あんまり戦わない宇宙戦艦ヤマト   作:レイテンシー

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作中での技術設定には全く根拠はありません。適当に読み流してください。科学考証をChatGPTにやってもらっています。

難しい話をするので補助のために簡単な挿絵を入れています。ただ200MBの制限があって怖いのでだいぶ縮小しました。見づらかったら外部サイトに原寸を挙げます。



第3話 ワープ航法

 

 

西暦2192年 国連宇宙軍極東管区 イ号研究会

 

「木星に派遣した無人艦隊は全滅しました」

 

「だろうな」

 

新見女史の簡潔な報告に沖田十三が反応した。3回目のイ号研究会は最初に木星沖海戦の結果報告から始まった。

 

沖田が真っ先に反応したのは彼なりの配慮である。木星に彼の元乗艦が派遣されていることは参加者全員が知っている。お悔やみから入らなければならないことを短い反応で防いでいた。

 

世間には木星沖海戦の存在そのものが秘されている。

 

「高圧増幅光線砲は、ガミラスに全く通用しなかった」

 

ガミラスがわざわざ送ってくれた記録映像では、無人艦隊が発射した荷電粒子砲がかき消されている様子が映されていた。

 

その映像は地球が無人艦隊から受信するよりも早く届けられたので、彼らは超光速通信法を持っていることが明らかになった。恒星間文明を実現しているのであれば、あって当然と言うべきではあるが。

 

「ガミラスは艦に場を発生させているのか」

 

どこからか立ち上った疑問に対して、「おそらくは」と真田が回答する。国連宇宙軍が装備する高圧増幅光線砲には既知の弱点があった。射撃に質量がほとんどないのだ。

 

宇宙空間を高速で機動する目標に対して、光速に近いスピードで打ち出される荷電粒子砲が採用されたわけであるが、その代償として質量を失っていた。

 

質量がないことのわかりやすい欠点として、大気中など目標との間に場が存在すると、大きく減衰して役に立たなくなる。つまり真空での使用しか考慮されていなかった。

 

内惑星戦争で地球と火星の双方が高圧増幅光線砲を主砲として採用したのは、主に戦闘を行うのが真空である宇宙空間に限定されるからであった。全領域で航行はするが戦闘はしないのである。

 

見えている欠点を残すのは愚かであるように思えるが、大気中では今度は艦艇自身が高速で動けなくなるので、質量弾である誘導弾(ミサイル)で事足りた。

 

「となると、ガミラスに対してまともに使えるのはショックカノンになるのか」

 

その場で結論が出た。ショックカノン、正式には陽電子衝撃砲は高圧増幅光線砲が採用される以前の失敗兵器であった。

 

火星に奇跡的に安定して存在する、同位体質量90という非常に重いコスモナイト90(Ct90)。それに高エネルギーの陽電子ビームを照射してイオン化し、さらに加速して打ち出す質量を持った荷電粒子砲。それが陽電子衝撃砲、通称、ショックカノンである。

 

陽電子だったり重イオンだったりを何かと加速する必要があるので、恐ろしくエネルギー効率が悪いのが特徴である。想像の通り、そのまま陽電子ビームを撃った方がいいと判断された。

 

ショックカノンが失敗兵器の割に有名なのは採用例があるからだ。第2次内惑星戦争の後段で火星は盾艦と呼ばれる高圧増幅光線砲を妨ぐためだけの艦を出してきた。

 

その様相は想像が難しいが宇宙に浮かぶ巨大な盾そのもので、艦隊を盾の後ろに隠して侵攻してきたのだ。表面に妨害場を展開し進行方向に対して盾を斜めに構えることで、当時、国連宇宙軍が装備していた高圧増幅光線砲をかき消すことができた。

 

これに対しては質量弾が有効であるように思われるが、実用化されたばかりの重力アンカーで艦艇と接続してきたので、それなりの機動性を持っていたため命中が難しかった。

 

火星は戦力で劣勢であることを自覚していたからか、奇想天な手段をよく用いる。それに国連宇宙軍が正攻法でやり返すのが、第2次内惑星戦争のあらましだ。

 

この奇策に対してコンゴウ型宇宙戦艦を中心に、軸線砲として陽電子衝撃砲(ショックカノン)が採用された。あまりのエネルギー効率の悪さに主機のエネルギーをそのまま使用する艦首砲、いわゆる創作上だけの存在であったモーターカノンが実現した。

