ガミラスと全面戦争しないなら、あの要素、この要素なくならない?という疑問は起きると思うのですが、できる限りこじつけて拾います。全部は無理です。
西暦2192年 国連宇宙軍極東管区 イ号研究会
「身も蓋もないですけど、そもそもイスカンダルに行く必要ってありますか?」
年を挟んで二回目に行われたイ号研究会は、会の存在意義に対する問題提起から始まった。
確かに、イスカンダルの試練に成功しようとガミラスに協力しようと恒星間航行技術は手に入る。ガミラスとのそれは、おそらく基幹技術は開示されないはずで、最も重要な要素を握られているという危機感はある。ただ、それでも太陽系から外に出られることには変わりがなかった。
人員を派遣しないといけないので、ガミラスに服従する、とも捉えられる態勢になることから忌避感は出るだろう。でも、嫌なら太陽系にこもって自力で技術開発するのを待つか、ガミラスに戦争を仕掛けて勝って奪うかするしかない。どちらにも芽がない。
どちらも嫌だが技術だけ欲しい、というのはあまりに駄々っ子だ。それを唯一叶えてくれるのが、イスカンダルの試練でもある。
「最終的にイスカンダルまで出発するかは、保留事項だ」
全体の調整役も担っている真田が答えた。
ガミラスへの人員派遣を良しとするかは議論の最中だ。ただ、この問題は太陽系から出たいのか出たくないのか、という議論に直結する。というのは仮に試練に成功して独立した勢力を維持したとしても、ガミラスが言う脅威が本物であれば人を出さないといけないからだ。
遠い大マゼランの話なので、太陽系のある天の川銀河にこもっていれば難を逃れるかもしれない。でも恒星間経済に参加するなら、既存の恒星間文明であるガミラスとの取引は必須だろう。
わざわざ恒星間航行技術まで得て、自分でちまちま勢力を拡大するのはあまりに非効率だ。すでに大マゼランを手中に収めるガミラスとは良き関係を築かなければならない。
そして、もしガミラスと恒星間での外交関係が生まれたのであれば、それを脅かす脅威には人を出さないといけないのだ。ガミラスが試練に成功した暁には、並び立って脅威に対応する、と定義したのには納得できる理由がある。
ならイスカンダルの試練を受けるのも、ガミラスに協力するのも大して変わらないじゃない、というのは当然出てくる話だった。
「でもイ号研究会に全く意味がないわけじゃない。地球人類が、1から恒星間航行の技術を習得するまたとない機会だ。研究会には、たとえイスカンダルへの旅に出発しなかったとしても残せるものがある」
それはそうだな、と古代は心の中で頷く。余談だが、研究会の面子は毎回変わる。会議内容によって出席者が指名されるが、それ以外は事前申告の出席制で、毎回固定なのは真田と沖田ぐらいだった。古代は面白いのでできるだけ参加するようにしている。今回、森はいないようだった。
「脅威は本物なのか?」
沖田がたずねた。この宙佐は会の固定メンバーにまで入っているが大丈夫なんだろうかと思うが、意外と暇らしい。自分の仕事場だった艦がいきなり木星に飛んでいってしまったので、スグスグにやることがないようだ。
今は古巣の航宙科に顔を出して、イスカンダルまでの航路についてアレコレと口出ししている。宇宙物理学で博士号をとった経緯がこんな形で役立つとは思わなかった。たまに組織はとんでもない人材の浪費をすることがある。
「脅威はあくまでガミラスが存在すると推測しているもので、イスカンダルから確証を得られたものではありません。彼女らは存在を否定してはいないようですが…」
新見女史が答える。彼女もほぼ固定メンバーだが、会ではなく真田についてきていることは周知の事実だった。
来るべき脅威はガミラスの伝承に残っているので、どこかでイスカンダルから聞いたのだと思われる。彼女らはガミラス星から手を引いたと思われたが、ガミラス史にちょこちょこと介入の跡が見られた。
