久々です
すみません
Chat GPTと嘘科学の考証を立てるのが楽しすぎて、なんだか自分の芸風がつかめてきました
すみませんついでに、冒頭でいきなり時間が飛ぶ上に話も飛ぶのですが、書きたくて仕方がなくて書いてしまいました
話自体が飛んだわけではなく、佐藤大輔的に、未来視点を挟みながら話をふくらましてみたいと思いました
どうやってこの地点に行き着くつもりなんだ?ってツッコミも含めて楽しんでもらえると幸いです
西暦2200年 地球ガミラス技術交流会
「とにかくイスカンダルは、筒の底に波動エンジンを据えている状態であれば波動砲は発射可能だと解釈する」
ガミラス人技術者が要点を整理して話し始めた。
「と、言ったって艦の前後に波動エネルギーを導いて空間制御するのが波動推進の原理な訳なのだから、前後に筒状の導管ができるのは防げなくはないか?」
地球人技術者が答える。そこに詰まりはなかった。
技術者の美点は相手が同類だとわかったら垣根がなくなることである。正しい工学的知識というコンテキストを共有することで互いを受け入れる。
存亡をかけて争った2勢力の技術者が冒頭から率直に意見交換ができているのはそういう理屈だった。
「あぁ、だから大事なのは”栓“なんだ」
この技術交流会は、次世代の地球製波動エンジン搭載主力戦艦、仮称ドレッドノード級の設計要素を洗い出す過程で地球側が持ちかけたものであった。
試練達成後の地球の新戦力整備計画は、ガミラスと地球が並びたって来たるべき脅威に立ち向かうのに必要な計画である。地球の戦力化はガミラスにとしても必要不可欠であった。
なので交流というのは名目上であり、ガミラスから技術供与を受けることを当たりさわりなく表現しているだけである。特に恒星間文明としてデビュー仕立ての地球から、ベテランであるガミラスに提供できる技術などはない、というのが実態である。
しかし、ガミラス側はちゃんと地球サイドに提供して欲しい技術を用意していた。そのあたり彼らはマメなのだ。ちなみに、ガミラスが要望したのは接触以前からあった火星由来の重力制御技術であった。どうもガミラス系統の物と違うらしい。
「システム的にはトリガーが波動砲の発射を確実にロックしている。ただし、それとは別に物理的に波動砲発射を阻止する措置をイスカンダルは求めてくる」
波動コアを使った波動エンジン搭載艦は、設計完了段階でイスカンダルの審査を受けることになっている。別にその結果で何をするとか言われないのだが、ただ見せてくれ、と言われるのだ。
そして、その相手がコアを握っているっぽい。それはつまりダメだ、と言われたモノを無理やり配備したら、いつ止められるかわからない、ということだった。それは兵器としては大きな欠陥だった。
そして仮称ドレッドノートが波動エンジン搭載艦として設計されるにあたっての最大の問題が「地球イスカンダル和親条約」での波動砲の取り扱いである。
彼女らはこの条約において波動砲を禁忌と表現している。
この和親条約を沖田が勝手に交わした口約束、と反故にすることはできなかった。約束はイスカンダルがこの世で大好きな物の一つである。
問い合わせから、条約を反故にするのは構わないがその場合は地球との関係が接触以前に戻る、という見解を示された。つまり地球は滅ぶ。
彼女らが納得する形で、地球側のメリットを保ちつつも波動エンジン搭載艦を設計する。これには先達であるガミラスの知見が必要不可欠だった。
その点で言えば、先ほどのノウハウなどはまさに交流会を開く価値のあった、値千金の知恵である。
ちなみに今されている話には大前提が存在する。それは艦の形状がどのようであれ、波動エンジンの先に筒さえあれば、筒の破壊と引き換えに波動砲は撃てる、ということである。
創造主にならって波動砲を禁忌とするガミラスの航宙艦でも、システム的にはできないが、物理的には波動砲を撃てるはずなのだ。代償として波動エンジンから先がなくなってしまうが。
「例えばガミラス艦は先頭に衝角を備えている場合が多いが、あれは一種のスプリッターになっていて機構的には波動砲を抑える栓になっている」
