練った文章を、ここすき、してもらえるのがすごく嬉しいです。
もっと、いっぱいして欲しい。
西暦2193年 国連宇宙軍極東管区 イ号研究会
「これがコスモクリーナーDですか?」
今回の研究会は、イスカンダルから供与されて作った地球科学を凌駕する機械のお披露目から始まった。これはイ号研究会で初の具体的な成果だった。しかし反応は訝しむようで芳しくない。
それもそうだろう。その機械の見た目は球体に丸い穴がいくつか空いている扇風機にしか見えなかった。大きさも扇風機だと言われたら納得するぐらいだ。具体的にはパナソニックの羽のないサーキュレーターによく似ている。
「そうだ、これが夢の放射能除去装置、コスモクリーナーDだ」
真田が答える。
一体どうやって放射能を消すつもりなんだ?会議室の雰囲気は疑問に満ちていた。会の出席者はみな士官であるので、創作上に登場する放射能除去の原理がどれもしっかりしたものではないことを知っていた。
「放射能除去を謳った装置を不審に思うのは正しい。だがこの装置はしっかり放射能を消してくれる。それは技術科が保証しよう」
真田にそう言われて納得のいかない者はここにはいない。
「装置の原理は単純で、対消滅により放射性崩壊を起こしている物質そのものを消し去ってしまいます。この方法では確かに放射能は消えます」
新見女史の補足が入る。でもそれは、という参加者の反応があった。
「通常、反物質を作る手間の方が、放射性物質を遠ざける手間よりはるかに大きい。だから、既存の地球科学ではこの方法は取れない」
しかし新たに知った宇宙の真理とイスカンダルからもたらされた波動エンジンの技術を応用したら、高次元宇宙の壁の向こうにある反物質を持ってくることが可能だった。
しかしそれでは、という空気が会議室に満ちる。
「もちろん、全員の言いたいことはわかる。この原理では放射能除去装置という名前は相応しくない。物質消滅機と表現すべきだ」
ついでに膨大なエネルギーが生じるから、ここから力を取り出したら対消滅炉だな、と続いた。ズレているが疑問は解消した。
「概算ですが、福島第一の放射能デブリ除去にこれを用いると100メガトン級核爆弾の10万倍を超えるエネルギーが生じます」
やっぱりな、と言う落胆が広がる。100メガトン級核爆弾は人類が試みた最大規模の核爆弾で有名なツァーリーボンバー並みだと思えばいい。それの10万倍である。
もちろん、そんなものが東日本で爆発したら大迷惑だ。
「それじゃあ、結局、放射性物質の除去には使えないんですね?」
誰かがその場の疑問を取りまとめた。
「そうなる。そもそも対消滅で発生するエネルギーに装置の方が耐えられない。この方式で持続的な処理ができるように設計を行うと、装置が地球の直径を超えた」
その後、おまけだが回収したエネルギーで人類社会を回せる、と続いた。
まるでダイソン球だ、と反応が返る。この場のメンバーは宇宙軍を志しただけあって、みんなそれなりにSFに詳しい。
「それじゃあ、コレは何なんです?」
古代が会議室のコスモクリーナーDを指さす。今すぐ会議室から逃げ出したかった。ここ最近の技術科とのやり取りで、真田が会議室に対消滅爆弾を持ってきても不思議ではないことを知っていた。
「その前に、なぜイスカンダルはこの装置を放射能除去装置と表現したのだろうか?」
くそっまだ早かったか、と古代は悔やむ。真田は説明し足りないことがあると大胆に話を逸らす。
「コスモクリーナーDの原理は対消滅ですが、その前段階に対消滅する対象を選別する工程があります」
新見女史が平然としているところを見て安心したメンバーが何人かいる。しかし、それは間違いだと古代は確信していた。彼女は、隣に日本刀を振り回す不審者がいても、それが真田であれば気にしない。
「放射性物質は、自然界にある物質の中で自ら光っているのと同義だ」
何かと厄介な放射能だが、こと存在を原子レベルでアピールする能力として、これ以上適切なものがない。
「コスモクリーナーDを、空間中の物質を特定して選別する、原子レベルで対消滅を起こす、と言う二段階の装置と表現した場合、選別対象として最も簡易で分かりやすい目標が放射能を持つ物質になります」
新見女史の補足に間髪入れず真田が続ける。
「だから、イスカンダルはこの物質消滅機の最もポピュラーな使い方として放射能除去装置と表現した」
つまり放射能除去という名称は間違いでも誇張でもないわけだ、と真田が満足げに話を締めくくる。古代はそれよりも、今、この会議室が安全なのか明確にして欲しかった。
しかしコスモクリーナーDってなんだろうか、特にDって何だ?と言う疑問が、危機感の薄いメンバーに広がる。
