協会内の廊下を歩くユキは小さく息をつくと、手を繋ぎ、自分の少し前を歩いていたサタンの隣に並んだ。
「ねえサタン、彼女を見たとき少し眉を顰めたよね。どうして?」
「ああ、彼女、十字架を持っているみたいだったからな」
「十字架? …………効くの?」
今度はユキが眉を顰める番である。もちろんサタンが悪魔だということは百も承知だ。それを踏まえて、十字架のよな悪魔除けが本当に効果があるものなのだろうかと疑問を持ったのだ。するとサタンは苦笑いを浮かべる。
「別に効かないさ。ただ、なんて言えばいいんだろうか……もやっとする……? 気持ち悪くなるというか……」
「精神的なもの?」
「そういうことだ。下級悪魔なら普通に効くんだろうけどな」
「へえー……」
そんなことを話しながら、2人は魔術師協会を出た。
「どうする? 何か食べていくか?」
「んー、それもいいけど、どこかで買って家で食べない? ゆっくり話しながら食べたい気分」
「いいね、そうしようか」
どこで昼食を買おうか、なんて話をしながら大通りを歩いていると、ユキがサタンの服の裾を掴んだ。
「ねえ、あそこにしない?」
ユキが指をさしたのはサンドウィッチ屋さんだった。店頭には美味しそうなパンや具材が並んでいる。きらきらと目を輝かせている様子からは、早く食べたくて仕方がないといった感情がありありと感じられた。その表情を見て、サタンは思わず笑みをこぼす。
2人は店に入り、それぞれ好きなものを注文した。サンドウィッチの入った袋を手に持ち、サタンたちの人間界での滞在先であり、ユキの住居でもあるセレニティマナーの方へと足を向ける。
・
・
・
「ただいまー」
玄関の扉を開けて家に入るなり、リビングに向かって声をかけるユキ。もちろん今セレニティマナーには誰もいないため、誰かが言葉を返すわけではない。しかしこれはユキにとっては習慣のようなものなのだ。いつもならこのあとすぐに台所へ向かい、お茶の準備を始めるのだが……。
「俺が紅茶を入れるからユキは座っていてくれ」
「いいの?」
「あぁ。ほら、楽しみにしていたんだろ?」
そう言って優しく微笑むサタンに、ユキは満面の笑顔を向けた。そして嬉しそうに駆け寄り、ぎゅっと抱きつく。サタンはそんな彼女の頭を撫でると、身体を離してキッチンの方へと向かっていった。ユキはリビングのソファに座り、サンドウィッチが入った紙袋を開ける。
中に入っていたのは、ハムチーズサンドウィッチ、たまごサンドウィッチ、ツナマヨネーズサンドウィッチの計3つ。どれもとても美味しそうだ。特にたまごサンドウィッチはふわっとしていながらもしっかりと黄身の味を感じることができる絶品だと店員がおすすめしてくれたものである。期待値はうなぎ登りだ。少々量が多いようにもみえるが、彼女はすらりとしたスタイルからは想像できないほど大食いだ。そのためこれくらいの量は全く問題ない。
はぐっ。早速1つ目のサンドウィッチにかぶりついた。
「ん~……!」
口いっぱいに広がる濃厚な味わい。噛めば噛むほど溢れ出てくる黄身。幸せすぎる! と言わんばかりに顔を蕩けさせながら咀嚼していく。
「随分美味しそうに食べるな」
「美味しいよ。サタンも早く食べて」
嬉しそうな顔で言うユキの様子を見てから、ティーポットに入っている紅茶をカップに注ぐ。ユキはそのティーカップを受け取って飲む。ユキの好きなストレートティーだ。
「あまり急いで食べると喉に詰まらせるぞ。ベールじゃないんだから、もっと落ち着いて食べろ」
こくこくと頷きながら2口目を頬張る彼女を見ながら、サタンも隣に座ってサンドウィッチを食べ始めた。
「ついてる」
サタンがユキの口元に手を伸ばし、ついていたソースを取ってあげる。
「ありがとう、サタン」
「どういたしまして」
その後も、時折会話を挟みつつ食事を進めていく。あっという間に完食してしまった。
満足げな表情を浮かべているユキを愛おしそうに見つめながら、サタンは片付けを始める。
片付けを終えてリビングの方に少しだけ顔を出してユキに尋ねる。
「ライブラリーにある本、読んでから帰っても大丈夫か?」
「サタンの時間が大丈夫なら」
「俺は構わない」
「じゃあご自由にどうぞ」
ユキの言葉を聞いてから、サタンは数冊の本を手にリビングに戻ってくる。本を読むサタンの隣で、ユキもD.D.D.でアプリゲームをしているようだった。
数時間後――本を読み終えたサタンが魔界に帰るらしく、玄関まで見送りに行くと、彼は靴を履いて振り向いた。
すると突然、ユキの顔が近づいてきて唇を奪われる。ちゅっと軽く触れるだけのキスをして離れていった。
サタンは目を見開き驚いたような表情を浮かべたが、すぐに優しい笑みに変わり、今度はサタンからユキにキスをする。
「そんなことをされると帰りたくなくなる」
「会えないわけじゃないんだからそんな事言わない」
「わかってるよ、それじゃあまた」
そう言って、サタンはセレニティマナーを後にした。