 

ちなみに、ただでさえエネルギー効率が悪いのに大口径にするとさらに悪化する。コンゴウ型で採用した38cm砲は、使用すると主機が落ちるほどだった。

 

逆に小口径にするほど効率の問題は解決してくる。対空砲として開発されたパルスレーザー砲は、名前に反して小口径のショックカノンと言えた。

 

ただし名前にある通り、ガイドとしてレーザー光は照射する。レーザー命中時の熱を検知して、本射として鉄などの原子をイオン化した荷電粒子を発射する。

 

小口径でも質量があることは、装甲がない対空目標に対して非常に有効であった。ただし仕組みから分かるように、消費エネルギー的に贅沢な装備である。

 

「艦首のショックカノンを当てれていたら、ガミラス艦も沈められたんですかね?」

 

「当てさせてくれんだろう」

 

研究会の中で唯一、コンゴウ型での勤務経験がある沖田が回答する。口ぶりから、内惑星戦争でも当てるのには苦労したようだった。沖田が第2次内惑星戦争でコンゴウ型を指揮した訳ではないのだが、指揮する艦の戦歴は自分が乗っていたかのように把握している。

 

事実、コンゴウ型は艦首ショックカノンを搭載するためにかなりの無茶をしている。船体をぶち抜く砲の搭載スペース確保のために、様々な設備が移設された。

 

その影響で、第2砲塔と艦橋が合体すると言う設計上の奇跡を起こした。

 

あれは完全に欠陥だった、と研究会終わりの飲みの席で沖田は打ち明けていた。欠陥に大勢の人間が関わるとそれを表立って批判できなくなる、と言う社会的な欠陥を極東管区は抱えている。

 

艦橋砲について特に興味深いのは、改修直後にコンピュータに目標選定を任せたら勝手に艦橋が動き出した、と言う話だった。メーカーの人間に無理を言って、コンピュータの統制対象から第2砲塔を外して貰っていたと沖田は小声で話した。

 

艦に期待する火力は、作戦を決める上で戦力を左右する非常に重要な要素である。現場レベルで対応するのは相当にまずい話であった。

 

ただ、それも木星の露と消えた。現役の艦もまだ幾つかあるような気はするが、とりあえず沖田の肩の荷は下りたのだ。

 

「まあ、ショックカノンなら大気中でも撃てるのだから、理想の全領域戦闘ができる訳でもある」

 

本当にショックカノンを積むのか疑問に思う面々に、真田がいいところを挙げた。

 

ショックカノンは電子ビームを用いるが、ネガトロン(陰電子)を使用しているわけではないので対消滅は起こらない。大気中で盛大に使用しても問題はなかった。減衰も一定の距離まではほぼ起こらない。

 

ショックカノンに使用される貴重物資のコスモナイトであるが、バリバリの重金属でもあることから、地球大気や水中での使用はその後が怖いと言えた。ただし、ショックカノン1射でのコスモナイト使用量はわずかである。

 

「そんな大飯ぐらいの武装を乗せても大丈夫なんですか?」

 

自然と疑問が出る。試練艦にはワープと言う大きな仕事があるわけで、それにどの程度のエネルギーを使用するのか全く想像はつかない。だが、それだけに戦闘を主任務とする艦でも搭載を躊躇うほどの兵器を載せてもいいのか戸惑う声はあった。

 

「それがイスカンダルに主機である波動機関から取り出せるエネルギーについて問い合わせたが、”無限”だと回答された」

 

おかしな話であった。永久機関は、仮に取り出せる期間が無限であるとしても、瞬間的に取り出せるエネルギーも無限であるはずはない。

 

結果的に無限というのはウソだった。機械力に変換する都合で一度に取り出せるエネルギーには上限が存在する。本当に瞬間的なエネルギーが無限だとしたら、機関を動かした瞬間に新しい宇宙ができるはずであった。

 

ただイスカンダルが無限だと表現したことは、あながち間違ってはいなかった。試練艦にどれだけのエネルギー所要を盛り込んでも、イスカンダルは設計変更でそれに対応してくれたからだ。要求はどれだけしても良いと言っていたようであった。

 

なので海底ドッグにある工場設備O•M•C•S、通称オムシスまで艦に積むことができそうだった。オムシスはいわゆる原子プリンター、夢の万物製造機である。

 

