割かとは時候の挨拶以外で大殿と文を交わしております。……ただ、たしかそのあたりで揚州の四姓のドラ息子をぶん殴って揉めたせいで揚州の四姓が今でも距離を置いていると記憶してますな」
「ドラ息子云々、何があったのかものすごく気になるんだけど」
シャオが目を丸くする。
「大殿以外の当時の関係者が全員墓の下らしいので、詳細と真実は不明ですな」
「本当に何があったの!?」
「いや、純粋に関係者が大殿以上の年でお三方からすれば爺婆の一つ上の世代くらいの年ですからな。……まあ、大殿黙っていれば美人ですし? そのドラ息子は金で女買い漁っておりましたので、おそらくは……」
尻すぼみな言葉に殆どの面子は察して諦め気味に納得した素振りを見せる。
「母様なら怒って殴りつけるくらいしそうね」
「昔はもっと手が早かったらしいのにその場で斬らなかったんだ……」
「お母様ああ見えて完全に頭に血が上ること無いらしいから……」
三者三様の感想を述べる三姉妹。
「他に印象に残ることと言えば、無計画大陸横断旅行ですな。儂、大殿、祭、粋怜の四人……たしか粋怜と大殿が面識持ったばかりの頃でしたな……。大殿が洛陽見に行こうと言い出してロクに荷物もなく出発しましてな……」
遠い目をし始める雷火。
「――洛陽行くまで路銀尽きかけたり、大殿ら3人で虎狩りして盗賊から金を巻き上げて路銀稼いだりしましたし、洛陽で半月ほど物見遊山したあと帰ると思えば、洛陽で馬に乗って気に入ったのか『涼州で馬買うか』と涼州まで行く羽目に……」
「ら、雷火? つらいなら思い出さなくても良いのよ?」
蓮華が困惑しながらそういうも、雷火は止まらずに語り続ける。
「涼州の馬騰という太守の馬褒めて意気投合したあと、馬譲って欲しいと言い出して値段知らずの大殿が家畜以下の値段で請求し、馬騰殿を怒らせて喧嘩になったのはもはや遠い思い出ですな……」
「喧嘩した末にその馬が種付した仔の一頭だった焔って名前の紅い馬もらって、炎蓮様はたしか……続討伐で手に入れた紅玉の髪飾りや一抱えくらいの銭と絹織物を渡してたわね」
いつの間にか会話に割り込んでいる粋怜。
「帰りは帰りで馬がいるからあまり船は使えず、橋を探して遠回りしたり、馬に乗って飛び越えたり、無理やり渡ったり……大変だったわね……」
粋怜も遠い目をし始めたぞ……。
「……なんか、その……ごめんね?」
いたたまれなくなったのか、シャオがそういうと、雷火と粋怜は首をふる。
「もう過ぎたことですしのう。それに見聞を広め、学べたことも多かったのも事実」
「普通なら会うこと無いような人とも面識持てたのもあるので、とても良い経験なんですけどね……」
宿将2人の言葉に頷く一同。
「……私が旅行するとなったら、冥琳とラインハルトに頑張ってもらうから大丈夫かな」
「非公式とはいえ、孫家で保護してる天の御遣いをどうこうさせようとしないでください、お姉様……」
「そーだよ! 旅行するならシャオとラインハルトの新婚旅行が先!あ、もちろんイオンとラインハルトの新婚旅行が先だけどね」
雪蓮が零す言葉に反応する蓮華とシャオ。
前者はともかく、後者は私欲に塗れている。
「……あなた? シャオちゃんに手を……?」
「今のところ卿以外に手を出しても出されてもないからな?」
イオンの疑いの言葉から話は脱線していき、仕事が詰まった文官の腰の低い状態での指摘が来るまで雑談が続いた……。
……私は仕事ちゃんとこなしたからな??