スプリッターによって拡散された波動エネルギーは、広範囲に広がる代わりに貫通力を急速に損なう。その先に開口部がなかった場合、筒である艦体が崩壊して破壊は収まるのだった。
イスカンダルは審査において、波動エンジンとその導管が、万が一、波動砲と同じ働きをした場合にも問題が起きないような措置を求めてくる。
ガミラス艦の攻撃的なデザインに意匠以外の意味があることが驚きだった。
「ではハイゼラード級は?」
存在を知られていたのか、とガミラス側に衝撃が走る。ハイゼラード級はガミラス宇宙軍でも最新鋭艦であり、開発者ですら配備状況を知ることができない艦だった。
「アレには艦内部に楔状のスプリッターが内蔵されている」
なぜ問題ないのかは説明できないが、と付け加えた。
ただ地球側技術者が、もしかして波動エネルギーにノイマン効果が、と騒いでいる。
「ノイマンが誰かはわからないけど、想像の通りだと思うよ」
翻訳システムの限界を技術者のコンテキストが上回った。
それ以外ではゼルグート級などは、スプリッターそのものを分厚い前部装甲として備えている。コストと引き換えに抜群の防御力と栓としての機能を提供していた。
ただ、もし内側で波動エネルギーの爆縮が起きると、艦の崩壊とともに凄い勢いで前部装甲が飛んでいくのだが、それは宇宙を引き裂かないからOK、というのがイスカンダルの審査結果だった。
他にもどう措置しているのか知りたいガミラス艦はあったが、細かい話なのでそれ以上の追求は辞めにした。とにかくこの場が貴重なのだ。
「この仮称ドレッドノートの設計は、波動砲拡散防止措置の観点からすれば完全にアウトだ」
この時の設計はガミラスから買い取ったガイデロール級をベースにとりあえず不要に思えるものを取り除いて、地球が必要とするものを足した設計だった。
そして取り除いた中にスプリッターはあった。
これをイスカンダルに提出したら、トランジッション波動砲を撃てるよう改造できてしまう、として突き返される、とのことだった。
そんな改造がやれるなら是非やりたいものだが、代償に条約を破ることはできない。
スプリッター自体の実装は、ヤマトがイスカンダルに波動砲を封印された時の栓があるので、技術的には問題がなかった。
そもそも本来であれば、恒星間級の戦略兵器に頑丈な封印がないことの方が問題だったのだ。イスカンダルの感覚からすれば核爆弾から導線が出ているような状態だったのである。
ヤマトの波動砲栓は外すだけならいつでもできるが、それは条約の破棄を意味する。栓とヤマトの間には封印シールが貼られていて、これが破れると自動的に条約を破棄したことになる。
地球イスカンダル和親条約には証人としてガミラスが立てられていて、イスカンダルの委託を受けてシールの保全状況を査察している。
具体的には定められた頻度の範囲であれば、ガミラス側は任意のタイミングでヤマトを査察できる権利を有していて、シールの状況を確認できるのだ。
流石に、恒星間超文明との約束のシールを一回、剥がして戻してみよう、という人間は地球にはいなかった。
「波動砲としての機能を保ちたい魅力はわかるが、これをしつつ審査を通すにはデウスーラ並のギミックがいる」
ガミラス版波動砲であった秘匿兵器Ⅰ号、通称デスラー砲はトリガー回避のために独自のコアで波動機関を実装したコアシップと、単体では波動エンジンとの導管が繋がっていないデウスーラⅡが揃って初めて機能する。
この2つがガミラス、イスカンダル間の条約では言及されていない高次元宇宙において合体する、という理屈でセーフとしているのである。
これは誰の目から見てもアウトなのだが、イスカンダルはこの手の水面下の努力が、約束の次ぐらいに好きだった。なのでガミラス側がボロを出さない限り、これを容認していた。
「彼女らの懸念は、波動砲の非人道的な破壊力にあるのだろうか、それとも宇宙の構造そのものが破壊されてしまうこと、にあるのだろうか?」
それまで黙っていた真田が疑問を投げかける。試練においてイスカンダルその人から懸念を伝えられた経験が生きる。
だがガミラス側で答えられるものはいない。それはそうだろう、彼らにとってそれは創造主への挑戦だ。