なんでも面白がる彼女らなので、隣で育つ幼い文明に手を出さないわけがなかった。ただ、その介入が必ずしも良い方向に導いていないのが神様らしいところだ。ガミラスはイスカンダル由来の大戦を何度か経験している。
「ガミラスに派遣される艦隊の仕事は主に2つで、来るべき脅威の発見、ないし新たなイスカンダル種の捜索だそうだ」
脅威への備えと対応は、見つけてからじゃないとできない。あとガミラス体制そのものの維持もあるが、これにはどうも別の軍隊があるらしい。
「とすると、今のところそれらしい脅威は見つかっていない?」
誰かが質問する。偵察任務の一環で天の川銀河まで来ていて、それで地球は見つかったらしいのだが、幸いなことに天の川銀河にほかに敵性体はいないそうだ。今のところだが。
「正確には大マゼランからだいぶ離れた小マゼラン銀河で蛮族が見つかっているらしい。唯一確認された他の恒星間文明らしいので、それが脅威ではないかという意見もあるようなんだが、いかんせん蛮族なので違うと考えているようだ」
なんだそれは、という反応が広がる。超光速で殴りつけてくる蛮族は果たして蛮族なのだろうか?というよりも、未だ光速にも至れない地球は蛮族以下じゃないか。
ガミラスの考える脅威とは、イスカンダル至高の人工生命なので、そのイメージと明らかにかけ離れていた。おまけに肌の色まで攻撃色の緑色である。野蛮に違いないのだ。その色は高貴なる赤でなくてはいけない。
「それで率直にイスカンダルに、そちらまで行かなければならない強い動機が地球にないことを聞いてみた」
真田がさらりと続ける。結構怖いことをするな、と周囲は思った。イスカンダルが試練を利用するだけなら対話をやめます、と言ってきたらどうする。
イスカンダル、ガミラス双方のコミュニケーション方法の難点はなんでも気軽に聞けてしまうことだ。うっかり口を滑らせて開戦などとなったら目も当てられない。
「これに対して、イスカンダルに来てくれたら他にも色々技術をあげる、と言われた」
この時、質問に対して瞬間的に回答するイスカンダルが少し間を空けた。もしかしたら他の種で試練を疑問視した者がいないのかもしれない。
「例えば?」
「青い地球を取り戻せるそうだ」
しばらく会議室が疑問に包まれた。間が空いて誰かが口に出す。
「もしかして青赤問題のことか?」
「おそらく、そのようだ」
青赤問題はAIが急速に普及した21世紀の末に起きた珍事だ。
元々は使用者である人間側の言葉の誤用、そこから発展した流行り言葉だったが、AIがこれを拡散して言語として定着してしまった。
具体的に何が起きたかというと、色のラベルにおける青と赤が逆転した。つまり地球は赤くなって、火星は青い星になった。
最初は喜怒哀楽に対応する色の関係が逆さまになった誤用であったらしい。これが一部の若者の間で流行り言葉として定着し、それをAIが取り入れてしまった結果、本当に言葉と色の対応がひっくり返ってしまった。
根本的な問題は、人類が感覚器官で得た情報を他者と共有できないことにある。元々人体には色覚異常という症状が存在したわけだが、これは色の濃淡などに反応する細胞の異常で、他者と明確な差が生じる。
ただ、もしも仮に、目が知覚する色の色相が完全にずれてしまっている人がいた場合を考えてみよう。その人にとって赤は緑に見えている。でもそれを言葉のラベルとして『赤』として習うわけだから、その人にとって緑色は赤という名前なのだ。結局、問題ない。
例え話の時点でややこしいわけだが、色相が完全にずれている場合には違いを検出できないので、そもそも異常であることを認識できない。色相がゆがんだ場合にはまた別である。
これは学習関係にAIを多用した結果でもあった。
「イスカンダル曰く、この問題は放置すると大変なことになるらしい」
そういえば彼女たち、自分の創造物に滅ぼされかけたんだったな、と前回の話を思い出す。
でも青赤問題の発生から1世紀が経たんとする現代において問題視しているものはほとんどいなかった。横書きの文章を左から読むか、右から読むか、ぐらいの違いにしか認識していない。
