あんまり戦わない宇宙戦艦ヤマト   作:レイテンシー

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2199で細かく設定された登場人物の年齢、誕生年をほぼ無視しています。ヤマトが飛び立つまでに10年ぐらいかかったって話をしようと思ったら登場人物全員若すぎるので許してください。




















第1話 イ号研究会

西暦2191年 国連宇宙軍極東管区 イ号研究会

 

結論から言えば、地球人類にとっての22世紀の終わり、つまり西暦2190年代は非常に忙しい10年となった。

 

最悪の浪費と称された内惑星戦争を経て、人類史における待望のファースト・コンタクトを経験した。しかも、二つの異なる勢力からである。

 

「我々は、この二つの勢力をそれぞれイ号とガ号と呼称することに決めた」

 

国連宇宙軍極東管区の小さな会議室で、技術科の真田志郎はこう切り出した。

 

接触したETI(地球外知性)が自らの名前を公表しているため、その存在を秘密にする意味はない。しかし、非公式な略称を使用することで、相手がどの程度の情報を知っているのか、あるいはどれだけ深い話をしたいのかの判断が容易になる。

 

「ガ号に関しては、多くが報道で知られていることだろう。なので、ここではその詳細を省いて、イ号の方について説明していきたい」

 

後に詳しく触れることとなるが、技術的に高度であると推測されるイ号よりも、太陽系に大質量の物体をワープさせたガ号の方が、より多くの注目を浴びている。これは、23世紀に入ろうかとする現代においても、砲艦外交が有効であることを示している。

 

しかし、なぜ二つの勢力を分ける必要があったのだろうか?イ号とガ号は、ほぼ同じ星系からの接触である。

 

同じ星系の勢力から別々に連絡が来る可能性はないわけではない。国連と名乗る我々でさえ、地球圏を一枚岩としてまとめることは出来ていない。それは、二度の内惑星戦争が証明している。

 

もし地球と火星が異星文明に別々に連絡を取った場合、今のような状況は生じるだろう。異星文明へのコミュニケーションを一元化して『代表』することの困難さは理解できる。

 

ただその場合、接触された側で吸収すれば良い話である。この場合、地球がイ号とガ号をまとめて取り扱ってしまえば良かったのである。

 

二つを区別する理由は明らかだった。それは二つが異質だからである。

 

「イ号、つまりイスカンダルの正体はこれだ」

 

真田が手を中央のテーブルにかざし、そこに置かれていた物体を指示した。

 

その物体は、全員が会議室に入った時から気になっていたが、ラグビーボールほどの大きさと形で玩具のようだった。

 

会議に入る前に指摘が出なかったのは、真田が技術部でも『優秀だが変な人』との評価を受けていたので、これも彼の変わった趣向の一つだろうと思われていたからだ。

 

「恒星間文明のものとしてはずいぶん安っぽいな」

 

会議で最も年長の沖田十三が率直な感想を述べた。彼はその場の長老として全員の本音を代弁する役割を自認していた。

 

「やっぱりイ号はただのいたずらだったので?」

 

誰からの声かは分からないが、このファースト・コンタクトが単なるいたずらであるとの意見は世間でも広く聞かれた。

 

ガ号として確認された存在が広く認知されたのは、彼らが民間の宇宙愛好家からも確認できる非常に大きな旗を掲げたからだ。一方、イスカンダルについての情報は少なく、一般的にデマと見なされていた。

 

「違う、これは明らかに地球外からの接触だと判断している。実は、この遺物はファースト・コンタクトの前から地球にあった。我々がこの遺物を発見したのは、ガ号、ガミラスからの情報を元にしている」

 

ガミラスは太陽系に到着して以来、人類と頻繁にコミュニケーションを取っていた。その一環で、地球にすでに別の文明が到着していることを知らされたのである。

 

提示された情報は一連の番号で、国連暗号部門の総力をあげてその真意を解読する努力が始まった。しかし、結果として、日本のある博物館の蔵書管理番号そのものであったことが明らかになった。この発見は公表はされていない。

 

「この波動コアと名付けられた物体は、奈良の大和ミュージアムの書庫から発見されたものだ。正確には文書の一部として木箱に保管されていて、収蔵されたのは1940年代らしい」

 