そして、これを調べることも難しかった。イスカンダルは、制度へのハッキングを防止するためにタイムアウト制をとっている。つまり一度、審査に投げて受理されなかった場合、次に審査を受けれるまで時間が開く。
審査を何度も繰り返して、禁忌の境界線を確かめるのは難しかった。
しかし、交流会に参加していた政治家には答えがわかっていた。答えは両方である。それは彼女らの立場を自分に置き換えて見るとわかる。
つまり自身が圧倒的優位な立場の核保有国であったとして、未開の文明が核兵器を持とうとするのにどう懸念を示すか、ということである。
建前として、惨禍を生み出す兵器なのでダメですよ、というが本音は、同じ星の下で核爆発を起こしてくれるな、というものである。そして技術者達にも政治的なセンスが全くないわけではないので同じ答えに至る。
「答えは低出力核か」
小型核、限定核、戦術核などとも表現される、すごい微妙な立場の核兵器である。幸い地球では許さなかったが、核拡散防止の抜け穴とも称される。
技術的には難易度が高いのだが、言ってしまえば威力を抑えた核兵器で、兵器としては効果的だが、地球環境に甚大な影響を及ぼすほどの威力はない。
これと同じことを波動砲でやろうと言うのだ。いや、もっと便利に作り変えることだってできる。
何せ宇宙に超新星爆発級のエネルギーをぶつけないと倒せない相手がゴロゴロいるわけではない。小型核との共通点は、核分裂のエネルギーを使い切らないと倒せない戦車はいない、という点もある。
なら威力が低くなっても範囲が広い方が使い勝手がいい。スプリッターで拡散させた波動エネルギーを使った貫通力の低い波動砲。そして、それが宇宙の構造に及ぼす影響が限定的であること。
これならイスカンダルが容認する可能性はある。
地球の新戦力整備計画において、和親条約の脱法手段としての拡散波動砲、というコンセプトはこの時に固まった。
西暦2192年 国連宇宙軍極東管区 技術科会議室前 廊下
「よぉ、今からか?」
技術科からのレクチャーを前に何処からか現れた島に声をかけられる。その内容はお互いの状況を把握していなければ何を言っているかわからない、隠れたコンテキストを山ほど含んでいた。
まず何処からともなく現れた、のは別によかった。お互い話かける時はフラッと現れることにしている。その方が面白いからだ。
今から、というのは自分が戦術科の代表として波動エネルギーを転用した兵器の運用にまつわるレクチャーを受けることだった。
国連宇宙軍の士官は無知ではないが、恒星間戦闘艦という未知の存在に対応できるほど全能でもなくて、それには技術科からのフォローが必須だった。
「あぁ、今から色々と頭に叩きこまれるみたいだ」
それで憔悴するところを見に来たんだろう、と拗ねたように答える。前回の意趣返しというわけだった。
「いや、最初はそのつもりだったけど、顔を見たらわかるが楽しみで仕方ないんだろ?、だったら最後まで楽しんでやるんだろうなって」
お前はそういう奴だ、と付け加える。実際に楽しみでしょうがなかった。
「ただ結構、衝撃的なことも言われるから覚悟した方がいいぞ」
つまり島はそれを言いにきたんだな、と納得する。そう言えば前回の研究会からしばらく元気がなかったような気がする。士官の定めとして多忙には慣れているはずなのに、だ。
まぁ、でも今の島からして吹っ切れられたんだろうな、と心配するのは辞める。あいつは何かと思い悩むタイプだが、一度、吹っ切れると一切の後悔をしない。そのあたり自分よりもキッパリしていた。
そうしているうちに時間になった、組織の定めとして何かと予定が変わる宇宙軍だが、とにかく技術科の人間の時間は一切奪うな、と厳命されている。
技術科の人間の1分とその他の人間の1分は価値が違うのである。実際、その通りに給料が違う。
なので島にはあっさり別れを告げて、時間通りに部屋に入った。
西暦2192年 国連宇宙軍極東管区 技術科レク
「突然だが古代宙尉、今時点を持って君の機密へのアクセス権を引き上げる」
真田からの最初の一言は、本当に突然で衝撃的だった。その証として渡されるドングルからは渡され得る中で最高レベルであることを示していた。