「それで、イスカンダルはどうやって直すんだ?」
「それは、わからない」
イスカンダル関係はいつもそうである。
しかし、単なる誤用を区別なく直してしまうのは賢明だと思えない。下手をすると使った瞬間に、言葉がバベルの塔の時代まで戻る可能性だってある。言語は積み重ねの歴史だ。
それに万能の共通言語はすでに存在した。AIの用いる翻訳用の中間言語である。人間に理解できるものではないが、ガミラスのそれと対応をとることで異星の言語まで翻訳できた。青赤問題はこの中間言語の青と赤が逆転したらしい。
「まあ、ただ貰えるものはもらっておけばいいと考えている」
「それもそうですね」
「他には?」
会話が続く。
「放射能を除去する技術、とか」
「ありがたいな」
あっさりした反応だった。この時期、地球人類はこの問題を克服していた。もちろん放射線そのものを消してしまうような魔法ではない。放射性物質の宇宙投棄に成功していた。
放射性物質を宇宙に捨てるのは誰しも思いつくところだ。だがその過程は意外な困難に満ちている。単に打ち上げるだけでは、地球の重力圏を危険物質が周回するだけになるので結構、危ない。太陽などの他星まで捨てに行くにはかなりの力を加えねばならない。
技術的な問題はこんなものだ。宇宙艦艇に使われる高効率の核融合推進が解決してくれた。あとは地上でも宇宙でもいえるがちゃんと制御できていれば大きな問題は起きない。宇宙投棄を開始してから、幸いにして事故は起きていない。
あと仮の話として大気上層で放射性物質をぶち撒けたとしても、大迷惑ではあるが、一回の輸送量で人類が直ちに滅びるかというとそうでもなかった。
問題は別にある。
それは宇宙に放射性物質を投棄することと、核兵器を宇宙空間を経由して打ち込むことは、前半のステップが一緒であるという問題だった。それまでの国連のように常任理事国ですら満場一致できずに強行すれば、地球は核戦争に見舞われる。
放射性物質の宇宙投棄スキームを構築するには、惑星を統一する強い権力が必要だった。
現在の国連が強い権力と軍事力を持つに至ったのは、放射性物質の最終処分に困窮した人類の利害が一致した結果だった。22世紀に入らんとする時になされた人類の偉業である。
というわけで、別段、喉から手が出るほど欲しいかと言われると微妙であった。ただ停滞するフクシマの廃炉ステップが確実に進むので、ありがたいことに違いはなかった。
あとは革新的な傘、煮込む時に灰汁が出なくなる石、汗をたくさんかいた時のビールよりも美味しく感じるお酒の作り方、60才から始めるイスカンダル秘伝の健康法などのよくわからないものが貰えるらしい。
「まあ、ともかく実際に行くかどうかは別として、我々はイスカンダルを目指さんとするわけだ」
真田はそう締め括ったが、皆んないまいちピンとは来なかった。
建国歴65B年 大ガミラス帝星総統府 M方面ゾル・ネル報告会
「M方面ゾル・ネルをテロールと命名しました」
高官が簡潔な報告をいれる。ゾルなんとかは地球発見時の識別名である。発見された播種惑星で試練に取り組み始めたことを確認すると、惑星に名前が与えられる。
「となると、彼らが試練をなした暁にはテロール・ガミラスか。あまりいい響きではないな」
いわゆる総統ジョーク。下手に反応すると処刑されるので誰も笑わない。
ガミラスは試練を成功させて並び立った惑星が現れると、それに敬意を表して国号を変えることを予定している。その場合、ガミラスの前に試練をなした星の名前が入るので〇〇・ガミラスになる。
もちろん、それを願うつもりはない。ただ一応、そう決めたので播種惑星の名前を決める時は、万が一、そうなった時の響きを考慮する。そうなりたくはないので、下品な響きになってはいけない、でもカッコいい響きになってもいけない。つまり合格だった。
「首尾はどうなっている」