『眠らぬ獣の優雅な?一時』
――side ラインハルト
夜寝静まった頃。
イオンを寝かしつけ(意味深)たあと、厨房に来ていた。
手には極楽米(グルメ界産)を宝物庫で仕込んだ精米歩合*240の日本酒の入った大瓶と毒抜き済みのフグ鯨数匹が入ったクーラーボックス。
「竈の炭は……問題なし。薪入れの薪が少ないな。足しておいて……」
灰の中にあった赤熱する炭や薪入れを確認。
すぐ使う薪を足元におき、何時でも竈へ放り込めるようにセット。
そのまま宝物庫から取り出した小鍋に酒を注いで鍋にそこそこの水を張る。
鍋に小鍋を置き、浮かばないことを現場猫風にヨシッ!としたら、次の作業。
包丁でフグ鯨をさばき、ヒレは取っ手のついた金網の上にのせ、平行して残りを捌く。
刺し身と茶漬け分として選り分けたら竈に薪を放り込み、次の段階へ進む。
三口ある竈にそれぞれ、マグロ節を少しばかり入れた水入りの
それぞれの様子を見つつ、薬味や調味料、梅干しなどの付け合せを用意していく。
「何しとるんじゃ?」
不意にかけられた声に反射的に振り向くと、祭、穏、冥琳、レナルルが厨房の入口から覗いていた。
「――夜食だ。卿らも食べるかね?」
「いや、私たちは勝手に厨房を使ってることを咎め」
冥琳の説教タイムは、腹の虫によって始まる前に終了した。
「酒精の匂いもするが、大殿や雪蓮殿に振る舞った酒ですかな?」
祭の言葉に私は首を横に振りつつ、炙り終えたヒレを鍋から取り出した小鍋にいくつか放り込み、次の小鍋をセットして鍋の上に乗せる。
「アレよりも美味いものだな。……しかし前のものと方向性が違うのでな、誰か味見して2人の舌に合うか見てもらえぬものかなと思っていたのだが……」
「その口車に乗ってやろう。のう、冥琳」
「いや、私は」
祭の言葉に反論しようとする冥琳。
だが、彼女の肩に手を置いた穏の言葉を聞いてしまう。
「冥琳さん、お腹すいてるのにこんな美味しそうな匂いを我慢するんですかぁ?――できるんですか?」
「……!」
二度目の腹の虫の音と共に膝から崩れ落ちる冥琳。
「……ご相伴預かります……」
最後のレナルルだが……
「今生の妹の旦那様にして、上司であらせられるラインハルト様のお誘いを何故無下にできましょうか」
言うまでもなかったらしい。
「フグ鯨の刺し身と湯漬け、酒はこだわりの酒にヒレを入れたヒレ酒の熱燗だ」
「いい匂い……!」
「早速いただくとしようかのう」
祭の言葉と共に3人が箸を手にするが――
「この世のすべての食材に感謝を込めて、いただきます」
「いただきます」
私とレナルルが手を合わせてそう言ったので3人も真似していただきますと各々告げた。
「これは……天の国での作法で?」
穏の言葉に少し困りつつ答える。
「一部の地方でやっている作法だな。食事を食べられること、食材となった生き物の命を頂いていることを忘れぬためのな」
「食事を、命を馳走になったことに感謝するためにごちそうさまというそうです」
「食に感謝か……たしかに大切じゃのう……」
そう言いながら猪口に酒を注ぎ、一口含む祭。
「むっ、これは……!」
「どうしました?」
穏が首傾げながら問いかけると、祭が興奮気味に口を開く。
「口を付ける前に芳醇な香りが鼻を満たし、含んだ瞬間辛さと共に広がる旨味……!舌に広がる辛味と酒の味……! 喉に残る酒精……! 素晴らしいの一言に付きますな!」
その横で湯漬けを一口ゆっくりたべてから、どこか色気ある吐息を吐いた後、面白そうに口を開く。
「……湯漬けと言われていましたが、何やら湯の方にひと手間加えられてますな?」
「マグロ……こちらでは
「湯の時点でほんのり色が付いておりましたから」
冥琳の洞察力は腹ペコでもしっかりしてるようだ。
「イオンが刺し身といえば醤油とわさびと言っていましたが……なるほど、量に気をつければいい香りと味になりそうですね……」
わさび醤油をつけすぎて撃沈しながらレナルルも感想をこぼす。
「辛子と酢、緑色のお塩で食べるのもまたいいものですね。色々食べ比べるのも面白いです」
穏もちびちびと酒を飲みながら刺し身や湯漬けに舌鼓を打っている。
「――ラインハルト殿、おかわり!酒も!」
「!? もう食べたのか!?」
「昔に戻った気分じゃよ。不思議じゃのう!」
祭から突き出される椀ととっくりに目を丸めながら私は受け取る。
「……そういえば祭殿最近箸が進まないと言ってましたな……それでも一人前は普通に平らげていましたが」
「確かに。……はて、心なしかお肌の艶が格段によろしくなってますねぇ……」
冥琳の言葉に同調するように穏も首を傾げてる。
「おそらく料理のいずれかが祭の身体に合ったのだろうな。――医食同源と言うし、特殊な食材には人の身体を活性化させる力を持っているからな」
「……他にも色々食材あるのか……よし、4日に一度その特殊な食材の料理を作ってくれ。さながら秘密の夜食会といったところか。もし見つかっても儂の所為にすれば良い。――夜食を作ってること、大殿に知られたら大事になると思うがどうかのう?」
「……卿の舌にあうかどうかは保証できんぞ?」
私は乗り気でないことなど言外に伝えるが
「構わん。お主なら食べれんものを出さんじゃろ。――作っておるときのお主の目は、料理人のソレじゃったしな。信じられるわい」
期待されては仕方あるまい。
「……ま、バレなければな。――ソレとは別に私は私の気まぐれで夜食などはやるつもりだ。そっちは分ける分はまあ無いと思うのでなくても怒らぬようにな」
そんな感じで大人5人、のどかな時間を過ごした。
「ごちそうさまでした」
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
もちろんごちそうさまと後片付けは忘れてない。
孤独のグルメもいいが、にぎやかなのも良いものだ。
――なお朝の朝礼開口一番に祭が匂いを指摘され、祭が速攻で詰められて白状したので秘密の夜食会は第一回?で頓挫したのであった――。
他4名は匂い消ししてたため告発されるまでバレなかった。
炎蓮の機嫌取りにその日の半日費やしたのはご愛嬌……だろうか……。