大体、この人から古代宙尉、と呼ばれる時はロクなことがないのだ。普段は古代、である。兄とは君と呼ぶかお前と呼ぶかで区別しているつもりらしい。
「今からの話は、国連でも機密レベルを定められていない。そして現在の国連の根幹に関わっている」
だから、とりあえず最大の権限を与えられた。しかし、異星人がきた世界で一体何が秘密なんだと不思議に思う。
「端的に言うと火星の主張する遺失物は本当に地球外文明が由来だった。彼らは嘘をついてはいなかったことになる」
なるほど、そう来たか、と思う。これは2度の内惑星戦争の根幹に関わる事実なのだ。
これを受け止めるには22世紀の偉業としての火星入植を振り返る必要があった。
始まりはサイボーグ・イーロン・マスクである。
自分が関わった技術で革新的な延命を果たした実業家は、ついに念願の火星入植を果たした。
打ち上げ事業組織としてのスペースXからはマーズXが分社し、これが火星開発公社に発展、最終的に火星自治政府、地球人が火星と呼んだ時にイメージする集団を形成するに至った。
火星がその母星において「遺失物」を発見したと言い出したのはその最中である。ただ火星人がこれを指してXと呼称しだしたので、同名SNSとの区別がつかなくなった。
なので地球では単に「遺失物」と呼ぶ。あと同名SNSの方も嫌がらせで旧Twitterと呼ぶ。名前が変わって1世紀以上は経つのにである。
さて火星はその遺失物から新しい技術を得たことを主張した。これが現在の重力制御技術である。これを地球は信じることができなかった。そうだろう、ここまでですごく胡散臭い。
「ただ、それが本当であった、と」
真田に確認する。頷きが返った。
「ガミラス、イスカンダルから得られた知見を統合すると、これまで不明だった重力制御技術の基礎理論が説明できるようになった」
それはつまり、火星の技術は地球の常識を超えていたことになる。イスカンダルからはよく残骸からモノにしましたね、と褒められてしまった。恒星間文明になる前の惑星間文明の保有技術としては最高峰であるらしい。
島が悩んでいたのはコレだな、と見当がつく。島の家系は海軍人なので内惑星戦争にも深く絡んでいる。この事実はちょっとしたアイデンティティの危機だろう。
かくいう自分も正義感が少しざわつく所がある。しかし、それよりもその先、異星の技術によって説明できるようになった基礎理論の方が楽しみだった。
食後にケーキがあると知っていると、ちょっとしたことで腹立たしくはならないのである。
ただその前に、なにゆえ地球が火星の主張を完全否定する、ややこしい事態になったのか、補強が必要だった。
全ては当時の地球側責任者と火星側責任者の対立のせいだ。トランプ5世対サイボーグ・イーロン・マスクというB級映画以下の対戦カードが分断を煽れるだけ煽り、互いの主張を全否定した。
結果的に地球は火星の遺失物を嘘だと決めつけ、火星が取得したとする重力制御技術もデタラメであると批判した。
最終的に地球側が火星の遺失物研究機関を強行査察したことを切っ掛けに独立運動に火がつき、第1次内惑星戦争の口火を切る。そこで地球は重力制御技術がホンモノであることを思い知った。
しかし戦争に至って遺失物が地球外由来かどうかなど関係はなくなり、火星の独立に対抗して権限を強化した国連は、独立を許さない姿勢と遺失物そのものが嘘であるという主張を崩さなかった。
面白い対比だが、地球の常識を超える科学に対して、地球側は火星が自力で開発したのだろうと決めつけ、火星側は遺失物として見つけたのだと主張していた。相手を毀損するなら何だか逆のような気がする。
ただ火星には遺失物を入植先で見つけた、という事実が重要であった。つまり遺失物が偉業に対するレガシーなのだと考え、そこにアイデンティティを見い出していたのだ。
地球が遺失物をウソだと決めつけたのも、単なる癇癪ではなく、そこを崩さないと火星の独立を許してしまうからだ。まさか全部が片付いた後に本当に地球外文明と接触するとは想定外である。
そう、2回の内惑星戦争は、結果的に入植者から入植先を奪う結果となって片が付いた。今更、火星の主張が本当であると分かっても何もかも遅いのである。
