ハリー・ポッターがバグった件   作:怠惰の徒

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干渉

少しして、アイを起こして寮に戻る。

既に深夜、リインもアーリアも眠っていた。起こさないようにこっそりと入る。

半分寝ているアイを自分のベッドに寝かせて、自分のベッドで寝るためにもぐりこむ。ベッドにもぐりこんだ後は、今後について考える。ドリム・ポッターの転生特典だと分かっても、これといった打開策は無かった。

せいぜいドリム・ポッターに関わらないように行動することと、関わりそうなときはアイもリインも連れて行かないことが限界だろうか。

この世界に連れてこられたときに多少は塗り替えられてしまったことが原因だろうか。

 

「まあでも、だからなに、って話だし、とりあえずまだ大丈夫かな」

 

最初の干渉以降、干渉を受けたような感覚は無かった。であれば、繋がりは切れているはず。外部からの干渉があれば気が付くはず。だから一旦は待ってよいだろう。

 

「さて、そろそろ東京レイヴンズの方に介入する時期かな。泰山府君祭の前に接触しないと」

 

夢の中で介入しよう。ちょうど泰山府君祭についての文献を調べている途中で寝落ちしているようだ。情報を伝えるのも文献呼んでいる今ならちょうどいい。時間も時間だし、私も眠い……

 

無数の泡が見える。その中から大蓮寺鈴鹿の夢を探し、中に潜り込む。

 

 

 

 

「大連寺鈴鹿、結論から言おう。君のやり方では泰山府君祭は成功しない」

 

そして、白い夢の世界で、私は大連寺鈴鹿に接触した。

 

「誰?というか何を知って!」

 

「泰山府君祭は霊魂に対してコントロールを行うシステムだ。霊魂が残っていればお兄さんは犠牲を払わずとも生き返ることができる。そう。霊魂が残っていればだ」

 

「……どういうことよ」

 

「君のお兄さんの魂は星と海に帰った。もう、どこにも存在しない」

 

「嘘だ!霊魂はそんなにすぐ消えない!」

 

そう。この世界では魂葬されるなど、何かしらの要因がなければ、何かしらの力を持った人間の霊魂はどこかに残る。だからこそ、私は現実を突きつけなければならない。

 

「君のお兄さん、禁呪の実験体だったんだよね?そんな人間が正常な霊魂になっていると思うかい?」

 

「それは……」

 

「一度試してみるといい。やり方は起きたら分かるはずだよ」

 

そう言ってマリは夢から消えた。

 

 

 

 

目が覚めてしまったが、まだ夜だった。カーテンを少し開けて窓の外を覗いてみると、少し空が白みがかっているので、もう少ししたら夜が明けるだろう。

 

「ふう。これでとりあえず当初の目的を……」

 

起きたマリは強烈な違和感に気が付く。

 

「……待て。どうして私は、大蓮寺鈴鹿を止めなかった?」

 

マリになった時に、決めたはずだ。ハッピーエンドを目指すと。悲しまないように立ち回ると。

それなのに、これは、ドリム・ポッターが変わっていないにも関わらず、大蓮寺鈴鹿を挑発し、原作通りに北斗を殺させ、春虎に覚悟を持たせて、進ませようとしている。幸せにするため……違う。物語全体が綺麗なハッピーエンドになるように立ち回っている。

 

「私は……マーリンという転生特典は、まだ世界から干渉を受けている?塗り替えが進んでいる?」

 

外部からの干渉は感じない。だとすると、どこから干渉されているのか分からない。それでも塗り替えが進んでいるのは確かだ。明らかに、アイと会った時から、リインと会った時から本質が変わってきてしまっている。

 

既に取り返しがつかない可能性がある。このままマーリンになってしまう前にやらなければならないことがいくつかある。急がないと。

 

資産の受け渡しの手続き、アイとリインへの説明、後は各書類にアイとリインがサインすれば問題ないはず。

そこまで準備して、外部からも干渉を受け始めたことを感じる。

 

「せめて、知らないの場所で……」

 

苦しむ姿は見せられないと、寮を出てホグワーツの外に向かう。ホグズミードがいいだろうか。そこへの行き方はまだアイにもリインにも教えていない。

 

 

 

 

「……あれ、マリ?」

 

アイが起きた時に見たのは大量の花で埋めつくされたマリのベッドと、廊下に続く花の道だった。

 

 

 

 

 

 

暴れ柳の抜け道を通り、叫びの屋敷にたどり着く。

朝焼けの時間帯にもかかわらず、薄暗い屋敷の中で、マリは苦しんでいた。

 

「ぐっ……あっ……!」

 

干渉に気が付いてから、一気に攻勢を仕掛けて来たように感じる。

どんどん自分が書き換えられているような嫌な感覚。浮き出ないように内面をボロボロに刻んで、その上からシールを張られるような、自分が自分じゃなくなっていく。頭の中に、自分以外の何かが入ってくる。