奇跡の対価として大量の電力を消費する。プレスリリースで一地方の消費に等しい量の電力を使用し、完璧な焼き立てのチョコチップクッキーを一枚だけ作ったことで悪い意味で話題になった。

 

ただ、オムシスに入力する原子サイズで構成されたモデルデータの作成が非常に面倒なため、出力が豊富な3Dプリンター程度として運用されることが多い。構造が単純であれば消費電力が減るので妥当な判断だった。

 

何を隠そう、オムシスのお披露目で作られたチョコチップクッキーを食べたのが幼き日の真田少年である。だからああなった、と技術科でたまに言われることがあるが、本人は全く気にしていなかった。だが新見女史は許さない。

 

試練艦では補充部品の製造はもちろん、完成品までは作らないが、食事の原料をオムシスにプリントさせて料理を提供しようと画策していた。

 

真田がオムシスから作られた食事を口にしない、というルールを自分に課していることを知ったのは航海に出てからであった。改善はされているが、味を再現する仕組みは意外と複雑であることがオムシスが作った初期の料理からわかったのだ。

 

ちなみにオムシスはその気になれば空間戦闘機を丸ごと一機プリントできるのだが、そこまで作るのはあまり良いことではなかった。オムシスにもプリントのエラー率があって完全ではないのだ。

 

戦闘機ボディのほんの一部がおかしくなることに大きな問題はないが、原子レベルに近い電子部品ではエラーが致命的になる。

 

オムシスの実用化にあたって、エラー率は人間の作る部品程度に抑えられるようになっているのだが、どこでエラーが起きるのかは予測できない。

 

人間によって作られた電子部品には、どこでエラーが起きやすいかのデータが蓄積されているため予測が立てられる。しかし、オムシスが作った部品のエラーを見つけるのは大変に困難であった。

 

研究会は一旦、トイレ休憩を挟むことになった。

 

 

 


 

 

 

西暦2192年 国連宇宙軍極東管区 イ号研究会

 

古代はこの日の研究会を楽しみにしていた。最初に木星沖開戦の結果からアレコレを挟むことになったのだが、この会の話題が逸れるのはよくあることだ。

 

この日のメインの議題は超光速航法、試練における重点そのものであった。

 

航海科の島が説明者として会議室の前に出る。イ号研究会は真田と新見が解説してくれる面白講座ではなかった。

 

最終的に試練へ航海を出ることを考えると、今の10倍以上の乗員が参加することになる。彼らに説明する側を育てることも研究会の目的であった。

 

その一環としてイスカンダルへの航海とその航法を、技術科からのコーチングを受けて相棒の島がまとめていた。ここ最近、とんでもなく忙しそうにしていたのを知っている。

 

イ号研究会への参加も業務の一つであったわけだが、どうにも周囲から遊んでいると思われている節があった。実際、古代としては楽しい。

 

研究会に参加する全員が普段の業務も抱えている。会が人事を予約している形になるので、参加者が艦艇勤務に移されることはないが、イスカンダルへの航海が無くなった時に何もできない士官が残るのは不味かった。

 

なので島はわずか十数光分しか離れていない火星への通常航法での航海と、16万8千光年離れたイスカンダルへの超光速航法での航海の両方を頭に叩き込まれている。

 

よくおかしくならないよ、と古代はなぐさめたのだが、なりそうなんだよ、と語気強めに返されたので触れないことにした。

 

まあ、内惑星系で試験を行うわけだが、ワープした先で機関が故障したら通常航法で帰ってくるわけなので無駄になることはない。大先輩で経験者の沖田がいるわけではあるが。

 

「説明に際して配布する資料が一部あります。回すので各自受け取ってください」

 

 

イスカンダル試練のしおり。

 

【挿絵表示】

 

 

A4用紙を折りたたんで作った明らかにお手製の冊子が配られた。表紙に航宙艦らしきものに乗った男女がよく見る笑顔を浮かべている絵が描かれている。今年で管理人が5代目になる老舗フリー素材サイトで配布している絵だ。

 

航海科では航路をまとめるのに島の他に沖田と女性の科員を一人つけている。しおりは彼女の力作だった。与えられた仕事は試練の航海について、誰にでもわかりやすくまとめることである。監督役は沖田であった。

 

内容が内容なので彼女にはイスカンダルとの交信権も与えられていたが、どうもログから上司との付き合い方についてETIに相談している様子が見られた。

 