「国連はこの事実をどういう形で公表するか、決めかねている」
もしかしたら国連という組織の枠組みそのものが崩壊するかもしれないな、と真田は憂いた。そして実際にその通りになる。
「という話は置いておいて、今日の本題に入ろう」
お待ちかねの時間だった。ただ先ほどから真田の隣にいる新見女史が一言も喋らないのが気に掛かった。いつもなら真田の説明に絶妙に補足を入れてくるのに、だ。
ただ分からないことは悩んでも仕方ないので、深くは考えないことにした。
「君には前回、島宙尉に説明してもらった大まかな宇宙観をより詳細に理解してもらうことになる」
そのためにガミラス・イスカンダルから得た知見をもとに再構築した万物の理論から順を追って説明していく、と前置きが入る。古代は椅子に座り直した。
「私たちの宇宙ができた直後、ビックバンすぐ後の宇宙はエネルギーのスープとも呼ばれる非常にシンプルな状態だったと推測されます」
突然、新見女史の合いの手が入る。なんだ黙っていたのは演出だったのか、と胸を撫で下ろす。
ただし彼女が黙っていた理由は別にあり、今喋りだした理由は、機嫌で仕事を放棄するのは性に合わない、という理由だけだった。
「それはプラズマに満たされたエネルギー優位の宇宙、というべき状態で、物質は生成されるが反物質とセットで生成されるので、すぐに対消滅でエネルギーへと再度循環する、という世界だった」
これは基礎教養で聞いたことがあった。今の私たちの世界は物質が優位の宇宙というべきだが、そうなる前の宇宙の姿、というのが仮定として存在した。
最初は誰が見てきたんだ、と疑問に思ったが、ここでそう説明しているということは、異星文明の知見からも合致したという事なのだ。受け入れるしかない。
それにエネルギーがぐるぐる回るだけ、というのは悩みがなさそうで良い。
「これまでの私たちの仮説では、この後バリオン対称性の破れが発生して反物質が消失、対消滅しなくなったバリオン(物質)だけが残る物質優位な世界へと変化した、という説が主流でした」
新見女史の合いの手はやはり心地よい。
「しかしガミラスとイスカンダルから得た知見では、この先が地球の認識と変わってくる」
「彼ら彼女らの仮説では、対消滅そのものは発生しなくなりましたが、その原因は反物質の消失ではなかったのです」
バリオン対称性の破れを事象だけ見れば、対消滅がなんらかの理由で起きなくなってバリオン(物質)だけが残ったというものである。従来の地球の仮説では対消滅が起きなくなる理由を反物質がなくなったから、としか説明できていなかった。
「ここで発生した現象を翻訳すると“ねじれ”となる」
これをガミラス・イスカンダルからもたらされた宇宙論として「ねじれ宇宙論」と呼ぶ。英語ではTwisted M Theoryである。
「具体的には私たちよりも高次元の宇宙で空間そのものに“ねじれ”が発生しました。その結果として、対消滅が発生しなくなります」
なんで空間がねじれたら対消滅が起きなくなるのか、には追加で説明が必要だった。
「従来、万物の理論として説明される理論にM理論がある。このM理論では宇宙に11次元の時空間があるとしているが、高次元の空間は私たちの3次元空間に偏在しているものの、プランク長程度の小ささに折り畳まれていることで干渉しない、とされている」
この考えはガミラス・イスカンダルから確認できた知見から概ね正しいものであった。ただし詳細となると異なっている。
「M理論で議論となるのは、折り畳まれた高次元空間はなぜプランク長程度の大きさで止まるのか、でした」
プランク長とはすごく小さいという事である。だから目に見えないし干渉しない、と説明できる。ただ一方で、プランク長は長さの下限ではなかった。
これよりも小さい世界として量子の世界がある。ここまで来ると量子的に存在が揺らいで、あるのかないのかハッキリしなくなる。
プランク長程度に折り畳まれるとは、小さくはなるけど、存在が不明確になるほど小さくはならず、確かに存在する大きさとして止まっている、ということだった。
「3葉結び目を知っているだろうか?」