この物体が奈良の博物館に移されるまでの経緯は紆余曲折ある。しかし、データベースへの登録と保管が行われたのは文化庁の歴史保存プロジェクトの一環だった。

 

このプロジェクトは一部からは税金の無駄とされていたが、意外な場面でその価値を証明した。

 

ガミラスが地球の一地方の蔵書番号を知っていた理由は不明だが、後々知るイスカンダルの奇怪さを考慮すると、それは些細なことのように思える。

 

「光るのは元からの仕様なんですか?」

 

戦術科の古代進は、パイロット出身の士官らしい率直な意見を言うタイプだ。

 

波動コアには本体を輪切りにするようにいくつかの線があり、その線上に点々と光が走っている。これが玩具らしい雰囲気を醸し出している。

 

「もちろん収蔵から一切、手は加えられていない。当時から既に光っていたらしいので、250年以上ずっとこうだったはずだ」

 

文化庁のデータベースによると何度かの移管時の形態チェックも特に問題はなかったため、ずっとこの状態で光り続けていると思われる。250年も形態が変わらないのは別の意味で異常であるが、チェックリストにはそんな項目が存在しないので気付けなかった。

 

「具体的な検証はまだ行われていないが、イスカンダルによるとこれは永久機関の一部とのことだ」

 

それならば光り続けていてもおかしくはないのかな、と古代は思った。

 

真田は続けて古代に波動コアを手に取ってみるよう勧めた。親しげなやり取りだったが、二人は古代守という共通の知人を介して繋がっている。

 

波動コアに触れた感触は滑らかだった。空虚な見た目よりも少し重い。熱はなく金属のように少し冷たい。何か気のせい程度にピロローンと聞こえるような気がする。

 

「両端にボタンのような部分があって、押すと光る周期が変わる。遅い、普通、速いの3つのパターンの繰り返しになっていて、オフにすることはできない」

 

実際に古代がボタンを押してみると、真田の説明通りの動作をした。それ以外の機能はなさそうだった。今時の玩具はもっと高度だ。

 

真田が古代に回覧するよう促した。波動コアを隣の女性士官に渡す。彼女の名前は森だったと記憶している。

 

外宇宙からの謎のアイテムを雑に触って回ってもいいのか疑問に思うが、真田が問題ないと言っているので、それを信じることにした。

 

「これはどういう経緯で収蔵されたんですか?」

 

航海科の島大介が波動コアを手にしながら問いかけたが、無意識に沖田の方を見てしまった。

 

「老人だからといって、昔のことを全て知っていると思うな、島」

 

沖田は航海科の出身で島の先輩にあたるが、二人に直接の面識はない。もちろん沖田が20世紀の事を知っているわけもないが、少し厳しく当たられているのは同輩だからだ。

 

「わからない。これを作ったのか、それとも見つけたのか、どちらかもわかっていない」

 

真田が代わりに回答した。異星の遺物であるから作ったはありえないが、所蔵の資料には『付随物アリ』とだけしか記載されていなかったので、具体的な背景や理由は不明だった。

 

やはり文書はちゃんと書かないといけない。

 

 


 

 

一周りして波動コアが真田の手元に戻った。

 

「おそらく全員が、イスカンダルとどうやってコミュニケーションをとっているのか疑問に思っていると思う」

 

人類はイスカンダルとコンタクトした、と主張しているのであれば、コミュニケーションをとっているはずだった。

 

端末(ターミナル)を見てほしい、と真田に促されて、参加者たちはそれぞれの端末を操作し始めた。この2190年代の個人端末には、協同AIという個人レベルでの意思決定を支援するシステムが搭載されている。

 

AIとの対話により使用者のタスクを見つけ出すものであったが、その応答に明らかな第3者が介入していた。

 

<<はじめまして、私はイスカンダルのユリーシャ。あなたのイスカンダルへの旅をサポートします。何か質問があれば、遠慮せずに聞いてください>>

 

そもそも第3者が参加できるようなシステムだったのか、旅とは一体どこへ行くのか、そしてなぜ21世紀初頭の対話AIのような持って回った言い方なのか、疑問が山積みだった。

 

しかしこのメッセージを目にした出席者全員が持った第一印象は『手の込んだイタズラ』だった。

 