イスカンダルはその手の話が大好きなので、めちゃくちゃ親身になって聞いてくれる。ただ神様的なことしか言わないので、あまり役には立たない。

 

その啓示を受けて彼女は試練のしおりを作成した。校閲に当たって沖田は最初は拒絶したが、一度、誰にでも分かるようにまとめろと突き返した手前、かなりわかりやすくなって返ってきたので受理せざるを得なかった。

 

「まず、イスカンダルが提示した超光速航法は、一般的に知られているワープ航法に分類されます。これは空間を折り畳んで移動するタイプの航法です」

 

島は丁寧に話し始めた。この時代の国連宇宙軍では、会議でスピーカーとして登壇する際、必ずしも丁寧語を使用する必要はなかった。真田のように、日常の口調をそのまま保持しても良いとされている。

 

これは、任務で話していると解釈されるためであり、現場での命令や報告時に丁寧語を使用しないのと同様の理由からである。ただし、真田のように上官がいる状況でも普段通りの口調を維持できる者は少ない。

 

会議室の床面にスライドが表示された。

 

【挿絵表示】

 

 

いつのまにか、スライドを壁面ではなく床面に表示する慣習が生まれていた。壁面に表示するよりも広い面積にわたって大きく表示できるのがその利点である。しかし、その一方で表示スペースを多く必要とするため、説明を聞いている最中、参加者全員が立っている必要があるという欠点もある。

 

「このスライドでは、我々の空間を二次元の平面上、その線で表しています。空間を折り畳むことで、互いに遠く離れている二点を近づけ、その二点を通過することによって、実際の空間を直接移動するよりも速く目的地に到達することができます」

 

島が説明を続ける。

 

「従来の仮説においては、空間を折り畳むためには全宇宙のエネルギーを上回るエネルギーが必要であるとされていたため、この説は否定されていました。しかしながら、イスカンダルの説明によれば、宇宙は既に都合よく折り畳まれているということでした」

 

スライドの空間を表す線が変形していく。線はカエデの葉のようになった。

 

「イスカンダルが示唆する理論に従えば、私たちが存在する空間はカエデの葉のように曲がっているとされています。このスライドではその一部を表現していますが、宇宙全体としては、フラクタル状に樹木の形をしていると考えられます」

 

島は、その場にいる全員に向けてついて来れているか問いかけた。本来ならば、理解が追いついていないように見える人物を指名して話を広げたいところであったが、相棒の古代が自分を指名してほしいと言わんばかりにこちらを見ていたため、彼を指名した。

 

「枝の部分を通ればいい!」

 

古代が答えた。少し子供っぽい答え方になってしまっているが、誰もそれを指摘することはなかった。彼のそういった態度は好意的に受け取られやすく、それが彼が異性によくモテる理由の一つであった。

 

スライドが一つ進む。

 

【挿絵表示】

 

 

「そのとおり。この理論を基にした超光速航法では、常に空間の枝や幹に相当する部分を通って空間を跳躍をします。スライドでは図示の都合上、枝に太さがあるように表現されていますが、実際にはここに相当する部分の太さはほぼ0である、とのことです」

 

島はその場を見渡しながら、理解度を問う必要はななかったのではないかと考えた。士官は大抵察しがいいので、その士官たちが集められた研究会はワトソン役がいなかった。

 

「先程お話しした通り、スライドでは空間を二次元空間内の線として表現しています。イスカンダルが示した宇宙観では、この関係が現実の宇宙にも適応されます。私たちの空間は三次元ですので、この観点では四次元空間に存在する構造体の表面として、われわれの空間は存在していることになります」

 

この説明は少々わかりにくかった。三次元コンピュータグラフィックスに精通している者であれば、ポリゴンとテクスチャの関係が一次元高くなったと考えれば理解しやすい。これはある種のホログラフィック原理と言えるが、より大きい次元から投影された表面が我々の空間であると言う点で大きく異なる。

 

イスカンダルから得られた新しい理論が正しいと仮定すると、問い直さなければならないのは「なぜこれまで人類はその点に気づくことができなかったのか」という点である。人類は紀元前からすでに地球が球体であることを理解していた。

 

ただし、これを簡潔に説明できるのであれば、人類は既にその理論を習得しているはずであり、逆説的に言って簡潔に示すことはできない。

 

それでも断片は掴んでいたようであった。いわゆるダークエネルギー、既存の理論では説明しきれない未知のエネルギーが、ある一点から見通した時の曲がった空間を示していることが明らかになった。つまり地球上のある点から見た地球そのものである。