突然、絵が出てくる。一本の紐が絡み合って結び目を作っているような絵だった。この結び目は一本の輪として閉じている上に、どこかと交差したり折れ曲がったりしていない。にもかかわらず結び目ができている。不思議な構造だった。
「初期の宇宙で高次元空間がねじれたことで、この3葉結び目と似た状態へと変化します」
ここからは地球の常識と離れた世界だった。
「ねじれによって結び目ができた高次元空間は、畳み込まれて小さくなるが、結び目で固定された局所エネルギーによって一定以上収縮できなくなる。つまり結び目以上には小さくなれない」
これが高次元空間の大きさがプランク長程度で収まっている理由だった。そしてそれがどんな影響を及ぼすかが重要である。
「エネルギー優位の初期の宇宙で、プランク長でできた高次元空間の結び目が物質と反物質を分ける壁になってしまいました」
これが私たちがバリオン対称性の破れと認識する対消滅が起きなくなる理由だった。物質と反物質は同時に存在する。が、その間にプランク長の高次元空間の結び目が存在することで、両者を接触させず対消滅を起こさせない壁となったのだ。
この先の事実は技術科としてかなりの驚きを持って迎えられる結果となった。
「私たちの宇宙には、その壁の向こう側に反物質でできた宇宙が並行して存在している」
これは従来の科学では考えられない世界だった。
「高次元空間の結び目でできた壁は、私たちのあらゆる観測手段を遮ってしまいます。事実、これまでその向こう側を一切、確認できていません」
向こう側にある反物質でできた宇宙、は存在を予想することしかできない。しかし対称性から保証される世界は、何もかも逆さだが同じ法則で動いてるはずだった。
それは左右が逆で、電荷が負で、もしかしたら時間の流れまで逆かもしれない。
「話をプランク長の世界から大きくしたい。前回、4次元の宇宙の構造を島宙尉に説明してもらったはずだ。あの宇宙はプランク長には折り畳まれていなくて私たちの3次元の宇宙を包含している」
いきなり宇宙の大きさの話になった。話がミクロなのかマクロさっぱりわからない。ただプランク長に折り畳まれている高次元は、少なくとも4次元より上らしい。
「この宇宙論は従来の仮説でも説明ができて、いわゆるブレーン(膜)ワールド宇宙論と呼ばれる宇宙観です」
ただ従来の常識と違ったのは膜とか泡で想像する丸い感じのフワフワした世界ではなく、巨大な木構造でできたギザギザな世界であった。そこをショートカットして行こうというのが前回の話の主旨である。
「でも説明がしにくいのでブレーン(膜)を想像する時は、泡のようなフワフワした世界で想像してもらったら良い」
この宇宙観における膜の薄さは0である。物質世界に住む私たちには薄さが0の存在を想像するのは難しいが、3次元コンピュータグラフィックスでいうとポリゴンがそれに当たる。
ポリゴンには厚さという概念が存在しない。ただ空間の中の境界を表しているだけであった。何かしらゲームをしたことがあれば、キャラクターの中にカメラがめり込んだ時に、中身が入ってはいないことを経験しているだろう。
「物質と反物質の世界はこの膜の表と裏に相当します」
境界には空間を分ける以外にもう一つ性質があった。その表面に表と裏があることである。ポリゴンは裏から描画すると透明になるのは有名である。
膜の構造を階層化してもう少し詳しく見ていこう。膜が階層を持つのは薄さ0の前提と矛盾する気がするが、理解しやすくなら多少の矛盾など気にしてはならないのだ。
「膜自身は4次元の空間に存在しています。そして膜の最上層と最下層には3次元空間の宇宙が広がっています。便宜上、上側を物質の宇宙、下側を反物質の宇宙とします」
「そこから内側に向かって、プランク長に折り畳まれた高次元宇宙が両宇宙を隔てている。先程から説明している通り、この高次元宇宙が物質と反物質が接触して対消滅するのを防いでいる」
真田と新見女史のテンポの良い説明は聞いていて心地よい、高度すぎる話が何だかわかりやすく聞こえる。でも後から振り返るとサッパリであることが多い。
「薄さ0の境界で物質と反物質の世界が隣り合っている、というのはなんだか危なっかしくないですか?」
