悪魔と踊る   作:つがう

3 / 4
相容れぬ者

 カツン、カツン――そんな静かなヒール音が響いたのは、ユキの飲むソイラテが残り三分の一程になった頃だった。

 顔を上げ、音のした方を見やる。するとそこに立っていたのは、絹糸のように滑らかに、さらりと揺れる黄金の髪。宝石のような青い瞳。そして白雪のような肌を持つ、美しい女性だった。彼女の着る白いシャツや黒いパンツというシンプルな服装は、飾り気がない分、彼女の美しさを際立たせて見せる。

 男女問わず思わず見惚れてしまうほどの美貌を持ちながらも、その表情はどこか冷たく、感情を読み取ることができない。

 

「……」

 

 彼女はきょろきょろと辺りを見回し、ユキを視界に捉えると、彼女はユキの方へと歩いてきた。

 近くで見ると、さらに美人さが増すな、なんて思っていると、女性が口を開いた。

 

「少し訊ねてもいいかな」

「うん、自分で答えられることなら……」

 

 女性は僅かに目を細め、じっとユキの目を見たあと、質問を口にした。

 

「協会内にある聖堂に行きたいんだが、場所が分からなくて……。もし知っていたら教えてほしいんだ」

「それくらいなら、案内するよ」

「ありがとう」

 

 ユキは飲みかけのソイラテをくっと一気に流し込み、立ち上がった。

 歩きながら話を聞くと、どうやらこの女性は最近魔術師協会に来たらしく、まだ勝手が分かっていないのだという。他の場所なら露知らず、本部ともなれば、内部に設置されている部屋や施設も多いため、迷ってしまうのも無理はない。

 そうしてユキは彼女を案内し、目的の場所に辿り着いた。

 

「ここが聖堂。基本的に誰かに許可を取らなければいけないって場所じゃないから、自由に出入りして大丈夫だよ」

「そうなのか。ありがとう」

「いえいえ。それじゃあ……えーっと、名前聞いても良い?」

「私の名前……?」

「うん。嫌なら全然構わないんだけど……。あ、先に私から名乗るべきか。自分の名前はユキ」

 

 ユキが名乗ると、目の前の女性は悩むような素振りを見せた。だがすぐに口を開く。

 

「オルガ」

「いい名前だね。同じ魔術師協会に所属する身、仲良くしようね。よろしく」

「……よろし――」

 

 握手をしようと手を差し伸べたユキの手をオルガが握り返そうとした時、ユキの背後から声がかかった。

 

「ユキ、ロビーにいないからどこに行ったのかと探していたんだ」

 

 振り返れば、そこにはサタンの姿があった。

 

「あ、ごめんね。ちょっと用があって」

「そいつは?」

「オルガ。最近魔術師協会に所属したらしい人なんだ。ここの場所がわからないから、私が案内してきたんだよ」

「……へぇ、そうなんだ。俺はサタン。よろしく」

 

 サタンがオルガの方を向き余所行きの笑みを浮かべる。反対にオルガは、汚らわしいものでも見るかのように侮蔑の表情を向けていた。

 

「オルガ……?」

「悪魔と仲良くなんて死んでも出来ない。ユキさん、ここまで連れてきてくれたのには礼を言うけれど、悪魔と慣れ合っているようなあなたとも仲良くできそうにない」

「サタンは別に悪い悪魔じゃ……」

「どうだか。もしかして、私が何も知らない子供にでも見える? その悪魔が何者かくらい判別がつく。魔界の七大君主がひとり、憤怒の悪魔サタン。それがあなた」

 

 鋭い目つきで睨みつける彼女に、ユキは戸惑いの色を見せる。そんなユキの手を取り、サタンはユキを安心させるように微笑みかける。

 

「行こう。ソロモンの用事も、君の用事も終わっているんだ。もう協会に居る必要は無いだろう」

「そ、そうだけど……」

 

 ユキがオルガの方を見る。オルガは既に2人の方は見ておらず、聖堂内を見渡しているようだった。気になることはまだ山ほどある。だが、それを聞けるほど仲が良いわけでもないし、彼女の心の柔らかいところに踏み込めんでいいとも思えなかった。

 踏み込んでいいか、良くないか、それくらいの線引きは出来る。だから今は、サタンに手を引かれるがままにこの場を後にするしかなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告