 

「ここまでの説明を踏まえて重要な点を補足しますと、一度のワープで移動する距離が必ずしも一定であるわけではありません。試練のしおりはこの点について非常によくまとめられています。つまり、つながる葉の多い枝を選んでワープするほど、通常の空間で考えた場合、より長い距離を移動することになります」

 

実際、古代がしおりを確認してみると、ワープごとに移動距離が増加しており、最終的には全航程の半分を超える10万光年以上を一度でワープする予定となっていた。

 

「次に、イスカンダルの超光速航法を基にした分析では、投影元となる4次元の宇宙は、以下のような構造を持っていると考えられます」

 

スライドが切り替わる。

 

【挿絵表示】

 

 

「空間を線で表現した場合、内側には反ドジッター空間が、外側にはドジッター空間が存在するとされています。そして、その境界に位置する部分が我々が存在する宇宙に相当します」

 

監修者である真田の様子を伺いながら話を進める。正直、この部分は島でもさっぱり何を言っているかわからなかった。

 

「ただし、この説明はやや専門的な内容を含んでいるため、単純に我々の宇宙には内と外があり、それぞれに膨張する宇宙と収縮する宇宙が広がっていると理解してもらえれば問題ありません」

 

重要な点は、内と外で空間が広がる方向が異なるということである。

 

これは余談になるが、「内と外」という表現は便宜的なものに過ぎず、実際にそのような区分が存在するのかは明らかではない。内と外を区別するためには、境界にある我々の宇宙が閉じているかを実測する必要があり、それはイスカンダルでさえも実現できていないからである。

 

ただし、収縮する方向を「内側」、膨張する方向を「外側」と定義することが理解しやすいため、このように表現している。

 

無限に広がる宇宙のすべてを探索することは、イスカンダルのような、はるか未来の技術を用いても困難であるようであった。

 

「これらの空間は一般相対性理論で登場するコスモロジカル定数によっても分類することができます。0は我々の存在する空間を示し、正の値は外側の空間、負の値は内側の空間を示しています」

 

航海科の士官であっても通常は遭遇しないような専門用語が次々と出てくるのが、超光速航法の難解な世界であった。ただただ、興奮して語る技術科の士官たちを見ていると、彼らこそが異星の人間のように思えてくる。

 

スライドが切り替わった。

 

【挿絵表示】

 

 

「波動機関を用いた超光速航法では、艦の周囲のコスモロジカル定数を操作して前進します。前方の空間のコスモロジカル定数を負の値に変更し、後方の空間を正の値に変更することで、艦前後の空間を収縮・膨張させます」

 

この方法は、別の視点から捉えれば、艦周囲の空間トリムを変更して4次元宇宙の中で空間を傾けることで、艦の前後にドジッター空間と反ドジッター空間を生成する、とも説明できる。

 

また、ここで変更されているのは「コスモロジカル()()」という、宇宙の基本的な物理法則を構成する一要素であるため、艦周囲の物理法則を書き換えて進んでいるとも言える。

 

「この状態は一種のアルクビエレドライブとも解釈できるため、艦周辺の空間は物理法則を保ったまま超光速に突入できます」

 

超光速航法にはしばしば、移動する対象自体が光速を超えることで無限を超える質量を持つことになり、説が破綻する事態が起きる。ただアルクビエレドライブでは、艦周辺の空間は一切加速しないためこの問題が発生しないという利点があった。

 

一方で、このアルクビエレドライブには空間に穴を開ける必要がない、と言った利点も存在したが、イスカンダルの超光速航法では空間から飛び出る必要があった。

 

折り畳まれた空間の枝の部分を横切る時、艦周囲の空間トリムを変えて前進することで、完全に反ドジッター空間に飲み込まれる。ただし、枝の太さはほぼ0なので、事前にある程度加速していれば、勢いで反対側の空間まで突き破れるのだそうだ。意外と力技であった。

 

このワープ航法で気をつけなければならないのは、宇宙の内側に取り残されてしまうことだ。全てが収縮する反ドジッター空間では、永久機関である波動機関もその基である余剰次元が収縮してエネルギーを取り出せなくなる。逆に波動機関のシリンダー内はドジッター空間に保たれていて、余剰次元を膨張させることで無限のエネルギーを得ている。

 

イスカンダル曰く、どちらの空間も航宙艦艇の墓場になっているのだそうだ。

 