「事前の報告の通り、情報収集を除いて、ガミラス人の派遣は出来ておりません。ザルツ人を中心とした偵察部隊を改編して一任しております」
問題ないか、と総統から確認が入る。新たな臣民を迎える名誉はガミラス人のもので他の同種族に譲ったことはないのだが、今回ばかりは地球が遠すぎた。
「ザルツ人は優秀です。問題ないかと」
2等臣民にしては、という言葉が頭に入らなければ賞賛である。万能翻訳機は、ナチュラルな差別表現をたまにスポイルする。初期の翻訳機だよりで行った開拓で、ガミラス人のことを一切の差別をしない恐ろしく言葉遣いが丁寧で腰の低い種族、と思い込んでいた惑星があった。定番のガミロンジョークである。
あと名誉事業をザルツ人に任せたのは、小マゼランの蛮族が想像以上の勢力を有していることが調査で明らかになったからだ。本格的に蛮族を脅威と認めなくてはならない事態だった。
ドメルには気の毒なことをしたな、と総統は内心で思いを馳せる。エルク・ドメルは次の播種惑星で派遣されるべき男だった。ガミラスで新たな臣民を加え入れた栄誉は何より大きい。今回は地球が遠すぎたこと、蛮族の抵抗が予想以上に強かったことで小マゼランに回された。
「何か報いねばならないな」
貢献する双方に対して発言した。
「面倒ですな」
ザルツ人に対してはその通りだった。2等臣民の格を考慮して賞を与えなければならない。この辺り総統に一任されているので結構面倒だ。
「建国666年には臣民に良い報告が出来そうかな?」
「
正直だが、おもねる者を側近に置かないことが長生きの秘訣なのでこれでよかった。
ちなみにガミラスは12進法を採用している。なので、かなり中途半端だが、建国してから大体1000年である。
1000年前のガミラスは小国だった。当然、ガミラス星の統一国家でもなく、一地方だった。まだその時代では彼女らは単なる伝説であった。
それが星を統一し、創造神と出会い、その運命を継承、星々を渡り、大マゼランを征服せん勢いで拡大を始めた。
そんな時に生まれたのが、現総統アルベルト・デスラーである。彼は、すべてのガミラス人から呪われて生まれた。
よく大災害に襲われるガミラス星では、生まれ持った業という、科学文明とは到底思えぬ文化が残っていた。
彼はそれを跳ね除け、時に利用して今の立場にいる。
「建国記念祭に間に合わせるかは、総統の意思次第です」
播種惑星の試練を妨害することは、彼女らとの合意に対する反則である。ただ、スポーツでもそうだが審判の見えないところでする反則は反則ではない。立派な戦術だった。
つまり彼女らにさえ問題視されなければ妨害はアリである。出来るかどうかは別として。
秘匿兵器Ⅲ号、次元潜航艦は今のところ、彼女らに目をつけられていないと考えられていた。ここ最近では播種惑星の情報収集にも用いており、大きな成果を挙げている。
秘匿兵器の運用は全て総統府で管理している。なので、地球人に対して使うかどうかは自分の裁量次第だと、側近からそう言われていた。次元潜航艦は試練までの間、播種惑星の近くで交代で待機しているので、使おうと思えば使える。
「ガミラスの都合に合わせるためだけに妨害はしない。彼らの健闘を期待しよう」
いわゆる総統ジョーク。表向きの話で実際にどうするかは、今すぐ決めなくてもいい。
「トリガーの確認はどうする?」
播種惑星で試練を行う時に、最も懸念すべき事項で、勇気のいる作業。
「ザルツ人の派遣艦隊司令が行います」
総統の席の前にある表示器が、ザルツ人のプロフィールを表示した。AIが会話内容から自動的に提示する、なんて複雑なことはなく銀河帝国の総統ともなれば、控えの側近の100人や200人はいる、というよりも総統府全体がそのためにいるので、事前に用意された情報から人の手でピックアップして表示している。
表示された顔画像は目つきが悪いように思えた。その横に情報が出ている。サレルヤ・ラーレタ、ザルツ人技術大佐、ガミラスの基準にすると年の割に階級が高い。