「イスカンダルは波動コアの近くにある電子機器に直接介入して、こういった応答を行う。ほかにも例えば…」

 

真田はただのテキストアプリを起動し、そこでイスカンダルを呼び出した。1行空けて、次の行でイスカンダルが挨拶した。

 

次に端末の通信を断つモードに切り替えた。この状態では、端末は外部からの通信を受け付けないはずだが、端末に機内モードに切り替えましたね、とイスカンダルから通知が入った。

 

そして、端末を通常モードに戻してWeb検索を行うと、検索結果のプロモーション欄でイスカンダルが代わりに答えていた。

 

「波動コアの近くにいれば、どのような状態であっても、イスカンダルは我々のあらゆる電子機器に介入して存在をアピールしてくる」

 

と真田は解説した。しかし、それを受けた皆の顔色は一様に暗かった。真田は淡々と語り続けた。

 

「これまでの説明だけでは、技術科による手の込んだイタズラなのか、地球外からの接触なのかを判断することは難しい」

 

参加者たちの緊張が和らいだ。なんとなくこの疑念を持ったまま、話が続くのではないかと不安だったからだ。

 

「だが、君たちはイスカンダルとの接触を取り扱うために選ばれてここにいる。疑念を抱きつつも、我々は任務をしなければならない」

 

その言葉に、出席者たちの表情は再び険しくなった。一番受け入れたくない理由で納得しなければならなかったからだ。

 

イスカンダルの存在を証明するためには、人類が日常的に用いる知識の全てを把握している必要があった。現代技術に紛れるその存在を真と確認するためには、人間による技術介入を完全に排除しなければいけないからだ。

 

技術科の中でも、極東管区でそれができるのは真田を含むわずかな人間だけだった。

 

ただ、通信機能も持たないアンティークなワードプロセッサにイスカンダルが現れることを実演すると、出席者の多くはイスカンダルを受け入れた。

 

一方、ガミラスがETIであることを証明するために用いた方法は、より直感的で理解しやすかった。彼らは木星に影を作るほどの大きさの物体を太陽系に持ち込んでいた。

 

世間は高度に集積されたデバイスが干渉されることよりも、単純な望遠鏡で見ることができる微小な影を信用した。

 

「波動コアから応答が返る範囲はどれくらいですか?」

 

船務科の森雪が質問した。彼女は早めに心の整理をし、イスカンダルの存在を認めて業務を開始していた。

 

「一部屋分だ」

 

森は納得できない表情をした。真田の答えがあいまいだったからだ。

 

「わかりにくいとは思うが、波動コアの応答範囲は我々が概念として捉える一つの部屋の中となっている。波動コアの特性を従来の機械と同じようには考えない方が良いようだ」

 

波動コアは衝立さえなければ大きな体育館のような場所でも一部屋として認識する。より大規模なコンサートホールでも同じだった。

 

驚くべきは屋外実験の結果だった。事故だったが屋外で行われた質問は、瞬く間に地球表面の全ての端末に共有された。さらに驚くべきことに、火星までもがその範囲であり、タイムラグが一切なかった。

 

「過去の屋外での実験結果は、広域通信障害として処理された。以降、イスカンダルとのコンタクトは必ず室内で実施し、実施しない時は波動コアを箱に収納することとなった」

 

真田が注意を促した。そういえば少し前に変な一斉送信があったな、と古代が思い返す。

 

「電子機器にはどのように介入しているのですか?」

 

通信担当者からの質問だ。通信理論を学んでいる者にとっては当然の疑問だろう。

 

「わからない。おそらくメモリ内の量子状態を遠隔で変更しているのだと思われるが、具体的な方法はわからない」

 

この時代の地球のコンピュータは、限定的な量子演算機だった。普通より並列計算が少し得意なだけで、かつて量子コンピュータに期待されたような魔法みたいな性能は持っていない。

 

イスカンダルはその魔法を使っていた。そして、量子の特性上、観測しようとすると動作を固定してしまう。つまり外部からの検証ができなかった。まあ、量子演算機でなくてもイスカンダルは介入するのだが。

 

「本当に波動コアが応答しているのですか?」

 

少女のような船務科の士官候補生が尋ねた。

 

「イスカンダルの応答は空間的制約を無視している。なので、現在の我々の技術力では、波動コアが応答しているのか、地球外から応答しているのかを判別することは出来ない」

 