「イスカンダルが提示した超光速航法の理論は信用できるのか?」

 

沖田が真田に質問を投げかけた。

 

「ガミラスにも基礎理論について確認を取りましたが、概ね同様の回答を得ています」

 

真田もスピーカーとして話していない時は、丁寧語で話す。

 

それにしても、異星文明とのコンタクト方法として、イスカンダルとガミラスの双方から連絡を取るという手法は非常に優れている。木星沖の海戦でもそうであったように、立場が異なる二者が一致した情報を提供してくれれば、説得力が増して判断が容易になる。もちろん、銀河規模のペテンに遭っている可能性も十分に考えられるが、いずれにしてもウラが取れない話であるため、説得力が判断のポイントとなる。

 

もし地球が別の異星文明と接触する機会があれば、この手法を模倣しても良いだろうと思えた。イスカンダルとガミラスのように根本から異なる集団を用意できるかは不明だが、対立する集団ならいくらでも存在する。

 

「結局のところ、超光速航法を含め、何が波動機関を制御しているんですか?」

 

実務を担う軍人らしい質問が飛んできた。仮に宇宙の構造が明らかになったとしても、コスモロジカル定数を変更することや、空間を跳躍することは、現在の技術では到底不可能に思えた。仮に純粋な永久機関として波動機関が完成したとしても、膨大なエネルギーをどのように利用するのかについては現代の人類には未知の領域であった。

 

余談だが高効率の核融合炉は、人類にとっては擬似的な永久機関と言えるものである。いわゆるエネルギー問題は、地球全体で見れば解決に向かっていた。

 

「波動機関、あるいは空間トリムの変更等の制御は波動コアによって行われる。イスカンダルから提供された理論だけでは、現代の人類に超光速航法を実現することはできない」

 

真田が代わりに質問に回答した。島も状況は把握しているが、その方が説得力があるからだ。会議室にはため息に似た重苦しい雰囲気が漂った。

 

「波動コアは地球で量産可能なんです?」

 

これは重要なポイントであった。仮に試練を成功させたとしても、波動コアの供給をイスカンダルに依存せざるを得ないのであれば、ガミラスに服従することの方がリスクを避ける上では賢明だ。

 

「波動コアの量産は、私たちがイスカンダルに到達した後であれば可能となります。量産自体は地球でも行えるようですが…」

 

新見女史がテンポ良く答えたが、最後には言葉を濁らせた。これは「可能ではあるが、何か問題があるのか?」という追問を促すような形となった。

 

「増やす方法は、地球の土に埋めれば自然に増えるそうだ。育て方は大まかにジャガイモと同じらしい」

 

真田が言葉を濁らせた部分について補足説明した。

 

これに対する場の反応は、「ふざけているのか?」というものであった。これは当然の反応である。ただし、この「土に埋めておけば養分を吸収して勝手に育つ」という方式は、マゼラン銀河方面では比較的ポピュラーな手法であるという。

 

後に、地球人類はこの方法で宇宙戦艦を製造している文明と出会うことになる。

 

大まかに言えば、種に相当するものを埋めて大きく育てる「種芋方式」と、同じものを埋めた場合に1つ、または確率に応じて2つドロップする「マインクラフト方式」の2つが存在していた。波動コアは後者である。

 

「ガミラスでもこの方式で波動コアを増やしているとの回答を得た」

 

信じたくないことではあるが、ウラが取れてしまった。

 

ガミラスでは多くの比較実験を行った結果、波動コアが2つドロップする確率がイスカンダルによって操作されているのではないかという研究結果があった。これが正しいとすれば、実質的にはイスカンダルが波動コアの数量を調整していると言える。

 

余談になるが、ガミラス星には広大な波動コア畑が存在する。ガミラス帝星領域の十数万隻の航宙艦に波動コアを提供しているので相当な広さになる。

 

そして、その隣ではガミラス星特産のジャガイモが育てられている。生物の成長にはあまりに過酷なガミラス星の環境だが、この芋だけは育つ。

 

ガミラスが遺伝子を発見するほどに発展した時、この芋には人為的な遺伝子の操作が加えられていることがわかった。その時点でそんなことをやれる種族は一つしかない。というより、この芋自体が天界から授けられたという伝承を既に持っていた。

 