ただ播種惑星のガミラス加入第1世代、つまり接触当時の現役世代は既存の組織が壊れることが多いので、階級がおかしくなりがちである。播種惑星からすると新しい技術が加わるので技官は特にそうだ。ザルツ星がガミラスに加わったのは比較的最近である。
全体的に不要な情報なので、ざっと流して読み捨てていく。なぜかプロフィールに貼られている猫型生物。好きなのかな、私は犬派だが。経歴に以前は超空間通信省の戦略広報部に所属とある。ここだけ印象に残った。
戦略広報部、播種惑星のメディアを活用して世論操作する専門部署だ。とにかく多種の知見が必要なため、2等臣民を積極的に登用する変わった役所でもある。
そう聞いて思い浮かぶのが、ローレン・バレルという変わった男。最近、昇進して部署から離れたが、戦略広報部を立ち上げた優秀な行政官で、播種惑星にも派遣されたことがある名実ともにある役人である。
時期的にあの男の下にいたことになる。
「
「ほぼ制限なし、だそうです。あと、テロールです」
なら大いに活躍しているだろうな、と思う。個人にどこまで情報資源へのアクセスを許可しているかは播種惑星によってさまざまである。制限なしは結構珍しいが、ないわけではない。ガミラスは厳しい方だ。
個人の情報資源へのアクセスを高めるのは利点と欠点の双方が存在する。ガミラスは欠点の方が目立った。
「こちらからの要求は?」
「ほぼそのまま呑むようです。こちらが提示した見積もりで満足しているようで」
いいことだと思う。ガミラスが提示する要求にはウラがあった。約束しているのは余剰人口の3割なので、未開な惑星が発展すればするほど、ガミラスに派遣する人が増える。
今の地球であれば提示した見積もりの10倍の余剰人口を生み出せると調査結果は示していた。それに、余剰人口を次の産業のために用いるのは技術発展の基本だが、恒星間経済は行き着いた先なのだ。恒星間の物流網をガミラスが握っているので、余剰人口の行き着く先をなくしてやると、残りの7割も差し出す。
嘘か本当か知らないが、報告書によると
惑星の主義主張に関わらず、低効率は悪きことで、高効率は良きことであった。恒星間通商産業省が徹底した効率改善を指導すれば、播種惑星の総生産を倍以上に膨れ上がらせるのは難しいことではない。
播種惑星に対して強制的に徴発したのと自発的に協力させたのでは、その後の協力具合が天と地ほど変わる。意図的でないにせよ、彼女らの気持ちに配慮したのは、ガミラスが大拡大する一助となった。
総統は今の状況に相当、満足していた。
報告を次に移らせたので、これまでの情報を綺麗に忘れさる。何事も切り替えが大事だ。
西暦2192年 国連宇宙軍極東管区 イ号研究会
2度目の研究会はまだ終わっていなかった。
「試練のための航宙艦は、全領域航行試験艦の設計を流用して建造する予定です。資材も建造済みのものを流用します」
新見女史が切り出す。試験艦の試練への改装はイスカンダルから助言を受けて行っている。対話式であるし図面も読んでくれるので何かと楽だ。
「ああ、あの呉のデカいやつか」
全領域航行試験艦ヤマト2は試験工程が終了して呉港で保存されていた。と言っても浮いているだけである。
全領域対応がいるのか、という声が上がる。
「試練は最終段階で聖地であるイクス・サン・アリアにある港に着水しろ、となっています。ただし、どうしても無理な場合は、相談ができるようですが」
相談でも何でもして、空間での運用に特化した航宙タンカーを改装する方が無駄がないんじゃないかという意見も出る。ただ、それは技術科で検討済みのようだ。
「試練では必需物の補給も必要になる。今のところガミラスからは適正価格で購入するのであれば、道中での補給に応じると聞いている」
主計科の士官が頭を抱えた。たたでさえ面倒な航海中の物品購入を地球外文明と行わなければならないのは、あまりに面倒だ。
「ガミラスの補給拠点も多くが大気圏内の水上港や地上基地として存在しているようなので、我々もそれに合わせなければならない」