「この装置の正式名称は、Dブレーン濾過対消滅式集塵掃除機、改めコスモクリーナーだそうだ」
何かと名前が長いのがイスカンダル方式であるが、コンテキストを共有していない相手にも伝わると言う意味で真田は気に入っていた。
「対消滅を気軽に起こせるのに、空間中の原子の位置は指定してやらないといけない、と言うのは何だかしょうもない制約に感じるが」
イ号研究会に少し前から機関科の一団が参加していた。彼らは技術科員を科学者でゼネラリストだと分類した場合、エンジニアでスペシャリストだと言えた。技術科にモノ申せる数少ない逸材だが、現場で引く手数多なのですぐ異動してしまう。その度に新たな機関科員を説得する必要があった。
「そうでもなかろう。コア部分は高度な原理を持つが、技術レベルの低い周辺部によって徐々に段階が下る、と言う構造はありふれとるよ。ホラ、ワシらも結局のところ、核融合炉で缶焚きをやって軸を回してるじゃないか」
そこで沖田が伝を使って、徳川という引退間近の老技師を参加させた。彼が絶妙に間に立ってくれるのでスムーズに会が回るようになった。
缶焚きについては、水という物質がどれだけ貴重で特異なのか、宇宙物理学を修める沖田はそこに意識を向けて欲しいと思ったが、徳川がせっかく間を持ってくれたので口を挟まないことにした。
「コスモクリーナーDは、物質の選別さえできれば放射性物質でなくても除去できる。なので、この会議室の装置では、地球人類で最も選別方法が整っている物質を指定して除去するようにした」
それがオゾンだ、と真田は続けた。なぜ人類はオゾンの選別が得意なのか、それはオゾンが主な臭いの元だからだ。人の鼻からしてオゾンを受容して鋭く感じ取る装置と言うこともできるし、これまであらゆる脱臭機が標的としてきた実績がある。
「この会議室の空気は地球のどこよりもキレイだ」
コスモクリーナーD、改めコスモクリーナーQのおかげで、と真田が装置に手を添えながら話す。勝手に名前が変わっていた。Qの由来などはもう気にする者がいない。
「空気中に漂うオゾン程度の濃度であれば対消滅を起こしても、それほど問題のあるエネルギーは発生しません。装置が怪しく光る程度です」
新見女史がメンバーを安心させるために補足した。
「じゃあ、この装置はただの空気清浄機なんですね?」
古代が問うた。身の安全を知るために重要な確認だった。
「ただの、ではない。対消滅を使ったスゴイ、空気清浄機だ」
おまけに対消滅で得たエネルギーで持続的に稼働する。最初に起動してやればオゾンがなくなるまで電源要らずの超高性能でエコな空気清浄機だった。
「それにしてもイスカンダルも気前がいいですね。今は使い道が微妙としても、こんな技術をポンとくれるなんて」
誰かが気兼ねなく感想を述べた。機関科の一件からも伺えるが、研究会は少しずつ上手く回り始めていた。
「彼女らは試練へのモチベーションを維持させるために、継続ボーナスとして、定期的に技術をもたらしてくれる」
コスモクリーナーDは試練開始1周年記念特別ボーナスだった。他にもスターシャ誕生祭とか、鉄朗ネジ記念とか、よくわからない記念日がある。
ところでイスカンダルの決めた記念日だか、不思議なことに1年に一回の決まった日付だった。これはイスカンダルの公転周期が偶然、地球と同じじゃないとあり得ない。多分、適当に決めたんじゃないかと真田は思っていた。
「技術は試練を継続していたら毎週木曜日に必ずもらえる。エポックメイキングな技術は特別な記念日だけだが、その日以外は地球がこれまでの技術ツリーで取りこぼしたニッチな技術がもらえるらしい」
真田が補足した。
何だか、課金したら回せる方の特典もありそうな感じがする。
ちなみに来週は、ずっと使ってもボロボロにならない肌触りのいいヘッドフォンの耳当て、が貰えるらしかった。
話を戻して、と前置きをして真田が話し始めた。
「ヤマトではこのコスモクリーナーQを各部屋に一つ起きたい。長期間の航海でのストレスを少しでも柔らげるためだ」
沖田は、どれだけ良い空気清浄機だとしても小規模な対消滅を起こす装置を部屋に起きたくはなかった。ただ、その前に全員に捕捉するとこがあった。
「ああ、先程、真田宙尉から発言があったように試練艦の名称はヤマト、へと決まった」
この時期、真田はまだ宙尉だった。ヤマトの副長拝命と同時に宙佐へと昇進する。
しかし試練艦がヤマトへと決まった経緯も色々とあったのだ。その会議に参加していた沖田は回想する。
大体、いつも2場面構成で、1万文字程度を目指していますが、今回2回に投稿を分けることにしました
がんばって早めに投稿します