イスカンダルとのコミュニケーションにおいて、波動コアはロケーションを決める単なるマーカーであるかもしれなかった。

 

「でも、非常にいい質問だ」

 

真田は前提を疑う勇気のある新人を褒めることを忘れなかった。

 

「話を遮ってすまないが、となると噂のガミラス公式アカウントも本物なのか?」

 

珍しい主計科の士官が疑問を投げかけた。イスカンダルとガミラスが同じ星系出身であることは知られていた。したがって、ガミラスもイスカンダルと同様に破茶滅茶である可能性があった。

 

「今のところ本物と考えられる。ガミラス公式アカウントの投稿は人類の生息域のどこからも行われていなかった」

 

それは、つまり本物ということだ。

 

ガミラスが太陽系に現れた後すぐに、ガミラス公式アカウントはソーシャルメディア上に誕生した。ガミラスの対話相手は全人類であったのだ。メディアにアクセス出来ないレベルの情報弱者は除外する。

 

会議室がざわついた。

 

全ての人間がガミラス公式アカウントをジョークアカウントだと考えていた。そして、やけに宣伝してくるので全地球規模でおもちゃとなっていた。特に若い世代の多いこの場は、ガミラス公式アカウントに向けてクソみたいな書き込みが相次いでいることを知るものが多い。

 

「外交上、問題ありませんか?」

 

誰かが声を上げた。

 

「現在、一般市民から国家元首に至るまで、アカウントに対して300万件以上の攻撃的な投稿や宣戦布告が行われています。ただ、ガミラスはそれを無視しているようです」

 

技術科の新見薫が答えた。これはありがたい話である。しかし、ガミラス公式アカウントのアイコンである猫のような生物を侮辱すると、該当するアカウントの個人情報が別口で流出すると言う噂があった。

 

「地球代表とガミラスとの対話は専用の通信チャンネルで行われているんじゃないんですか?」

 

通信担当が疑問を呈した。誰もがそうだと思っていた。

 

「ああ、建前はそうだ。だが、国連代表団もソーシャルメディア上に設けられた交渉用アカウントを通じて対話を進めているらしい」

 

真田が回答した。ただし、運営側の協力を得て、交渉用アカウントは完全非公開となっていたので、詳細が外部に漏れることはなかった。

 

異星系の民意を拾い上げる大胆なやり口が、ガミラスとイスカンダルを同じ星系の出身として印象づけた。

 

「ガーレ・ガミロン、というわけだ」

 

沖田十三が何気なく言った。

 

「ガーレなんとかって?」

 

「ガミラス公式アカウントが使う謎の挨拶」

 

古代がぼそっとつぶやき、隣の森がそれに答えた。気安いような気がしたがパイロットにはこの手のが多い。

 

古代としてはいつもの女房役に聞いたつもりだったのだが、島が会議に出遅れて隣にいないことを失念していた。ただ彼女から回答がもらえたので、今後も気軽に話しかけるリストに加えた。優しい兄に育てられた彼は陽の氣の塊だった。

 

ガミラスのメディア戦略は秀逸である。キャラクター設定を一貫して維持し、ネット用語を巧みに使用、流行りのトピックには必ず乗るし、反応したものを煽ることもある。

 

これを引用した沖田の発言は、彼が現代のトレンドについてきていることを示すものであった。22世紀でも、年長者が軟派なメディアに抵抗感を持つことは少なくなかったが、沖田は異なっていた。

 

島大介は困惑していた。最近フォローされてブロックした沖田十三の実名アカウントが、本人のものである可能性が浮上していたためだ。ただ、『沖田十三の死中に活あり』なんて古風な個人ブログにリンクされた実名アカウントならブロックされて当然だと思い直すことにした。

 

 


 

 

「基本的な前提を共有したので、全員の持つ疑問に答えていきたい」

 

真田が会議の流れを元に戻した。

 

出席者は、なぜここに呼ばれたのか明確な説明を受けていなかった。これまでの話の内容からしても、疑問は増えるばかりだった。

 

士官が集められているので自分のスキルを過小評価する者はいなかったが、ファースト・コンタクトという重要な役割に選ばれるほどの自負はなかった。特に、この場には若手が多すぎた。