真田が理由を説明する。
「内惑星戦争での全領域対応は、恒星間文明の戦略としても誤っていなかったか」
沖田が感慨深くいった。
全領域対応は、宇宙つまり真空空間、空気程度の比重の大気圏内、そして水中の3つの領域を自由に移動できる乗り物を指す。
圧力の関係から水中はせいぜい水深100~200メートル程度だ。同様に比重の重い大気の中でも行動は制限される。
「ガミラスから、航宙艦艇の通常行動のための許容耐圧スペックが展開されました。なので、試練の航宙艦にはそのスペックを採用する予定です。国連宇宙軍で使用しているものと大差はありませんでしたので導入は難しくありません」
国連宇宙軍の航宙艦艇は地球と火星の行き来のみを考慮してスペックを決めている。ガミラスの支配域で行動するのであればそちらに合わせるのが筋だ。
そもそもだが、なんで宇宙で主に活動する艦艇が大気の中や水の中までいかねばならないのだろう。とても非合理に感じる。
少なくとも地球でのそれは、惑星間戦争がエスカレーションした結果であった。
2164年から始まった第1次内惑星戦争では、火星で見つかったETIと思しき文明の遺物を、火星自治政府が自らに所有権があると主張したことで争いが始まった。
合意を得られぬまま強引に進められた遺物の解析により、火星自治政府は国連宇宙軍と世代が違う艦艇を手に入れた。
この時、せいぜい合体した宇宙ステーション程度の艦艇しか有していなかった国連宇宙軍は、ちゃんとした装甲を持つ火星自治政府の航宙艦艇に根絶やしにされた。
宇宙空間で使用できる機動戦力を失った地球は、以降、火星側への嫌がらせに注力した。具体的には彼らが軌道上に建設した宇宙基地や集合拠点に対し、遠隔地から質量弾を投入し続けたのである。
もちろんやり返された。結果的に地球と火星、双方で空間中には拠点がなくなった。
何やかんやあって終結した第1次内惑星戦争であったが、火星側の技術を手に入れ、戦力を増強する地球側が2回戦の口火を切ることは目に見えていた。
双方がそれに備えることになったわけだが、空間中での拠点防衛についてはどちらも有効な対策を打ち出せなかった。
難点はこの種の拠点に機動力を持たせられない事であった。投下される質量弾を回避することができないので、やられてしまうのだ。
機動力を持たせた宇宙工作艦などが整備されたわけだが、待機拠点や建造拠点を完全に機動化することは難しかった。
結果的に、待機中の航宙艦艇を大気という天然のバリアーの下に隠す、という対策をとることになった。この対策は地球と火星で奇妙に一致している。大気中であれば小質量の弾頭は勝手に減速して脅威ではなくなるからだ。
そのために大出力のエンジンが必要になるわけであるが、元々の火星の遺物も同様なコンセプトであったらしく、解析が進むとともに技術が発展し、大気中での活動が可能になった。
地球側艦艇が火星にはない水中でも行動出来るようにした理由は、戦力で劣る火星側が打開策として耐熱性のある大質量弾を準備するようになったからだ。推定で大気中まで届くことが予想された。
より密度の高い水中に艦艇を潜ませれば、攻撃が届かなくなることはもちろん、そもそも位置を特定することも難しくなる。結果的に、比較的に浅深度ではあるが海中ドッグが地球の各地に整備される結果となった。
全領域航行試験艦ヤマト2は、第2次内惑星戦争に向けた地球側の戦力整備の基礎になった艦である。地球側の要求コンセプトを全部載せした豪華な仕様で、第2次内惑星戦争の開戦が近づくにつれて、いくつかの仕様をスポイルして最適化した艦が量産された。
「現在は呉にあるヤマト2ですが、九州沖の海底ドッグに移動して改装が行われる予定です」
何でそんなところにドッグがあるのかと思うが、海底ドッグが沿岸にあるなんてありきたりで位置を特定されてしまうので、大体は変なところにある。
ただ想像通り不便なので、現在は使われていなかった。内惑星戦争ほど事態がエスカレーションしていなければ、水上艦艇と兼用になるが軍港を利用した方が便利だ。