素直に疑問を口にする。
「その通りだ。もし高次元宇宙の壁を破って物質と反物質が対消滅を起こしたら膜が一気に弾けることになる。瞬時に私たちの宇宙が消滅すると同時に、そのエネルギーは宇宙開闢クラスになるだろう」
従来のブレーンワールド宇宙論でも、膜が弾けることでビックバンが起きるのではないか、という仮説があった。不思議な一致である。
「ねじれ宇宙論は従来の科学では説明できない点も説明できるようになりました」
それが重力の根拠と、重力の力としての弱さだった。
「ねじれ宇宙論では重力は質量に対する引力ではなくて、高次元宇宙の壁の向こうにある反物質の方向を向いている」
つまり重力の向かう先には反物質の何かがある。重力は3次元空間では質量を中心とする等方位性の力だが、先ほどの4次元宇宙の図で考えると互いの物質世界を向く指向性のある力だった。
「重力にはもう一つ、世界を構成する力の中では弱い、という特徴がありました。これもねじれ宇宙論では説明できます」
重力は高次元宇宙の結び目が固定してしまう局所エネルギーに吸われていた。わかりやすくいうと、結び目にかかるテンション(結びの強さ)として保持されているのである。
「高次元宇宙の結び目は、反物質世界を遮る壁として、私たちの3次元空間に偏在している。これが非常に重要な性質だった」
つまり結び目のエネルギーを操作できると、重力さえあれば3次元空間のどこにいてもエネルギーを取り出せるのである。要するに真空からでもエネルギーが得られる夢の機関の完成である。
「結び目にかかるテンションは重力ですので、これを強めたり弱めたりすることで空間の重力の強さも調整できます。具体的な方法はガミラスと異なるようですが、この原理によって火星の重力制御技術が説明できました」
前回、島が説明した波動エンジンの動作原理、空間のコスモロジカル定数を変更する、というのは結び目のテンションを弱める、強める操作に対応していた。重力制御はその過程で発生する。
それによるドジッター空間と反ドジッター空間の生成は、そこで弱まったり強まった重力によって生まれた空間の歪みが関係している。
「反物質を遮ってくれている壁を操作するのは、なんだか危なっかしいんじゃないですか?」
さっきから危ないとしか言っていないが、仕方がない。危ないようにしか聞こえない。
「風船を局所的に厚くしたり薄くしたりするようなものだから、危ないというのはその通りだな」
「でも、そんなことより重力は指向性のあるエネルギーで、愛でもあったんですよ!」
新見女史が熱弁する。よくわからないが、そんなことだろうか?
ねじれ宇宙論で明らかになった重力の正体、反物質に向かう力、にはイスカンダル語圏で特別な意味が付与されていた。
それは惹き合う力、縁の力、輪の力、そして愛である。
「つまり愛は指向性のあるエネルギーだったんです!」
新見女史の熱弁が続く。古代にはさっぱり意味がわからない。
新見くんはここ最近、その話ばかりだね、と真田が呟いていた。
ここで解説しておくと、愛が指向性のあるエネルギーであるとは映画「インターステラー」に登場する女性科学者の言葉である。
新見女史はこの映画を見て科学者を志した。イスカンダルから得られた情報は、彼女のオリジンを正当化したのである。
真田は最初にこれを熱弁された時、あの映画は面白かったけど、土星にできたワームホールにいきなり飛び込むのは危ないよね、とコメントしてしまった。
それからしばらく新見女史の補足を受けられなくなった。彼女が最初黙っていたのはこの為である。何人も原典(オリジン)を犯してはならないのである。
「さて、ようやく君の本分の話ができる」
つまりこれまでの技術を使った兵器、ということだ。しかし古代には、もうどうだって良いじゃないか、という感想しかなかった。
だって、いざとなれば宇宙ごと破壊してしまえるのだ。平和にいこう。ラブアンドピース。
試練艦の要目を記載する画面が出た。その中に200サンチ次元波動爆縮放射器という見慣れない武装がある。
「試練艦の主兵装であるショックカノンは、波動機関を純粋に発電機関として利用する兵器だ。一方で、波動エンジンの原理そのものを破壊に利用しよう、というのが艦首に装備する予定の波動砲の概念になる」