 

「それは、この波動コアの所有権が日本、ないし極東管区に法的に確立されているからだ」

 

ETIとの交渉という、人類全体に関わる大きな課題に対して、その理由は些細に思えた。しかし、この時代にはその常識が通用しなかった。

 

22世紀を横断する偉業として、火星植民という巨大プロジェクトにリソースを投入した人類であったが、内惑星戦争によってその努力は水の泡となっていた。そして、その戦争の根本的な原因は、火星で発見された遺物の所有権を巡る対立であった。

 

現代の人類にとって遺失物の所有権は、惑星間戦争の危険を孕んでいる敏感な問題となっていた。

 

「国連は、波動コアとイスカンダルに関する対応を、権利を有する極東管区に委ねることに決定した」

 

そして我々は集められた、と真田が言った。

 

その判断には、ガミラスとイスカンダルを比較して考えたとき、後者の方が胡散臭いのだからくれてやれ、という率直な意見も存在していた。

 

「つまり老人と若者に面倒を押し付けたのか」

 

沖田はそう評した。

 

「後述しますが、この研究会から派生するプロジェクトは完遂まで長期にわたる可能性があります。なので人選は将来の佐官候補が集められています。宙佐には豊富な経験を元にした指導役として…」

 

真田を補佐する役割の技術科、新見女史が補足した。

 

おいおい若者の将来はそれでいいが老人の行先はどうなる、と沖田は思ったが口には出さなかった。それは老害であるように思えたからだ。

 

あと、迫力があるだけで沖田はまだ50代前半なので、さして強調するほど老人というわけでもない。人によっては脂の乗った時期ともいう。希望していない地上勤務に回された恨み言も多少は入っている。

 

 


 

 

「これまでのコンタクトによって得られたイスカンダルとガミラスの基本情報を共有したい」

 

真田が仕切り直した。

 

イスカンダルとガミラスは、地球から15万光年以上離れたサレザー恒星系の2重星である。知的生命体がいる環境としては珍しい気もするが、不釣り合いに巨大な衛星を持つ地球が言えることではなかった。

 

惑星イスカンダルの方が先に存在した。彼女らはそこを起点に銀河にまたがる超帝国を築き上げていた。その頃、ガミラス星はまだ存在すらしていなかった。

 

その後、超帝国は徐々に縮小し始めた。自らが創り出した至高の人工生命によって滅ぼされかけたのだ。ただ、人工生命と争ったというより、世代交代に失敗し、徐々に取って代わられたと考えられる。

 

イスカンダルの反攻は、この人工生命を銀河の辺縁へと追いやることから始まった。自分たちで生み出して、身勝手に追いやったわけだから、相当に恨まれていると思われる。

 

イスカンダルは、予想される人工生命との戦争の準備を始めた。彼女らの帝国は少数で運営されていたので、まずはその数を増やす必要があった。

 

築き上げた高度な無人技術は、人工生命によって乗っ取られる恐れがあった。だから、単純に人数が必要だった。

 

ガミラス星は、その時に彼女らがどこかから持ってきたと言われている。サレザー恒星系には不自然な惑星軌道の空きが存在するため、そこからきたのではないかと考えられる。無茶な話に聞こえるが、銀河規模の超帝国にあれこれ考えるのは無駄だった。

 

しかし、生命の生存に適さない惑星を改造するのは効率的ではなかった。実際、ガミラス星は星間国家の本拠地としては非常に厳しい環境である。

 

そこで、イスカンダルは方針を変え、繁栄に適した惑星を銀河から探すことにした。しかし、彼女らの超文明でも、無限に広がる宇宙にまたがって多くの文明を同時に育てることは難しい。それができるなら、予想される脅威にも対応できたはずだ。

 

そのため、適した惑星を見つけては種を送り、その成長を待つ方法をとった。気長な計画だが時間はいくらでもあったらしい。ガミラスはこれを「イスカンダルの大播種」と呼んでいる。その時期はおおよそ2-3万年前と推定された。

 

しかしこの方法には大きな欠点があった。イスカンダルが収穫を待つのに飽きてしまったのだ。彼女らの言葉で言うならば、生命種としての寿命が尽きたらしい。

 