ガミラス人はこの芋を、これまたガミラス星で取れる粗悪な油で揚げた料理が大好物である。真夏のタイヤ倉庫で思いっきり深呼吸した時のような味がするらしい。

 

このガミラス名産のジャガイモは、恐ろしく繁殖力が強い。想像を絶する過酷な環境でも育つように、イスカンダルによって改良されているわけなので当然であった。

 

このジャガイモは排泄物の一部にでも混ざっていると、正しい処理を行わなければそこから繁殖してしまう。

 

ガミラス帝星領域内で、この芋は第1級の危険植物に指定されており、庭に植えられたハーブよりも繁殖力が高く、一瞬で在来種を駆逐する。

 

この芋以外にもイスカンダルがあれやこれや手を加えたと思われる、ガミラス星由来の特定外来植物の害を総じて「ガミラス・ファーミング」と呼ぶ。汚染地域では禍々しい見た目の植物が繁茂するのですぐにわかる。

 

話は元に戻る。

 

「波動コアを使用せずに波動機関を動かすことはできないんです?」

 

当然、湧いて出る意見だった。誰も自分の文明をふざけた増やし方をするコア資産に預けたくはない。

 

「波動コアは、おそらく数万年単位で蓄積された波動理論の制御ノウハウが結晶化した物理キーだ。もし我々が波動コアを使用せずに波動機関を動かすのであれば、周辺設備が肥大して安定性はもちろん恒星間航行がコストに見合うかからの検討を行わなければならない」

 

つまり波動コアを用いない経済的な超光速航法は不可能だった。

 

「ですがイスカンダルは波動コアの生産数に応じて、料金を徴収するつもりはないそうです」

 

神様らしい施しだった。

 

ただ調子に乗って特許は出さない方が良い、とガミラスから警告があった。特許などの決まり事はイスカンダルがこの世界でも好きな分野の一つである。

 

これをやるといつの間にか星系に存在しない人間から、次々と革新的な特許が出願されるらしい。ガミラス星の特許制度はそれで崩壊したそうだ。

 

真田と新見が答える側に回ってしまっていたが、メインスピーカーを島に戻した。

 

「イスカンダルへの航海は、内惑星系でのワープ航法のノウハウを積んでからになりますが、しおりに記載されている通りです」

 

しおりには試練の航路で通過する様々な名所が記載されていた。7色に光る星団とか、巨大な謎の古代文明の遺跡とか、変な恐竜がいる惑星とかだ。古代は楽しみでしょうがなかった。もちろん、これらはイスカンダルから聞き出した情報である。

 

「航路の重要ポイントは全て何らかの惑星になっていますが、これはわざわざ通過するんですか?」

 

ちょうど良い質問が誰かから投げられた。フィクションでは地球の隣は火星、その隣は木星となっているが、実際には全ての惑星は恒星の周りを公転している。惑星が目的地の直線上にきていなければわざわざ寄る必要はないのだ。

 

つまり広い宇宙で真っ直ぐにイスカンダルまで向かった場合、惑星を幾つも通過する航路というのは意図的にそのような航路を設定しなければ有り得ない。

 

「先ほど示したように、超光速航法では折れ畳まれた空間を利用して跳躍を行います。この空間の折れ曲がり方なのですが、主に惑星などの重力勾配が影響しています」

 

詳細はイスカンダルから提示された銀河海図を参照することになるが、葉の枝に相当する部分には何らかの重力源、大体は惑星があった。

 

「つまりイスカンダルからもたらされた航法でワープすると、その先は必ず何らかの惑星近傍になると?」

 

島が即座に回答する。

 

「その通りです」

 

この航法の面白いところは、宇宙空間において何もない空間、俗にヴォイドと呼ばれる領域には逆に行けないことだった。ただ本当に何もないので行く必要もない。

 

「ワープの諸元になる銀河海図は、大まかには電波観測を基に作成しますが、詳しくは直接、現地に行って作成する必要があります」

 

イスカンダルから提供された銀河海図は試練に必要な航路の分しかない。その他は自分で作れ、という方針だった。もちろんガミラスからも提供はされない。買うことはできるらしい。

 

「もしかして通常航法で現地まで行ったことがないとワープはできない?」

 

超光速航法に関する思考実験でそこそこある、まずは光速以下でレールを敷かなければならない、というタイプの航法である。このタイプでは数万光年先の宇宙には行けない。

 

「ワープは大まかな諸元でもマージンを取れば安全に実施できます。ただ安全性を高めたり、ワープアウトする位置を少しでも惑星に近づけるのであれば、詳細な観測が必要になります」