最初に世界から自分を塗り替えられた時に抵抗して、それで終わりだと思っていた。世界からの干渉を切り離した自覚もあった。

 

「一体……何をつなぎに……こちらに干渉してたのだろうね……」

 

思い返せば、おかしな点は最初からあった。なぜアイを救うのに嘘で塗り固められる8歳まで待ったのか。なぜ、リインを迎えに行くのを9歳まで待ったのか。なぜ、ホグワーツに入ることに疑問を持たなかったのか。何故、ドリム・ポッターを助けるような動きを急にしたのか。何故、アイに愛の魔法で人が死ぬところを見せたのか。

与えられた力の把握に忙しかった?タイミングを見計らっていた?千里眼でホグワーツを見忘れた?想定外の感情を持ってしまった?

その通りだはあるのだろう。ただ、それを言い訳にして個人の幸せを考えていない。世界を、物語をハッピーエンドに変えようとしている。それは、憑依しようとしたマーリンの考え方に似通っている。

 

「組み分け帽子に言われたのは……こういうことだったか……」

 

アイだけはまだ違和感に気が付いていたのだろう。8歳で話していた時と、その後の1年で1人称が変わっていた。立ち去った後に花弁が落ちていることがあった。花が咲いていることがあった。

湖畔でマリ?と疑問形で呼ばれていた。帰ってきた、と言われた。

 

「ぐっ……あっ……っ!」

 

今度ばかりは耐えられそうにないのかもしれない。この痛みが終わったら、僕という存在が消え、マーリンというドリムの物語のための舞台装置になるのだろう。

思えば、色々と弱くなることがあったのは確かだった。

転生した直後は自分だけしかいないこともあり、我を強く保てた。でも、アイとリインに会ってから、この子たちを幸せにしたくて、自分のことをあんまり考えず、アイとリインのことだけを考えていた。大事なものがどんどん増えて、あまり自分を省みなかった。だから、昔より弱くなっているのかも知れない。

 

「……これは、ダメそうだ……」

 

やり残したことは多い。もっとアイとリインに教えることがあった。もっと、理解させなければいけない感情があった。これから生きていく上で必要になる知識、立ち向かう勇気、与えられなかった愛情、色々なことを徐々に教えなければならなかった。

 

どたばたと、おとが、きこえる

 

「マリっ!」

 

「マリお兄さん!」

 

アイとリインが来てしまったようだ。

 

「ああ、アイ、リイン、どうしてここに……?どうしたんだい?」

 

必死に平然とするように振舞う。……無理か。耐えられない。

引き攣ったような笑顔でアイとリインに言う。

 

「そんな風に足元に花を咲かせていればどこ行ったかなんてすぐ分かるよ!そんな顔してどうしたじゃないよ!なんで言ってくれなかったの!」

 

ああ、そうなのか。足元から花が咲くくらいにはマーリンになっているのか。そもそも、アイは兆候に気づいていたし、分かっちゃうか。(マリ)別の人(マーリン)になっていることに。

 

「あはは……そりゃバレちゃうよね」

 

表情がとりつくろえない。精一杯笑え、辛い表情をするな。あの子たちの傷にならないように取り繕え。嘘で塗り固めろ。

 

「マリお兄さん。何か私たちにできることは!?」

 

できること、か。

 

「そうだね。……マリとしての最期の言葉を聞いてもらいたいかな」

 

(マーリン)になる前に、この後のことを伝えなくてはいけない。

 

「そんな言葉が聞きたいんじゃない!」

 

アイ、泣いているのか。でもごめんね。あまり時間がないみたいだ。

 

「じゃあ、まずはリインから。これからも卒業するまで困難が続くだろう。ポッターの名前はこの世界ではそう優しいものじゃない。全部は教えられなかったけど、きっとこの後も役に立つはずさ。自主練もさぼっちゃだめだよ?」

 

「……はい」

 

リインは俯かずにこっちを見ながら、泣いていた。

 

「これから勇気とか、色々教えるつもりだったけど、それはアイに任せよう」

 

まだ本物が分かっていないアイには厳しいかもしれない。けど、その過程できっと分かることもあるはず。導くことは最後までやめないよ。

 

「アイ。最期まで旅路に付き合えなくてごめんね。今まで通りアイドルもやっていくなら、20歳のドームライブは気を付けて。あと、社長さんにも謝っておいて欲しいな」

 

「……うん」

 

「大丈夫。もうちゃんと理解できている。後はきっかけだけだよ」

 

アイ、もう本当は分かっているはずだよ。そうなるように、一緒に過ごしてきた。一緒に過ごせた。うん。そうだね。個人に言うことは言えたかな。

 

「僕じゃなくなった私の言うことは話半分で聞くように。超ろくでなしだからね」

 

それと

 

「ああそうだ。あと二人とも、寮の机にお金のこととかどうにかするための書類あるから見ておいて。名前掻けば大丈夫なようにしてあるから、ちゃんと読んでサインするように」