たまらないのはガミラスの方だった。イスカンダルが管理を放棄したガミラス星では、厳しい環境にもかかわらず、種から孵ったガミラス人が文明を築いていた。そして彼らがついに惑星を出たとき、隣には悟りを開いた抜け殻しか残っていなかった。

 

惑星を飛び出したばかりの若いガミラス人にとって、「その滅びは必定」などというイスカンダルの説教は受け入れがたいものだった。惑星を出ることに必死だったガミラスの新たな目的は、予想される脅威に対して、イスカンダルの代わりをすることになった。

 

ガミラスは恒星間航行への挑戦を開始した。イスカンダルという手本があるとはいえ、初の成功までには100年近い期間と犠牲が伴った。その後の100年で、ガミラスは大マゼランを支配する帝国を築き上げた。

 

イスカンダルがきちんとした記録を残していないため、大播種がどの程度の規模で行われたかははっきりしない。ただ、その範囲が大マゼラン銀河を超えるほど広がっていたのは予想外だった。

 

そして、イスカンダルから最も遠くで見つかった映えある惑星、それが地球である。

 

「以上がガミラスとイスカンダルのあらましです。ただし、この歴史は伝承や発掘調査に基づいたガミラスの語る歴史です。答えを唯一知るイスカンダルから確証は得れていません」

 

「イスカンダルを”彼女ら“と呼ぶのもガミラスがそのように表現しているからだ。理由はよくわからない」

 

では、イスカンダルは自身についてどのように答えるのか、という疑問が自然に浮かぶ。

 

「イスカンダルは自身の歴史について誕生したから存在する程度のことしか答えていない」

 

「また、イスカンダルとガミラスの関係に関しては明確な回答を回避しています。仮定で質問しても『親が子供に性交渉の履歴を開示することはないはず』という説明しか得られませんでした」

 

技術科の2人がテンポ良く答える。

 

イスカンダルのスタンスは、ただ偶然、ガミラスの隣に住まう高位知的生命体、というものだった。ただ、双子星の両方に住まう知的生命が全くの無関係と言う主張は、到底、受け入れることはできなかった。

 

「ガミラスはおかしくならんか?」

 

沖田がコメントする。地球の例で言えば、アポロ計画で月に到達した人類が明確な文明の痕跡と高位知的生命体を発見し、それは創造神に関連する神話とまで一致するものだったが、当該生命体からは関係が否定される、という状況だった。

 

確かにそうだろう。ただ、恒星間文明というやつは技術はもちろんいるが、それほどに版図を広げるだけの動機が必要だった。惑星間の揉め事の面倒くささに、隣の惑星からすら手を引いてしまった地球から見ると、やっぱりおかしかった。

 

イスカンダルがガミラスとの関係をなぜ否定するのかはわからない。しかし、我々も身近にある世界最大級の古墳に、十分な学術調査が行われていない事実を考えると安易な批判は難しい。目の前にあっても確認できない事実は存在した。

 

「学者たちはどう言ってる?」

 

沖田が尋ねた。ガミラスの主張が正しいとすれば、地球人類の起源の謎が解明されたことになる。沖田自身が分野は違っても博士号を持つ学者であるため、おおよその答えは予想できた。

 

「現段階では情報が不十分で明確な結論を出すのは難しいようです。しかし、生物学者からは、もし人類誕生がそれほど単純な経緯であれば既に同じ結論に達しているはずだ、という意見がありました」

 

新見女史が応えた。ほとんど想像の通りだった。そんな仮説は何万回と立っては消えているのだ。

 

たとえ播種があったとしても、イスカンダルがどのように生態系に介入したのかは明らかでない。大播種の時期が正しいとすると、ホモ・サピエンスの進化への介入が最も安直な仮説となる。

 

しかし、旧人類から現生人類への進化は連続的であり、どの段階を持って介入があったと仮定することは出来ない。さらに、地球人類の社会的進化にイスカンダルの意志が介入した、という考えはもはや陰謀論で、少なくとも学会での議論に値しない。

 

確認できるのは、20世紀中盤にイスカンダルが地球に痕跡を残したこと、そして現在、ガミラスが木星にいること、これら2点だけであった。

 

良く聞き取りを行うと、ガミラスでさえイスカンダルがどのように生態系に介入するのか把握していない。しかしながら、惑星に存在する波動コアがイスカンダルの子孫である明確な証拠であるらしい。