 

新見女史が素早く答えた。

 

銀河海図は恒星の活動や超新星爆発の影響により微妙に変化するらしい。頻繁な更新が必要だった。

 

聞き取りによると新規のワープ航路の開拓、その後の経済的な行き来のための銀河海図の更新もガミラス宇宙軍の重要な仕事の一つであるらしい。

 

「宇宙でも観測艦を整備しないといけないのか」

 

水上艦の運用にも心得のある士官がつぶやいた。

 

海洋観測艦は海流に影響する海底地図形や、潜水艦を運用する上で必要な変温域の調査のために、国連海軍が結成された後も頻繁に運用されている。地球上ですら衛星からのリモートセンシングでは精度が不十分なのだ。

 

ただ観測艦は、敵からの妨害さえ考えなければ無人化が比較的容易な艦種である。宇宙でもその考えは通用するかもしれない、と早くも皮算用が始まっていた。

 

軍人として正しいかはわからないが、銀河規模の艦艇の運用について、試練に成功した時は自分たちで運用を考えなければならない。失敗した方がその辺りガミラスに音頭をとってもらえて楽だな、と沖田は少し思っていた。実務者として率直な感想であった。

 

「もしかして宇宙潜水艦も実在するんですかね?」

 

古代が冗談めかして発言した。内惑星戦争で火星が開発を進めていた艦艇の中に宇宙潜水艦と呼ぶべき艦が存在した。構想だけで着手はしなかったというのが地球側の調査結果であったが、実現性は置き、姿を隠すことが難しい宇宙空間では有用なコンセプトである。

 

「今問い合わせたが、ガミラスからは存在を否定されたが、イスカンダルからは明瞭な回答を得られなかった。いるものと考えて行動した方が良いようだ」

 

冗談に真っ向から真田は答えた。真田はとてつもなく仕事が早い。

 

頻繁なコミュニケーションにより、ガミラスは嘘をつけるが、イスカンダルは嘘をつかないことが分かってきていた。ただ話術がとんでもなく豊富なので煙に撒くことができる。その経験からガミラスが否定してイスカンダルが答えない話題には何かがあることに真田は気づいていた。

 

それは、これまでの説明を用いるならドジッター空間か反ドジッター空間に潜伏している何かだった。しかし、これらの空間には既存の物理法則が通用しない。空間があることを認識することさえ今の人類には難しかった。

 

このやり取りがあってか試練艦に亜空間探知のための装備が検討された。何か分からないが物理法則の通用しない空間に潜んでいる何かを検出する、という難しい課題が主に戦術科の古代に課せられた。

 

このほかにイ号研究会では、あれやこれやの可能性を検討し、試験艦の要件にとりあえず盛り込むという作業を繰り返し行った。結果として、試練艦は恒星間科学実験艦ともいうべき一品物へと変わっていくことになる。

 

今回のイ号研究会はここで終わりとなった。

 

次回の議題は、波動機関の負の側面。原子力で言うならば原子力発電と核兵器の関係にある究極の武装。その原理と取り扱いについてである。

 

今度はそっちが忙しくなる番だな、と島が古代の肩を叩いた。

 

 






コスモロジカル定数を宇宙項と呼ばないのはその方がヤマトっぽいからです。

アンケート機能を使用してみたいので設置しています。
バレてるところがあると思いますが、本作では本編でヒミツになっていた要素を最初からオープンにして、逆に本編では明らかな要素をあやふやにして話を盛り上げようとしています。
そこで知りたいのですが、旧作でもリメイクでも本編初視聴時にイスカンダルとガミラスが隣同士であることを知っていたでしょうか?
その結果、どう思ったかも回答に含めています。
ヤマトほどプロットが有名だとどのくらい知られているのか気になりました。



・今回のポイント
 最初の戦闘だがイベントキャラを乗せなかったのでスキップ、ガミラスの脅威イベントだけをクリア
 島のワープ説明イベントをクリア
 イスカンダル試練のしおりをゲット
 ワープ距離の延長に成功、バラン星をスキップ
 波動コア量産コストをほぼ0に

ヤマト本編を初めて視聴した時、イスカンダルとガミラスが隣同士であることを知っていた?

  • 何らかの手段ですでに知っていた
  • 知らなかったので驚いた
  • 知らなかったが何となく予想はついた
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