次元波動爆縮放射器、は波動砲の正式名称である。ただこれは原子爆弾を「核分裂反応による超臨界爆弾」と呼ぶのと同じである。もちろん誰もそんな呼び方をしないという意味でだ。
その前につく200サンチに至っては、今後、波動砲が制式化した時に威力を比べられるようにしようと意図で付けられたもので物理的な意味すらない。
「波動砲は艦前方で大きな次元の歪みを発生させます。この歪みは高次元宇宙の壁を伝って伝搬し、軸線上の結び目を限界まで解いてしまいます。この時発生するエネルギーで対象を破壊しよう、というのが主なコンセプトです」
ポイントは対象を破壊するエネルギーが波動砲軸線上の空間から直接得られることだ。破壊に際してなんらかのエネルギーを注入する必要のある従来の兵器とは一線を画す。
「概算ですが次元波動爆縮放射によって出力されるエネルギーは、8.5 x 1039Jに及びます」
いきなりの天文学的数字に目が白黒した。
「単純な数字として比較すると、8.5TWの出力を見込んでいる試練艦の主砲、48サンチ陽電子衝撃砲にして100
真田がイメージの付きやすい兵器で換算した場合の量を合間に挟む。それでも全くイメージが浮かばない規模だ。
ショックカノンと核兵器のエネルギー量は、表している時間とかが全く異なるので同じ基準で比較するべきではないが、それにしても値が大きすぎる。
「数字の桁としては1回の新星の爆発で発せられるエネルギーと同程度ですので、まさに恒星級の戦略兵器に相応しい威力となります」
ちなみに後に真田は波動砲の1/100の威力を持つ砲弾、というとんでもないものを開発するのだが、これは数字の誤りとかではない。波動エネルギーの爆縮とレンズ化したスプリッターで局所的な波動砲として機能する。
ただ一発一発に波動コアが必要で、砲弾そのものが仕組みとしては小さい波動エンジン搭載艦であるという、べらぼうなコストと引き換えに実現したものであった。後、実弾なので宇宙では遅すぎる。
「そんなもの使って大丈夫なんですか?」
「わからない」
真田が即答する。
「ただ原理的に波動エンジンを使ったらこれができてしまう。だとしたらそれを搭載している航宙艦は全てできると考えるべきだ」
相手が持っているかもしれないなら自分たちだって持っていないといけない。波動砲を支えている要求は原始的なものだった。
「波動コアには波動砲を使用するための専用のモードが既に用意されています」
あっ、じゃあ、イスカンダルも兵器として想定してるんだな、とちょっとガッカリした。古代には恒星間文明の高い理性を期待する部分があったのだ。
「ただ実際に打てるのかどうかはわからない。使ってみて拒否される可能性だって十分にある」
何せ縮小実験ができない。少なくとも地球でやっていいことではない。ガミラス・イスカンダルへの問い合わせは煙に撒かれた。そうだろう、未開部族に核分裂について聞かれたら誤魔化すのが通常だ。
「試練艦は運用初期のどこかで波動砲の試験も行わなければならない」
イ号研究会の目的が恒星間文明の社交界デビューでなのであれば、確かめておかねばならない要素だった。
「この専用モードに含まれる、波動砲発射までの一連の確認事項、そして最終的な発射可否判定、これらを含めて”イスカンダルのトリガー“と呼称することにした」
頭に“イスカンダルの”とつけられたモノは全て奇怪なものなのである。
例によって長くなったの2分割しました。
できるだけ早く投稿します。
ガミラス側の発言なら波動エンジンや波動砲とは言わないんじゃない?、という疑問が出るかもしれませんが、一回ゲシュ〇〇でやってみたらすごい読みづらかったので、全て地球側用語に翻訳されている、という体にしています。
ご了承ください。
追記
・今回のポイント
クリア後の波動砲の禁忌イベントをイベント先読みで呼び出し、拡散波動砲フラグクリア
サイボーグ・イーロン・マスクで国連崩壊フラグをセット
宇宙論を詳細に解説(今後の布石)
波動カートリッジ弾取得フラグだけ立てる
トロフィー「インターステラー」ゲット