 

多くの生物学者たちはガミラスとイスカンダルの遺伝子情報の提供を求めている。しかし、ガミラスがいる木星までの移動には年単位で時間が必要で、イスカンダルの場合、そもそも遺伝子が存在するのかすら不明である。

 

遺伝子情報をデータで送信してもらうような要望は、ガミラスからは個人情報保護を名目にやんわり断られた。一方、イスカンダルからはエクサバイト級の謎のデータが送られてきた。真田は、おそらくゴミデータだと判断している。

 

 


 

 

「ガミラスが国連交渉団にした要求は木星への駐留許可だ。彼らは、地球人類が自力で太陽系を出るまで見守ってくれるらしい」

 

あと無用なトラブルを起こさぬためのルールがいくつか。しかし、いずれも許可がいるような内容ではないし、地球人が内惑星系に籠る限り全く影響がなかった。何より近傍惑星への植民に、技術ではなく感情的対立で失敗した地球にとっては全てが皮肉に思える。

 

「ただ、ガミラスの大いなる目的に賛同して人を派遣するならば、星々を渡る術を教えると言ってきている」

 

ガミラスからの技術導入により今後10年で確実に増える余剰人口100万人のうち、3割程度派遣してくれれば良い。経済的な取り分も、ガミラスとの取引によって増える総生産以上は取らないと約束していた。

 

なので今の地球人類に追加の負担は一切ない、と言うセールストークを聞かされた。なんだか携帯電話を契約するときに聞いた話だな、と古代は思った。

 

上はどう考えている、と言う疑問に新見女史が答える。

 

「今はガミラスが出した人口増加の見積もりの検証を行っています。ただ、地球経済の現状把握については、地方政府の出す統計よりも正確だそうでして」

 

そこには、どうやってか不明だが鮮明なリモートセンシング画像まであった。種明かしはないだろうが、ガミラスとのファースト・コンタクトはおそらく地球の認識より早い。

 

火星入植事業に失敗した統計局は認めがたいが、ガミラスの出した予測は恒星間経済への地球側の無知を考慮しても手堅かった。活動領域の飛躍的な拡大はそれだけデカくてウマい。

 

「この情報は高い機密区分に類するが、国連宇宙軍は基幹艦隊の一部を無人化して木星に派遣することを決定し、すでに派遣した」

 

予想より遥かに動きが早いことに驚きの声が出る。建前上、今の地球の能力からすると十分な議論を待っていると間に合わない。そのための予防措置と言うことだった。

 

本音は、多額の予算を投じて絶対防衛線を構築し、その上でガミラスにすっぱ抜かれた無能の宇宙軍を差し出せばいいじゃないか、と言う意見が出ていた。なので、早急に勇気を証明する必要があった。ちなみに国連宇宙軍はちょうど総数30万である。

 

本人にわざわざ言わないが、沖田がそのキャリアに見合わず地上に回されたのは、乗艦だけ木星に飛んで行ったからだった。都合のいいことに極東管区には別の仕事ができたので、艦はそこから引き抜いていた。

 

急遽、無人化した航宙艦隊にできることはほとんどないのだが、歓迎するにせよ、攻撃するにせよ、並べて何かする程度のことは出来た。無人化したのは木星への旅路に人間がついて来れなかったこともあるが、恒星間文明と戦えばどうなるかを知っていたからだ。

 

「イスカンダルは何か要求しているので?」

 

誰かが疑問を呈した。そもそも我々はイスカンダルの担当なので、ガミラスのことはもっと上が悩めばよかった。

 

「彼女らは何も要求はしてきていない。ただイスカンダルまで来ないかと言ってきている」

 

なんでまた、という反応があった。片道16万8千光年の旅路に気軽に誘われても困ってしまう。

 

その背景には少し込み入った説明が必要だった。

 

ガミラスが恒星間航行に成功して種の収穫を始めた頃、イスカンダルが珍しく話を切り出した。それは、いわゆる気持ちの表明と言うもので、成熟した恒星間文明が隣にいたガミラスの幸運を喜び、それのない他の種の不幸を嘆いた。

 