焦点は、なぜわざわざ海底ドッグの再始動を?となる。
「これは軍機に類するが、あの呉のでかい奴は元々、ほぼそのまま量産される予定で、九州沖の坊ノ岬海底ドッグはそのために高度に自動化された専用工廠になっている。結局は利用されなかったが、改装はそれを利用した方がいい、という結論に至った」
無駄なもの作ったなあ、と思うが、内惑星戦争関係は狂気に満ちたエピソードが多数あるので、その内の一つであった。
「試練艦の設計はイスカンダルとの協議により行われます。この会議の参加者にはいくつか協力を仰ぐことになると思いますが、最終的に国連宇宙軍司令部の審査を受けて合格し次第、改装が進められます」
今後のおおまかな流れが新見女史により示される。古代は興味から設計の進み具合が知りたいと思ったが、一応、機密になるので都度都度メールで送ったりはしてくれないらしい。
「武装については、もうすぐ木星に無人艦隊が到着するのでそれ次第になる」
「武装がいるんですか?」
「何で自分が呼ばれたと思ってるんだ」
バカなことを聞いたと古代は思った。彼には純粋なところがあって、宇宙への冒険に向けて期待に胸を膨らませている部分があった。本来の自分の仕事はずいぶん血生臭いものであるにも関わらずだ。
「イスカンダルからは想定出来る限りの備えをしろ、と言われている」
試練の安全は約束されているらしいが、それはあくまでルール上のものであるとのことだ。彼女らからはうまく隠してやる反則を反則とは認知しないと言われた。
ガミラスという恒星間文明からなされる嫌がらせがどの程度の物であるかは想像がつかない。ただ、イスカンダルは試練については申告制で苦情を受け付けると言ってきているので、地球が出来る限りの自衛をしなければならなかった。
備えるにはガミラスがどの程度の技術レベルであるかを知る必要がある。
「一般に公表はされないが、木星に派遣した無人艦隊はガミラスと交戦する」
部屋がどよめく。普通に考えれば事実上の開戦だ。
「ただ地球がガミラスと全面戦争をする訳ではない」
疑問が広がる。それはそうだろう、事情がかなり複雑だ。
まず、ガミラスは地球側から打診された史上初のETIとしての歓迎申し出を拒否した。
この時点で無人派遣艦隊は半ば宇宙のゴミになった。無人艦隊は木星への行き道が精一杯で、地球に帰す手段を考えられていなかったのだ。
驚くべきことに、無人派遣艦隊をガミラスの歓迎に使ったら、彼らに返してもらえるんじゃないかと考えていた。国連宇宙軍は、じゃあ変な物そっちに送っちゃったので処分してください、という何とも情けない申し出をした。
これに対するガミラス側の回答は、こちらを攻撃しても良い、というものだった。胸を借りるつもりで来なさい、という何でそんな絶妙な翻訳ができるのかよく分からない提案がなされていた。
この交戦により発生した被害の一切を問題視しない、というガミラス側の約束に地球側は納得した。イスカンダルからもその約束を確認できたのだ。
ここに初の地球外知性との木星沖海戦が決した。
その結果は、次のイ号研究会に持ち越されることになる。
ややこしいですが赤色と青色はイスカンダル到着まで入れ替わります。誰視点の語りか全然区別できてないですが、ガミラス主観の語りでも一応、地球の翻訳機を介して皆さんにお届けしてこの小説がある、という設定なので入れ替わります。
自分で設定しといてなんですが、ややこしいですね。
Chat GPTに校閲だけしてもらってたんですが、文章がなんかマイルドになっちゃうので、途中からやめました。あと登場人物の口調は流石に変になっちゃうし、勝手に批評して続き書き出したりするし。
なので誤字は増えるかもしれません。
2024.11追記
・今回のポイント
オブジェクトの参照先入れ替えで青と赤を交換、赤い地球イベントをクリア
総統は相当イベントもクリア
ヤマトの改造元イベントをクリア