 

感動的なことを言うと傷になるだろう。だから事務手続きやら、最後の話は現実的な話で終わらせたい。

 

「マリ……」

 

俯きながらアイは言う。ああ、そんなに悲しまないでほしいな。出会いも、別れも、これから過ごしていく人生でよくあること。

 

「……アイ?」

 

最後に言葉にできたのはそんな彼女の名前を呼ぶことだけだった。

 

「愛してる……っ!」

 

……ふふ。よかった。言えたんだね。心の中が満たされていくようにあったかくなったような感じがした。

そう思うと同時に意識が黒く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

マリが倒れた。

ああ、もうマリには会えないんだ、別の誰かがマリの体に入ってしまう。そうなる前にマリを終わらせたくて、それはやりたくなくって、でも、マリにマリ以外が入ってしまうのも許したくなくって。

相反する気持ちが感情をぐちゃぐちゃにする。

やっと本当のことを言えたのに、どうして居なくなっちゃうんだろう。

 

「マリ……」

 

そう私がつぶやくと、マリが体を起こす。

 

「あー、もう。そっか。私がこっちに入っちゃうのか。顔が私寄りだったからかな?性別も違うのに」

 

起き上がったマリは、いつもより少し女性的な顔つきになっていた。

 

「うん。待ってはいなかっただろうけど、マーリンお姉さんだよ」

 

そう言ったマリの皮を被ったマーリンは、にこやかに笑った。

 

「……マリお兄さんは、死んじゃったのですか?」

 

まったくの別人がマリの中に入ってしまった。じゃあマリはどうなってしまったのだろうか。

 

「さあ?どうだろうね」

 

分からない。この人の言葉が嘘が本当なのかも、何も分からない。

 

「レジリメンス!」

 

人格が変わったのであれば、開心術なら……!そう思い、アイは眼の前のマーリンと名乗る女乃心を開ける。

 

「うんうん。いい選択だよ。心を覗けば確かに分かるかもね。あ、でも私のところは覗いちゃだめだよ?」

 

開心術でマリの体の中を探す。マーリンの領域には入れない。真っ白な世界で、マリを探す。

 

「何も……何もない!」

 

もう一度、

 

「レジリメンス!」

 

何もない。

 

「レジリメンス!」

 

何も見つからない。

 

「レジリメンス……!」

 

ただ白いだけの場所。何かがあったような跡も無い。

 

「レジリ……」

 

リインにそっと止められる。

 

「アイお姉ちゃん……」

 

ぽろぽろと涙を流すリイン。

 

「どこにも……どこにも何もない!何で?どうして!やっと……やっと、言えたのにっ!マリと、お母さんは違うのに!」

 

気がつけば、私も涙を流していた。支離滅裂な事を言いながらリインを抱きしめていた。

 

「マリお兄さん……見つからなかったんですね……」

 

「……真っ白で、何もなかった」

 

それだけ言うとふたりで抱きしめ合って無言で泣いた。

 

「流石にこれは鬼じゃないかな?お兄ちゃんは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、目覚めたかい?(マリ)

 

「まあ、最悪の目覚めかな。(マーリン)

 

塗り替えられて死んだと思った僕は、夢の世界のような場所にいた。白い空間、そこに立つ花の魔術師の男。そして、その中で唯一ある黒い拳ほどの異物。

しかしまあ、塗り替えられたのにも関わらず目が覚めると思ってもいなかった。まずは状況を把握しないといけないとかな。

 

「それはそうだろうね。私からしても最悪だと思うよ」

 

やれやれ、といった大げさな仕草でマーリンは続けて言う。

 

「そもそも何さ、あの終わり方は。物語として二流もいいところだよ。何なら五流くらい酷いよ。ハッピーエンドが好きな私にあんな終わり方見せるかい?一種のいじめだよこれは」

 

いかにも怒っています、というような仕草でマーリンは言う。クッソムカつく。ただ、

 

「何から干渉されているか分からなかったからね。もう無理だと思うしかないでしょ?」

 

そう言って、目の前の黒く塗られているドロドロとした球体のような何かを見る。これが原因だったか。

 

「ようやく(マリ)も気が付いたようだね。そう。これが世界が外部じゃないところから干渉した繋がり」

 

きっと、この場所は(マリ)の心象風景なのだろう。なるほど。真っ白だけど、よく見ると天には2つの星がうっすらと見える。紫と緑だろうか。アイとリインが私の心にも影響を与えた証明のようで少し嬉しくなる。

そして、じゃあこの黒いものは、何も無い状態でこの世界に来た僕が持っていた唯一の物。

 

「原作知識、つまりは君の前世の記憶だね」

 

唯一、この世界と前の世界をつなぐ線、僕が僕であるための前提条件、それが干渉を受けている原因だった。

 

 




次は明日にでも投稿できるはず。
次回で1巻ラスト。
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