未だガミラスとの関係を認めぬイスカンダルの気持ちなど、どうでもいいのでは?と思わなくはないが、ガミラスからすれば創造神からの啓示である。遠回しに強い不平等をなんとかしろ、という圧力だった。

 

「ガミラスのイスカンダルへの感情はどうなっているんだ?」

 

崇拝すべき創造神、あらゆる苦悩の根源、隣に住む技術力のやけに高いキ◯ガイ、あらゆる感情がごちゃ混ぜである。ただ明らかに住みよいイスカンダル星を目の前にしながら、未だ生存に適しているとは言えないガミラス星から移り住もうとはしないことから彼らは敬虔だった。

 

なんと言うかすごくカミサマらしいね、と古代は森に話しかけたが無視された。

 

そうしてガミラスが提案したのが、彼らが「イスカンダルの試練」と呼ぶ一連の巡礼だった。

 

イスカンダルは星々を渡る術を持たぬ未熟な種に、救済として船をただ一隻作らせる。そして未熟な彼らが、それで聖地へとやってこれるほどの勇気ある種であれば、ガミラスはそれと並び立って来るべき脅威へと対峙する。

 

試練を要約するとこのようになる。イスカンダルへの旅と表現されたものはこれであった。

 

「この旅は我々で例えるならば、小さなボート程度で漁をしていた原住民に、立派な帆船と航海術だけを与えて、大洋の向かいにある大陸まで行って戻ってこい、と言っています」

 

「出来るんです?」

 

「まあ、無理だろう。ガミラスも未だ試練を成功させた種はないと回答している」

 

ただイスカンダルは試練に妙に協力的であるし、ガミラスはもう少し配慮して強制的な収穫から自発的な協力へと態度を軟化した。試練提案と態度軟化のどちらがイスカンダルを納得させたかはわからない。

 

「我々はそんな自殺的な航海をするために集められたので?」

 

軍人である以上、ある程度の理不尽はあるものと考えるが、自殺しろ、という命令は流石に聞き難い。あと沖田からすると若手が多すぎて、今のメンバーでは火星までもいけない。

 

「そこまで上も鬼ではないよ。この試練には特に期限が定められていないんだ」

 

別に16万8千年かけて通常航法でイスカンダルを目指してもいいらしい。また、試練を受ける受けないでガミラスが態度を変えることはない。つまり、イスカンダルの試練とガミラスへの協力の両方をとってもいい。試練に成功ししだい、待遇が変わるそうだ。

 

「なので、この研究会は10年ほどかけて、太陽系、それも内惑星系の中で超光速航法のノウハウを確立することを目的としている」

 

想定される試練の失敗要因は、通常航法で救出または回収の出来ない位置で遭難することだ。残酷な話、乗員全員が死亡する事故が起きても、そこが波動コアを回収できる位置であれば再スタートできる。

 

「あと、試練にはガミラスの艦艇が交代で着いてくるらしい。事故が起きても、試練を諦めるのであれば、可能な範囲で救出してくれるそうだ」

 

少なくとも遠い宇宙で孤立した結果、寂しく死ぬと言うことはないらしい。

 

「出来るのか?超光速は」

 

沖田が問うた。伊達に物理の博士号を取ったわけではないので、既知の超光速航法が出鱈目であることは知っていた。

 

「おそらく」

 

ならいいか、と追求をやめる。学徒として正しくはないが、技術科の真田と張り合うつもりはないし、自分の本分は宇宙軍宙佐である。部下を信じるのも仕事だった。

 

最初の研究会はこれで幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 




対話型AIなんかの流行りの技術要素を2190年が舞台の作品中に盛り込むのはどうか、と自問する部分はあるのですが、既存のイメージを壊すのに役立つなと思ったので多用しています。

本当はヤマトが飛びたつところまで第1話でやろうと思いましたが、予想以上に話がふくらんだので分割しました。


2024.11追記

極力戦闘を避けて話を組み立てる過程がRTAのチャート組んでるのに似てるような気がしたのでRTAポイントとして作中要素を説明します

・大方針
 極力、戦闘を避ける(時間がかかるから)

・今回のポイント
 波動コアを最初から地球にあったことに(メ号作戦回避)
 ユリーシャを対話AIに
 イスカンダルに行くことだけを目的に変更(道中の戦闘を回避)
 
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